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マッシュ領に滞在して3日目の朝、この日もセラヴィは気持ちよく目が覚めた。

婚約が破棄となり、両親にも兄夫婦にも迷惑をかけると思っていたが、手続きを終えた父はむしろ喜んでいたように見えた。
新たな結婚も考えなくていいし、慰謝料も私のものだという。

それならば、卒業後は何をして暮らそうかしら?なんて前向きに考えることができていた。





今日も午後のお茶の時間を3人で過ごす。

昨日、トレッドの悪いところ?を口に出したせいか、自分の傷はほとんど癒えたような気がする。
結局あれは恋ではなく、婚約者としての使命感だったという結論に違和感はないのだから。 

むしろ、トレッドも同じような被害者だったのかもしれない。
祖父と父に私と仲良くするように言われていたが、恋にはならなかったのだろう。
でも、彼の選択は貴族として正しいものではなく、同情の余地はない。

休暇明けにトレッドとナリアの2人が一緒にいるところを見ても、絡んで来ることがなければ平気なのではないかと思っている。

ただ、少し気になることはある。


「ミンディーナ、ナリアさんがどうして留学してきたか知ってる?」

「正確には知らないわ。でも、不自然な留学だから、聞いてみた人がいるの。
 彼女ね、国で悲しいことがあったらしいわ。だから気分を変えたくてここに来たって。」

「悲しいこと……事実かもしれないけれど、そう言われれば深く聞く人はいないわね。」

「何か気になることがあるのかい?」


ライガーの言葉に、セラヴィは今朝ふと思ったことを言った。


「今朝、思ったの。ナリアさんは国に帰るつもりは初めからなかったのかなって。
 トレッドに告白したのは、彼を私から奪うつもりだったと思うの。
 あまり高位の令息を狙うのは無理があるけれど、伯爵令息なら子爵令嬢のナリアさんでも許容よね。
 でも、トレッドがナリアさんに興味を抱いたのがわかっても普通、婚約者がいる令息を狙わない。
 可愛い彼女なら他の婚約者がいない令息でも十分狙えたと思うわ。
 それなのに奪うような真似をしたら、彼女がトレッドと結婚してこの国で暮らしても印象が悪いわ。」

「確かにそうね。男の顔さえ良ければ満足とか?出会いもぶつかったって言ってたっけ。」

「ええ。あの時はナリアさんがよろけたのかと思っていたけれど、わざとだったのかも。
 私とトレッドって一緒にいることが多かったし婚約者だと誰でも知っていたでしょ?
 それでもトレッドを狙ったったことは、奪うことが好きなのかしら。」

「あり得たりして。留学も、誰かの婚約者を取ろうとして揉めて国に居づらくなったのかも。」

「それなら国に帰り辛いかもしれないね。だが、この国で同じことをするかな?
 むしろ、彼を狙う意図があった。その方が自然かもしれない。」


トレッドを狙う意図。伯爵家の領地は別に特別な何かがあるわけではないわ。
優れた頭脳を持っているわけでもないし、爵位も伯爵家だし。……困ったわ。思い浮かばない。
 

「あるいは、セラヴィ嬢が狙いかもしれない。彼と別れればセラヴィ嬢に婚約者がいなくなる。
 ナリアさんは誰かから指示されて君たちの婚約を解消させるために留学してきたのかも。
 彼女がこのまま彼の婚約者になるかどうかによるが。
 今後、セラヴィ嬢に婚約の申し込みをしてくる中に彼女を雇った者がいるかもしれないよ。」

 
ナリアには何かしらの狙いがあるはず。
彼女の奪う趣味か、トレッドの何かか、セラヴィに婚約者がいなくなることか。

あるいは、また違う何かなのかもしれない。



 
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