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すると、外から喧噪が聞こえた。



「あら、どうかしたのかしら?」

「何かあったら大変なので、下がってください」



すぐに燕さんが、女性を後ろにして立ち上がる。俺も様子を見るために廊下に出ると「離しなさい!!」と聞き覚えのある声がした。



「―――え?」

「離せ、離セエエエッ!!」



そこには、髪を振り乱して拘束されている霞さんとそれを拘束している晴臣さん、そして鉄二さんと―――。



「清香さん……?」



ぐったりと具合が悪そうな鉄二さんを支える女性。彼女は、紛れもなく清香さんだった。どうして彼女がここにいるのだろうか。そんなことを考える前に、霞さんが俺の声に反応してこちらを見た。そして視界に俺を捕らえると叫んだ。



「おマえかァ!!!」

「……っ!」

「! 避けて!!」



霞さんが、晴臣さんの拘束を無理矢理抜けると俺に向かってくる。晴臣さんが俺に警告をすると同時に目の前に無数の蝶が舞って刀でそれを払うと目の前に霞さんがいた。いつもならすぐに切り返して目の前の障害を切り伏せることができた。しかし、今の俺にはできなかった。



ゆっくりと彼女が異常に伸びた爪で俺の首を切ろうとして手を伸ばす様がよく見える。それは、一週間前に会った姿とは全く別物で、その現実を目の当たりにした俺は動けなかった。



―――そして、彼女の胸に矢尻が突き刺さった。その勢いのままぐらりと後ろに倒れ込んでいく。反射的に手を伸ばすが掴むことができずそのまま彼女は床に転がった。



「霞さん!」



抱き起こそうとして駆け寄るとぐいっと後ろから誰かが俺を抱えた。



「だめだ! まだ死んでない!!」



燕さんだ。俺の視界の端で弓を持っている手が見えた。彼が、彼女を射殺した。

その事実に腸が煮えくりかえそうだ。



「よくも……っ!!」

「オ、まえ、ヲ……」

「―――っ!」



その衝動のまま叫びそうになって、彼女の声に我に返る。胸を矢で射貫かれた彼女はふらつきながら立ち上がる。

その光景に息をのんで、この人の、いや目の前のもののどこを攻撃すれば殺せるか分かってしまった。

自身の呼吸が速くなる。何かがこみ上げてきて吐き出しそうだ。



「燕、その子を遠くに」

「はい!」



晴臣さんがそう言うと燕さんが俺を抱えて走り出す。



「ま、待って、待ってください!! やめて、その人は―――っ!!」



遠ざかっていく彼女が、俺に向かってまた走り出す。必死に抵抗しようとしたがぴたっと体の自由を奪われた。



だめだ。こんなの何かの間違いだ!



霞さんが晴臣さんに斬られて、燃え上がった。苦しげな叫び声が響き渡って、それでも俺の方に向かってくる。



「お前、ヲ、おまえを、コろせ、バ……」



霞さんの胸に刀が突き刺さる。それは肩に向かって滑り、血しぶきを上げた。

がくり、と今度こそ彼女の体は崩れ落ちて、活動を止めた。



「あ、あ……」



この一週間で何があったのか。



どうして彼女がこんな目に遭わなければいけなかったのか。



俺が、俺があのとき、あんなことを言わなければ良かったのか……?

ぐらぐらと色んな事を考えて意識が遠のきそうだ。



「しーちゃん……」



そんな俺をそっと燕さんが優しく抱きしめてくれる。



「ごめんね、もしかしてお友達だった……?」

「友達と言うには、余りにも短い時間で……。でも、彼女は、俺の言葉のせいで……」



燕さんに言っても意味がないのに、思わず言葉が漏れる。泣き出しそうになってよしよしっと燕さんが俺の頭を撫でた。



「事情はあまりよく分からないけど、君のせいじゃないよ」

「そんなこと……っ!!」

「絶対に違う。大丈夫、君ほど優しい子を俺は見たことないもの」

「優しいことは関係ないです!」



それに俺は自分が優しいなんて思ったこともない。

完全に燕さんに対して八つ当たりをしている事を自分では分かっているのに止められない。これ以上は彼を傷つける言葉を言ってしまうかもしれないと口を閉ざす。そして深呼吸を繰り返してどうにか落ち着かせようとするとぎゅううっと燕さんがより強く抱きしめてきた。



「大丈夫。しーちゃんのせいじゃないよ。絶対に」

「……っ」



彼から離れようと少し強めに胸を押すと、そっと違う誰かが頭を撫でた。ばっと顔を上げるといつの間にかそこには鳥を肩に乗せている女性がいた。彼女はただ微笑んでいるだけで頭を優しく撫でてくれる。



「九重様」



九重様?え?九重御前……?



不意に晴臣さんが彼女のことをそういって跪く。それに習ってふらふらの鉄二さんや、隣で支えていた清香さんも膝をついた。

この人が、例の九重御前である事を知って驚きの表情をしてしまう。

確か、目が見えないと聞いていた。やはり歩き方に違和感を覚えたのは気のせいではなかったようだ。



だがしかし、見えると彼女は言っていた。



そういえば、燕さんが動物とかの視界を借りる法術を披露していたのを思い出した。教えて貰ったと言っていたが、もしかしてこの方がそうなのだろうか。多分そうなのだろう。彼らの関係性を見ると確信に近い。



そんなことを思案しつつ、はっとして頭を下げて俺も同じように膝をつこうとした。しかし、ひょいっと彼女に抱えられてしまう。



「!?」

「これは一体どういうことですか。この子に襲いかかっているように見えましたが」

「はっ、それに関しては調査中でございます」

「調査? 今しがた手がかりを殺したというのに?」

「……」



鋭い彼女の声音に晴臣さんが口をつぐむ。どうにかして擁護したいが、高貴な方の会話に割り込むことはそれだけで不敬と思われてしまうので逆に晴臣さんが不利になってしまうかもしれない。そう思うと何も言えずに見守るしかできなかった。



「まあ、良いわ。この子に危険が迫っていたから仕方のないことだったのでしょう。今後このようなことはないように」

「はっ!」



彼女がそう言うと、晴臣さんがそう返事をした。ひとまず、それ以上のおとがめはなさそうだとほっとしていると彼女がふふっと笑い声を上げた。そしてまた俺の頭を撫でる。



「あ、あの……?」

「ああ、ごめんなさい。つい可愛くて。私、貴方のような息子が欲しかったから」

「は、はあ……?」



あれ?確か三番目の男児を産んでいなかったか?



彼女の言葉に首を傾げてしまうと、がしゃんっと何かが落ちる音がした。



ぱっとそちらを見ると、九郎がいた。

今の状況を見てきっと動揺しているのだろう。そう思ったが、彼は霞さんではなく俺をいや、俺を抱えている彼女を見ていた。そして、すぐにその場を離れてしまう。



胸がざわめく。



彼のことを追いかけなければいけないと思うのに、彼女に抱えられていてそれができなかっ
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