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臨時夜回り隊

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明確に九郎に避けられているようだと俺は思うしか無かった。



この前の様子がおかしかったために話をしようと九郎を探すが、全く見当たらずに数日がたってしまう。

霞さんのこともそうだが、整理してお互いに話をしなければいけない気がする。

霞さんのことを思い出してずきりと心臓が痛くなる。

久遠も当事者なので彼女のことは話をした。すると一瞬神妙な顔をしてそれからふわりと笑顔を見せる。



「しーちゃんのせいじゃないよ」



何も言っていないのにすぐにその言葉を俺に言ってくれた。泣きそうになってぐっと唇をかむと「だぁめ」と優しく唇を撫でられて一瞬心臓が止まった。

思わず胸を押さえてしまうと久遠が不思議そうに首を傾げる。貴方のせいですともいえず目を閉じて呼吸を落ち着かせることしかできなかった。



久遠って、少し、その、人なつっこいのかな……?



そう思いつつも、彼の良いところだと思い指摘するのはやめておいた。まだ6歳で子供だし。

そんな出来事もあり、やっぱり九郎と話をしなければと思うのだが仕事場にも紫さんの家にも九郎は来なくなってしまった。



そうなると、俺は彼に会う手段が無くなってしまう。思えば、九郎がどこに住んでいるのかすら知らない薄情な友人である事を俺は痛感してしまい勝手に落ち込んでいる。

九郎は俺のことを大事にしてくれているのに俺は九郎のことを何も知らないのだ。今までは、自分が探られたくないから相手を知ろうとは思わなかったのだが、それが仇となってしまった。

今のところ、久遠にはこんなことを話していない。心配かけさせたくないこともあるし、何より俺と九郎が不仲になっていると言う事を知ったら悲しんでしまうと思った。



どうにか、この状況を打開したいのだが何も思い浮かばない。

はあっと小さくため息をつくと、「しーちゃん」と鉄二さんに呼ばれた。



しまった、勤務中だった。



「はい!」



慌てて返事をすると彼は少し笑って俺の前に座る。

霞さんのお葬式で忙しいはずなのに今日は少しだけ顔を出してくれたのだ。事が事なので、急な病に倒れたと言うことで彼女の死因は知られていない。また、身内だけの葬式と言うことで勿論少しだけ関わりを持っただけの俺は参加することはできなかった。



「お花、ありがとうございました。霞もきっと喜んでいると思います」

「そう、でしょうか」

「はい。少し、天真爛漫なところがありますから、最後にしーちゃんのようなお友達ができて、嬉しかったと思いますよ」

「……」



それ以上の言葉は出てこなくて口を閉じる。

彼の言葉を疑うわけでは無いが、やるせない気持ちになる。

そんな俺に鉄二さんは優しく頭を撫でてくれた。



「ああ、そうだ。これをしーちゃんに」

「お菓子……ですか?」

「ええ、若様と九郎様と一緒に食べてください」

「はい……」



九郎と言う名前が出てきて、沈んでいた気持ちがまた沈む。それを悟らせないように慌てて鉄二さんに貰ったお菓子を懐にしまう。すると、燕さんから貰っていたお菓子もあったことに気づいてとりあえず一緒に押し込んだ。



「ありがとうございます。大事に食べます」

「……もしや、九郎様と―――」

「あ! 隊長今日いる! 大丈夫なんですか? 従妹ちゃんの葬式ですよね?」



鉄二さんと話をしているとひょこっと顔を出した燕さんが現れた。すぐに鉄二さんに駆け寄ってそうまくし立てると鉄二さんは困った顔をして首を振る。



「もう戻らないといけません。まだ迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」

「はー、大変なんですね。他の人もいるしこっちは気にしないでください! あ、ご冥福をお祈りします」

「ありがとうございます。それでは失礼しますね」



鉄二さんがそう言って去って行った。俺と燕さんはそれを見送る。すると燕さんはんーっと少し困った声を出した。



「どうしたんですか、燕さん」

「ん? んー、いや、今日は隊長と一緒の夜回りだったんだけど一人になったなーって思って。今からだと誰も捕まらないし……」



子供だからという理由で外されていたものだ。

今は鉄二さんも忙しいし、今日だけだと言うならばきっと紫さん達も許してくれるはずだ。



「よければ、俺が一緒に行きますか?」

「え!? いやでもしーちゃんは保護者の許可が下りないと……」

「事情を話せば分かってくれるはずです。一度相談してみます」

「いやいや! それなら俺も行くよ。俺のせいなんだし!」

「いえ、そんなことは……」



いろいろなことがあって仕事に没頭していたいからと言う俺の不純な理由もあるので、燕さんに説得をさせるとなると申し訳なく思える。

だから首を振って断ったのだがいやいや!ここは大人が出るべきだと譲らなかったので終業時間になって燕さんと一緒に家に帰った。

***

「そう。大変だな」

「そういうことなら構わないよ。俺も一緒に行って良いなら」



紫さんが頷いてそう言うが、すかさず叢雲さんが条件を突きつけてきた。俺は部外者が入って良いのだろうかと、一応燕さんを伺うと彼は勿論良いですよ!とすぐに了承した。



「叢雲さんってあの有名な用心棒でしょ? とても心強いです!」

「え? あの?」

「商人の荷物を狙う賊をバッタバッタとなぎ倒すっていう!」

「何それ知らない」



燕さんがそう興奮して話すと叢雲さんは初めて知ったようで驚いていた。そして苦虫をかみつぶしたようななんともいえない表情を浮かべる。



「僕も行きたい!」

「え」



そんな会話を聞いていた久遠が手を挙げてそう口を挟んだ。すると燕さんが見るからに動揺する。



「わ、若君が来ると話が変わってきちゃうんですけど……」

「知らない。どうにかして」

「無理ですよ! 下っ端には無理!」

「嫌だ。その人が行くのに何で僕がだめなのか全く分からない。だから行く」

「遊びじゃ無いんです。若君に何かあったら俺の首が飛びます」

「そんな事態に陥ったら全員死ぬから大丈夫」

「全く大丈夫じゃないです」



燕さんがどうにか説得をするが、久遠は嫌だととりつく島も無く俺にぎゅうっとしがみつく。



「しーちゃん、だめ?」

「う……」

「ちょ、ちょっと、しーちゃん! 揺らがないで!」



下からのぞき込むようにして見上げられると俺は弱い。思わず唸ってしまうと燕さんが声を上げる。すっと目を閉じることで事なきを得るが「しーちゃん。しぃちゃん」と甘えた声を出されてしまい、ちらっと様子を見るために片目を開けてしまう。目が合った。



「ま、負けます……」

「頑張って! 君しか頼りになる人がいない!!」

「普通に都を回るだけで良いんじゃないの?」



完全な敗北を認める前に紫さんがそう冷静に提案した。

それだっと俺と燕さんはその案に全力で乗っかるのだった。

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