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1、転生先が悪役一家だった!

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「おぎゃあああ! おぎゃああ!」
「おめでとうございます、元気なお嬢様ですよ」
 
 生まれつき病弱な体質で死因も病死だった私は、気づけば赤ちゃんに転生していた。
 家族はキラッキラの美形揃い。羽が生えた白い猫さんもいる。というか、生まれたてなのに目が見える。不思議。
 
「うにゃーん」
 白い猫さんが愛らしく鳴くと、周りにいた人たちが「おおおおおおっ」とどよめく。
 
「お嬢様には精霊の加護があるようです!」
「でかした、ジュリア……!」
「マキシミリアン様」
 
 白い猫さんは、精霊らしい。
 ジュリアというのがママで、マキシミリアンはパパだ。

「ヴァリディシア侯爵家の長女の誕生だ! 我が娘は精霊の加護を受けた。精霊に愛されし子という意味の古代語からもじって『ルルミィ』と名付けよう」

 パパが名前を付けてくれたとき、私はびっくりした。

 ルルミィ・ヴァリディシア侯爵令嬢。
 それは、前世の私が遊んでいたゲームに出てくる悪役令嬢の名前だったから。
 
 これは夢? 悪役の赤ちゃんになる夢を見るなんて、どういうこと?
 でも、夢はいつまでも覚めなかった。
 
「お……おぎゃああああああ!(どういうことなのーーーーー‼)」
  
「元気な子。うふふ! ほらアルバート、あなたの妹よ」
「わあ。あかちゃんだ……ぼくの、いもうとなの?」
「ええ、そうよ。アルバートはお兄ちゃんになったの。妹を可愛がってあげてね」
「うん! ぼく、とってもかわいがるよ!」
 
 聞こえてくる名前は、全部ゲームに出てくるキャラの名前だ。

 ヴァリディシア侯爵家は、全員が白銀の髪に水色の瞳の超・美形一家だ。ただ、問題がある。
 
 私、ルルミィが悪役令嬢。主人公に敵対して破滅するキャラだ。
 父マキシミリアンと兄アルバートは禁断の死霊術に手を染めて断罪される悪役貴族。
 母ジュリアはルルミィが3歳の時に起きる事件で亡くなる予定。

「あ、あうあう……ふぎゃあああああ!(このおうち、みんな揃って破滅する予定じゃなーーーい!)」

 なんと、このお家、悪役一家なのである!
 
 一家が悪役になっていく分岐点は、ママの死だ。
 
 悲しむパパとお兄様に、敵対派閥が手配した商人が禁書を売りつける。弱っている心の隙間を突くために、判断力を鈍らせる香りを炊いて、「これを使えば死者が生き返りますよ」と囁いた。
 
 禁書は所有するだけで罪になり、読んでも凡人には高度な死霊術は使いこなせるはずがなかった。
 でも、パパとお兄様は優秀だった。
 二人は過去に亡くなった人を死霊として召喚する。ガチャをイメージしてほしいんだけど、あんな感じで「また違う死霊が出てしまった。もう一回」と、ママが出るまで召喚し続けた。
 しかし、召喚された死霊を制御することは難しく、死霊は暴走して人々を襲ってしまう!
 
 原作のルルミィはママに会いたい気持ちが強くて、二人を止められなかった。
 結果、一家はママの死霊を召喚することに成功する。
 でも、ママは理性を失った凶暴な死霊になってしまった。
 弱っていた心が打ちのめされて、一家は完全に闇墜ちする……。

「可愛い嫡男に、元気な妹姫ちゃん。パパ幸せだなあ! 愛してるよママ、ちゅっ!」
「あなたったら。子どもたちが見てますわ」
「るるみぃ、ぼくがまもってあげるからね!」

 仲良しのパパとママ。やさしいお兄様。
 この幸せ家族が破滅する? ……いいえ、させない。
 
「ばぶーーーー!(私がこのおうちをまもる!)」
  
 転生先が悪役一家だった私は、自分と家族の破滅を回避することを決意した!

「みゃーん?」
 
 そんな私に、精霊様がふんふんと鼻を近づけてくる。
  
 もふもふした毛並みの精霊様は、猫さん特有のいい匂いがする。
 ごろごろと鳴る喉の音とぬくぬくの体温を感じると、安心する。
 
「あう、あう(精霊様、はじめまして)」
「にゃーう!」
  
 この王国は、人間と精霊様が共存している。
 姿かたちも属性もさまざまな精霊様は魔法が使える。気に入った人間に加護を与えてくれたり、おねだりを聞いてくれたりする。
 精霊様に気に入ってもらえる人間の数は少なくて、生まれた時から精霊様が寄り添ってくれるパターンはとっても希少レア
 
 そんな精霊様は、確か原作の設定だと……「最初は仲が良かったけど、ルルミィの心が闇に染まるにつれて距離を取るようになり、最後には完全にルルミィの元を去ってしまった」キャラ!

「あああああああん‼(見放さないで、精霊様ーーーーーー‼)」

 必死。もう必死。
 自由にならない手足をばたばたさせながら訴える私を見て、家族は「ルルは元気だな!」とニコニコ顔だ。前世が病弱だったので、「元気だな」と言われるのはうれしい。私、元気!

「きゃっ、きゃっ」
「お、るるが笑ったぞ」

 精霊様は……。

「みゃあ♪」
 
 ……今のところ、仲良くしてくれそうです!
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