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「好きな人に抱かれることが、大きな力を得ることになるんだもの。おまえは…いいわね。」


ー彼女は哀れな女性だと思う、兄である王への親愛が情愛だと信じている。


ミーナはいやエリザベスは苦し気にパメラを見れば、彼女は笑みを浮かべ


「13年の間、音沙汰なしだったのに、突然現れたかと思ったら、他人に成りすましているおまえをアークフリードはどう思うかしら?」


叔母様のその言葉に笑えた。
ー13年前、叔母様が《王華》を完全に奪えず、大半がアークに預けられたことに気が付いた。そして…お父様の意図もわかった。お父様がアークに《王華》を預けたのは、私ならこの異変に気が付き、アークから《王華》を取り出すことが可能だから…。でも私はしなかった。

叔母様とバクルー王との繋がりはすでに分かっていたから、一部とはいえ奪われた《王華》を取り戻すためには、あのバクルー王をどうにかしないと近づくことはできないと思った。だから近づけないのなら待つしかなかった。《王華》をアークが持っていることは、何れ叔母様もわかるだろう。ならアークの傍で待つしか…。

私はアークを囮にしたのだ。

おそらく私がエリザベスだと気づいた時点で、アークは囮にされたことに気づくだろう。

そしてそんな私をアークは信用しないにちがいない。


青白くなったエリザベスに、気をよくしたパメラは銀色の髪を弄りながら
「バクルー王が私には付いているの。知略の王がね。あなたは私を追い詰めたと思ったから、現れたんでしょうけど…。これからなの。私とバクルー王の仕掛けは…。おまえには絶対渡さないわ。」

エリザベスの顔が変わった。

「仕掛け?アークになにをするつもり?!」

その問いにパメラは答えず大きな声で笑いだした。

「…何が可笑しいの?」

「あはは…だって、だってバクルー王はおまえが出てくるのを知っていたかのようなタイミングで、この仕掛けをぶつけてくるんだもの。ほんとにあの男は先を読むのがうまいわ。《王華》はもう私のものよ。」


パメラの声を遮るように、「渡せない。」とエリザベスの声が庭に響いた。

「…何よ。」


緑の瞳が揺れ、その揺れを、心の揺れを、隠すようにエリザベスは少しうつむき

「…私は…お父様が大好きだった、でも……王としては…優しすぎた。」とポツリと言った。

「突然、何を言ってるの?!。」

「《王華》を叔母様に渡さない方法は、私が叔母様より早くアークから《王華》を返してもらうやり方だけじゃないわ。もっと確実にやる方法があるわ。……叔母様を殺すこと。」

「…何言ってるのよ。あんたみたいな子供が…殺しなんてできるわけないわ。」

エリザベスは一歩、パメラに近づいた。パメラはうっすらと笑うと

「いや…おまえなら殺るかもね。」

「えぇ、叔母様を殺すことが一番良い手段だと判断したら。」



ゆっくりと息を吸い込み、その二倍の時間をかけて口から息を吐いたパメラは
「ねぇ《王華》って…なんだと思う?」と言ってエリザベスを見た。

エリザベスもゆっくり息を吐くと

「 言い伝えでは《王華》は私達マールバラ王一族に愛を教えるために、神からの贈り物だといわれているわ。でも私にはマールバラ王一族を呪うものだと思う。

《王華》を得れば魔法が使えるようになる。でもその代償は子を得るために異性を誘う人生。おまけに子供は自分が愛している人との間にしかできない。

自分が愛した人が同じように自分を愛してくれるのなら問題はないけれど、もしそうでなければ…。


歴代の王の中には好きになった人が自分を受け入れてくれなかったら、相手の気持ちを無視して魅了魔法で虜にし手に入れることをした愚かな王もいたと聞いたことがある。そして私も…アークが欲しくて…愚かにも魔法を使ったひとり。《王華》は呪いだと思う。愛を知る前に、愛を手に入れる力を与える…呪い。」

 エリザベスの叫ぶような声に、パメラの声が…重なった。

「わかってる、それが本当の愛ではないことは…でも《王華》…それさえあれば…」そう言ってエリザベスを見た。
それは今までのパメラとは違って、泣きそうな顔だった。


「《王華》があれば、自分を受け入れてくれない人が受け入れてくれるのよ。 望めなかった愛が手に入る。」


でもそれは愛とは呼べない。呼んではいけない。とエリザベスは頭を横にゆっくり振ると泣きそうな声で…言った。

「それは偽りの愛…本物の愛ではない。魔法で虜にした人の優しさも、自分を触れる手も みんな幻と一緒…そう思った時の寂しさ、辛さは……虚しくないの…」


パメラは、しばらく黙ってエリザベスを見ていたが、ふと…エリザベスから視線を外して遠くを見た、 泣きそうだった顔が、ゆっくりと笑みを作り…エリザベスに近づくと、赤い髪をひと房手にとり口付けをした。


エリザベスは緑色の眼を大きく見開いた、パメラはまたにっこり笑い…小さな声で


「私は偽りでも愛している人を手に入れたいわ。自分に触れる手の意味なんかどうでもいい。触れてくれている事実だけで幸せ。おまえは…アークを失っても同じことが言える?あの腕に抱かれたかったと、あの唇から愛の言葉を聞きたかったと…後悔しない?」

そう言って微笑むと、エリザベスの後ろへ視線を移した。エリザベスはパメラの言葉に困惑していたたが…ハッとして、後ろを振り返った。


パメラが見た方向には、呆然とこちらを見ている……アークフリードがいた。その横を「じゃあ…晩餐会で会いましょう」と言って笑いながらパメラが去っていった。





 
 庭園には、アークフリードとミーナ、ふたり残された。
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