紫の瞳の王女と緑の瞳の男爵令嬢

秋野 林檎 

文字の大きさ
上 下
29 / 78

28

しおりを挟む
突風に思わず目を瞑った私は、顔にかかる赤い髪を払いながら、ふとその先に目をやり声を無くした。

ーまさかここで会うとは…。


明日の晩餐会には、顔を合わせる対策はできていたが、なかなか覚悟ができなかった私は、気持ちが落ち着ける場所を探して、アークのお母さまの庭に来ていたが、まさかそこに彼女がいるとは…。

どうする…。

いや、今更逃げることなどできるはずはない。決めていたじゃない。それは13年前から。

私は《王華》を少し解放する為にペンダントを握った。

《王華》が…王家の血が共鳴できるように。



賽は投げられた…落ち着け。


「お久しぶりです、パメラ叔母様」


庭にたたずみ、たばこを吸っていたパメラだったが、その手からたばこを落としたことさえ気が付かないかのようだった。茫然と見つめ一言「…エリザベス?…」と消えるような声に、ミーナは淑女の礼を取ると、「今はコンウォール男爵の娘、ミーナと名乗っています。」と言った。



パメラは震える唇を指で押さえると、「なぜ…?」とかすれた声で言った。


ー髪が銀色に、瞳が赤になっているとは聞いてはいたけれど…。


「なぜ…生きているの?」


―その身に宿すことが僅かだったから、そんな色を纏ったと思っていたけど…そうじゃない。《王華》が馴染んでいないんだ。だから魔法で姿を変えることができなかったんだ。


「私は生まれながら《王華》を持つ者です、そう簡単には殺されはしません。」


小鼻に皺を寄せ、パメラは睨みつけたが、次の瞬間、エリザベスを指差し笑った。


「待ってよ、その言い方って、まるで幼いころの不安定な力が安定したと言ってるみたいじゃない?あぁそんなウソは通用しないわ。」

「叔母様?」

「幼いころのおまえの魔法は不安定で、欲しいと思ったら、魔法が勝手にその欲望を叶えていたじゃない…。いい例が4歳のおまえが10歳だったアークフリードに魅了魔法をかけたことよ。

他国から《王華》を持って生まれた王女だと知られれば、攫われる危険もある。だからそんなおまえを守るために、兄さまはおまえの紫の髪と瞳をブロンドの髪と青い瞳に魔法で変えたのに…アークフリードに初めて会った瞬間、兄さまの魔法を解呪して、アークフリードに魅了魔法をかけたじゃない。驚いたわ。まぁ…兄さまがおまえがアークフリードにかけた魅了魔法を解呪したけど…。」

その事を思い出したのか、緑の瞳が翳るのを見たパメラは

「…ふふふ。ねぇ、《王華》を持って生まれたおまえも、結局《王華》を安定させるためには、やはりマールバラ王一族が代々譲り受けてきた《王華》が必要なんでしょう?兄さまがリリスそうに言っているのを聞いたわ。」


ーマールバラ国内では、《王華》を持って生まれた事は知られている。だからお父様は私の《王華》は不安定だと言って、国内の貴族たちにも私が利用されないように守ってくださっていた。

でも本当は…。

《王華》を自由にこの体から取り外しできるくらい安定している。
だから、13年の間、叔母様は私を見つける事が出来なかった…だがその事に叔母様は気づいていない。



「…でもまだアークフリードとは寝ていない。」

「えっ?!」

私を見てニンマリ笑うと

「アークフリードの中にまだ《王華》があるのを感じるもの。だからまだ寝ていないんでしょう?…で、抱かれるの?それともアークフリードの血を飲むの?あら、まさか知らないの?戴冠の儀では血を飲んで、《王華》と王の座を譲るとなっているけど、別に血を飲まなくても、性交でも…交じり合えば《王華》は移るって事を。さすがに親子だからそんなことをやった者はいないけど…。だから13年、大人になるまで待っていたんでしょう?よかったわね、魅了魔法をかけしまうくらい好きだったアークフリードに抱かれ、そして魔法を安定させる。そんな方法があるなんておまえはついているわね。私とは違って…。」

そう言った私を見る赤い目は憎しみが浮かんでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

拝啓、大切なあなたへ

茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。 差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。 そこには、衝撃的な事実が書かれていて─── 手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。 これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。 ※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

ホストな彼と別れようとしたお話

下菊みこと
恋愛
ヤンデレ男子に捕まるお話です。 あるいは最終的にお互いに溺れていくお話です。 御都合主義のハッピーエンドのSSです。 小説家になろう様でも投稿しています。

面喰い令嬢と激太り皇帝

今井ミナト
恋愛
公爵令嬢フェリーチェは幼い頃から天使の夢を見続けている。 その天使に面差しの似た王太子の婚約者になったフェリーチェだったが、学園の卒業まであと一年というタイミングで、男爵令嬢にうつつを抜かした王太子から婚約破棄を突きつけられてしまう。 タイミングよくもたらされた隣国の皇帝からの婚姻の打診を受け、帝国で出会った皇帝は常人の三倍はあろうかという体躯をしていた。 肥った男性に拒否反応を示し、蕁麻疹が出てしまう体質のフェリーチェは受け入れられないと思うものの、皇帝陛下は不器用ながらも優しくて……。 次第に皇帝陛下に惹かれていくフェリーチェ。そんな皇帝にはとある秘密があって……。 ※小説家になろうでも公開中の『面喰い令嬢と激太り皇帝』をタイトルを変更してみています

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

処理中です...