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第1章 幼少期(7歳)

29 新しい侍女

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 泣きすぎて頭と目が痛い。 
 予想するまでもなく、酷い顔をしているでしょうね。

 というか二度目よ。イース様の前で意識を手放してしまうの。
 今回はそのつもりで仕掛けられたようだけれど。
 ずっと認めてほしかったことと思い出してしまった記憶で決壊してしまったわ……泣くつもりなんてなかったのに。
 イース様は立派な淑女だ、と言ってくれたけれど、人前で泣いたり、泣き声を上げるなんて淑女ではないわよ。今後は気を付けないと。
 
 それから……あの時の声は、一体何だったのかしら。
 知らない声だったことは確か。若い男性……いえ、青年、くらいの声だったと思う。
 幻聴にしては随分はっきり聞こえたわ。それにどうしてか、声を聴いた途端に記憶が呼び覚まされた。これも不思議よ。
 あの声は、一体誰なの?
 幼い頃を思い出すくらいだから、昔に会った事がある誰かなのかしら……?

 

「失礼します」
 
 軽いノックの音に返事をすると、一人の少女が部屋に入ってきた。
 侍女服を着た、私よりいくらか年上に見える少女だ。
 少し見覚えがある気がする。多分、学園で。

「本日よりお嬢様付きの侍女となります、ミカエラ・ソニードと申します。ミカエラとお呼びください」
 
 ぺこりと、少しだけたどたどしく礼をする。
 
 ミカエラ・ソニード――――確か3歳上の、常に学年6位を取り続けていたアエラス家の分家の者、だったはず。
 常に同じ順位を取り続けるから、変な人だと思っていたのよ。
 何が理由で手を抜いているのかしら、と。

「ええと、ミカエラ?」
「はい。疑問はあるかと存じますが、まずは身支度をいたしましょう。目元が少々痛々しく……」
「あ……、そうね、お願いするわ」
 
 ミカエラは頷き、道具を持ったメイドと共に準備を始めた。
 
 ……どうして彼女なのかしら?

 テキパキと動く彼女を目で追いながら、内心で首を傾げる。
 まだ若いし、侍女としてもよくて見習いよね?
 あと、またアエラス家関係なのも……イース様はアエラス家を重用しているのかしら。



「おはようございます。シュベーフェル嬢、少々よろしいでしょうか?」
 
 身支度を終え、目元も少々ましになってきた頃、部屋にテッドが一人で訪ねてきた。
 イース様が一緒ではないのね。

「はい。おはようございます。何かありましたのでしょうか?」
「ええ、実は王城の方で人手が必要になりまして。陛下の補佐をされるとのことで殿下が2、3日ほどこちらに戻られないとのことです」
「まあ……」
 
 昨日の今日で?人手不足?
 マーサ先生の情報が入ったことで、何か調査が進んだのかしら?
 
 お婆様がシュベーフェル家とその分家の中で行っていたことは、人死にが複数出ている時点で完全な犯罪。
 立場からも、処分は重くなるでしょう。
 共犯が他に居ないか、他家が関わっていないかも調べているでしょうから、きっと大変よね。
 でもそれ自体は以前から分かっていたはずで、今、突然人手不足になるってどういうこと?
 …………いえ、私の件だけなはずがないわよね。つまり他の仕事との兼ね合いが取れなくなってしまったのかしら。
 王族の方々がどういった仕事をこなしているのかは分からないけれど、それって相当よね?
 
「イース様はまだ12歳であらせられるのに、ご立派です。でもあまり無理をなされないよう、お伝えください」
「ええ、そのように。 殿下が戻られるまでは、私がシュベーフェル嬢の補佐に付きますのでお気軽にお使いください」
「え、テッドはイース様の側近ですよね?」
「はい。だからこそ、です。従兄妹共々よろしくお願いします」
「従兄妹?……テッドと、ミカエラが?」
 
 テッドとミカエラを交互に見る。
 似てないわよね?従兄妹という割には。
 他の貴族家の分家との血の近さなんて知らないから分からないけど。
 いえそれもだけれど、近しい二人を私に配置するってどういうこと?
 イース様は一体何を考えているの?
 
「すみません。混乱させてしまいましたか?しかしそう深く考えないでください。私は側近として殿下の大切な方を守るための護衛を命じられたということです」
「まあ、素敵。ちなみに私は年の近い同性の友人を、との要請でしたわ」
「話し方」
「友人に、とのことですもの。お嬢様、改めて自己紹介させてくださいませ」
「え、あ、はい?」
 
 友人?え?どういうこと?
 その話は確かテッドと二人の時に軽くしただけよね?
 いえ、報告はされているのでしょうけれど。
 というか護衛?監視ではなく?イース様の側近なのに?私の?イース様と離れて?
 確かに私はイース様の婚約者だけれど、自らの側近を付けるなんて!
 
 ………………あ、また嫌なことを思い出したわ。
 
 そういえばロバート殿下、自らの側近候補をイヴリンの護衛につけていたわ。
 イヴリンに会う前でさえ、私にはそんなことしなかったのに。
 
 ……。
 
 そんな素振りは一度も見せなかったけれど、イヴリンに会う前から、ロバート殿下は私を嫌っていたのかしら。
 いえ、どうでもいいけど。
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