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Chap.7 墜落サイレントリリィ
Chap.7 Sec.6
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朝食を終え、セトとメルウィンは珈琲を飲んでいた。ティアは恒例の紅茶を飲んでいる。私のぶんの紅茶も淹れてくれた。今日の茶葉は花の香りが強い。けれど、心が落ち着く香りだった。
「……まったりしてるところ、なんだけど、僕ってこのまま寝ていいのかな?」
ティーカップから口を離して、隣のティアはぽつりと呟いた。私に話しかけたわけではないらしい。セトが反応した。
「別にいいだろ」
「セト君も眠ってないんだよね? 寝ないの?」
「あとで仮眠する」
「……アリスちゃんは、誰が見てるの?」
一瞬だけ無言で見つめ合ったふたりは、メルウィンへと目線を流した。ふたりの目を受けたメルウィンがブラウンの眼をパチパチとして、
「……ぇ?」
「……お前、今日ひま?」
「……いつもどおり過ごすよ?」
「メル君っていつも何してるの? 食事の用意をしてくれてるのは、もちろん知ってるけど」
「今日は、ポタジェ——えっと、僕のエリアにある菜園に、行くけど……」
「メル君、個人エリアにも菜園作ってるの?」
「ティアくんも、ガーデンあるよね?」
「あれは趣味だから」
「僕のも、趣味だよ。食料というよりは、装飾よりのものだから」
「そうなの? 装飾よりの菜園ってなに育ててるの?」
「ハーブ、オーナメンタルベジタブル、あとはエディブルフラワーとか」
「なるほど……料理を飾るものだね」
「うん。必ずしも要るものではないから、個人エリアで育ててるよ。ドローンとロボは、管理のために少し借りてるけど……」
「そうだったんだ……ありがとう、いつも綺麗に盛り付けてくれて」
メルウィンの眉尻が困ったように下がった。目線を手許のカップに落として、「ティアくんまで……」ぽそっと独り言のように囁いたかと思うと、顔を上げた。
「……僕が、勝手にしてることだから、気にしないで」
空間に優しく響く、やわらかな声。癖っけのある茶髪を揺らして、メルウィンは首を振った。濃いブラウンを基調としたチェックのシャツの隙間から、チョーカーが見えている。彼らの、共通のアクセサリー。
耳を傾けていたセトは珈琲をひとくち飲み下して、メルウィンの方に首を向け口を開いた。
「皿に盛るのって、お前がやってたのか」
「……うん。ぜんぶじゃ、ないけど」
「ロボだと思ってた。ありがとな」
「………………」
セトは感謝の言葉を口にしたと思う。なのにメルウィンは、よりいっそう困った顔をしていた。横にいたティアが、ふふっと可愛らしく笑い声をこぼした。
「意外だな。セト君は、そんなのロボットにやらせればいいだろ、とか言いそうなのに」
「いや、ロボでもいいとは思ってる」
「それを言わないのが優しいね」
「言わせてんじゃねぇか」
「ほんとだ。……あれ、僕が余計なこと言ってる感じ?」
「お前やっぱ早く寝ろ。頭が回ってねぇんだよ」
「ね、オーバーワークだよね……それで、話は戻るんだけど、アリスちゃんはどうしよう?」
「……お前の私室は駄目なのか? 俺と違って情報開示してねぇんだろ?」
「……それはちょっと、まだ抵抗がある……」
「……ああ、そういや他人いると眠れねぇって?」
「うん……それに僕、今眠ったら、たぶん夜まで起きないと思うし……」
私の名前が出ているが、内容は分からない。ただメルウィンも同じように意味の分かっていない顔をしている。
「アリスさんは、誰かが見張っていないとだめなの? そんなの、サクラさんの連絡にあった?」
「いや、ねぇよ。べつに独りにしておいても……いいんだけどよ」
「……だけど?」
「……いや、まぁ……そうか、別にひとりでも……いいのか?」
「……?」
セトが言い淀み、メルウィンが不思議そうな顔をしている。ティアがカップをソーサーに戻した。
「——僕は、イシャン君と会わせたくない。あと、個人的見解でロキ君とロン君も避けたい。さらに言っていいならサクラさんも」
声に張りがある。ティアのそれは、どことなく厳しい感じがした。そんなティアに対してセトは眉を寄せている。
「半数じゃねぇか……」
「だってさ、聞いてよメル君」
「……ぇ、僕?」
「イシャン君は、アリスちゃんに暴行をはたらいたんだよ。普通だったら捕まるよね?」
「えっ! 暴行?」
「おい、やめろよ。暴行は大げさだろ」
「大げさじゃない。本人が恐怖を感じていたら同じことだよ」
場の空気が変わった。聞き流していたが、耳に届いた会話には私とイシャンの名前が並んでいた。私はイシャンとはほとんど関わっていないはずなのに。むしろ一番距離を置きたい相手だ。
ティアは紅茶にミルクをそそいだ。
「ずっと会わせたくないとは言ってないよ。そんなの無理だしさ。ただ僕は、今日くらい静かに過ごさせてあげたいなって、それだけ。今夜は僕の部屋で休めばいいし……そのためにも、僕は日中やすんでおくから」
混ぜることなく、ミルクの入ったカップを口に運んだ。セトはそんなティアを見ていた。
「……分かった。なら、俺が見とく」
「うん……ありがとう」
「お前が感謝すんのは変だろ」
「そんなことないよ、僕のわがままなんだから。セト君からしたら偽善だし」
「………………」
ふたりの顔を交互に見ていたメルウィンが、マグカップをそろりとテーブルに置いて、
「あの……セト君も、ほんとは休みたいんだよね? ……それなら、僕のポタジェ——じゃなくて、ええっと……菜園に、僕が、アリスさんも連れて行くのは……?」
やんわりと、提案めいた発言をした。
セトが丸い目をしてメルウィンに向く。ティアも「え?」意外そうな声をあげた。ふたりの反応に戸惑ったのか、メルウィンは首を縮め、
「もちろん……アリスさんが、よければ」
控えめに付け加えられたセリフとともに、ブラウンの眼を私へと向けた。セトの目も一緒に流れる。ティアも首を私の方へと傾け、
「……というわけなんだけど、どう?」
にわかに巻き込まれる。最後の単語だけ聞き取れたが、どう? とはどういうことなのか。理解していないのに、全員の視線に晒されているのが居たたまれず、
「……はい」
うやむやのままに、肯定してしまった。
「……まったりしてるところ、なんだけど、僕ってこのまま寝ていいのかな?」
ティーカップから口を離して、隣のティアはぽつりと呟いた。私に話しかけたわけではないらしい。セトが反応した。
「別にいいだろ」
「セト君も眠ってないんだよね? 寝ないの?」
「あとで仮眠する」
「……アリスちゃんは、誰が見てるの?」
一瞬だけ無言で見つめ合ったふたりは、メルウィンへと目線を流した。ふたりの目を受けたメルウィンがブラウンの眼をパチパチとして、
「……ぇ?」
「……お前、今日ひま?」
「……いつもどおり過ごすよ?」
「メル君っていつも何してるの? 食事の用意をしてくれてるのは、もちろん知ってるけど」
「今日は、ポタジェ——えっと、僕のエリアにある菜園に、行くけど……」
「メル君、個人エリアにも菜園作ってるの?」
「ティアくんも、ガーデンあるよね?」
「あれは趣味だから」
「僕のも、趣味だよ。食料というよりは、装飾よりのものだから」
「そうなの? 装飾よりの菜園ってなに育ててるの?」
「ハーブ、オーナメンタルベジタブル、あとはエディブルフラワーとか」
「なるほど……料理を飾るものだね」
「うん。必ずしも要るものではないから、個人エリアで育ててるよ。ドローンとロボは、管理のために少し借りてるけど……」
「そうだったんだ……ありがとう、いつも綺麗に盛り付けてくれて」
メルウィンの眉尻が困ったように下がった。目線を手許のカップに落として、「ティアくんまで……」ぽそっと独り言のように囁いたかと思うと、顔を上げた。
「……僕が、勝手にしてることだから、気にしないで」
空間に優しく響く、やわらかな声。癖っけのある茶髪を揺らして、メルウィンは首を振った。濃いブラウンを基調としたチェックのシャツの隙間から、チョーカーが見えている。彼らの、共通のアクセサリー。
耳を傾けていたセトは珈琲をひとくち飲み下して、メルウィンの方に首を向け口を開いた。
「皿に盛るのって、お前がやってたのか」
「……うん。ぜんぶじゃ、ないけど」
「ロボだと思ってた。ありがとな」
「………………」
セトは感謝の言葉を口にしたと思う。なのにメルウィンは、よりいっそう困った顔をしていた。横にいたティアが、ふふっと可愛らしく笑い声をこぼした。
「意外だな。セト君は、そんなのロボットにやらせればいいだろ、とか言いそうなのに」
「いや、ロボでもいいとは思ってる」
「それを言わないのが優しいね」
「言わせてんじゃねぇか」
「ほんとだ。……あれ、僕が余計なこと言ってる感じ?」
「お前やっぱ早く寝ろ。頭が回ってねぇんだよ」
「ね、オーバーワークだよね……それで、話は戻るんだけど、アリスちゃんはどうしよう?」
「……お前の私室は駄目なのか? 俺と違って情報開示してねぇんだろ?」
「……それはちょっと、まだ抵抗がある……」
「……ああ、そういや他人いると眠れねぇって?」
「うん……それに僕、今眠ったら、たぶん夜まで起きないと思うし……」
私の名前が出ているが、内容は分からない。ただメルウィンも同じように意味の分かっていない顔をしている。
「アリスさんは、誰かが見張っていないとだめなの? そんなの、サクラさんの連絡にあった?」
「いや、ねぇよ。べつに独りにしておいても……いいんだけどよ」
「……だけど?」
「……いや、まぁ……そうか、別にひとりでも……いいのか?」
「……?」
セトが言い淀み、メルウィンが不思議そうな顔をしている。ティアがカップをソーサーに戻した。
「——僕は、イシャン君と会わせたくない。あと、個人的見解でロキ君とロン君も避けたい。さらに言っていいならサクラさんも」
声に張りがある。ティアのそれは、どことなく厳しい感じがした。そんなティアに対してセトは眉を寄せている。
「半数じゃねぇか……」
「だってさ、聞いてよメル君」
「……ぇ、僕?」
「イシャン君は、アリスちゃんに暴行をはたらいたんだよ。普通だったら捕まるよね?」
「えっ! 暴行?」
「おい、やめろよ。暴行は大げさだろ」
「大げさじゃない。本人が恐怖を感じていたら同じことだよ」
場の空気が変わった。聞き流していたが、耳に届いた会話には私とイシャンの名前が並んでいた。私はイシャンとはほとんど関わっていないはずなのに。むしろ一番距離を置きたい相手だ。
ティアは紅茶にミルクをそそいだ。
「ずっと会わせたくないとは言ってないよ。そんなの無理だしさ。ただ僕は、今日くらい静かに過ごさせてあげたいなって、それだけ。今夜は僕の部屋で休めばいいし……そのためにも、僕は日中やすんでおくから」
混ぜることなく、ミルクの入ったカップを口に運んだ。セトはそんなティアを見ていた。
「……分かった。なら、俺が見とく」
「うん……ありがとう」
「お前が感謝すんのは変だろ」
「そんなことないよ、僕のわがままなんだから。セト君からしたら偽善だし」
「………………」
ふたりの顔を交互に見ていたメルウィンが、マグカップをそろりとテーブルに置いて、
「あの……セト君も、ほんとは休みたいんだよね? ……それなら、僕のポタジェ——じゃなくて、ええっと……菜園に、僕が、アリスさんも連れて行くのは……?」
やんわりと、提案めいた発言をした。
セトが丸い目をしてメルウィンに向く。ティアも「え?」意外そうな声をあげた。ふたりの反応に戸惑ったのか、メルウィンは首を縮め、
「もちろん……アリスさんが、よければ」
控えめに付け加えられたセリフとともに、ブラウンの眼を私へと向けた。セトの目も一緒に流れる。ティアも首を私の方へと傾け、
「……というわけなんだけど、どう?」
にわかに巻き込まれる。最後の単語だけ聞き取れたが、どう? とはどういうことなのか。理解していないのに、全員の視線に晒されているのが居たたまれず、
「……はい」
うやむやのままに、肯定してしまった。
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