上 下
30 / 166

蒼海の血路

しおりを挟む
「なんとか、ほぼ全機発艦出来たか…。」
淵田美津雄総隊長は、後方を顧みつつひとりごちる、何機かは、中途でF4Fに喰われたようだが…。
淵田自身、原因不明の体調不良。
軍医からは、「今は艦内静養し内地の病院で再検査を」と言われてはいるのだが…。
いま彼らを率いられるのは自分しかいない!
あの久保拓也とか言う航空参謀代行、どこまで信に値するか分からない。が、少なくとも、このタイミングでの出撃の判断は間違っていないと考える!
とにかく、加賀の無念を…
あそこに居る知った顔は無論一人や二人ではない…

そう、加賀の運命は悲惨であった。
初弾の250キロ爆弾が甲板を突き破り、丁度格納庫の搭載する機のない余剰の爆弾の積み上げ場所に命中してしまったのである。
1回目の大爆発で甲板のほぼ半分が吹き飛び、誘爆が誘爆を呼び2回目の大爆発で艦橋が炎に包まれる…。
完全に、「軍艦」としての機能を喪失してしまったのである。

偶々甲板上にいた、搭乗員整備員も多く、咄嗟に海に飛び込んで難を逃れたのが不幸中の幸いであったが…。

一方、迎え撃つフレッチャー少将の任務部隊。
ミッドウェイ基地からの応援も含めて
直掩戦闘機隊82機。
なんとか、送り出した奴らの帰る家を残してやってくれ。
ヨークタウン艦橋から、空を見上げるフレッチャーと幕僚達。

日本攻撃隊零戦65機は、数的優位のアメリカ戦闘機隊を引き受けて、味方の艦爆、艦攻隊の血路を開く。
「反応が遅い!」
言いながら、本日累計6機目の敵機を墜とす岩本徹三。
今のはもしかしたら地上基地からの増援かも知れん。
空母艦載機のそれより遥かに劣る練度。
先方としても、いくら国力に勝ろうとも、貴重な熟練搭乗員は、そう簡単には補充増員出来んようだな。
…まぁ、岩本の技量とこの時点での零戦21型の性能が卓越し過ぎてもいるのだが…。

そして…海上では上空以上の地獄…。
瑞鶴の99艦爆12機の群れが、大西洋から回航されたばかりの空母ワスプに殺到。
なんと12機のうち9機が、250キロ爆弾をワスプ甲板に命中させたのである!
一発が格納庫の燃料集積エリアを打ち抜き、灼熱地獄と化すワスプ。
そこ以外からも他の爆弾で、大小様々な誘爆を引き起こすワスプ。
さらに魚雷2発が命中し、完全に息の根を止められる…。

「こちらも行くぞ!」
海面スレスレを這い、ヨークタウンに向かう淵田の97艦攻。
プロペラが海水面を叩くまで低空を這う技術は流石であったが、そもそも実戦の、しかもこれだけ激しい対空砲火の中の雷撃はなんやかや初めて…。
「距離1100、投下!!」
引き起こし離脱する淵田機…。
あー外れたっ!
と、最後尾にいる機銃手が叫ぶ。
(そう上手くはいかねえか…いや、俺がびびって早く投下してしまったのが悪い。)
しかし、頼もしい僚機達が…2発、いや3発…!
更には艦爆からの爆弾も4発命中する。

ヨークタウン艦橋。
「フレッチャー閣下、この艦は持ちません、退艦なされませ!」
バックマスター艦長の言葉に、フレッチャーは天を仰ぐ。
「…珊瑚海の傷が開いちまったってところか」
「申し訳ございません。なにぶん機能回復を最低限間に合わせただけの応急処置で、水密区間もガバガバのまま…」
「貴官の責任ではないさ…。
この際は一人でも多く助かる事を考えよう。
貴官も死ぬなよ!」
一足先に、艦を後にするフレッチャーであった。
今頃は恐らく、スプルーアンスの方も…。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

戦艦大和、時空往復激闘戦記!(おーぷん2ちゃんねるSS出展)

俊也
SF
1945年4月、敗色濃厚の日本海軍戦艦、大和は残りわずかな艦隊と共に二度と還れぬ最後の決戦に赴く。 だが、その途上、謎の天変地異に巻き込まれ、大和一隻のみが遥かな未来、令和の日本へと転送されてしまい…。 また、おーぷん2ちゃんねるにいわゆるSS形式で投稿したものですので読みづらい面もあるかもですが、お付き合いいただけますと幸いです。 姉妹作「新訳零戦戦記」「信長2030」 共々宜しくお願い致しますm(_ _)m

蒼雷の艦隊

和蘭芹わこ
歴史・時代
第五回歴史時代小説大賞に応募しています。 よろしければ、お気に入り登録と投票是非宜しくお願いします。 一九四二年、三月二日。 スラバヤ沖海戦中に、英国の軍兵四二二人が、駆逐艦『雷』によって救助され、その命を助けられた。 雷艦長、その名は「工藤俊作」。 身長一八八センチの大柄な身体……ではなく、その姿は一三○センチにも満たない身体であった。 これ程までに小さな身体で、一体どういう風に指示を送ったのか。 これは、史実とは少し違う、そんな小さな艦長の物語。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ

俊也
ライト文芸
実際の歴史では日本本土空襲・原爆投下・沖縄戦・特攻隊などと様々な悲劇と犠牲者を生んだ太平洋戦争(大東亜戦争) しかし、タイムスリップとかチート新兵器とか、そういう要素なしでもう少しその悲劇を防ぐか薄めるかして、尚且つある程度自主的に戦後の日本が変わっていく道はないか…アメリカ等連合国に対し「勝ちすぎず、程よく負けて和平する」ルートはあったのでは? そういう思いで書きました。 歴史時代小説大賞に参戦。 ご支援ありがとうございましたm(_ _)m また同時に「新訳 零戦戦記」も参戦しております。 こちらも宜しければお願い致します。 他の作品も お手隙の時にお気に入り登録、時々の閲覧いただければ幸いです。m(_ _)m

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~

城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。 一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。 二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。 三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。 四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。 五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。 六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。 そして、1907年7月30日のことである。

処理中です...