【第二部開始】風変わりな魔塔主と弟子

めーぷる

文字の大きさ
上 下
443 / 483
第十九章 旅に出る弟子と騎士

439.更なる祝福

しおりを挟む
 サラマンダー様から有益な情報も教えていただいたし、名残惜しいけど急ぐ身だ。
 もっとお話もしたいけど、用も済んでしまったし出発した方がよさそうだ。

「サラマンダー様、ありがとうございました。早速師匠を追いかけようと思います」
「そうか。ではまたそのうちにゆっくりと会おう」
「レイヴンはいつも忙しそうだね。たまにはゆっくりと休むんだよ」
「シルフィード様も、この度は本当にありがとうございました」

 二人の精霊王はにこやかに微笑んでくれる。俺たちはお礼を言ってお別れしようとしたんだけど、急に鍛冶場が騒がしくなり始めた。

「なんだ? みんなわらわらと入り口の方へ飛んでいったな」
「まさか、隠れ里に何か危険が近づいて来てるとか?」

 俺とウルガーで顔を見合わせて頷き、何が起きてもいいように心構えと準備をしているとシルフィード様がクスクスと楽しそうに笑い始めた。

「いつもは寝てる気がするんだけど、さすがに僕ら二人がいると分かっちゃうか」
「ドワーフの隠れ里を住処すみかにしているのは私じゃないからな。我らが揃ったのに気づいて目を覚ましたんだろう」

 精霊王のお二人は楽しそうな雰囲気だから、危険なことではないのは理解したんだけど……サラマンダー様のお言葉が気になる感じだ。
 すると、バタバタとブロさんが笑いながらやってきた。

「今日はすごい一日だな! 若いの、お前は本当に凄いヤツかもしれねぇ。我らの王までおでましたぁ、運がいい。姿が見られるだけでも凄いってのに、起きてらっしゃるなんてな!」
「それって……」

 俺が確認する間もなく、ドワーフさんたちの間からヌッと誰かが姿を現して俺たちの方へ近づいてきた。
 長い薄茶の髪をゆるりと一つに束ね、灰色のつなぎのような服を纏った若い男の人?
 もしかして……?

「あなたは……地の精霊王、ノーム様ではありませんか?」
「正解。炎と風の気配を感じたから目が覚めた」
「ふふ。ノーム、おはよう」

 シルフィード様は楽しそうに話しかけているけど、俺とウルガーは二人で顔を見合わせる。
 ただいま、大混乱中だ。
 まさか、この場に精霊王が三人も集まってしまうなんて。
 俺たちだって驚くくらいだから、ドワーフの皆さんも驚くよな。

「この子はレイヴン。僕と今さっきサラマンダーも祝福を与えた子だよ」
「然り。ノームはどうしてここに?」
「二人がいるのが分かって、気になったから。それに……この子の雰囲気、少し変わってるな」

 ノーム様は屈んで俺の顔をじっくりと眺める。
 俺がハーフエルフだということは、見れば一発で分かることだけど……それが変わってるってことなのかな。

「優しい気配がする。ウンディーネの祝福も?」
「もちろん。レイヴンはウンディーネの子だ。と言っても、ウンディーネが人間だった頃のだけど」
「……そっか。寝てる間に見つかったのか」

 ノーム様はめったに人前に姿を現さないとは聞いていたけど、精霊王様たちと会うこともまれなのかもしれない。
 というか、この状況が珍しすぎるんだよな。

「うわー……俺、おいてきぼりなんですけど……」
「大丈夫。俺もついていけてない」

 ウルガーと一緒に顔を見合わせていると、ノーム様が改めて俺の手を取った。
 ほんのりと暖かい手だけど、力強さも感じる不思議な手だ。

「レイヴン、オレも祝福する。この里で出会ったのは意味があるはず。この力も役立ててほしい」
「え? でも、俺は……」
「大丈夫。ノームは少し変わってるけど、レイヴンの雰囲気で分かるんだ。君がどんな子なのかって」
「我らを同時に召喚することは難しいかもしれないが、いつかできるようになると信じている」

 炎と風の精霊王様まで俺のことを後押ししてくれているのに、ここで断るなんて失礼すぎるよな。
 俺は、よろしくお願いしますと伝えて目を閉じる。
 すると、俺の手にじわりと暖かさと力強さが流れ込んできた。

「これで、おしまい。ふわぁ……久々に祝福を送ったから眠い」
「ノームとはめったに会わないから、僕も久々に会えて嬉しかったよ。今度お茶でもしようね」
「気が向いたら。じゃあ、サラマンダーもまた。レイヴン、困った時は呼んで」
「はい。ありがとうございました」

 俺がお礼を言って頭を下げると、ノーム様は集まっていたドワーフさんたちの頭をなでながら行ってしまった。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

すずらん通り商店街の日常 〜悠介と柊一郎〜

ドラマチカ
BL
恋愛に疲れ果てた自称社畜でイケメンの犬飼柊一郎が、ある時ふと見つけた「すずらん通り商店街」の一角にある犬山古書店。そこに住む綺麗で賢い黒猫と、その家族である一見すると儚げ美形店主、犬山悠介。 恋に臆病な犬山悠介と、初めて恋をした犬飼柊一郎の物語。 ※猫と話せる店主等、特殊設定あり

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか
BL
吉村時生、高校一年生。 ある日、自分の父親と親友の父親のキスシーンを見てしまい、平穏な日常が瓦解する。 「時生くん、君は本当はぼくと勇二さんの子供なんだ」 と、親友の父から衝撃の告白。 なんと、二人は魔法使いでカップルで、魔法で子供(俺)を作ったらしい。 母ちゃん同士もカップルで、親父と母ちゃんは偽装結婚だったとか。 「でさ、魔法で生まれた子供は、絶対に魔法使いになるんだよ」 と、のほほんと言う父親。しかも、魔法の存在を知ったが最後、魔法の修業が義務付けられるらしい。 でも、魔法学園つったって、俺は魔法なんて使えたことないわけで。 同じ境遇の親友のイノリと、時生は「全寮制魔法学園」に転校することとなる。 「まー、俺はぁ。トキちゃんと一緒ならなんでもいいかなぁ」 「そおかあ? お前ってマジ呑気だよなあ」 腹黒美形×強気平凡の幼馴染BLです♡ ※とても素敵な表紙は、小槻みしろさんに頂きました(*^^*)

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?

ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。 ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。 そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。

暁にもう一度

伊簑木サイ
ファンタジー
成り上がり貧乏辺境領主の後継者ソランは、金策のため、「第二王子を王太子になるよう説得できた者に望みの褒美をとらす」という王の頼みごとを引き受けた。 ところが、王子は女嫌いということで、女とばれないよう、性別を隠して仕えることになる。 ソランと、国のために死に場所を探している王子の、「死なせない」と「巻き込みたくない」から始まった主従愛は、いつしか絶対に失いたくない相手へと変わっていく。 けれど、絆を深めるほどに、古に世界に掛けられた呪いに、前世の二人が関わっていたと判明していき……。 『暁に、もう一度、あなたと』。数千年を越えて果たされる、愛と祈りの物語。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

処理中です...