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第十九章 旅に出る弟子と騎士
440.親方からの餞別
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何だか緊張と疲れで力が抜けてしまう。自然とふらっと身体が傾くと、ウルガーが気づいてすぐに支えてくれた。
「大丈夫か? しっかし、理解の向こう側っていうか……すごいな」
「すごいことが起こりすぎてどうしていいのか……」
驚きっぱなしの俺たちを見ながら、シルフィード様とサラマンダー様も顔を見合わせて微笑む。
「我らにとっても珍しいことだ。ウンディーネも来られたら良かったのだがな」
「仕方ないよ。ここまで暑い区域はウンディーネだと負担が大きい。それに、レイヴンだってこれ以上消耗すると大変だからね。今度こそ僕たちも帰るとしよう」
「そうだな。レイヴン、困ったときはいつでも呼んでくれ」
「はい、お二人ともお気をつけて」
俺とウルガー、ドワーフの皆さんで精霊王様たちを見送ると、自然と俺の召喚が解除されて髪と瞳が元の黒と焦げ茶に戻っていく。
「ほー。ハーフエルフだとその時だけ見た目が変わるのか。黒い髪もツヤツヤでいいじゃないか」
「あ、ありがとうございます」
グリさんに褒められてしまった。エルフとは違って、黒でも忌み嫌うということはないみたいだ。
ウルガーも少し緊張していたみたいだけど、ドワーフの皆さんの反応を見てホッと表情が緩んだのが分かる。
「ウルガーが緊張することじゃないのに……」
「いや、レイヴンは黒髪のことで色々と言われてきただろ? だからついな」
「人間やエルフの迷信はわしらには関係ないことだ。そうだ、いいもん見せてもらった礼をしようと思ったんだった。マグ!」
里長のブロさんが息子のマグさんを呼びつけると、マグさんは分かっていたと言わんばかりに一振りの剣と細工の施されたナイフを持ってきてくれた。
ブロさんは二つを受け取って、俺たちへ差し出してくれる。
「お前さん方にちょうどよさそうなもんだ。騎士の兄ちゃんのはちょいとお上品な剣だが、軽くて丈夫な自慢の剣だ。剣気を乗せれば風の刃も出せる」
「そんな良すぎる剣を俺に?」
「作ってみたが、器用さと平均的な力の分配ができねぇと力を出せないってんで買い手がつかなくてな。お前さんならちょうどよさそうだ」
だからブロさんはウルガーの身体を触ってみてたのか。確かにウルガーの戦い方は派手さはないけれど、安定していて誰とでも合わせられる器用さも持ち合わせている。
攻守もどちらかが秀でているわけでもないけど、どんな場面でも対応できるのがウルガーの強みだ。
「俺、こんな立派な剣持ったことないけど……受け取った瞬間、しっくりくる感じがした。ありがとうございます」
「気に入ってくれたみたいだな。で、こっちのナイフはお前さんだ。護身用として持っておくといい。そいつは物体だけでなく魔法も切り裂けるナイフで、ノーム様の加護付きだ」
俺に手渡されたナイフは軽くて持ちやすいけど、鞘から抜いてみると鈍く美しく輝く細工の施されたナイフだ。
ノーム様の加護付きということは、地の属性か。
「魔力を込めると、魔法を発動する手間なく魔法の盾が出せるんだとさ。わしらは魔法を使えるもんが少ないんでな。それに、得意な武器は重くて振り回せるハンマーときたもんだ」
「とても素晴らしい品をありがとうございます。鍛冶場へ入れていただいただけでなく、武器までいただいてしまって……」
俺が恐縮していると、またバシバシと足を叩かれた。やっぱりちょっと痛い。
俺の気持ちは筒抜けだったらしく、マグさんが親父と言いながら額に手を当てていた。
「精霊王様が三人もいるところを見られるなんざ、長いこと生きていて初めてのことだ。レイヴン、あんたは精霊に愛されてるんだな」
「そうなのでしょうか? だとしたらとても光栄で嬉しいです」
「あとはその硬い口調をなんとかすりゃあ完璧なんだが、まあ仕方ねぇか。旅の邪魔をしちゃいけねえし、本来はもっとゆっくりしていってもらいたいところだが……また旅の帰りにでも寄ってくれ」
「ありがとうございます。師匠を見つけたその時は、ぜひ寄らせてもらいます」
俺とウルガーはドワーフさんたちにお礼を言って、鍛冶場を後にする。
最初に出会ったグリさんが、最後まで案内係をしてくれるとのことで俺らの見送りをしてくれることになった。
「大丈夫か? しっかし、理解の向こう側っていうか……すごいな」
「すごいことが起こりすぎてどうしていいのか……」
驚きっぱなしの俺たちを見ながら、シルフィード様とサラマンダー様も顔を見合わせて微笑む。
「我らにとっても珍しいことだ。ウンディーネも来られたら良かったのだがな」
「仕方ないよ。ここまで暑い区域はウンディーネだと負担が大きい。それに、レイヴンだってこれ以上消耗すると大変だからね。今度こそ僕たちも帰るとしよう」
「そうだな。レイヴン、困ったときはいつでも呼んでくれ」
「はい、お二人ともお気をつけて」
俺とウルガー、ドワーフの皆さんで精霊王様たちを見送ると、自然と俺の召喚が解除されて髪と瞳が元の黒と焦げ茶に戻っていく。
「ほー。ハーフエルフだとその時だけ見た目が変わるのか。黒い髪もツヤツヤでいいじゃないか」
「あ、ありがとうございます」
グリさんに褒められてしまった。エルフとは違って、黒でも忌み嫌うということはないみたいだ。
ウルガーも少し緊張していたみたいだけど、ドワーフの皆さんの反応を見てホッと表情が緩んだのが分かる。
「ウルガーが緊張することじゃないのに……」
「いや、レイヴンは黒髪のことで色々と言われてきただろ? だからついな」
「人間やエルフの迷信はわしらには関係ないことだ。そうだ、いいもん見せてもらった礼をしようと思ったんだった。マグ!」
里長のブロさんが息子のマグさんを呼びつけると、マグさんは分かっていたと言わんばかりに一振りの剣と細工の施されたナイフを持ってきてくれた。
ブロさんは二つを受け取って、俺たちへ差し出してくれる。
「お前さん方にちょうどよさそうなもんだ。騎士の兄ちゃんのはちょいとお上品な剣だが、軽くて丈夫な自慢の剣だ。剣気を乗せれば風の刃も出せる」
「そんな良すぎる剣を俺に?」
「作ってみたが、器用さと平均的な力の分配ができねぇと力を出せないってんで買い手がつかなくてな。お前さんならちょうどよさそうだ」
だからブロさんはウルガーの身体を触ってみてたのか。確かにウルガーの戦い方は派手さはないけれど、安定していて誰とでも合わせられる器用さも持ち合わせている。
攻守もどちらかが秀でているわけでもないけど、どんな場面でも対応できるのがウルガーの強みだ。
「俺、こんな立派な剣持ったことないけど……受け取った瞬間、しっくりくる感じがした。ありがとうございます」
「気に入ってくれたみたいだな。で、こっちのナイフはお前さんだ。護身用として持っておくといい。そいつは物体だけでなく魔法も切り裂けるナイフで、ノーム様の加護付きだ」
俺に手渡されたナイフは軽くて持ちやすいけど、鞘から抜いてみると鈍く美しく輝く細工の施されたナイフだ。
ノーム様の加護付きということは、地の属性か。
「魔力を込めると、魔法を発動する手間なく魔法の盾が出せるんだとさ。わしらは魔法を使えるもんが少ないんでな。それに、得意な武器は重くて振り回せるハンマーときたもんだ」
「とても素晴らしい品をありがとうございます。鍛冶場へ入れていただいただけでなく、武器までいただいてしまって……」
俺が恐縮していると、またバシバシと足を叩かれた。やっぱりちょっと痛い。
俺の気持ちは筒抜けだったらしく、マグさんが親父と言いながら額に手を当てていた。
「精霊王様が三人もいるところを見られるなんざ、長いこと生きていて初めてのことだ。レイヴン、あんたは精霊に愛されてるんだな」
「そうなのでしょうか? だとしたらとても光栄で嬉しいです」
「あとはその硬い口調をなんとかすりゃあ完璧なんだが、まあ仕方ねぇか。旅の邪魔をしちゃいけねえし、本来はもっとゆっくりしていってもらいたいところだが……また旅の帰りにでも寄ってくれ」
「ありがとうございます。師匠を見つけたその時は、ぜひ寄らせてもらいます」
俺とウルガーはドワーフさんたちにお礼を言って、鍛冶場を後にする。
最初に出会ったグリさんが、最後まで案内係をしてくれるとのことで俺らの見送りをしてくれることになった。
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