【第二部開始】風変わりな魔塔主と弟子

めーぷる

文字の大きさ
上 下
294 / 483
第十一章 強気な魔塔主と心配性の弟子

292.兆し

しおりを挟む
 レイヴンを可愛がって満足した次の日、魔塔にも急な招集の知らせが舞い込んできやがった。
 俺とレイヴンは仕方なく、急ぎ王宮の会議室へと向かう。
 扉を開くと、錚々そうそうたる顔ぶれが席についていた。

 騎士団、聖女と神殿のヤツらに、政治を司る文官。
 今回は、一番役に立たねぇ最悪なヤツもいるな。
 
 舌打ちしたところで気分も晴れやしねぇが、陛下がちらりと目くばせで合図してきた。
 なんかあったら対処するってことだよな?
 俺はレイヴンを引き連れて、適当に椅子を引いて腰を下ろす。
 隣の可愛い弟子は、座った途端に耳打ちしてくる。
 
「テオ……お願いだからおとなしくしていてくださいね」
「俺だっていきなり暴れたりしねぇよ」

 無意味に暴れる魔物じゃねぇし。
 暴れるときはそれなりの理由ってもんがあるんだよなぁ。
 レイちゃんは、俺が適当に暴れてるとでも思ってんのかァ?
 
 ちらりと、国王であるエルミュートス三世に視線を向ける。
 現国王は、俺とディートリッヒと共に前国王を引きずり下ろした人間だ。
 国の問題にも丁寧に対応し、時には俺らもこき使って解決へと導く。
 賢王っていう二つ名には、ずる賢いも含んでるから厄介なんだが。
 
 前国王の体制があまりにも酷かったせいで、まだ残党を狩り切れていないんだよな。
 お国が荒れてるなんて話は、どこにでも転がってる話だが。
 
 正直面倒ごとに引っ張り出されるのはごめんだ。
 だが、火の粉がレイヴンに降りかかるのであれば容赦はしねぇ。

「一体何事かね? 我々まで呼び出されるとは……」

 嫌味ったらしい口調のデップリとした醜男は、アレーシュの貴族街に住んでいる貴族代表のエスカ・ヴィセンティー。
 俺が嫌悪する要素をしか持ち合わせてない、クソ貴族だ。
 ヴィセンティー家は国を支えている名家の一つで、俺の生家のバダンテール家とディーの生家のアーベライン家も同じく、国を支える柱の名家になる。
 生まれだけで言えば、バダンテールとアーベラインの二家と対等な位だ。

 ただ、コイツは見た目通りのド腐れ野郎だから、他の貴族とも折り合いが悪い。
 黒い噂も耳にするが、うまいこと隠してんのか陛下が探りを入れても尻尾を出さない。
 以前俺が処断したヨウアルの母親が、ヴィセンティー家の血筋だったはずだ。
 俺の父親も貴族の位ばかりを大事にしてるどうしようもねぇ野郎だったから、似たようなもんだが。
 腐っていようとも、この国の根幹である以上、陛下も簡単には手を出せねぇってとこだろうな。

 聞く耳持たず、宰相のアスシオが無視して話を切り出した。

「最近人攫いが増えているとの報告を受けました。それも多くの子どもが攫われていると」
「どうせ庶民の子どもだろう?」

 エスカが言い放つ言葉は典型的すぎて、誰もが沈黙する。
 お貴族様第一主義で、それ以外は愚民みてぇな古典的な考えしかできない愚かなヤツ。
 陛下の前でもくだらねぇ思想を貫く姿勢だけは褒めてやってもいいが、頭の中まで肉でも詰まってんのか?
 馬鹿すぎて話にならねぇ。
 周りも呆れ返って言葉すら出ない状況だってのに、コイツは何も気づかずに鼻を鳴らす。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

すずらん通り商店街の日常 〜悠介と柊一郎〜

ドラマチカ
BL
恋愛に疲れ果てた自称社畜でイケメンの犬飼柊一郎が、ある時ふと見つけた「すずらん通り商店街」の一角にある犬山古書店。そこに住む綺麗で賢い黒猫と、その家族である一見すると儚げ美形店主、犬山悠介。 恋に臆病な犬山悠介と、初めて恋をした犬飼柊一郎の物語。 ※猫と話せる店主等、特殊設定あり

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか
BL
吉村時生、高校一年生。 ある日、自分の父親と親友の父親のキスシーンを見てしまい、平穏な日常が瓦解する。 「時生くん、君は本当はぼくと勇二さんの子供なんだ」 と、親友の父から衝撃の告白。 なんと、二人は魔法使いでカップルで、魔法で子供(俺)を作ったらしい。 母ちゃん同士もカップルで、親父と母ちゃんは偽装結婚だったとか。 「でさ、魔法で生まれた子供は、絶対に魔法使いになるんだよ」 と、のほほんと言う父親。しかも、魔法の存在を知ったが最後、魔法の修業が義務付けられるらしい。 でも、魔法学園つったって、俺は魔法なんて使えたことないわけで。 同じ境遇の親友のイノリと、時生は「全寮制魔法学園」に転校することとなる。 「まー、俺はぁ。トキちゃんと一緒ならなんでもいいかなぁ」 「そおかあ? お前ってマジ呑気だよなあ」 腹黒美形×強気平凡の幼馴染BLです♡ ※とても素敵な表紙は、小槻みしろさんに頂きました(*^^*)

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?

ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。 ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。 そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。

暁にもう一度

伊簑木サイ
ファンタジー
成り上がり貧乏辺境領主の後継者ソランは、金策のため、「第二王子を王太子になるよう説得できた者に望みの褒美をとらす」という王の頼みごとを引き受けた。 ところが、王子は女嫌いということで、女とばれないよう、性別を隠して仕えることになる。 ソランと、国のために死に場所を探している王子の、「死なせない」と「巻き込みたくない」から始まった主従愛は、いつしか絶対に失いたくない相手へと変わっていく。 けれど、絆を深めるほどに、古に世界に掛けられた呪いに、前世の二人が関わっていたと判明していき……。 『暁に、もう一度、あなたと』。数千年を越えて果たされる、愛と祈りの物語。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

処理中です...