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第八章 解こうとした魔塔主と何も知らない弟子とエルフの里の長
212.開放される過去と力
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「こんな私を父親などと思わなくても構わない。ただ、カナリーだけは。本当に君のことを愛していたのだと、伝えたかった」
「俺自身、今、どうして良いのか分からないです、けど。正直、恨む気持ちとか、そういうのも感じないです。本来は泣き叫んで、感情的になって、というのが正しいのかもしれませんけど……記憶のない今でも、自身の過去について不幸だとか思ったことはありません。色々ありましたけど、結果、最終的にテオと出会えたので。育ててくれた両親にも、そして、お母さんとあなたにも、出会えて良かったんだと、思っています」
「そうか……今まで良い人たちに囲まれて生きてきたのだろう。それだけで私は心から嬉しく思う。ありがとう、レイヴン。カナリーも今の君を見たら、きっと喜ぶはずだ。では、今から記憶封印と鍵を外そうと思う。準備は良いだろうか?」
その言葉に少しだけ考え込むレイヴンの頭にポンと手を置いて撫でる。
ついでにこの場を茶化すように手を挙げた。
「一つ質問だ。外すと言うことは、レイヴンの秘めた力を開放することも含まれるよな? それは大丈夫なんだろうなァ? 暴走したり、レイヴンの身体と精神に及ぶ危険性は?」
「記憶と共にエルフの血脈であることで使用できるはずの精霊魔法が使えるようになるはずだ。今のレイヴンの精神状態と身体の状態を見遣るに、危険性はほぼないと言っていいだろう。ただ、ハーフエルフのレイヴンの場合、精霊魔法を使用する時間に限りがあるだろうから、無理は禁物だ。それと、精霊魔法を使用すると、力の影響で恐らく見た目にもその時だけ変化が現れる。使用し終わればいつもの状態に自然と戻るだろう」
クレインの説明を聞いたレイヴンは、見た目……と繰り返す。
見た目、ねぇ。
ハーフエルフっぽくなるってことか?
耳とかいきなり尖ったら面白いかもな。
想像したら楽しいかもしれねぇな。
俺のそんな考えを汲み取ったかどうかは分からねぇが、レイヴンも緊張した面持ちから少し表情を崩して苦笑する。
「でも確かに。俺、見た目的には今も人間ですよね。エルフの皆さんって耳が尖っていて、瞳の色が緑色なイメージがあるのですが……俺、瞳も焦げ茶色ですし、髪も黒ですし」
「髪の色についてだが、ハーフエルフの子は時折そういった黒色になると言われている。身体的特徴は、エルフよりか、人間よりかは、その子によって違う。レイヴンは元々人間よりだったから、見た目では分からないのだろう。カナリーは栗色の髪をしていたし、私はこの通りの色だ。力を使用する時は、恐らく私に近い容姿になるのではないかと思う。使ってみないことには詳しくは分からないのだが……」
「エルフなレイちゃんも気になるから、俺は危険がないなら今すぐにでも見てぇな」
俺の適当な口調にいつもの調子が戻ってきたレイヴンは、チラとジト目を向けてくる。
そのやり取りも見守るように、クレインは静かにレイヴンの返事を待つ。
「……違う方向に聞こえるのは俺の気のせいでしょうか? でも、俺もここまで来たら全てを思い出して、自分に向き合いたいですから。お願いします」
「分かった。では、レイヴン。こちらへ」
促されるままに俺が手を引くと、レイヴンがベッドから出て立ち上がる。
一旦俺の手を離してから、そっとクレインの側へと近寄った。
俺も姿勢を正して、何があってもいいようにその様子を二人の側で見つめる。
「では……いくぞ」
クレインの手のひらがレイヴンの額に優しく触れる。
自然と目を閉じたレイヴンを見ながら、クレインは人間には聞き取れない言語を紡ぎ出す。
それがエルフ独特の言語であると共に不可視の力がレイヴンに伝わっていく。
レイヴンの中に何かが入ってくるのが分かる。
常に一緒にいると魔力の流れの特徴があるからな分かるんだよな。
これはやはり感じたことのない力だ。
レイヴンの様子を見守らねぇとな。
「俺自身、今、どうして良いのか分からないです、けど。正直、恨む気持ちとか、そういうのも感じないです。本来は泣き叫んで、感情的になって、というのが正しいのかもしれませんけど……記憶のない今でも、自身の過去について不幸だとか思ったことはありません。色々ありましたけど、結果、最終的にテオと出会えたので。育ててくれた両親にも、そして、お母さんとあなたにも、出会えて良かったんだと、思っています」
「そうか……今まで良い人たちに囲まれて生きてきたのだろう。それだけで私は心から嬉しく思う。ありがとう、レイヴン。カナリーも今の君を見たら、きっと喜ぶはずだ。では、今から記憶封印と鍵を外そうと思う。準備は良いだろうか?」
その言葉に少しだけ考え込むレイヴンの頭にポンと手を置いて撫でる。
ついでにこの場を茶化すように手を挙げた。
「一つ質問だ。外すと言うことは、レイヴンの秘めた力を開放することも含まれるよな? それは大丈夫なんだろうなァ? 暴走したり、レイヴンの身体と精神に及ぶ危険性は?」
「記憶と共にエルフの血脈であることで使用できるはずの精霊魔法が使えるようになるはずだ。今のレイヴンの精神状態と身体の状態を見遣るに、危険性はほぼないと言っていいだろう。ただ、ハーフエルフのレイヴンの場合、精霊魔法を使用する時間に限りがあるだろうから、無理は禁物だ。それと、精霊魔法を使用すると、力の影響で恐らく見た目にもその時だけ変化が現れる。使用し終わればいつもの状態に自然と戻るだろう」
クレインの説明を聞いたレイヴンは、見た目……と繰り返す。
見た目、ねぇ。
ハーフエルフっぽくなるってことか?
耳とかいきなり尖ったら面白いかもな。
想像したら楽しいかもしれねぇな。
俺のそんな考えを汲み取ったかどうかは分からねぇが、レイヴンも緊張した面持ちから少し表情を崩して苦笑する。
「でも確かに。俺、見た目的には今も人間ですよね。エルフの皆さんって耳が尖っていて、瞳の色が緑色なイメージがあるのですが……俺、瞳も焦げ茶色ですし、髪も黒ですし」
「髪の色についてだが、ハーフエルフの子は時折そういった黒色になると言われている。身体的特徴は、エルフよりか、人間よりかは、その子によって違う。レイヴンは元々人間よりだったから、見た目では分からないのだろう。カナリーは栗色の髪をしていたし、私はこの通りの色だ。力を使用する時は、恐らく私に近い容姿になるのではないかと思う。使ってみないことには詳しくは分からないのだが……」
「エルフなレイちゃんも気になるから、俺は危険がないなら今すぐにでも見てぇな」
俺の適当な口調にいつもの調子が戻ってきたレイヴンは、チラとジト目を向けてくる。
そのやり取りも見守るように、クレインは静かにレイヴンの返事を待つ。
「……違う方向に聞こえるのは俺の気のせいでしょうか? でも、俺もここまで来たら全てを思い出して、自分に向き合いたいですから。お願いします」
「分かった。では、レイヴン。こちらへ」
促されるままに俺が手を引くと、レイヴンがベッドから出て立ち上がる。
一旦俺の手を離してから、そっとクレインの側へと近寄った。
俺も姿勢を正して、何があってもいいようにその様子を二人の側で見つめる。
「では……いくぞ」
クレインの手のひらがレイヴンの額に優しく触れる。
自然と目を閉じたレイヴンを見ながら、クレインは人間には聞き取れない言語を紡ぎ出す。
それがエルフ独特の言語であると共に不可視の力がレイヴンに伝わっていく。
レイヴンの中に何かが入ってくるのが分かる。
常に一緒にいると魔力の流れの特徴があるからな分かるんだよな。
これはやはり感じたことのない力だ。
レイヴンの様子を見守らねぇとな。
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