大江戸妖怪恋モノ帳

岡本梨紅

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 黎明は薬でいつものように人間に変化して、町へと出た二人は、手近の茶屋で大福を買い、人気のない河原に並んで座って、食べることにした。
 神流は大福を口の中に放り込んで、あっという間に食べてしまうが、黎明は味わうように、ちまちまと食べる。
「で、神流は何を悩んでいるんだ? 最近、ずっと考え事をしてるだろ?」
 未だ食べきらない大福を片手に、黎明が問う。
「黎明様がお気にするようなことでは、ありませんよ」
「気になってっから、聞いてんだろ! いいから話してみろって」
 ぐいぐいと来る黎明に、神流は眉を寄せるも、悩みは口にしなかった。だが黎明はじっと、話し出すのを待つ。
 あまりにも強い視線に、神流は諦めて重い口を開いた。
「実は、妹のことで」
「妹? え? おまえと同じように不愛想なの?」
「なんです?」
「い、いや。ごめん」
 もともと目つきが悪い神流だが、まるで尖った剣先のような鋭さで、無意識に黎明を睨む。あまりの迫力に、黎明は反射的に謝った。
「えっと……。それで、そんなに悩んでるってことは、婚姻でもするのか? おまえ、妹大好きかよ。お祝いしなきゃな」
「妹を大切に想っているのは事実ですが、勝手に話を進めないでいただきたい」
「じゃあ、なんなんだよ」
 神流は視線を落とし、手を組んだ。
「黎明様は、万物を癒す力を持つ者のことを、知っていますか?」
「噂ではな。……もしかして、おまえの妹が?」
 黎明の言葉に、神流は頷いた。
「まさかこんな身近にいたとは。兄妹揃っての異能持ちっていうのも、珍しいな」
 神流は目を瞬く。
「私、黎明様に異能持ちであること、話しましたか?」
「いや、助けてくれたとき、異能を発動してたろ。瞳の色、違ってたし」
「あぁ。そういえば、そうでしたね」
 たまに抜けた発言をする神流に、黎明は苦笑する。
「それで、妹は狙われていたりするのか?」
「今は大丈夫です。六年ほど前に、父が連れてきた僧侶の方に、結界を施してもらったので。『わしの結界であれば、妖怪たちは入って来れない』と言って」
「それ、めちゃくちゃ怪しくね!?」
 黎明は思わず、顔を引きつらせる。だが当の本人は、不思議そうに首を傾げた。
「そうですか? 霊能者を謳う者は、たいてい胡散臭いものでしょう」
「俺はそんな奴を家に上げたことに、驚きだよ!」
 神流の危機感の無さに、黎明は顔を覆った。そんな友の様子に、神流は不服そうな表情を見せる。
「仕方ないではありませんか。当時、なぜかやたらと妖怪に狙われていたんです。半信半疑でしたが、それで妹が守られるならと」
「ほー。なら結局、なにが悩みなわけ? 妹は安全な場所にいるわけだろ」
 神流は深く、ため息をついた。
「……昔は優しい人だったんですが、今の父は、妹を金儲けの道具として、使っているんです。母は父の意見には逆らいませんし、妹も襲われたことが多々あったせいか、外に行くのを怖がっていて。それで今の生活は仕方ないと、受け入れているんです」
「なるほど」
 黎明はようやく大福を食べ終え、指についた粉を舐めながら、考え込む。すると我に返った神流は、慌てたように手を振る。
「あ、あの黎明様。今の話、すべて忘れてください。これはあくまで、私の家族の問題ですので」
「ん? んー、まあ聞いといてなんだけど、そうだな。家族間の話となれば、俺が下手に介入するわけにもいかねぇし。今のところはだが」
「今も何も……。ただの私の愚痴ですから。日ももうじき暮れてまいります。城までお送りいたしますので、お立ち下さい」
 神流は先に立ち上がり、黎明を促す。
「一人でも帰れるぞ?」
「あなたが番頭に、護衛として連れて行くとおっしゃったのでしょう? 一人で帰したと知られれば、叱られるどころか首が飛びます。現実的に」
「そ、そうだな。うん。一緒に帰ろう」
 黎明は普段から庶民の出で立ちで好き放題をしているが、どうしても将軍の息子という肩書がついてくる。自分の身勝手な行動で、大事な親友を失うわけにはいかないと頷き、神流と共に歩きだした。
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