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リオンが姿を消した。
食事を持っていった使用人からそう告げられた私は、驚きはしたが、悲しみはしなかった。
隣で夕食を食べる娘のエマが私に嬉しそうに言う。
「お母様。よかったじゃないですか。あの目障りなブサイクが自分から消えてくれたのですよ」
「ええ、そうねエマ。ちょうど私も同じことを思っていたの。やっぱり私の娘はあなただけね……ふふふっ」
本当に好都合だった。
当初の目論見通り、エマは同じ公爵家のロストという男と婚約できたし、長年邪魔だったリオンも自分から消えてくれた。
いじめたかいがあったというものだ。
きっと今までの生活に嫌気が差して、新しい人生に夢みて家を飛び出したのだろうけど、生憎世の中はそんなに甘くない。
すぐにお金も無くなるし、あとは体でも売って生きるしかないだろう。
私はニヤリと笑うと、夕食のステーキにかぶりついた。
全ての望みが叶ったのだ。
体中が高揚し、今にも爆発しそうだった。
「ふふっ……ふふふっ……」
「お母様、嬉しそう……私も嬉しいですよ……ふふっ」
エマも私の真似をしてステーキにかぶりつく。
本当に良い子に育ったものだ。
まるで私のように完璧な女性になった。
ステーキを食べ終えふと前を見ると、夫のカールが茫然としていた。
顔は幽霊でも見た時みたいに真っ青になっていて、唇が小刻みに震えている。
「カール。どうかしたの? 早く食べないと冷めてしまうわよ」
「そうですよお父様。代わりに私が食べてあげましょうか?」
「何を言っているんだお前たちは……」
カールは怒気の籠った目を私たちに向けていた。
意味が分からず苦笑すると、反対に彼は怒りを顔全体に広げた。
「何を言っているのかと聞いているんだ! 娘が消えたんだぞ! 呑気に食事など取っている場合か! 今すぐ捜索を……」
「あなた馬鹿なの?」
あぁ、どうしてこんな人と結婚なんてしてしまったのだろう。
昔は公爵家というだけであんなに輝いて見えたのに、今ではまるで枯れた木みたいに、何の魅力も感じない。
私は大きなため息をつくと、言葉を続ける。
「今更リオンのことを心配しても遅いんじゃないかしら? あなた私たちがリオンを馬鹿にしていたこと知っていたわよね? 知っていて今まで無視してきたんじゃない」
「そ、それは……」
途端にカールは俯き、何も言わなくなる。
「ふっ……拍子抜けもいい所ね。所詮、あなたは偽善者なのよ。私を母親失格だと言うつもりなら、あなたも同じよ。実の娘の苦しみを無視して、今まで生きてきたのですものね」
「そうよお父様。それに娘ならこの私がいるじゃありませんか。あんな醜い女は忘れましょうよ」
「……」
カールはまるで死んでしまったように固まった。
私とエマは顔を見合わせて笑うと、再び食事に戻る。
デザートを食べても、カールはそのままだったので、一応私は言っておく。
「リオンの捜索なんてしないからね。だってあの子は勝手に、自分の意志で家を出ていったんだから。そんな身勝手な子になんて割く時間はないわ」
私がそう言うと、カールはおもむろに立ち上がった。
酷い顔色だったが、同情すら湧かなかった。
「……分かったよ」
そして最後にそう言うと、とぼとぼと食堂を去っていった。
エマはもう完全に冷めてしまったカールのステーキを見て、指を指した。
「お母様。あのステーキ、食べてもいいですか?」
「……ええ、別に構わないわよ。ただし負け犬の味がするかもだけど」
「ふふっ、じゃあ温めて滅菌しませんと」
あと五か月だ。
五か月後にエマとロストの結婚式が行われ、そこで二人は正式な夫婦となる。
その時、私の望みが全て叶うのだ。
食事を持っていった使用人からそう告げられた私は、驚きはしたが、悲しみはしなかった。
隣で夕食を食べる娘のエマが私に嬉しそうに言う。
「お母様。よかったじゃないですか。あの目障りなブサイクが自分から消えてくれたのですよ」
「ええ、そうねエマ。ちょうど私も同じことを思っていたの。やっぱり私の娘はあなただけね……ふふふっ」
本当に好都合だった。
当初の目論見通り、エマは同じ公爵家のロストという男と婚約できたし、長年邪魔だったリオンも自分から消えてくれた。
いじめたかいがあったというものだ。
きっと今までの生活に嫌気が差して、新しい人生に夢みて家を飛び出したのだろうけど、生憎世の中はそんなに甘くない。
すぐにお金も無くなるし、あとは体でも売って生きるしかないだろう。
私はニヤリと笑うと、夕食のステーキにかぶりついた。
全ての望みが叶ったのだ。
体中が高揚し、今にも爆発しそうだった。
「ふふっ……ふふふっ……」
「お母様、嬉しそう……私も嬉しいですよ……ふふっ」
エマも私の真似をしてステーキにかぶりつく。
本当に良い子に育ったものだ。
まるで私のように完璧な女性になった。
ステーキを食べ終えふと前を見ると、夫のカールが茫然としていた。
顔は幽霊でも見た時みたいに真っ青になっていて、唇が小刻みに震えている。
「カール。どうかしたの? 早く食べないと冷めてしまうわよ」
「そうですよお父様。代わりに私が食べてあげましょうか?」
「何を言っているんだお前たちは……」
カールは怒気の籠った目を私たちに向けていた。
意味が分からず苦笑すると、反対に彼は怒りを顔全体に広げた。
「何を言っているのかと聞いているんだ! 娘が消えたんだぞ! 呑気に食事など取っている場合か! 今すぐ捜索を……」
「あなた馬鹿なの?」
あぁ、どうしてこんな人と結婚なんてしてしまったのだろう。
昔は公爵家というだけであんなに輝いて見えたのに、今ではまるで枯れた木みたいに、何の魅力も感じない。
私は大きなため息をつくと、言葉を続ける。
「今更リオンのことを心配しても遅いんじゃないかしら? あなた私たちがリオンを馬鹿にしていたこと知っていたわよね? 知っていて今まで無視してきたんじゃない」
「そ、それは……」
途端にカールは俯き、何も言わなくなる。
「ふっ……拍子抜けもいい所ね。所詮、あなたは偽善者なのよ。私を母親失格だと言うつもりなら、あなたも同じよ。実の娘の苦しみを無視して、今まで生きてきたのですものね」
「そうよお父様。それに娘ならこの私がいるじゃありませんか。あんな醜い女は忘れましょうよ」
「……」
カールはまるで死んでしまったように固まった。
私とエマは顔を見合わせて笑うと、再び食事に戻る。
デザートを食べても、カールはそのままだったので、一応私は言っておく。
「リオンの捜索なんてしないからね。だってあの子は勝手に、自分の意志で家を出ていったんだから。そんな身勝手な子になんて割く時間はないわ」
私がそう言うと、カールはおもむろに立ち上がった。
酷い顔色だったが、同情すら湧かなかった。
「……分かったよ」
そして最後にそう言うと、とぼとぼと食堂を去っていった。
エマはもう完全に冷めてしまったカールのステーキを見て、指を指した。
「お母様。あのステーキ、食べてもいいですか?」
「……ええ、別に構わないわよ。ただし負け犬の味がするかもだけど」
「ふふっ、じゃあ温めて滅菌しませんと」
あと五か月だ。
五か月後にエマとロストの結婚式が行われ、そこで二人は正式な夫婦となる。
その時、私の望みが全て叶うのだ。
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