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堂々と叫んだマークは、真剣な瞳で私を見つめた。
「フローラ……確かに君の言った通り、僕は愛人を作っていた。君という完璧な妻がいながら、それをどこか窮屈に感じている自分がいたからだ。でも、今更になって分かったよ。僕にはやっぱりフローラしかいない。君以外の女性なんて考えられない!」
まるで自分が物語の主人公であるかの如く、マークは私に言い放つ。
どうやらエミリーを含む愛人を選ぶ未来を捨てて、私と一緒になる道を選んだらしい。
しかし表面上はどうとでも言える。
ここで彼を許し、再び夫婦となったとしても、彼はまた愛人を作るに違いない。
私の怪訝な表情を見て、マークは焦ったように言葉を続ける。
「僕が間違っていた。なんで自分でもこんなに愚かな選択をしてしまったのか……分からないんだ。でも、ただ一つだけ……愛人たちと関係を持っている時も脳裏に浮かぶのは君だった。君以外の女性のことなんて考えたこともなかった。エミリーとも成り行きで関係を持っただけで、心から愛してはいなかったんだ」
隣に立つエミリーがむっとした表情になる。
しかし何も言わずに、固く口を閉ざしている。
「フローラ。どうかこんな僕を許してももう一度チャンスをくれないか? 僕は必ず変わる。君だけを愛せる素晴らしい男になってみせる。だからどうか……お願いだ」
「はぁ……」
我慢していた気持ちが溢れるように、私は大きなため息をついた。
そしてゆっくりとマークの前まで歩を進める。
「マーク……残念だけど、私たちはもう終わりよ。あなたが愛人を作った時点で離婚は決定したようなものよ。そうやっていくら私への愛を取り繕おうが、離婚は覆らない。諦めて」
「そんな……嫌だ! もう一度考え直してくれ! 頼むから!」
マークが縋るように私に手を伸ばす。
ぞっと全身に嫌悪感を覚えて、私は咄嗟に手を出していた。
パシン!!!
私の手はマークの頬を打ち、鋭い音が部屋に響き渡った。
「うっ……」
マークは短く唸った後、諦めたように、私に伸ばした手を下ろす。
そして俯きながら懇願するような声を出した。
「フローラ……頼むよ……もし離婚なんてことになったら……僕は……」
「あなたが心配しているのは、公爵家からの援助がなくなることでしょう?」
「え?」
どうやら私の言葉は彼の本心を突いたらしい。
マークはさっと顔を青ざめると、唇をわなわなと震わした。
「やっぱりね。私に愛があるだのもう愛人は作らないだの、色々言っていたけど、全部そのための嘘でしょう。あなたが恐れているのは、私と離婚して公爵家からの援助が無くなってしまうこと。いくら金山を持っている伯爵家とはいえ、その栄華は永遠と続くものではないし、掘削にかかる費用も膨大だわ。今は私の両親からの援助で何とかなっているけど、それがなくなったら……考えるだけで恐ろしいわ」
マークは私を睨みつけるように、瞳に鋭さを込めると、怒った声を出す。
「なら離婚しないでくれよ! このままじゃ僕は終わりだ! いや、僕の家は終わりだ! 金山からの利益も年々少なくなってきているし、援助まで打ち切られたら、金山を手放さなければいけなくなる。そ、そんなのお前と結婚した意味がないじゃないか!!!」
やっと本心で話を始めたマークに、私は思わず笑みを見せてしまう。
慌てて真顔に戻り、口を開く。
「でもそれは全部あなたが悪いじゃない。あなたが私を裏切り、愛人を作り、元親友にまで手を出した。あなたがそんなことしなければ離婚は無かったのだから、私を責めるのはお門違いよ」
「な……」
ここまで言われても、マークはまだ納得できないらしい。
もうこれ以上は付き合いきれないので、私は背を向けてその場を去ろうとする。
しかしマークが咄嗟に私の腕を掴んだ。
「フローラ……確かに君の言った通り、僕は愛人を作っていた。君という完璧な妻がいながら、それをどこか窮屈に感じている自分がいたからだ。でも、今更になって分かったよ。僕にはやっぱりフローラしかいない。君以外の女性なんて考えられない!」
まるで自分が物語の主人公であるかの如く、マークは私に言い放つ。
どうやらエミリーを含む愛人を選ぶ未来を捨てて、私と一緒になる道を選んだらしい。
しかし表面上はどうとでも言える。
ここで彼を許し、再び夫婦となったとしても、彼はまた愛人を作るに違いない。
私の怪訝な表情を見て、マークは焦ったように言葉を続ける。
「僕が間違っていた。なんで自分でもこんなに愚かな選択をしてしまったのか……分からないんだ。でも、ただ一つだけ……愛人たちと関係を持っている時も脳裏に浮かぶのは君だった。君以外の女性のことなんて考えたこともなかった。エミリーとも成り行きで関係を持っただけで、心から愛してはいなかったんだ」
隣に立つエミリーがむっとした表情になる。
しかし何も言わずに、固く口を閉ざしている。
「フローラ。どうかこんな僕を許してももう一度チャンスをくれないか? 僕は必ず変わる。君だけを愛せる素晴らしい男になってみせる。だからどうか……お願いだ」
「はぁ……」
我慢していた気持ちが溢れるように、私は大きなため息をついた。
そしてゆっくりとマークの前まで歩を進める。
「マーク……残念だけど、私たちはもう終わりよ。あなたが愛人を作った時点で離婚は決定したようなものよ。そうやっていくら私への愛を取り繕おうが、離婚は覆らない。諦めて」
「そんな……嫌だ! もう一度考え直してくれ! 頼むから!」
マークが縋るように私に手を伸ばす。
ぞっと全身に嫌悪感を覚えて、私は咄嗟に手を出していた。
パシン!!!
私の手はマークの頬を打ち、鋭い音が部屋に響き渡った。
「うっ……」
マークは短く唸った後、諦めたように、私に伸ばした手を下ろす。
そして俯きながら懇願するような声を出した。
「フローラ……頼むよ……もし離婚なんてことになったら……僕は……」
「あなたが心配しているのは、公爵家からの援助がなくなることでしょう?」
「え?」
どうやら私の言葉は彼の本心を突いたらしい。
マークはさっと顔を青ざめると、唇をわなわなと震わした。
「やっぱりね。私に愛があるだのもう愛人は作らないだの、色々言っていたけど、全部そのための嘘でしょう。あなたが恐れているのは、私と離婚して公爵家からの援助が無くなってしまうこと。いくら金山を持っている伯爵家とはいえ、その栄華は永遠と続くものではないし、掘削にかかる費用も膨大だわ。今は私の両親からの援助で何とかなっているけど、それがなくなったら……考えるだけで恐ろしいわ」
マークは私を睨みつけるように、瞳に鋭さを込めると、怒った声を出す。
「なら離婚しないでくれよ! このままじゃ僕は終わりだ! いや、僕の家は終わりだ! 金山からの利益も年々少なくなってきているし、援助まで打ち切られたら、金山を手放さなければいけなくなる。そ、そんなのお前と結婚した意味がないじゃないか!!!」
やっと本心で話を始めたマークに、私は思わず笑みを見せてしまう。
慌てて真顔に戻り、口を開く。
「でもそれは全部あなたが悪いじゃない。あなたが私を裏切り、愛人を作り、元親友にまで手を出した。あなたがそんなことしなければ離婚は無かったのだから、私を責めるのはお門違いよ」
「な……」
ここまで言われても、マークはまだ納得できないらしい。
もうこれ以上は付き合いきれないので、私は背を向けてその場を去ろうとする。
しかしマークが咄嗟に私の腕を掴んだ。
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