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馬車から見えた街並みの中に、少年と少女の姿があった。
二人は仲良く手を繋いでいるが、顔を見合わせず緊張したように歩いている。
恋人同士なのだと気づくのに時間はかからなかった。

「いいなぁ……」

アデル様とは手を繋いだことがなかった。
もちろん彼からそんな仕草をされたことはないし、勇気がない私が一歩踏み出すのも無理だった。
そもそも彼は私のことを好いていないわけだから、これから手を繋げる確率も地を這っているだろう。

『お前みたいなブスと婚約したのが間違いだった』

先ほどのアデル様の言葉が思い出された。
親友のマルネの手も借りて、一生懸命に頑張った。
しかしその努力と想いはアデル様には伝わらなかった。

「どうして……」

自然と涙がこぼれ落ちた。
さっき見た二人はもう景色の彼方へ消えている。
代わりに同年代くらいのカップルの姿ばかりが目に入ってくる。

私はこのままアデル様に愛されず、見せかけだけの婚約者として過ごしていくのだろうか。
学園を卒業したら正式に結婚して、彼の家で暮らすことが決まっているが、そこまで本当に辿り着けるのだろうか。
考えれば考えるほど不安になってきて、それを振り払うように目を閉じた。

「大丈夫……大丈夫だから」

私は自己暗示のように何度も呟いた。

……翌日、教室に入ると、マルネが一目散に駆けよってきた。

「シャル。どうだった?」

私は一瞬全てを彼女に告げようかと思ったが、寸での所で堪えることができた。

「もう少し頑張ってみるね」

それだけ言うと、彼女は察したように悲しい顔をした。
私にできるのはこれが精いっぱいだった。
自分の不甲斐なさを誰かのせいにしてしまうのは嫌だった。

「分かった。私にできることがあったら何でも言ってね!」

マルネはそう言うと、私の手をぎゅっと握った。

……クラス代表も務める私は、放課後に残ることも多い。
大抵は先生から頼みごとをされたり、書類を先生の所へ持っていったりと、生徒と先生の橋渡しをするためだった。

その日も私は一人教室に残り、書類を整理していた。
トントンと角を揃え、書類を手に教室を出る。
長い廊下を歩き、階段に差し掛かった時だった。

「……え?」

突然背中を押された。
時が止まったように何も考えられなくなる。
体がふわっと宙に浮き、目の前を紙が通り過ぎていく。

「あ……」

何とか体を横に捻じ曲げるも、同時に下に落ちていた。

ドッ……ドッ……ドドダン!!!!

鈍い衝撃が体中に走り、意識が消えていく。
最後に聞こえたのは、走りさる足音だけだった。
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