ハズレスキルがぶっ壊れなんだが? ~俺の才能に気付いて今さら戻って来いと言われてもな~

島風

文字の大きさ
上 下
9 / 66

9エルフもグイグイ追って来るんだが?

しおりを挟む
一方、時は遡り、王都のベルナドッテ家にて、アルが実家を追放されたことで、心を痛めている女の子がいた。  

彼女は辺境の領地で、アルの世話係をしており、アルに懐いていた。いや、恋していた。  

辺境からアルの世話係として同行した彼女はアルが追放されてしまい、どうしていいのか分からない状況で。  

「エルフの奴隷風情が何をもたもたと! さっさと食事の用意をなさい!!」  

冷たい声で、エルフで亜人の奴隷をぞんざいに扱うアルの母親――。  

自身は豪奢なソファーでくつろぎ、扇を仰ぎながら、横柄に命令をしていた。  

「は、はいっ! 奥様!」  

「返事だけは立派ね。だけどいい返事をするより、言われる前にさっさとやっておきなさい! あなたの食事は必要ありませんからね!」  

そう言って、口角を歪ませる。食事の準備はさせて、彼女には何も食べさせないつもりだ。  

「全く、あの落ちこぼれの駄目息子はとんだ置き土産をしてくれたわ。亜人の奴隷なんて、どうすればいいのかしら? 領地に送り返すにしても、馬車代が勿体無いわ」  

「お、奥様! アルベルト様は立派な方です! 駄目な息子さんなんかじゃありません!」  
つい、彼女は言ってしまった。敬愛する、いや恋しているアルのことを悪く言われて、つい、身分不相応な発言を。  

アルの母親は、立ち上がり、リーゼの近くに歩いて来ると。  

パシン――  

と。  

大きな音が、部屋全体に響きわたった。  

「も、申し訳ございません……!」  

リーゼが慌てて謝罪する。貴族の主人相手にして良い発言ではなかった。  

エルフの女の子の奴隷、リーゼ。  

昨年の飢饉で、売りに出されていたリーゼをアルや執事長のエーリヒが気の毒に思い、購入してアルの世話係にしていた。法律上、奴隷ではあるが、アルやエーリヒは普通の使用人として接していた。  

リーゼは生まれて初めて、奴隷への扱いが普通どんなものなのかがわかった。  

『私は恵まれすぎていたんだ。そして、アル様がどんなに素晴らしい人なのかも』  

そう思い、アルへの想いを更に募らせていた。  

だが、とりあえず、さっさと起きあがって、仕事に戻る。  

モタモタしていたら、また平手打ちされるから。  

アルがハズレスキル持ちと判明して、リーゼはアルに声をかけられないでいた。  

その気持ちはリーゼにはよく理解できたのだ。  

何故なら彼女もハズレスキルの持ちだから。ハズレスキルだったから、飢饉の際、真っ先に奴隷として売り飛ばされた。  

どう慰めればいいか分からず、その上、そのままアルがこの家を追放されてしまった。  

辺境の領地ではみなアルを慕い、仲良くやっていたので、信じられない所業だった。  

『実の家族なのに』  

リーゼはハズレスキル持ちだから奴隷として売り飛ばされたが、家族には愛されてはいた。  

ただ、誰か食いぶちが減らないと、家族全員が餓死する。  

リーゼが奴隷商に引き渡される時、母親は泣き崩れ、父親も泣いていて、兄や妹も。  

なのにこの家の人達は。  

『なんで、さっさとこの家を逃げ出してアル様についていかなかったのか?』  

悔やまれる。まさか、ハズレスキルだからといって、家を追い出されるとは思っていなかったリーゼは自身の判断の甘さを後悔した。  
しかし。  

『いや、いまからでも遅くはない。今からでも逃げ出して、どうにかしてアル様に会いたい』  

そして、その日の夜、リーゼは密かにベルナドッテ家を出奔した。  

世の中には奴隷狩りというものが存在して、自身が危険な低い身分だということも知らずに。
しおりを挟む
読んで頂いててありがとうございます! 第14回ファンタジー小説大賞 参加作品 投票していただけると嬉しいです! ブックマークもね(__)
感想 58

あなたにおすすめの小説

救助者ギルドから追放された俺は、ハズレだと思われていたスキル【思念収集】でやり返す

名無し
ファンタジー
 アセンドラの都で暮らす少年テッドは救助者ギルドに在籍しており、【思念収集】というスキルによって、ダンジョンで亡くなった冒険者の最期の思いを遺族に伝える仕事をしていた。  だが、ある日思わぬ冤罪をかけられ、幼馴染で親友だったはずのギルド長ライルによって除名を言い渡された挙句、最凶最悪と言われる異次元の監獄へと送り込まれてしまう。  それでも、幼馴染の少女シェリアとの面会をきっかけに、ハズレ認定されていた【思念収集】のスキルが本領を発揮する。喧嘩で最も強い者がここから出られることを知ったテッドは、最強の囚人王を目指すとともに、自分を陥れた者たちへの復讐を誓うのであった……。

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。

名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる

名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。 冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。 味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。 死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~

名無し
ファンタジー
「モンド、ここから消えろ。てめえはもうパーティーに必要ねえ!」 「……え? ゴート、理由だけでも聴かせてくれ」 「黒魔導士のくせに魔力がゴミクズだからだ!」 「確かに俺の魔力はゴミ同然だが、その分を戦闘勘の鋭さで補ってきたつもりだ。それで何度も助けてやったことを忘れたのか……?」 「うるせえ、とっとと消えろ! あと、お前について悪い噂も流しておいてやったからな。役立たずの寄生虫ってよ!」 「くっ……」  問答無用でA級パーティーを追放されてしまったモンド。  彼は極小の魔力しか持たない黒魔導士だったが、持ち前の戦闘勘によってパーティーを支えてきた。しかし、地味であるがゆえに貢献を認められることは最後までなかった。  さらに悪い噂を流されたことで、冒険者としての道を諦めかけたモンドだったが、悪評高い最下級パーティーに拾われ、彼らを成功に導くことで自分の居場所や高い名声を得るようになっていく。 「魔力は低かったが、あの動きは只者ではなかった! 寄生虫なんて呼ばれてたのが信じられん……」 「地味に見えるけど、やってることはどう考えても尋常じゃなかった。こんな達人を追放するとかありえねえだろ……」 「方向性は意外ですが、これほどまでに優れた黒魔導士がいるとは……」  拾われたパーティーでその高い能力を絶賛されるモンド。  これは、様々な事情を抱える低級パーティーを、最高の戦闘勘を持つモンドが成功に導いていく物語である……。

処理中です...