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10ざまぁする相手が多すぎるんだが?
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それから数日後。アルとクリスの馬車が辿り着こうとした街の近くの人気のない草原。
「お、お願いです! 殺さないでください!」
「や、止めて、お願いだからぁ」
「ち、力さえあれば、あんなヤツ」
草原には少女達の荒い息遣いが響いていた。
彼女達は必死に逃げていた。彼女達が逃げきれない時は……
【ストーン・ブレッド!!】
バスッ!!
少女達を追う者が唱えた土の攻撃魔法が一人の少女の背中を直撃する。
「「イ、イルゼ!!」」
背中に魔法の直撃を喰らった少女は動かなくなっていた。
それを見た他の少女達は怯え、一人の男に恐怖する。
「な、何故こんなに酷いことをされるのですか? ゲリン 様? あんなに愛してくださったのに? イルゼだって、何度も寵愛を頂いたではないですか?」
「ははっ! やっぱり勘違いしちゃった? ちょっと優しくするとお前らいい気になって。クククッ、俺はお前らが心を許したころ、こうやって殺すのが最高に楽しいんだ。たっぷり恐怖と絶望を味わうんだな」
「エミリア、諦めて。あなた達騙されてたんだよ。私は最初から察していたよ。コイツにはクズの香りがしてたわよ!」
「リーゼ、あなた最初から諦める気?」
「諦めないわよ!! 最後まで抵抗してやる!!」
「なんて無駄なことを……この私からは逃げられるとでも思っているのですか?」
少女達は残り二人になっていた。
既に疲労はピークに達している。
そのためか、二人共、逃げるべき足が止まっている。
「ゲ、ゲリン 様、お願いです。せめてお慈悲を……痛くないように、一思いに……」
「馬鹿!? エミリア、諦めないで!! こんなヤツに屈しないで!」
残された二人の少女のうち、一人はついに生きるのを諦めた。自ら死を選ぶ。
「はは! いるんだよな。こういうヤツ。流石亜人だ。自身の価値が良くわかっている」
エミリアと呼ばれた少女は胸の前で手を組うと、かがむ。
「いい心がけです。無抵抗の亜人を殺すのも一興、【ストーン・ブレッド!!】」
生きる事を諦めた少女は無慈悲に殺された。
先ほどの少女と同じように胸に土魔法の直撃を受けて……身体は痙攣しているが、生死は不明だ。治療を受けなければ、死んでしまうのは間違いない。
「いい加減、お前も諦めたらどうです? リーゼ? お前は生意気で、抱く気にもならなかったから、その二人のように楽には死なせてやれませんね。だけど、さっさと諦めて命乞いでもしてはどうですか? 少しでも私を楽しませてくれるかな? 普通するよね?」
「ツ!」
少女は逃げ切れないと悟りはしたが、なおも生きようともがく。
その目に諦めるという意思は籠っていなかった。
その少女はアルの使用人で、アルの実家を出奔して来た、あのエルフの女の子リーゼだった。
リーゼは、己の立場が良くわかっていなかった。アル達の元にいることと違い、外の世界が、亜人の奴隷にとって、どれ程過酷なものか。
だが、リーゼは自身の行動に一縷の後悔もしていなかった。
全ては敬愛する、いや、愛するアルに再会する為。
ならば、命をかけることに躊躇いなどなかった。
だが、アルの実家を出奔し、王都の郊外で、あっさりと奴隷狩りに捕まってしまった。何故なら、リーゼの腕には奴隷の証である隷属の魔法陣が描かれていた。一目で逃げ出した奴隷と知れてしまう。このユグラドシル王国はそれだけ亜人達に冷たく、中でも奴隷階級の扱いは酷いものだった。
アル達にも、その魔法を解除することは困難だった。一度奴隷となったもには決して元の平民には戻れないのだ。
故に腕に描かれた、隷属の魔法陣を解除することは基本、出来ないのだ。
アルの行き先にあてはなかった。だが、強いて言うなれば、王都以外なのは間違いない。
賢者の息子であるアルがハズレスキルだということは、リーゼの周りはおろか、出入りする商人の口からも出た。
そして、そこからは、アルに対する失望と侮辱、侮蔑。アルが王都では生きづらい事は容易に察しがついた。
耐えられなかった。何が何でもご主人様を見つけて、そばで仕えたい。リーゼはどんな事があってもアルに再会すると決意し、王都を出た。
そして、賢者の息子のハズレスキル持ちがディセルドルフの方に向かったと聞いたのだ。
だが、奴隷狩りに捕まり、そこで知り合った少女達は弄ばれていて、そして反抗したリーゼは2人の奴隷と共に、おもちゃとして殺されそうになっていた。
「なぜ? なぜ? エミリアやイルゼを殺すの? あなた二人を可愛がっていたじゃない? 何度も二人を抱いていたんでしょう? あなたには情は無いの? 殺して楽しみたいんなら、私だけにすればいいんじゃないの?」
残された少女、リーゼは悲痛な表情で絶叫する。
無慈悲な暴力、迫る死、死んでしまった友人、それになすすべもない自分、目の前の男への怒り。
その全てを含んだ絶叫だった。そして、
「女神様!! もし、あんたが本当にいるんなら、助けてよぉ!」
「えっと、女神様じゃないのだが?」
「えっ?」
少女の叫びに応える者がいた。つい先ほどまで自分と殺戮者だけしかいなかった筈の草原に突如として、一人の少年が現れた。
生きる事を諦めなかった少女の願いが女神に届いたが如く、一人の少年が現れた。
「ア、アル様!?」
彼女の願いが叶った瞬間だった。
「お、お願いです! 殺さないでください!」
「や、止めて、お願いだからぁ」
「ち、力さえあれば、あんなヤツ」
草原には少女達の荒い息遣いが響いていた。
彼女達は必死に逃げていた。彼女達が逃げきれない時は……
【ストーン・ブレッド!!】
バスッ!!
少女達を追う者が唱えた土の攻撃魔法が一人の少女の背中を直撃する。
「「イ、イルゼ!!」」
背中に魔法の直撃を喰らった少女は動かなくなっていた。
それを見た他の少女達は怯え、一人の男に恐怖する。
「な、何故こんなに酷いことをされるのですか? ゲリン 様? あんなに愛してくださったのに? イルゼだって、何度も寵愛を頂いたではないですか?」
「ははっ! やっぱり勘違いしちゃった? ちょっと優しくするとお前らいい気になって。クククッ、俺はお前らが心を許したころ、こうやって殺すのが最高に楽しいんだ。たっぷり恐怖と絶望を味わうんだな」
「エミリア、諦めて。あなた達騙されてたんだよ。私は最初から察していたよ。コイツにはクズの香りがしてたわよ!」
「リーゼ、あなた最初から諦める気?」
「諦めないわよ!! 最後まで抵抗してやる!!」
「なんて無駄なことを……この私からは逃げられるとでも思っているのですか?」
少女達は残り二人になっていた。
既に疲労はピークに達している。
そのためか、二人共、逃げるべき足が止まっている。
「ゲ、ゲリン 様、お願いです。せめてお慈悲を……痛くないように、一思いに……」
「馬鹿!? エミリア、諦めないで!! こんなヤツに屈しないで!」
残された二人の少女のうち、一人はついに生きるのを諦めた。自ら死を選ぶ。
「はは! いるんだよな。こういうヤツ。流石亜人だ。自身の価値が良くわかっている」
エミリアと呼ばれた少女は胸の前で手を組うと、かがむ。
「いい心がけです。無抵抗の亜人を殺すのも一興、【ストーン・ブレッド!!】」
生きる事を諦めた少女は無慈悲に殺された。
先ほどの少女と同じように胸に土魔法の直撃を受けて……身体は痙攣しているが、生死は不明だ。治療を受けなければ、死んでしまうのは間違いない。
「いい加減、お前も諦めたらどうです? リーゼ? お前は生意気で、抱く気にもならなかったから、その二人のように楽には死なせてやれませんね。だけど、さっさと諦めて命乞いでもしてはどうですか? 少しでも私を楽しませてくれるかな? 普通するよね?」
「ツ!」
少女は逃げ切れないと悟りはしたが、なおも生きようともがく。
その目に諦めるという意思は籠っていなかった。
その少女はアルの使用人で、アルの実家を出奔して来た、あのエルフの女の子リーゼだった。
リーゼは、己の立場が良くわかっていなかった。アル達の元にいることと違い、外の世界が、亜人の奴隷にとって、どれ程過酷なものか。
だが、リーゼは自身の行動に一縷の後悔もしていなかった。
全ては敬愛する、いや、愛するアルに再会する為。
ならば、命をかけることに躊躇いなどなかった。
だが、アルの実家を出奔し、王都の郊外で、あっさりと奴隷狩りに捕まってしまった。何故なら、リーゼの腕には奴隷の証である隷属の魔法陣が描かれていた。一目で逃げ出した奴隷と知れてしまう。このユグラドシル王国はそれだけ亜人達に冷たく、中でも奴隷階級の扱いは酷いものだった。
アル達にも、その魔法を解除することは困難だった。一度奴隷となったもには決して元の平民には戻れないのだ。
故に腕に描かれた、隷属の魔法陣を解除することは基本、出来ないのだ。
アルの行き先にあてはなかった。だが、強いて言うなれば、王都以外なのは間違いない。
賢者の息子であるアルがハズレスキルだということは、リーゼの周りはおろか、出入りする商人の口からも出た。
そして、そこからは、アルに対する失望と侮辱、侮蔑。アルが王都では生きづらい事は容易に察しがついた。
耐えられなかった。何が何でもご主人様を見つけて、そばで仕えたい。リーゼはどんな事があってもアルに再会すると決意し、王都を出た。
そして、賢者の息子のハズレスキル持ちがディセルドルフの方に向かったと聞いたのだ。
だが、奴隷狩りに捕まり、そこで知り合った少女達は弄ばれていて、そして反抗したリーゼは2人の奴隷と共に、おもちゃとして殺されそうになっていた。
「なぜ? なぜ? エミリアやイルゼを殺すの? あなた二人を可愛がっていたじゃない? 何度も二人を抱いていたんでしょう? あなたには情は無いの? 殺して楽しみたいんなら、私だけにすればいいんじゃないの?」
残された少女、リーゼは悲痛な表情で絶叫する。
無慈悲な暴力、迫る死、死んでしまった友人、それになすすべもない自分、目の前の男への怒り。
その全てを含んだ絶叫だった。そして、
「女神様!! もし、あんたが本当にいるんなら、助けてよぉ!」
「えっと、女神様じゃないのだが?」
「えっ?」
少女の叫びに応える者がいた。つい先ほどまで自分と殺戮者だけしかいなかった筈の草原に突如として、一人の少年が現れた。
生きる事を諦めなかった少女の願いが女神に届いたが如く、一人の少年が現れた。
「ア、アル様!?」
彼女の願いが叶った瞬間だった。
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