21 / 45
アイラと廉
その7-02
しおりを挟む
「レンの噂は、もう、全員に広がってるもんねぇ。招待状だって、“アイラとそのパートナー”で来るわよね、もちろん」
「そうか――」
珍しく、ふーんと、廉は少し考えているようである。
「セスにも、久しぶりに会いたいでしょう?」
「どのくらいの人が、来ると思う?」
アイラの質問には答えず、廉も次の質問を出していた。
アイラの瞳が茶目っ気一杯に輝いていく。
「さあねぇ。でも、どんなに無理があろうと、うちの親戚は、集まる時は集まらなきゃ――ていうモットーみたいなのもあるし。セスの結婚式に参加できないようなら、後で、セスも袋叩きよねぇ」
どこまでが本当なのかは知らないが、それでも、一族全員が集まりそうな気配であるのは間違いない。
「仕事がある――って、丁重にお断りしたら、ダメかな?」
「なんでぇ? そんなトコで怯んでたら、生き延びれないわよ」
「いや。余計な所で、大事な気力の消耗は避けようかと思って。まだ、先は長いだろうし」
アイラとの関係を簡単に終わらせる様子もなく、一応は、これからの長い関係を考えているようではあるらしい。
「いいじゃない。結婚式くらい」
「今回は見逃して――もらうって言うのは?」
「なんでよ」
「余力は残しておいた方がいいかな、と思って」
「なんの余力」
「まだ、主力部隊が襲ってきてないんで、その日の為に、多少は必要だし」
主力部隊とは、アイラの兄弟達を言っているのである。
アイラが廉と暮らし始めて間もないだけに、今はまだ、アイラの兄弟達の妨害にあっていない。
だが、廉のその形容の仕方がおかしくて、アイラはそこで吹き出していた。
肩を揺らしながら、なんとなく、涙も拭き取って、アイラはまだおかしさが止まらない。
「今回、断っても、逃げたって大バレじゃない」
「別に、俺は、勝負の競争をしてるんじゃないし。生き延びればいいだけだから」
聞きようによっては情けない発言だったが、それでも、まさに的を得ている発言だけに、アイラはまた激しく肩を揺らしてしまっている。
「レン――いざとなれば、私のママがいるじゃない」
「ドバイから飛んでくる間に、決着が着いているのは間違いない。それで、今回は、丁重に遠慮させていただくことにする」
「本気でこないの」
「そう」
本気に本気で遠慮するらしく、アイラはまだ肩を揺らしていたが、トコトコと、椅子の上を歩いていって、ストン、と廉の上に座りなおすようにした。
廉はアイラの腰に手を置くようにする。
「今回だけは見逃してあげてもいいけど、それは高くつくわよぉ。親戚全員に、今回はレンは仕事が忙しくてぇ――って、説明するんだから。あの人達が、それを信用するわけないじゃない」
「いくら?」
「レン次第よねぇ」
アイラが廉の上で座ったまま、腕をその首の後ろに絡めるようにする。
「ねえ、結婚式用のドレス新着する――っていうのは?」
「仕方がない」
「じゃあ、アクセサリーは?」
「イヤリングだけ?」
「ネックレスも」
「そんなに?」
「余力が必要なんでしょ。ケチケチしないの」
「仕方がない」
「じゃあ、靴は?」
「それはなし。ドレスとアクセサリーだけでも、アイラなら、ものすごい額になるのは目に見えている」
「いいじゃない。結婚式なんだから」
「セスのだろう」
「そうよ。大事な従兄のよん」
「靴はなし。それは自分持ち。でも、仕方がないから、ドレスとアクセサリーは、取り引きしよう」
「じゃあ、仕方がないから、レンは欠席――って、言っておいてあげるわ」
「それは、どうも」
アイラは腕を廉の首の後ろに絡めたまま、廉の唇をちょっと舐め上げて行く。
「赤いドレスにしようかなぁ」
「普通のドレスにすれば?」
「普通のドレスってなによ」
「普通は、普通」
「つまらないドレスだ――て聞こえるわね」
「それは、アイラの気のせい」
「すごいセクシーなのにしたら、下着もいると思わない? お揃いのよねぇ」
「それは――買ってもいい」
「本当?」
やった! ――と、アイラの顔が輝いていく。
「なによ、気前がいいじゃない」
「アイラの下着は、俺の趣味になるから」
「へえぇ」
「だから、ドレスは普通ので、下着だけ、ものすごいセクシーなのにしたら?」
「い・や・よ」
「やっぱり」
「判ってるなら、言う方が間違ってるじゃない」
「まあ、試してみないことには、結果も判らないだろうし」
「でも、い・や」
アイラは構わずきっぱり、スッパリである。
「買ったら、見せびらかしてあげるから」
「そう」
「そうよぉ。舌が落ちるくらいのやつでも探すから、それで、機嫌直るでしょうよ」
「それは――楽しみかも」
「当たり前じゃない。楽しみにしてなさい」
そんな所で大威張りしなくても良いものを、アイラの様子からだと、エヘン、とでも言っているようである。
アイラがスリスリと体を寄せていき、廉のおでこに唇を寄せていた。
それで、廉の腕が動き、アイラを引き寄せながら、廉の顔がアイラの胸に寄せられた。
「今夜は、今朝の仕返しに、レンをいじめようと考えてたけど、ドレスも買うし、仕方がないから、許してあげるわ」
「……そんなこと、考えてたのか?」
「そうよ」
「じゃあ、仕返しはしない?」
「今は気分がいいから、しないかな。大体、忙しい、って言ってるのに、朝から始めるから遅刻しそうだったじゃない。それで、今夜は、絶対仕返ししてやろうと思ってたのに」
アイラは有言実行なので、この仕返しも、全く疑いようののないものだった。
男を誘い込むのは朝飯前で、その男の苦悶を百も承知して、更に男を刺激できるのは、怖ろしいことだが――本当に、このアイラ一人くらいのものだろう。
昔から、男を刺激しすぎるほど刺激して、悶々と、その苦悶を見て一人満喫しながら、手の平を返したようにさっさと消えてしまう。
それで残された男の不満を更に楽しんで、次にまた、前以上に男を刺激するのである。
そんなことを続けていたら、遅かれ早かれ、男が爆発するであろうに、爆発したらしたで、アイラは簡単に蹴り飛ばすだけである。
それをできることを承知しているだけに、本当に――手がつけられないくらい、怖いものなしである。
その状態をベッドで同じようにされてしまったら――悲惨な目に遭う男の命運も――尽きたも同じだろう。
廉のペースでアイラを抱いている――と思えるのは、アイラがそんな気分の時だけなのだ。
それを――身を以って知っている廉は――アイラを抱き始めながら、今夜の災難を逃れることができて、ホッと一安心だったのだ。
「そうか――」
珍しく、ふーんと、廉は少し考えているようである。
「セスにも、久しぶりに会いたいでしょう?」
「どのくらいの人が、来ると思う?」
アイラの質問には答えず、廉も次の質問を出していた。
アイラの瞳が茶目っ気一杯に輝いていく。
「さあねぇ。でも、どんなに無理があろうと、うちの親戚は、集まる時は集まらなきゃ――ていうモットーみたいなのもあるし。セスの結婚式に参加できないようなら、後で、セスも袋叩きよねぇ」
どこまでが本当なのかは知らないが、それでも、一族全員が集まりそうな気配であるのは間違いない。
「仕事がある――って、丁重にお断りしたら、ダメかな?」
「なんでぇ? そんなトコで怯んでたら、生き延びれないわよ」
「いや。余計な所で、大事な気力の消耗は避けようかと思って。まだ、先は長いだろうし」
アイラとの関係を簡単に終わらせる様子もなく、一応は、これからの長い関係を考えているようではあるらしい。
「いいじゃない。結婚式くらい」
「今回は見逃して――もらうって言うのは?」
「なんでよ」
「余力は残しておいた方がいいかな、と思って」
「なんの余力」
「まだ、主力部隊が襲ってきてないんで、その日の為に、多少は必要だし」
主力部隊とは、アイラの兄弟達を言っているのである。
アイラが廉と暮らし始めて間もないだけに、今はまだ、アイラの兄弟達の妨害にあっていない。
だが、廉のその形容の仕方がおかしくて、アイラはそこで吹き出していた。
肩を揺らしながら、なんとなく、涙も拭き取って、アイラはまだおかしさが止まらない。
「今回、断っても、逃げたって大バレじゃない」
「別に、俺は、勝負の競争をしてるんじゃないし。生き延びればいいだけだから」
聞きようによっては情けない発言だったが、それでも、まさに的を得ている発言だけに、アイラはまた激しく肩を揺らしてしまっている。
「レン――いざとなれば、私のママがいるじゃない」
「ドバイから飛んでくる間に、決着が着いているのは間違いない。それで、今回は、丁重に遠慮させていただくことにする」
「本気でこないの」
「そう」
本気に本気で遠慮するらしく、アイラはまだ肩を揺らしていたが、トコトコと、椅子の上を歩いていって、ストン、と廉の上に座りなおすようにした。
廉はアイラの腰に手を置くようにする。
「今回だけは見逃してあげてもいいけど、それは高くつくわよぉ。親戚全員に、今回はレンは仕事が忙しくてぇ――って、説明するんだから。あの人達が、それを信用するわけないじゃない」
「いくら?」
「レン次第よねぇ」
アイラが廉の上で座ったまま、腕をその首の後ろに絡めるようにする。
「ねえ、結婚式用のドレス新着する――っていうのは?」
「仕方がない」
「じゃあ、アクセサリーは?」
「イヤリングだけ?」
「ネックレスも」
「そんなに?」
「余力が必要なんでしょ。ケチケチしないの」
「仕方がない」
「じゃあ、靴は?」
「それはなし。ドレスとアクセサリーだけでも、アイラなら、ものすごい額になるのは目に見えている」
「いいじゃない。結婚式なんだから」
「セスのだろう」
「そうよ。大事な従兄のよん」
「靴はなし。それは自分持ち。でも、仕方がないから、ドレスとアクセサリーは、取り引きしよう」
「じゃあ、仕方がないから、レンは欠席――って、言っておいてあげるわ」
「それは、どうも」
アイラは腕を廉の首の後ろに絡めたまま、廉の唇をちょっと舐め上げて行く。
「赤いドレスにしようかなぁ」
「普通のドレスにすれば?」
「普通のドレスってなによ」
「普通は、普通」
「つまらないドレスだ――て聞こえるわね」
「それは、アイラの気のせい」
「すごいセクシーなのにしたら、下着もいると思わない? お揃いのよねぇ」
「それは――買ってもいい」
「本当?」
やった! ――と、アイラの顔が輝いていく。
「なによ、気前がいいじゃない」
「アイラの下着は、俺の趣味になるから」
「へえぇ」
「だから、ドレスは普通ので、下着だけ、ものすごいセクシーなのにしたら?」
「い・や・よ」
「やっぱり」
「判ってるなら、言う方が間違ってるじゃない」
「まあ、試してみないことには、結果も判らないだろうし」
「でも、い・や」
アイラは構わずきっぱり、スッパリである。
「買ったら、見せびらかしてあげるから」
「そう」
「そうよぉ。舌が落ちるくらいのやつでも探すから、それで、機嫌直るでしょうよ」
「それは――楽しみかも」
「当たり前じゃない。楽しみにしてなさい」
そんな所で大威張りしなくても良いものを、アイラの様子からだと、エヘン、とでも言っているようである。
アイラがスリスリと体を寄せていき、廉のおでこに唇を寄せていた。
それで、廉の腕が動き、アイラを引き寄せながら、廉の顔がアイラの胸に寄せられた。
「今夜は、今朝の仕返しに、レンをいじめようと考えてたけど、ドレスも買うし、仕方がないから、許してあげるわ」
「……そんなこと、考えてたのか?」
「そうよ」
「じゃあ、仕返しはしない?」
「今は気分がいいから、しないかな。大体、忙しい、って言ってるのに、朝から始めるから遅刻しそうだったじゃない。それで、今夜は、絶対仕返ししてやろうと思ってたのに」
アイラは有言実行なので、この仕返しも、全く疑いようののないものだった。
男を誘い込むのは朝飯前で、その男の苦悶を百も承知して、更に男を刺激できるのは、怖ろしいことだが――本当に、このアイラ一人くらいのものだろう。
昔から、男を刺激しすぎるほど刺激して、悶々と、その苦悶を見て一人満喫しながら、手の平を返したようにさっさと消えてしまう。
それで残された男の不満を更に楽しんで、次にまた、前以上に男を刺激するのである。
そんなことを続けていたら、遅かれ早かれ、男が爆発するであろうに、爆発したらしたで、アイラは簡単に蹴り飛ばすだけである。
それをできることを承知しているだけに、本当に――手がつけられないくらい、怖いものなしである。
その状態をベッドで同じようにされてしまったら――悲惨な目に遭う男の命運も――尽きたも同じだろう。
廉のペースでアイラを抱いている――と思えるのは、アイラがそんな気分の時だけなのだ。
それを――身を以って知っている廉は――アイラを抱き始めながら、今夜の災難を逃れることができて、ホッと一安心だったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる