やっぱりやらねば(続)

Anastasia

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アイラと廉

その7-02

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「レンの噂は、もう、全員に広がってるもんねぇ。招待状だって、“アイラとその”で来るわよね、もちろん」
「そうか――」

 珍しく、ふーんと、廉は少し考えているようである。

「セスにも、久しぶりに会いたいでしょう?」
「どのくらいの人が、来ると思う?」

 アイラの質問には答えず、廉も次の質問を出していた。

 アイラの瞳が茶目っ気一杯に輝いていく。

「さあねぇ。でも、どんなに無理があろうと、うちの親戚は、集まる時は集まらなきゃ――ていうモットーみたいなのもあるし。セスの結婚式に参加できないようなら、後で、セスも袋叩きよねぇ」

 どこまでが本当なのかは知らないが、それでも、一族全員が集まりそうな気配であるのは間違いない。

「仕事がある――って、丁重にお断りしたら、ダメかな?」
「なんでぇ? そんなトコで怯んでたら、生き延びれないわよ」

「いや。余計な所で、大事な気力の消耗は避けようかと思って。まだ、先は長いだろうし」

 アイラとの関係を簡単に終わらせる様子もなく、一応は、これからの長い関係を考えているようではあるらしい。

「いいじゃない。結婚式くらい」
「今回は見逃して――もらうって言うのは?」

「なんでよ」
「余力は残しておいた方がいいかな、と思って」

「なんの余力」
「まだ、主力部隊が襲ってきてないんで、その日の為に、多少は必要だし」

 主力部隊とは、アイラの兄弟達を言っているのである。

 アイラが廉と暮らし始めて間もないだけに、今はまだ、アイラの兄弟達の妨害にあっていない。

 だが、廉のその形容の仕方がおかしくて、アイラはそこで吹き出していた。
 肩を揺らしながら、なんとなく、涙も拭き取って、アイラはまだおかしさが止まらない。

「今回、断っても、逃げたって大バレじゃない」
「別に、俺は、勝負の競争をしてるんじゃないし。生き延びればいいだけだから」

 聞きようによっては情けない発言だったが、それでも、まさに的を得ている発言だけに、アイラはまた激しく肩を揺らしてしまっている。

「レン――いざとなれば、私のママがいるじゃない」
「ドバイから飛んでくる間に、決着が着いているのは間違いない。それで、今回は、丁重に遠慮させていただくことにする」

「本気でこないの」
「そう」

 本気に本気で遠慮するらしく、アイラはまだ肩を揺らしていたが、トコトコと、椅子の上を歩いていって、ストン、と廉の上に座りなおすようにした。

 廉はアイラの腰に手を置くようにする。

「今回だけは見逃してあげてもいいけど、それは高くつくわよぉ。親戚全員に、今回はレンは仕事が忙しくてぇ――って、説明するんだから。あの人達が、それを信用するわけないじゃない」

「いくら?」
「レン次第よねぇ」

 アイラが廉の上で座ったまま、腕をその首の後ろに絡めるようにする。

「ねえ、結婚式用のドレス新着する――っていうのは?」
「仕方がない」

「じゃあ、アクセサリーは?」
「イヤリングだけ?」

「ネックレスも」
「そんなに?」

「余力が必要なんでしょ。ケチケチしないの」
「仕方がない」

「じゃあ、靴は?」
「それはなし。ドレスとアクセサリーだけでも、アイラなら、ものすごい額になるのは目に見えている」

「いいじゃない。結婚式なんだから」
「セスのだろう」

「そうよ。大事な従兄のよん」
「靴はなし。それは自分持ち。でも、仕方がないから、ドレスとアクセサリーは、取り引きしよう」

「じゃあ、仕方がないから、レンは欠席――って、言っておいてあげるわ」
「それは、どうも」

 アイラは腕を廉の首の後ろに絡めたまま、廉の唇をちょっと舐め上げて行く。

「赤いドレスにしようかなぁ」
「普通のドレスにすれば?」

「普通のドレスってなによ」
「普通は、普通」

「つまらないドレスだ――て聞こえるわね」
「それは、アイラの気のせい」

「すごいセクシーなのにしたら、下着もいると思わない? お揃いのよねぇ」
「それは――買ってもいい」
「本当?」

 やった! ――と、アイラの顔が輝いていく。

「なによ、気前がいいじゃない」
「アイラの下着は、俺の趣味になるから」

「へえぇ」
「だから、ドレスは普通ので、下着だけ、ものすごいセクシーなのにしたら?」

「い・や・よ」
「やっぱり」

「判ってるなら、言う方が間違ってるじゃない」
「まあ、試してみないことには、結果も判らないだろうし」

「でも、い・や」

 アイラは構わずきっぱり、スッパリである。

「買ったら、見せびらかしてあげるから」
「そう」

「そうよぉ。舌が落ちるくらいのやつでも探すから、それで、機嫌直るでしょうよ」
「それは――楽しみかも」

「当たり前じゃない。楽しみにしてなさい」

 そんな所で大威張りしなくても良いものを、アイラの様子からだと、エヘン、とでも言っているようである。

 アイラがスリスリと体を寄せていき、廉のおでこに唇を寄せていた。

 それで、廉の腕が動き、アイラを引き寄せながら、廉の顔がアイラの胸に寄せられた。

「今夜は、今朝の仕返しに、レンをいじめようと考えてたけど、ドレスも買うし、仕方がないから、許してあげるわ」
「……そんなこと、考えてたのか?」

「そうよ」
「じゃあ、仕返しはしない?」

「今は気分がいいから、しないかな。大体、忙しい、って言ってるのに、朝から始めるから遅刻しそうだったじゃない。それで、今夜は、絶対仕返ししてやろうと思ってたのに」

 アイラは有言実行なので、この仕返しも、全く疑いようののないものだった。

 男を誘い込むのは朝飯前で、その男の苦悶を百も承知して、更に男を刺激できるのは、怖ろしいことだが――本当に、このアイラ一人くらいのものだろう。

 昔から、男を刺激しすぎるほど刺激して、悶々と、その苦悶を見て一人満喫しながら、手の平を返したようにさっさと消えてしまう。

 それで残された男の不満を更に楽しんで、次にまた、前以上に男を刺激するのである。

 そんなことを続けていたら、遅かれ早かれ、男が爆発するであろうに、爆発したらしたで、アイラは簡単に蹴り飛ばすだけである。

 それをできることを承知しているだけに、本当に――手がつけられないくらい、怖いものなしである。

 その状態をベッドで同じようにされてしまったら――悲惨な目に遭う男の命運も――尽きたも同じだろう。

 廉のペースでアイラを抱いている――と思えるのは、アイラがそんな気分の時だけなのだ。

 それを――身を以って知っている廉は――アイラを抱き始めながら、今夜の災難を逃れることができて、ホッと一安心だったのだ。


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