やっぱりやらねば(続)

Anastasia

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アイラと廉

その7-01

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「ちょっと、セスが結婚するって!」

 美花に迫られたまま、仕方なく、今日は、仕事の合間に、美花には報告のイーメールを送ったアイラの元に、また美花からの電話がかかってきていた。

 そのちょっと前に、アイラの母親からその知らせを受けていたアイラも、美花同様の意気込みで、返事をする。

「聞いたっ。それも来月よ」

「どういうことよ。1ヶ月で、用意なんてできるわけないじゃない。うちらの仕事を何だと思ってるのよ。さっさと結婚して、まあ、親戚は後かなぁ――なんて、考えてるんじゃないでしょうね」

 いや、セスの性格なら、それは、かなりあり得そうな話である。
 なにしろ、アイラの身内の数を考慮するだけでもかなりのもので、その一家全員が移動するとなると、日にちが、場所が、仕事が――と、本当に決まった日程を決めるだけでも、一苦労なのである。

 それで、クリスマスを過ごしたマレーシア旅行とて、かなり前の5月過ぎから日程が決定されていて、どれくらいの予定で、何があって――と、ほぼ全ての準備は、予定されていたくらいである。

 結婚式なら、せめて3ヶ月前くらいに連絡をしないと、全員のスケジュールの調整も、並ならぬものである。

 それをよく理解しているセスなら、


「じゃあ、参加できる人だけ」


などと、簡単に日程を変更したはずである。

 おまけに、自分の子供同然の牧場の仕事があるので、できる時にさっさと実行しなくては――と、今回の結婚に踏み切ったはずである。

「ミカはどうするのよ」

「もちろん、参加するに決まってるじゃない。あのセスが結婚するのよ。相手なんか、“アイリーン”って名前だけで、後は、何にも知らないんだから。グエン叔母さん達も、今週末に、セスの所に訪ねる予定なんだって。それで、しっかり、詳細を聞いてくるらしいから」

「伯母さん達も、知らなかったんでしょう? セスも、隠してたわね」
「そうよ。絶対、最後まで、内緒にしてたのよ」

 親戚中が揃って、一族の話題を広める傾向にある為、恋人ができた――云々の知らせは、大抵、その日の内に、全員に広められてしまう情報なのである。

 そうなると、次は、


「どなた?」
「どんな人?」
「セスの年なら結婚ね」
「何してる人?」


と留まりを知らないかのように、山のような質問が降りかかってきて、身内が納得するまで、質問攻めの日々を送ることになるもの――そう珍しいことではなかった。

 いつも友好的で、人懐っこさそうなセスは、にこやかに、のらりくらりと、その手の質問を交わしている。

 あの笑顔に騙されて、すぐに話を逸らされるのは、なにも、今に始まったことではなかった。

「セスめ。私を甘く見過ぎてるわ」

 この口調になると、美花は怖れるものがないのである。怖れる方は――その周囲の人間の方だ。

「何するの?」
「今週中に仕事片付けるから、来週には、アメリカに行くわよ」

「来るの? そんな早く? 仕事どうするのよ。1ヶ月近く、休めれるわけ?」

「まあ、見てなさいよ。セスは、ボスになると、そこら辺の融通が効く、ってことを知らないようね。アメリカ行ったら、私だって、噂の“アイリーン”を見に行くわ。アイラ、あんた、仕事休みなさいよ」

「ええ? 一日くらいならいいけど、結婚式の時に、2~3日取りたいから、無理よ」
「じゃあ、1日取って、私とアリゾナね」

 そんな約束をした覚えはなかったが、美花が、もう、勝手にその話を決めていた。

「いつ来るの?」
「明日中には連絡するわ。まあ、この美花サマを甘く見過ぎよね。飛行機取るのなんか、お茶の子さいさい、なんだから」

「まあ、そうだけど」

 それじゃあねと、その夜はあっさりし過ぎるほどに、簡単な電話で終わってしまい、まあ、やる気満々の美花を止められるのは誰一人いない、

 電話を切った時点で、美花が、早速、旅行の手配をし始めているのは、もう間違いがなかった。

「あの人、結婚するの?」
「そう。それも来月よ。1ヶ月もなしで、結婚します、なんて言って来るのは、セスくらいよね、全く」

「なんで?」
「うちの親戚が、どうやって、1カ月程度の知らせで、集まってこれるのよ」

「確かにすごい数だけど。じゃあ、小さいウェディングなんだ」
「そんなことあるはずないでしょう」

 自信満々に、きっぱりと、それを断言するアイラに、廉も、それは不思議そうにアイラに向き直っていた。

「なんで?」
「セスの母親――グエン伯母さんね――が、小さいウェディングで満足するはずないじゃない。うちの家系の女は、何事も、完璧にものごとをやり通すのよ」

「いや、それも否定はしないけどね」

 アイラはちょっと口を曲げてみせるが、またすぐにその話を続けていく。

「伯母さんなんてね、ケードとセスの男二人になっちゃったから、セスのお嫁さんが決まって分かったら、絶対、1から100まで、セスを問い詰めるわよ。なにしろ、自分の義娘になるんだから」

「あの人――アイラは、妹同様で育ったって言ってたけど、もしかして、あの人のお母さん――伯母さんにも、アイラは可愛がられてる?」

「もちろんよん。グエン伯母さんとダニエル伯父さんは、いっつも、私に優しいのよねぇ。おまけにダニエル伯父さんは、あのダークな容姿がミステリアスで、子供の時は、憧れもしたのよぉ」

 ほぅ……と、あの頃の時代を思い出して、アイラも感慨にふけっている。

 だが、今の話を聞いて、廉は、更に、一人で納得していたことがある。

 あのマレーシアのクリスマスを過ごした間、アイラの兄弟達からの、暗黙のプレッシャーを受けているのは気が付いていたが、一度会ったことがある、セスの両親――特に父親の方からも、何か言い難いプレッシャーを感じていたのである。

 理由が判らないのだから、まさか、それが、娘同然のアイラの相手を観察していた――などと、あの時に知る由もなし。

 兄弟だけならまだしも、親戚の伯父からまでも、


「可愛いアイラに手を出すな」


と、廉は暗黙のプレッシャーを受けていたとは――

 アイラの実の父親からは、そんな感じは受けなかったのに。

 胸内で溜め息をこぼしそうになっている廉の前で、アイラが椅子にお座りするように座りなおし、手を前について廉の方に覗き込んできた。

「ミカがね、来週くらいには、アメリカに来るんだって。だから、ミカが泊まるね」

 泊めてもいい? ――という質問ではないところが、アイラだった。

 だが、そのアイラに慣れている廉も驚いた様子はなく、
「来れるの? 仕事あるだろうに」

「来るんだって。まあ、ミカがああ言ったら、誰も止められないから。それで、二人で、まず、セスの所に確認してくるから、もしかしたら、今週の金曜は休まないで、来週にするかも」

「へえ」
「レンも来る?」

 廉はそこでちょっと考えて、
「――一つ聞くけど――もしかして、俺も、結婚式に呼ばれる可能性がある?」

 それを聞かれて、アイラの口元が意地悪そうに上がっていく。

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