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クイン

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二章

小説を書こう2-1

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 家に帰り、美晴は夕食の準備に取り掛かる。すると健司の足音がキッチンに近づいてくるのがわかった。

「遅かったな」

「ええ、知り合いに偶然会ったから話が弾んじゃったのよ。今ご飯つくるからね」

「ふん。その年齢で知り合いんなんて生きてるのかよ」健司は嫌味を言う。

「そうね、私の年齢ならね」

 苦笑いする美晴。

 あの後、美晴と青山はカフェで談笑を楽しんだ。

 
  *



「息子さんはどんな小説を書いたんですか?」

テーブル席で向かい合わせに座る青山と美晴。その第一声を青山が発した。

「どんな……なんだかよくわからなかったのだけど転生した女騎士とハーレムだったり、なか二やまい? っていう部活の話」

 青山は唇を強く結び、震えていた。そして咳払いを一つして、

「それは典型的なライトノベルですね」

「そうなんですか。ライトノベルというのはみなこんな感じなのですか?」

「一概にそうだとは言えませんが、そういった作品が多いのは事実ですね。ジュブナイル小説の流れを汲んでいるもので、十代や二十代の読者を主にターゲットとして作られていますね」

「そうなのね」

 美晴は先ほど買った抹茶のフラペチーノを啜る。

「ライトノベルってキャラクター文芸ともいわれるので、登場人物はかわいいは当たり前、プラス一癖二癖もあるキャラクターがでてくるんです。息子さんの小説もそういった一風変わった人達が出てきたりしてませんかね?」

 美晴は健司の作品を思い浮かべる。

「確かに……ぴちぴちのブラウスを着て、おっぱいを丸出しにしながら愛の告白をする女子高生ってすごく印象的だわ。そういう意図があったのね」

 真剣な面持ちの美晴を見て、青山は飲んでいた物を吹き出した。慌ててハンカチで拭きながら美晴に謝罪する青山。

「ごめんなさい、唐突にそんな、ふふふ……そうですね。そんな人物がいたら強烈ですね」

 お腹を押さえ笑いを必死に堪える青山。その様子を見てつられて笑う美晴。ふと、こんなに笑顔でいるのはいつぶりだろうと美晴は思うのだった。いつも現状という陰湿な影が美晴にまとわりつき、その影が濃くなるにつれ比例するかのように身体が衰えている。

 振り返ってみて、私の人生って何かいいことあったのかな? と美晴は口から出てしまいそうだった。

「ありがとうね」

 代わりに美晴は青山に感謝を述べた。青山はどうしてお礼を言われたのかわからなく困惑していた。二人は色々と雑談をしていく中で青山は、質問する。

「どうして息子さんは今になって小説を書き始めたのでしょうか? 昔からそういったことが好きだったんですか?」

 と問われ、美晴は首を傾げた。

「わからないです。漫画やアニメが好きなのは知っていましたが、小説に興味があるなんて」

 美晴の言葉に青山は少し考える。

「いえね、なんていえばいいんでしょうか……年齢的にも始めるには少し遅いような気もするんです。話を聞いている限り本当に始めたてだとわかります。あ、いけないとかそういう意味じゃないですよ。ただ、こういった創作をする人ってどういったことがきっかけなのかを知りたくて」

 青山はフラペチーノを啜り再び口を開いた。

「まあでも私は、本が好きなんですが、読む専門でして、何かを創るというのができないんですよ。もちろん挑戦だってしたことあるんですけど上手くできなくて、そういったことができる人って男女問わず尊敬してしまうんです」

苦笑する青山。美晴も青山の問いかけがとても引っかかった。健司はどうして作家宣言を急にしたのか……。そもそもそれまで健司は一体何をしていたのか? どうして私は知らないのか……自分が如何に現状を避けてきたのか認識させられる――。

「でもまずは完成させることが大事って言いますね。傑作だろうと駄作だろうと、どうでしょう? 息子さんに一度、短編もしくはショートストーリーを書いてみるという提案をしてみては?」

 美晴は青山意見を了承し、ついでにお互いの連絡先も交換した。


  *


「おい、コーラ」

 を取れと続く指示に、美晴は黙って従いペットボトルを健司に渡した。

「ねえ、あれから執筆は進んでいるの」

 健司が一瞬止まる。

「別に関係ねえだろう」

「そう、早く読みたいわ。楽しみなのよ」

 と美晴の催促に健司は複雑な表情を浮かべる。親というウザさと一読者の期待を浴びたためであろうと美晴は解析する。

 息子を知ろう――
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