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失踪の痕跡探し
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残されていた記録はなく、全てはツクヨのキャラクターというデータがあるのみ。ツクヨが転生する以前の記憶は、今のツクヨのキャラクターには残されていない。
それでも、一から全てを始めるよりは様々な事を身につけている事から、ゲームで言うところの“強くてニューゲーム”の状態に近いだろう。
「何も記憶を失ってた訳じゃないんだ。ポジティブに捉えていこうじゃないか。初めから色々出来る状態でスタート出来たんだと」
「それは便利かもしれないけど、説明をすっ飛ばしてる訳だよね?上手くいくか不安だよ」
「ツクヨさんも記憶が無いんですか?」
「あぁ、いや私のは少し違くて・・・」
作業をしながら話を聞いていたアカリに問われ、ツクヨは現実世界からやって来たなどとは言えず、どうしたものかとシンとミアに助けを求める視線を送るも、二人とも目を晒し調合に没頭し始めてしまった。
一行はツクヨ達が取り付けた約束の時間に遅れぬよう、今日は早めに就寝する事にした。調合も手持ちの分は生成を終え、残りは予備として残しておき、臨機応変に対応出来るようアカリがいつでも調合出来るように常備する運びとなった。
そして夜が明け、アクセルらとの約束の時間よりある程度余裕を持って向かった一行は、そこで彼らがやって来るのを待った。アクセルとケネトがどんな人物なのかツクヨ達に話を聞いている間に、約束の時間とほぼ同時に一行の元へ近づく二人の人影があった。
「お!遅れずに来たみたいだな。彼らがアンタ達の仲間かい?」
「噂をすれば・・・。彼がアクセルさん、そしてケネトさんだ」
初めて顔を合わせるシン達は、アクセルとケネトに自己紹介をしながら握手を交わす。今日の探索内容については、北の山を目指しながらアクセルらから説明があった。
どうやら彼らは、シン達と合流する前に一度トミの家を訪れたようで、そこで妻であるユリアをどの辺りで見失ったのか、その際に何か手掛かりになるようなものはなかったのかなど、出来る限りの情報を集めていたようだ。
トミがユリアを見失ったのは、山に入って少し進んだ辺り。目印としては、近くの木に人工物である紐と布が巻きつけられてあったと言う。恐らく昔から調査隊が山に入った際に、何らかのサインとして残した物だと思われる。
そこはそれ程深くない所らしく、目印も例え複数あったとしても幾つか調べれば目的の場所に辿り着けるだろうと、アクセルは経験談から予想していた。
森の入り口にやって来ると、アクセルはツクヨに違いの位置を知らせる鈴を手渡した。それを常に音が響くところに付け、互いの位置を常に把握しながら探索を行うのだと言う。
かなり古典的ではあるが、森に住まう生き物達に自分達の存在を知らせ、近付けさせない意味もある。ただ難点としては、好戦的なモンスターには逆効果だと言う事だ。
稀に音を逆に利用して、群れで襲いかかって来るモンスターもいるから、常に戦えるようにしておくことを、強くお勧めされた。鈴をアクセルから渡された際、ツバキもまた彼らにとある物を渡していた。
それは彼が昨晩作り上げていた新型のカメラだった。
「コレは?」
「カメラだよ。マイクも内蔵されてるから、俺達の持つこっちのカメラとの通信も可能だ。動力は電力と魔力で切り替えが出来る。だからこういった山の中でも、よっぽどの事がない限り通信が途絶える事もないぜ!」
アクセルとケネトは、ツバキから渡されたカメラの使用方法について説明を受ける。操作は至って簡単で、殆どがその小さな球体状の本体を指でなぞるだけで行える。
そのあまりに高度な文明の品に、二人とも目を丸くして驚いていた。
「コレを君が作ったのか!?」
「ベースは元になったカメラだ。俺はそいつにちょっとばかし手を加えたに過ぎない。悔しいがまだ俺にはコイツを一から作る知識と技術力はない」
「それでも大した物だ!こんな物ハインドの街で売れば、一気に大儲けできそうだな!」
「いずれ量産できるようになれば、それも現実になるかもな」
口では金の話をしているものの、ツバキは純粋に人々の生活の為になると思って発明の知識を身につけている。それは物作りとして、親代わりであるウィリアムに教えてもらった人生の教訓でもあった。
暫く森を進むと、トミから聞かされていた目印の布が巻き付けられた木を発見する一行。森に入ってからそれ程経っていない位置にあったその木が、目的の場所とは限らない。
一旦その場所の周辺を探索する事になり、シン達のグループとアクセルとケネトのグループに分かれ、鈴の音が互いに聞こえる範囲での探索を開始する事になった。
それぞれ逆方向に向かい、シン達はそこから更に目視で確認できる距離に広がりながら、ユリアの手掛かりを探し始める。だが捜索は全くといっていいほど進展もなく、手掛かりも見つける事は出来なかった。
次第にアクセルら側からの鈴の音が小さくなり、ツバキのガジェットを通して一度元の場所へ戻る事になった一行は、目印の木へと向きを変え歩み出した。
「なぁ、手掛かりっつってもよぉ。それがその人の痕跡や手掛かりだってどうやって確かめるんだ?」
「物的証拠でもあれば、その人の匂いや残留魔力の反応で分かりそうだけど・・・」
アルバで見てきたケヴィンの調査を頼りに、痕跡を辿れないかと考えていたシンだが、実際は全く上手くはいかず探偵というクラスがそもそも、捜索や調査に優れた能力を有していたことを改めて思い知る結果になった。
「そもそも居なくなってからもう数日経ってるんだ。そう簡単には手掛かりなんかは出てこないだろう」
「それにまだこの辺がトミさんの奥さんが居なくなった場所とは限らないしね。後は向こうが何も見つけられなかったなら、一つ奥の目印の木に進む事になる。そうやって少しずつ地道に探すしかないよ」
帰りの道すがら、アカリは何やらいくつかの植物の葉を採取していた。退屈していたツバキが何をしているのかと問うと、彼女はこれも調合の材料になるのだと嬉しそうに答えた。
活躍の場を見つけて嬉しそうにするアカリを見て、嘗ての造船技師として技術を学んでいた頃の姿を思い出していたツバキは、珍しく彼なりに頼りにしているのだということを伝えた。
「まぁ、今回はお前の力が必要になるみたいだし。頼りにしてる・・・」
「え?うっうん、頑張る・・・」
顔を見ずに交わす二人の言葉は、シン達にも聞こえないような声だった。そして暫くすると、アクセルらと分かれた目印の木へと到着する。先に到着していたアクセルらから、向こう側の探索の結果を聞かされる。
内容は予想通りシン達と同じく、手掛かりらしい手掛かりは何もなかったという報告だった。こちらも同じだと二人に報告して、一行は更に奥の目印の木を探す事にした。
どうやらアクセルらも、ユリアが失踪した位置はもう少し奥なのではと考えていたようだ。それでも一つ一つ調べていかない訳にはいかないと、先程の時間が決して無駄ではないことを皆に諭していく。
そんな中、森を進むに連れアカリの連れている紅葉に少しずつ変化が訪れていた。
それでも、一から全てを始めるよりは様々な事を身につけている事から、ゲームで言うところの“強くてニューゲーム”の状態に近いだろう。
「何も記憶を失ってた訳じゃないんだ。ポジティブに捉えていこうじゃないか。初めから色々出来る状態でスタート出来たんだと」
「それは便利かもしれないけど、説明をすっ飛ばしてる訳だよね?上手くいくか不安だよ」
「ツクヨさんも記憶が無いんですか?」
「あぁ、いや私のは少し違くて・・・」
作業をしながら話を聞いていたアカリに問われ、ツクヨは現実世界からやって来たなどとは言えず、どうしたものかとシンとミアに助けを求める視線を送るも、二人とも目を晒し調合に没頭し始めてしまった。
一行はツクヨ達が取り付けた約束の時間に遅れぬよう、今日は早めに就寝する事にした。調合も手持ちの分は生成を終え、残りは予備として残しておき、臨機応変に対応出来るようアカリがいつでも調合出来るように常備する運びとなった。
そして夜が明け、アクセルらとの約束の時間よりある程度余裕を持って向かった一行は、そこで彼らがやって来るのを待った。アクセルとケネトがどんな人物なのかツクヨ達に話を聞いている間に、約束の時間とほぼ同時に一行の元へ近づく二人の人影があった。
「お!遅れずに来たみたいだな。彼らがアンタ達の仲間かい?」
「噂をすれば・・・。彼がアクセルさん、そしてケネトさんだ」
初めて顔を合わせるシン達は、アクセルとケネトに自己紹介をしながら握手を交わす。今日の探索内容については、北の山を目指しながらアクセルらから説明があった。
どうやら彼らは、シン達と合流する前に一度トミの家を訪れたようで、そこで妻であるユリアをどの辺りで見失ったのか、その際に何か手掛かりになるようなものはなかったのかなど、出来る限りの情報を集めていたようだ。
トミがユリアを見失ったのは、山に入って少し進んだ辺り。目印としては、近くの木に人工物である紐と布が巻きつけられてあったと言う。恐らく昔から調査隊が山に入った際に、何らかのサインとして残した物だと思われる。
そこはそれ程深くない所らしく、目印も例え複数あったとしても幾つか調べれば目的の場所に辿り着けるだろうと、アクセルは経験談から予想していた。
森の入り口にやって来ると、アクセルはツクヨに違いの位置を知らせる鈴を手渡した。それを常に音が響くところに付け、互いの位置を常に把握しながら探索を行うのだと言う。
かなり古典的ではあるが、森に住まう生き物達に自分達の存在を知らせ、近付けさせない意味もある。ただ難点としては、好戦的なモンスターには逆効果だと言う事だ。
稀に音を逆に利用して、群れで襲いかかって来るモンスターもいるから、常に戦えるようにしておくことを、強くお勧めされた。鈴をアクセルから渡された際、ツバキもまた彼らにとある物を渡していた。
それは彼が昨晩作り上げていた新型のカメラだった。
「コレは?」
「カメラだよ。マイクも内蔵されてるから、俺達の持つこっちのカメラとの通信も可能だ。動力は電力と魔力で切り替えが出来る。だからこういった山の中でも、よっぽどの事がない限り通信が途絶える事もないぜ!」
アクセルとケネトは、ツバキから渡されたカメラの使用方法について説明を受ける。操作は至って簡単で、殆どがその小さな球体状の本体を指でなぞるだけで行える。
そのあまりに高度な文明の品に、二人とも目を丸くして驚いていた。
「コレを君が作ったのか!?」
「ベースは元になったカメラだ。俺はそいつにちょっとばかし手を加えたに過ぎない。悔しいがまだ俺にはコイツを一から作る知識と技術力はない」
「それでも大した物だ!こんな物ハインドの街で売れば、一気に大儲けできそうだな!」
「いずれ量産できるようになれば、それも現実になるかもな」
口では金の話をしているものの、ツバキは純粋に人々の生活の為になると思って発明の知識を身につけている。それは物作りとして、親代わりであるウィリアムに教えてもらった人生の教訓でもあった。
暫く森を進むと、トミから聞かされていた目印の布が巻き付けられた木を発見する一行。森に入ってからそれ程経っていない位置にあったその木が、目的の場所とは限らない。
一旦その場所の周辺を探索する事になり、シン達のグループとアクセルとケネトのグループに分かれ、鈴の音が互いに聞こえる範囲での探索を開始する事になった。
それぞれ逆方向に向かい、シン達はそこから更に目視で確認できる距離に広がりながら、ユリアの手掛かりを探し始める。だが捜索は全くといっていいほど進展もなく、手掛かりも見つける事は出来なかった。
次第にアクセルら側からの鈴の音が小さくなり、ツバキのガジェットを通して一度元の場所へ戻る事になった一行は、目印の木へと向きを変え歩み出した。
「なぁ、手掛かりっつってもよぉ。それがその人の痕跡や手掛かりだってどうやって確かめるんだ?」
「物的証拠でもあれば、その人の匂いや残留魔力の反応で分かりそうだけど・・・」
アルバで見てきたケヴィンの調査を頼りに、痕跡を辿れないかと考えていたシンだが、実際は全く上手くはいかず探偵というクラスがそもそも、捜索や調査に優れた能力を有していたことを改めて思い知る結果になった。
「そもそも居なくなってからもう数日経ってるんだ。そう簡単には手掛かりなんかは出てこないだろう」
「それにまだこの辺がトミさんの奥さんが居なくなった場所とは限らないしね。後は向こうが何も見つけられなかったなら、一つ奥の目印の木に進む事になる。そうやって少しずつ地道に探すしかないよ」
帰りの道すがら、アカリは何やらいくつかの植物の葉を採取していた。退屈していたツバキが何をしているのかと問うと、彼女はこれも調合の材料になるのだと嬉しそうに答えた。
活躍の場を見つけて嬉しそうにするアカリを見て、嘗ての造船技師として技術を学んでいた頃の姿を思い出していたツバキは、珍しく彼なりに頼りにしているのだということを伝えた。
「まぁ、今回はお前の力が必要になるみたいだし。頼りにしてる・・・」
「え?うっうん、頑張る・・・」
顔を見ずに交わす二人の言葉は、シン達にも聞こえないような声だった。そして暫くすると、アクセルらと分かれた目印の木へと到着する。先に到着していたアクセルらから、向こう側の探索の結果を聞かされる。
内容は予想通りシン達と同じく、手掛かりらしい手掛かりは何もなかったという報告だった。こちらも同じだと二人に報告して、一行は更に奥の目印の木を探す事にした。
どうやらアクセルらも、ユリアが失踪した位置はもう少し奥なのではと考えていたようだ。それでも一つ一つ調べていかない訳にはいかないと、先程の時間が決して無駄ではないことを皆に諭していく。
そんな中、森を進むに連れアカリの連れている紅葉に少しずつ変化が訪れていた。
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