World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,579 / 1,646

光脈に精気

しおりを挟む
 人の手によって慣らされた道を歩む一行。その先に再び先程と同じ目印のある木を見つける。周囲の様子は一本目の時と特に変わった様子はない。

 一行は再びシン達とアクセルらのグループに分かれて、周囲の探索を始める。だがそこで、街の現調査隊であるミネから注意を受けていた紅葉が、何やらアカリに訴え始めた。

「キ・・・キィ・・・」
「どうしたの?紅葉。具合でも悪いの?」

 捜索の際、アカリの元を離れ近辺を飛んで捜索しながら協力していた紅葉だが、その時は弱々しくアカリの肩に止まり、寄りかかる様に身体をアカリへ寄せている。

 アカリの近くで捜索していたミアが、紅葉の羽ばたきが聞こえなくなった事に気がつき、何があったのか声を掛ける。その時は大した問題じゃないと思っていたアカリは、光脈の影響で体調でも崩されたのだと思っていた。

「紅葉の様子が変なの。何だか震えてる見たい・・・」

「そういや、山の調査隊のミネにも言われてたな。紅葉は山に連れて行くなって」

 アカリと共にシン達によって発見された紅葉は、紅い羽を身に纏い魔力を持った、少し変わった生物であった。初めからアカリに懐いていた事もあり、彼女の失われた記憶に関係している事が分かる。

 初めはただのペットや使い魔のようなもののように思えたが、リナムルではアカリの危機に立ち上がり、身体を大きく成長させ近くにいた獣人の魂を炎の化身と変えて戦っていた。

 その後、紅葉は直ぐに倒れてしまったがただの使い魔や、魔力を有する鳥類の魔物にしてはあまりに特殊な能力を持っているように思える。それこそ、何か人の手が加えられたような。

 特殊な能力に生物として、人間よりも周囲の魔力に敏感な体質を持つ紅葉にはシン達には感知できない何かを感じていたのかも知れない。

「まぁそんな状態じゃ捜索は無理だろう。少し休ませてやらねぇとな」

「紅葉、もっと身体を小さくできる?」
「キィ・・・」

 アカリの声に反応し、紅葉の身体はみるみる縮んでいき、手のひらサイズのインコ程の大きさまで小さくなった。

「おっおい、当たり前のように小さくなってるけど、いつの間にそんな事出来るようになってたんだ!?」

「え?大きくなれたのなら小さくなる事も出来るかなぁって思ってたので、頼んでみたらどうやら出来るようです!」

「出来るようですって・・・。本当に何者なんだその生き物は・・・」

 呆気に取られていたミアは、直ぐに我を取り戻し紅葉の事はアカリに任せ、自分の範囲の捜索に努める。今の所紅葉は大人しくしている。衰弱している様子もない事から、命に別状はないと判断したアカリ。

 ミアに続き、自分の仕事を全うせねばと、再びユリアの手掛かりを探し始める。シン達男性陣側は、一箇所目と同じく何の痕跡も見つけられなかったと、少しくたびれた様子で互いに合図を送り、元の集合場所まで引き返して行く。

 ミア達とも合流した一行は、そこで初めて紅葉の容態を知る。

「私達の探している間にそんな事が・・・」
「薬は試したのかよ?お前、いっぱい調合して薬を作ってたじゃなかったのかよ?」

「飲ませようとしたんだけど、要らないって・・・。そういうのじゃないみたいなの」

「具合が悪いんだったら、一度戻ろうか?」

「戻るにしても、アクセル達に話をしないと。こっちの捜索は済んだし、一旦彼らと合流しよう」

 シンの言う通り、何をするにも先ずはアクセル達に相談しない事には、勝手に戻る事もできない。紅葉が一体どうしてしまったのか、誰も詳しく分からない以上無理に連れ回す訳にはいかないと判断し、合流地点へと向かう。

 今度は先に目印の木へと戻って来たシン達は、紅葉の容態を見ながらアクセル達の帰りを待つ。素人が見る限り、紅葉は危険な状態や衰弱し切っているといった印象は受けない。現在はアカリの手の上で落ち着いた様子で呼吸をしながら眠っている。

 そこへ捜索を終えたアクセル達が戻って来ると、シン達の様子を見て直ぐに何かあった事を察したようだ。一行はアカリの連れている紅葉の様子がおかしい事を二人に話すと、それこそが北の山こと“回帰の山”の精気に当てられた者の反応だと語る。

「元々動物は人間よりも敏感な生き物だ。俺達では感じ取れない魔力や精気、瘴気なんかを感じ取っちまう」

「この子の場合、他の野生動物とかよりも感じやすいみたいだ。本来なら彼らが体調を崩すほどの精気が溢れていれば、我々にも多少なり影響が現れてもおかしくない」

「アンタ達みたいに慣れていない者なら尚更ね。その子らは何ともないのか?」

 アクセルはツバキとアカリの容態について聞いて来た。だが彼らが調子が悪いなどと言う報告を受けていない一行は首を横に振り、本人達にも尋ねたが自分で感じる範囲では異常は無いと語る。

「ふむ・・・こりゃぁちょっと妙かもな・・・」

 顎を指で触りながら深刻そうな顔をするアクセルとケネト。どういう事か分からないシン達は、彼らの言う“妙”だと感じる事について尋ねる。

「いや、正直ユリアさん捜索にアンタ達の協力を得られたのは、俺達にとってもありがたい事だったんだ」

「山に慣れていない者が一緒なら、その反応で精気の流れをある程度予測する事が出来るんだ」

 彼らが言うには、ユリアが失踪したのは山から漏れ出した光脈の精気が麓まで流れ出し、土を採りに来ていたユリアはその精気に当てられた、山へと誘われたのだと考えた。

 体質的にユリアよりも耐性のあったトミは、山に向かうユリアをある程度追いかけられたようだが、彼女を見失ったのは彼が精気に当てられるような範囲ではなかったという事になる。

 そうでなければ、トミは一人で街に戻って来る事など出来ない筈だとアクセルらは語る。精気の感じ方は違えど、歳の近い二人にそれほど感じ方に差があるというのが、二人の中で引っ掛かるポイントとなっていたようだ。

 これではまるで、光脈の精気が自然の流れに争って動いているようだと二人は言う。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

だらだら生きるテイマーのお話

めぇ
ファンタジー
自堕落・・・もとい楽して生きたい一人のテイマーのお話。目指すのはスローライフ!

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

処理中です...