1,462 / 1,646
楽譜に記された記号と魔力
しおりを挟む
楽譜による効果は、使用者以外であっても扱うことが可能。それはジルの歌声によって証明された。しかし厳密には、楽譜の持つ能力を発揮しているというよりも、既に発揮されている能力を解除するといったものに近い。
それでも戦力として戦闘に貢献できなかったジルが、ベルンハルトの厄介な能力を解除出来るのであれば、戦況は大きく変わるだろう。
「ジル!君の歌声で彼の能力を弱める事ができる事が証明されました!これは進展です。引き続き私のカメラで・・・」
ケヴィンは彼女の能力を高く評価していた。勿論、音楽家としてや歌手としての才能を持ち合わせていることは事前に学校側や、司祭達からも聞いていたので理解していたが、もしかしたら彼女には戦闘を支援する才能もあるのかもしれないと考えていた。
引き続きジルに、ベルンハルトの所有する楽譜を歌ってもらおうとするケヴィンだったが、ここで初めて彼女の異変に気が付いた。
どうやら先程の突風の際に、周囲に舞っていたシャボン玉を受けてしまっていたようで、あろうことかその衝撃は彼女の最も大事とする喉を攻撃した。辛そうに咳き込むジルを看病するように寄り添うカルロスが、彼女の身を案じてケヴィンに作戦の変更を提案する。
「ケヴィンさん!ジルが喉をやられた。少し休ませてやらないと!」
「何ということか・・・。分かりました、誰か治療できる方は?」
すると、その会話を聞いていたジルが掠れた声を絞り出し、何かを伝えようとしていた。
「私は・・・大丈夫・・・それより・・・」
「何が大丈夫だぁ!?そんな声で喋るな!悪化するぞ!」
「カルロスの言う通りですよ」
「違うの・・・聞いて・・・」
ジルはケヴィンのカメラが捉えた楽譜の中身を見た時に、ピアノによく似た奏法記号が記されている事に気がついていたようだ。それもその記号が記されている部分に、何か特別な魔力を感じたのだという。
「奏法記号に特別な魔力・・・」
「私の・・・歌では・・・全てを引き出す・・・事は・・・出来ませんでした・・・」
「そうか!謂わばあれは鍵盤楽器用の楽譜って訳だな?それでベルンハルトは鍵盤を・・・」
続けてジルは、ベルンハルトの他にも宮殿内にバッハの血族の霊がいる事を思い出し、司令室のベルンハルトの持つ楽譜と同様に、それぞれの担当楽器に適した楽譜があることを示唆した。
宮殿屋上のアンブロジウスはヴァイオリン、入り口広場のアンナは声楽。そして司令室のベルンハルトはチェンバロと、それぞれ三種の楽譜が各々の得意分野ごとに割り当てられているのだとしたら、同じく歌を得意とするジルはここにいるべきではない。
彼女自身、それが分かっているか喉の痛みは一時的なものであり、今なすべき事は、それぞれの戦場に彼らの得意分野と同じ音楽家が向かわねばならぬ事だと考えたようだ。
「私は・・・宮殿の入り口に・・・向かいます!」
「何を馬鹿なことをッ・・・!そんなフラフラな身体ではッ・・・」
「いや、彼女の言う通りだ」
彼らの目論に割って入ったのは、彼らを守っていたオイゲンだった。
「オイゲン氏?」
「すまない、盗み聞きする気はなかったのだがな。しかしこの状況だ、我々のこの数で手一杯なのに、他が善戦しているとは考えづらい。恐らく苦戦している筈だ」
「しかし彼女送り届けるにも護衛がッ・・・」
「護衛は彼らにやって貰おう。何しろお前のお墨付きだからな」
そう言ってオイゲンが視線を向けたのはシン達一行だった。今この場にいる戦力で戦えるのは、オイゲンとブルースと護衛のバルトロメオ。そしてシンとガジェットを装着したツバキ。
各々仲間の事を考えると、ブルースとバルトロメオは二人で一組。シンとツバキらも一行で一つのチームとして考え、三つグループに分ける事ができる。尚且つ、三つに分けたグループには必ず、それぞれの戦場にいるバッハの一族達と対応する音楽家が組み込まれなければならない。
幸い生存者の中には、かの有名なブルースとアンドレイがいる。二人は各所で音楽監督を務める程の実力者であることから、ジルの向かうアンナの元以外だと、ここ司令室にいるベルンハルトと同じ鍵盤楽器。
そして屋上にいるアンブロジウスの扱うヴァイオリンの扱いには長けているだろう。問題は彼らには実物の楽器が必要である事。しかしそれに関しては、パーティーでの演奏で使った物がまだ何処かにあるはず。
楽器の場所に関しては、片付け等に関与していたマティアス司祭やその付き人であるクリスが把握している。彼らと共に楽器の場所へと向かい、それぞれの戦場へと向かう。それがオイゲンの考えるシナリオのようだ。
「それでは彼の相手はブルース氏とバルトロメオ氏にお願いしましょう。鍵盤楽器はおいそれと持ち運ぶことなど出来ませんからね。上手いこと誘導していただく必要がある。その為にも・・・」
「あぁ、先ずは我々が奴の標的から外れる必要がある。聞いたか!皆の者!これより我々も各戦場へと赴く。ブルース、皆がそれぞれの戦場に到着するまでベルンハルトの相手を頼む。楽器の場所は追って連絡する。機材を壊されぬようにな」
「人使いの粗い奴だ・・・。だがそれしか対抗し得る手立てもなさそうだしな。いいだろう。バルトも気を引き締めろよ」
「言われるまでもねぇぜッ!」
こうして一行は、ブルースとバルトロメオを残し楽器の置かれている場所を目指すチームと、直接宮殿入り口を目指すジルとそれを護衛する者達のチームへと分かれて行動する事となる。
それでも戦力として戦闘に貢献できなかったジルが、ベルンハルトの厄介な能力を解除出来るのであれば、戦況は大きく変わるだろう。
「ジル!君の歌声で彼の能力を弱める事ができる事が証明されました!これは進展です。引き続き私のカメラで・・・」
ケヴィンは彼女の能力を高く評価していた。勿論、音楽家としてや歌手としての才能を持ち合わせていることは事前に学校側や、司祭達からも聞いていたので理解していたが、もしかしたら彼女には戦闘を支援する才能もあるのかもしれないと考えていた。
引き続きジルに、ベルンハルトの所有する楽譜を歌ってもらおうとするケヴィンだったが、ここで初めて彼女の異変に気が付いた。
どうやら先程の突風の際に、周囲に舞っていたシャボン玉を受けてしまっていたようで、あろうことかその衝撃は彼女の最も大事とする喉を攻撃した。辛そうに咳き込むジルを看病するように寄り添うカルロスが、彼女の身を案じてケヴィンに作戦の変更を提案する。
「ケヴィンさん!ジルが喉をやられた。少し休ませてやらないと!」
「何ということか・・・。分かりました、誰か治療できる方は?」
すると、その会話を聞いていたジルが掠れた声を絞り出し、何かを伝えようとしていた。
「私は・・・大丈夫・・・それより・・・」
「何が大丈夫だぁ!?そんな声で喋るな!悪化するぞ!」
「カルロスの言う通りですよ」
「違うの・・・聞いて・・・」
ジルはケヴィンのカメラが捉えた楽譜の中身を見た時に、ピアノによく似た奏法記号が記されている事に気がついていたようだ。それもその記号が記されている部分に、何か特別な魔力を感じたのだという。
「奏法記号に特別な魔力・・・」
「私の・・・歌では・・・全てを引き出す・・・事は・・・出来ませんでした・・・」
「そうか!謂わばあれは鍵盤楽器用の楽譜って訳だな?それでベルンハルトは鍵盤を・・・」
続けてジルは、ベルンハルトの他にも宮殿内にバッハの血族の霊がいる事を思い出し、司令室のベルンハルトの持つ楽譜と同様に、それぞれの担当楽器に適した楽譜があることを示唆した。
宮殿屋上のアンブロジウスはヴァイオリン、入り口広場のアンナは声楽。そして司令室のベルンハルトはチェンバロと、それぞれ三種の楽譜が各々の得意分野ごとに割り当てられているのだとしたら、同じく歌を得意とするジルはここにいるべきではない。
彼女自身、それが分かっているか喉の痛みは一時的なものであり、今なすべき事は、それぞれの戦場に彼らの得意分野と同じ音楽家が向かわねばならぬ事だと考えたようだ。
「私は・・・宮殿の入り口に・・・向かいます!」
「何を馬鹿なことをッ・・・!そんなフラフラな身体ではッ・・・」
「いや、彼女の言う通りだ」
彼らの目論に割って入ったのは、彼らを守っていたオイゲンだった。
「オイゲン氏?」
「すまない、盗み聞きする気はなかったのだがな。しかしこの状況だ、我々のこの数で手一杯なのに、他が善戦しているとは考えづらい。恐らく苦戦している筈だ」
「しかし彼女送り届けるにも護衛がッ・・・」
「護衛は彼らにやって貰おう。何しろお前のお墨付きだからな」
そう言ってオイゲンが視線を向けたのはシン達一行だった。今この場にいる戦力で戦えるのは、オイゲンとブルースと護衛のバルトロメオ。そしてシンとガジェットを装着したツバキ。
各々仲間の事を考えると、ブルースとバルトロメオは二人で一組。シンとツバキらも一行で一つのチームとして考え、三つグループに分ける事ができる。尚且つ、三つに分けたグループには必ず、それぞれの戦場にいるバッハの一族達と対応する音楽家が組み込まれなければならない。
幸い生存者の中には、かの有名なブルースとアンドレイがいる。二人は各所で音楽監督を務める程の実力者であることから、ジルの向かうアンナの元以外だと、ここ司令室にいるベルンハルトと同じ鍵盤楽器。
そして屋上にいるアンブロジウスの扱うヴァイオリンの扱いには長けているだろう。問題は彼らには実物の楽器が必要である事。しかしそれに関しては、パーティーでの演奏で使った物がまだ何処かにあるはず。
楽器の場所に関しては、片付け等に関与していたマティアス司祭やその付き人であるクリスが把握している。彼らと共に楽器の場所へと向かい、それぞれの戦場へと向かう。それがオイゲンの考えるシナリオのようだ。
「それでは彼の相手はブルース氏とバルトロメオ氏にお願いしましょう。鍵盤楽器はおいそれと持ち運ぶことなど出来ませんからね。上手いこと誘導していただく必要がある。その為にも・・・」
「あぁ、先ずは我々が奴の標的から外れる必要がある。聞いたか!皆の者!これより我々も各戦場へと赴く。ブルース、皆がそれぞれの戦場に到着するまでベルンハルトの相手を頼む。楽器の場所は追って連絡する。機材を壊されぬようにな」
「人使いの粗い奴だ・・・。だがそれしか対抗し得る手立てもなさそうだしな。いいだろう。バルトも気を引き締めろよ」
「言われるまでもねぇぜッ!」
こうして一行は、ブルースとバルトロメオを残し楽器の置かれている場所を目指すチームと、直接宮殿入り口を目指すジルとそれを護衛する者達のチームへと分かれて行動する事となる。
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる