World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,461 / 1,646

楽譜の重要度

しおりを挟む
 押し込んでいる筈の刃が、ベルンハルトの身体から発せられる振動により押し戻されていく。それどころかその振動は、発生源から波紋状となって広がり、シンの体自体を押し退けるように迫る。

 バルトロメオの方も同じく、魔力で作り出した腕はその形を保てなくなり、見えぬ壁に押し戻されるように二人はベルンハルトから飛び退いて行った。

「どうしたバルトロメオ」

「分からねぇ・・・。俺ぁ確かに全力でぶん殴った。だが奴の前に壁みてぇなものがあって・・・」

「壁?俺には何も見えなかったが・・・!そうか、奴の奏る音か」

 バルトロメオが全力で攻撃していたであろう事は、司令室にいる誰もが分かっていた事だろう。その圧倒的な魔力と凄まじい威力の拳は、宮殿という室内にまるでドラゴンの羽ばたき、或いはヘリコプターの巻き起こす風を全身に浴びているかのような突風を巻き起こす程だった。

 その風からも、完全にベルンハルトの魔力やその姿から繰り出されるでろう力を上回っているように見えた。あの拳は彼には受け止めきれないと。だが結果としてベルンハルトはやってのけた。

 つまり、ベルンハルトの奏る音は力技でどうにかできるものではないらしい。

「音に俺の技が負けたっていうのかぁ!?」

「それは・・・考えづらい」

「何が言いてぇんだ?大将」

「お前の力や魔力が奴に負けると到底思えない。ということは、お前自身に何か要因がある、或いは何かが付与されているか・・・」

 ブルースが考えるその付与効果というものこそ、このアルバにやってきてからどこかで知らず知らずに受けた儀式によるもので、おおよそそれが式典の中に仕組まれていたであろう事は分かっていた。

 だがその詳細な効果までは理解できない。といったところだった。やはり音の牙城を崩すには、ジルの言っていた通り彼の持つ楽譜をどうにかする他ない。

 一方、もう一人ベルンハルトの音の振動により撤退を余儀なくされたシンは、一度アンドレイに任せた仲間の元へと戻る。

「シンさん!」

「おいどうしたってんだ?俺のガジェットじゃ物足りなかったか?」

 心配そうに駆け寄るツバキとアカリ。アンドレイは約束通り何とか二人を守ってくれていた。いざ戦闘になると、こちらまで意識が向かわなくなる。そんな中で常に戦況を冷静に見極め、戦えない身でありながらも適切に判断を下せたおかげで、身を守るための指示をツバキ達に出せていたのだろう。

「そうじゃない。ツバキの発明は奴の能力の中でも影響を受けずに戦えることは証明された。ただ・・・」

 シンがベルンハルトを暗殺しようと仕掛けた攻撃。その瞬間に起きた出来事をツバキ達に説明しようとした時、黙って彼の帰還を静観していたアンドレイが口を開いた。

「見えない壁に阻まれた・・・ってところじゃないですか?」

「ッ・・・!?何故それを・・・」

「突然割って入ってしまってすみません。シンさんの攻撃を観察していて創刊じたというだけなのですが、彼に刃が刺さろうかとした瞬間、まるでシンさんの持つ武器はまるで金属音のような音を奏でました」

「聞こえていたのか」

「えぇ、しかし何にも触れていないのそのような音が発せられるのはおかしい。何か同じように固い物にぶつかりでもしない限り、あんな音は出ない。これまでの彼の傾向上、そして彼の腕をよく見ると楽器の弦のようなものが見えました。その弦はあの“糸“と同じように、振動を伝える性質を持っているのでしょう」

 アンドレイの推理は正しかった。彼らのいる位置からでは、シンが狙った身体の部位が弦のようなものに変化していたのは見えなかったのだろうが、バルトロメオの攻撃を受け止めるベルンハルトの腕は見えていたのだろう。

 しかしそれだけでは、シンの攻撃が彼の身体に届かず、何かにぶつかったかのような金属音を奏た現象の説明にはならない。そこでアンドレイが考えたのは、ベルンハルトの身体にある弦は、音の振動を増幅し放つことがdできるのではないかというものだった。

「要するに、音の振動による障壁を生み出し、シンさんとバルトロメオさんを退けたのではないでしょうか?」

「音の障壁・・・」

「それじゃぁアイツが音を出す限り、触れることも出来ねぇってことかよ!?」

 音を奏でるベルンハルト自身が、音を増幅させる装置のような役割も持っている。これではツバキの言うように触れることすら叶わない。しかしここで、とあることを思い出したアカリが口を開いた。

「待って。彼がそんな不思議な力を使い始めたのって、あの“楽譜“を使い始めてからじゃない?」

「貴方は何かと素晴らしい着眼点をお持ちですね。そうです、彼があの能力を使い始めたのはあの楽譜を使い始めてからです。ということは・・・」

「その楽譜を奪っちまえばッ!」

 ブルースの元へ戻ったバルトロメオ達の行き着いた結論と同様に、シン達サイドもまたジルの言っていた楽譜がこれ程までに重要となっていた事に気が付いたのだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...