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二人の覚悟と逃走劇
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レオンはカルロスに言われた言葉を思い出していた。自身に積極性がないと言うことは誰に言われずとも、自分自身が一番よく分かっていた事だった。だからこそ、目を背けていた部分でもある。
自分の欠点を顕にされ向き合う覚悟を決めたレオンは、ジルに扉の方へ向かうよう伝える。彼女には事前に逃げ道を確保してもらい、自身はカルロスとクリスのサポートに回るつもりのようだ。
「貴方はどうするの?レオン」
「俺は・・・カルロス達が逃げられるように引き付け役になる」
「無茶よ!そもそも何をされるかも分からないのに、囮になるだなんてどうするつもりなの!?」
「いいから行ってくれ!俺の気が変わらない内にッ・・・!」
ジルは暫くレオンの方を見た後、彼に言われた通り教会に訪れた不気味な観客に気付かれぬよう、体勢を低くして入り口へと向かった。それを見送ると、レオンは目を閉じて一度だけ大きく深呼吸をする。
ここまで見栄を張って啖呵を切ってしまった以上、別の作戦や手段を考えている暇も余裕もない。今はただ、自分がどうしたいかという感情に身を任せ、クリスに肩を貸してこちらへ向かって来るカルロスの様子を伺う。
「しっかりしろ!クリス」
「カルロス・・・ごめん。僕はまた君に助けられて・・・」
「そんな事気にすんな、仲間だろうが」
カルロスは才能がありながらも、決してクリスのようなはみ出し者を見捨てない。音楽学校の中でもそうだった。周りから浮いてしまっているクリスを、カルロスは気に掛けていた。
勿論、彼の優しさというのもあるのだろうが、周囲から孤立し爪弾きにされた者を見ると、家計の中で落ちこぼれとして扱われる自分を見ているようで、手を差し伸べずにはいられなかったのだ。
彼にとっての他者への憐れみ、自身への慰めでもあったのだ。
カルロスとクリスがレオンの居る柱の下までやって来ると、空かさずレオンも後方の警戒をしつつ二人のサポートに入る。
「何だよ、見てるんじゃなかったのか?」
「うるさい。もう考えてばかりで行動に移さない昔の俺とは決別したんだ。出口はジルが確保してくれている。後ろは俺が見てるから、早く扉へ向かえ!」
「レオン・・・」
申し訳なさそうな表情で振り返るクリスに、レオンは今まで彼に向けたこともないような表情で、不安がるクリスを安心させる。秀才である彼の自身に溢れた表情は、それだけで周りを安心させるだけの頼り甲斐のある効果を持っていた。
奇しくも、自身の行動力の無さに悩んでいたレオンには、周りを動かし鼓舞するだけの才能や気概が備わっていた。ジルと同様に、彼のおこぼれにあずかろうとする者達によって、レオンの行動力というものは損なわれていたのだ。
彼らの存在に気がつき後を追いかけていた観客は、それ程早い速度ではないものの着実に彼らの背後へと迫っていた。武器や道具を持っているといった様子は無い。
だが、その顔は何を考えているのか分からないマスクによって隠され、不気味な挙動が彼らの恐怖心と焦燥感を煽る。窓の外はすっかり真っ暗となっており、時間の経過を感じさせる。
そしてレオンの覚悟を試すかのように、運命は彼らの逃走劇に暗い影を落とす。追手から逃げるように入り口へと向かう彼らだったが、転んだ衝撃で足を挫いたクリスを庇って逃げ切れるほど簡単なものではなかった。
最後尾のレオンに掴みかかろうと、不気味な観客の手が伸びる。カルロスに支えられながら後方を確認したクリスが、レオンの身に差し迫る危機をいち早くその目に捉えると、彼は自分が足手まといになっていることを悟り、突然カルロスの腕を振り払いレオンとすれ違うように、追手の前へ躍り出た。
「クリスッ!何してんだ!?」
「クリス!」
カルロスとレオンが彼の突然の行動に足を止めて振り返る。
「二人は逃げて!この人達は僕が引き受けるからッ!」
観客の手が振り払おうとするクリスの腕を掴む。彼の力では抗えないようで、振り上げた腕はみるみる下へと下がっていく。そして観客のもう片方の手がクリスの首を掴み上げる。
暴れ回るクリスだが、その足はゆっくりと床を離れ宙に浮く。
「クソッ!レオン、手を貸せ!」
「あぁ!」
直ぐに助けに入ろうとするも、クリスは暴れながらもレオンとカルロスの方へ向かおうとする他の観客に掴みかかる。
「二人とも・・・行って・・・!足手まといは・・・嫌なんだよッ・・・!!」
必死に抗おうとするクリスの様子は、これまでの軟弱者のようなイメージとはかけ離れた口調と表情に変わる。
レオンと同じように、クリスもまた覚悟を決めたのだ。自分が怪我をしてしまった以上、全員で教会を脱出することは不可能。自らの失態を助けてくれた彼らに背負わせる訳にはいかない。
覚悟を決めて動き出したレオンには、そんなクリスの気持ちが手に取るように伝わって来た。身を挺して追手を止める彼の思いを無駄にするわけにはいかないと、一度はクリスに手を貸そうとしたレオンだったが、カルロスの腕を掴み逃げるようにと促す。
「カルロス、行くぞ!」
「はぁッ!?テメェこの後に及んでまだッ・・・!」
「クリスの覚悟を無駄にするな!俺達は脱出する。この機を逃すな!」
もう一度だけクリスの方を振り返るカルロスは、レオンの言葉に微笑みを浮かべるクリスを見て、レオンの言う通り彼の覚悟は揺るがないものだと判断し、脱出に向けて動き出す。
「クソがッ・・・!」
クリスを連れて行けない自分の無力さに腹を立てながら、カルロスとレオンは追手に捕まるクリスを残し、教会の入り口へと向かい、先に施錠していたジルと合流する。
自分の欠点を顕にされ向き合う覚悟を決めたレオンは、ジルに扉の方へ向かうよう伝える。彼女には事前に逃げ道を確保してもらい、自身はカルロスとクリスのサポートに回るつもりのようだ。
「貴方はどうするの?レオン」
「俺は・・・カルロス達が逃げられるように引き付け役になる」
「無茶よ!そもそも何をされるかも分からないのに、囮になるだなんてどうするつもりなの!?」
「いいから行ってくれ!俺の気が変わらない内にッ・・・!」
ジルは暫くレオンの方を見た後、彼に言われた通り教会に訪れた不気味な観客に気付かれぬよう、体勢を低くして入り口へと向かった。それを見送ると、レオンは目を閉じて一度だけ大きく深呼吸をする。
ここまで見栄を張って啖呵を切ってしまった以上、別の作戦や手段を考えている暇も余裕もない。今はただ、自分がどうしたいかという感情に身を任せ、クリスに肩を貸してこちらへ向かって来るカルロスの様子を伺う。
「しっかりしろ!クリス」
「カルロス・・・ごめん。僕はまた君に助けられて・・・」
「そんな事気にすんな、仲間だろうが」
カルロスは才能がありながらも、決してクリスのようなはみ出し者を見捨てない。音楽学校の中でもそうだった。周りから浮いてしまっているクリスを、カルロスは気に掛けていた。
勿論、彼の優しさというのもあるのだろうが、周囲から孤立し爪弾きにされた者を見ると、家計の中で落ちこぼれとして扱われる自分を見ているようで、手を差し伸べずにはいられなかったのだ。
彼にとっての他者への憐れみ、自身への慰めでもあったのだ。
カルロスとクリスがレオンの居る柱の下までやって来ると、空かさずレオンも後方の警戒をしつつ二人のサポートに入る。
「何だよ、見てるんじゃなかったのか?」
「うるさい。もう考えてばかりで行動に移さない昔の俺とは決別したんだ。出口はジルが確保してくれている。後ろは俺が見てるから、早く扉へ向かえ!」
「レオン・・・」
申し訳なさそうな表情で振り返るクリスに、レオンは今まで彼に向けたこともないような表情で、不安がるクリスを安心させる。秀才である彼の自身に溢れた表情は、それだけで周りを安心させるだけの頼り甲斐のある効果を持っていた。
奇しくも、自身の行動力の無さに悩んでいたレオンには、周りを動かし鼓舞するだけの才能や気概が備わっていた。ジルと同様に、彼のおこぼれにあずかろうとする者達によって、レオンの行動力というものは損なわれていたのだ。
彼らの存在に気がつき後を追いかけていた観客は、それ程早い速度ではないものの着実に彼らの背後へと迫っていた。武器や道具を持っているといった様子は無い。
だが、その顔は何を考えているのか分からないマスクによって隠され、不気味な挙動が彼らの恐怖心と焦燥感を煽る。窓の外はすっかり真っ暗となっており、時間の経過を感じさせる。
そしてレオンの覚悟を試すかのように、運命は彼らの逃走劇に暗い影を落とす。追手から逃げるように入り口へと向かう彼らだったが、転んだ衝撃で足を挫いたクリスを庇って逃げ切れるほど簡単なものではなかった。
最後尾のレオンに掴みかかろうと、不気味な観客の手が伸びる。カルロスに支えられながら後方を確認したクリスが、レオンの身に差し迫る危機をいち早くその目に捉えると、彼は自分が足手まといになっていることを悟り、突然カルロスの腕を振り払いレオンとすれ違うように、追手の前へ躍り出た。
「クリスッ!何してんだ!?」
「クリス!」
カルロスとレオンが彼の突然の行動に足を止めて振り返る。
「二人は逃げて!この人達は僕が引き受けるからッ!」
観客の手が振り払おうとするクリスの腕を掴む。彼の力では抗えないようで、振り上げた腕はみるみる下へと下がっていく。そして観客のもう片方の手がクリスの首を掴み上げる。
暴れ回るクリスだが、その足はゆっくりと床を離れ宙に浮く。
「クソッ!レオン、手を貸せ!」
「あぁ!」
直ぐに助けに入ろうとするも、クリスは暴れながらもレオンとカルロスの方へ向かおうとする他の観客に掴みかかる。
「二人とも・・・行って・・・!足手まといは・・・嫌なんだよッ・・・!!」
必死に抗おうとするクリスの様子は、これまでの軟弱者のようなイメージとはかけ離れた口調と表情に変わる。
レオンと同じように、クリスもまた覚悟を決めたのだ。自分が怪我をしてしまった以上、全員で教会を脱出することは不可能。自らの失態を助けてくれた彼らに背負わせる訳にはいかない。
覚悟を決めて動き出したレオンには、そんなクリスの気持ちが手に取るように伝わって来た。身を挺して追手を止める彼の思いを無駄にするわけにはいかないと、一度はクリスに手を貸そうとしたレオンだったが、カルロスの腕を掴み逃げるようにと促す。
「カルロス、行くぞ!」
「はぁッ!?テメェこの後に及んでまだッ・・・!」
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「クソがッ・・・!」
クリスを連れて行けない自分の無力さに腹を立てながら、カルロスとレオンは追手に捕まるクリスを残し、教会の入り口へと向かい、先に施錠していたジルと合流する。
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