1,088 / 1,646
命の恩人
しおりを挟む
「ぅぉぉぉおおおッ!!何でもいいッ!彼のこの炎を消してくれェェェッ!!」
剥き出しの刀身を握りしめ血に染まった手を、ツクヨは魔力を込めて振り抜いた。だが、彼の拾ったその剣は刀剣としての働きしかしなかったのだ。
振り抜いた刀身は黒炎を通り過ぎただけ。それ以上でも以下でもない。しかしツクヨはその結果に驚愕した。確かに彼はスキルを使い剣を振るった。筈だった。なのに何の反応も起きないことに違和感と驚きを隠せなかった。
「なっ・・・何でだょ。何でッ!?こんな時に何も出来ないなんて・・・!」
落ち着いた様子の人間だとツクヨのことを認識していたアズールは、突然声を荒立てる彼に視線を向ける。しかし目の前の相手にいく手を阻まれ助けに向かうこともできない。
「何じゃ、獣は浮気性なのかえ?」
「黙れッ・・・!お前に性別などねぇだろうがッ」
「何じゃ、生殖機能の話か?ふふふ、そんな快楽を交えた下賤な行為などせずとも・・・ホレ!この通りじゃぁ!」
そういうと蛇女は自らの尻尾を振るい、その鱗をアズールの周りに弾丸のように放つ。床に突き刺さった鱗は徐々に動き出し生物の形へと変貌する。彼女が放った鱗の一つ一つはラミアというモンスターに変わり、アズールを取り囲む。
「気持ち悪りぃ繁殖しやがって・・・。そういう事言ってんじゃねぇのんいよぉ」
「人間は好みじゃないのかえ?なら今度は獣のラミアでも作ってみようか!ぁ!?アハハハッ!!」
「・・・貴様はやはり、ここで殺しておかねぇとッ・・・!!」
自身の種族ですら実験道具としか考えていない蛇女に、アズールは吐き気を催す程の嫌悪感を抱く。囲んでいたラミアの一体を殴り気絶させると、そのまま尻尾を掴み母体である蛇女に向けて投げつける。
それを彼女は風の刃の魔法で、投げつけられたラミアごと粉々にして吹き飛ばす。肉片と血飛沫の中、一斉にラミアがアズールへと襲い掛かる。
錯乱したように見えたツクヨの事など心配している場合ではない。この場において最も冷静で唯一戦える者は、最早アズールしか残っていない。蛇女がツクヨとシンを放置しているのが唯一の救いだった。
もう手遅れとでも思っているのだろう。完全に彼らへの興味が削がれているようにアズールには見えた。このまま蛇女の注意を引きつけ、意識を取り戻したツクヨと瀕死のシンが無事でいることを祈るしかない。
再び研究室が荒れるほどの戦闘を再開するアズールと蛇女。その端で、何とかしてシンのボロボロの身体を焼き尽くそうとする黒炎を消そうと試みるツクヨだったが、彼は自分自身でもその炎の性質を理解していなかった。
黒炎は触れればそのものにも引火し、同じく燃やし尽くす。魔力を使ったスキルでも、ただの剣技でもシンの身体に引火した黒炎は消えなかった。痛いはずなのに、苦しい筈なのに声を押し殺しツクヨを不安にさせまいと耐える姿が、察しのいいツクヨには手に取るように分かってしまった。
だからこそ冷静ではいられなかった。命懸けで助けてくれた仲間が自分に不安を与えないように死という恐怖と戦っている。自分よりも幼い者の決死の覚悟を見て、ツクヨは遂に剣を捨て自らの腕で黒炎を消そうと試みていた。
「シン!シンッ!!必ず助けるから!必ず助けてやるからッ!!」
だが、彼は重要なことを見落としていた。彼が拾った剥き出しの刀剣が、彼の手で魔力とは違う力を宿していた事を。それを気付かせたのは、彼の意識の中で彼を正気に戻したダマスクの声だった。
「おい・・・。おいッ!しっかりしろ。冷静になれ」
「なれるか!!こんなものを目の前にしてッ!このままじゃシンがッ!!」
「お前の捨てた剣をよく見てみろ。それ・・・お前の持ってた変な剣と同じ反応をしてた・・・」
脳内に直接聞こえてくるダマスクの声は、床に転がる先程ツクヨが投げ捨てた剣を見るように呼び掛けている。忙しい時に何も役に立たなかった剣にどんな変化があったのか、興味など微塵もなかったがツクヨを救ってくれたのはシンと彼の意識の中へ入り込んだダマスクのおかげだ。
命の恩人の助言を無碍にも出来ない。ツクヨはチラリと投げ捨てた剣の方をみると、それは青白いオーラのようなものを纏い、刀身は黒く変色していたのだ。
剥き出しの刀身を握りしめ血に染まった手を、ツクヨは魔力を込めて振り抜いた。だが、彼の拾ったその剣は刀剣としての働きしかしなかったのだ。
振り抜いた刀身は黒炎を通り過ぎただけ。それ以上でも以下でもない。しかしツクヨはその結果に驚愕した。確かに彼はスキルを使い剣を振るった。筈だった。なのに何の反応も起きないことに違和感と驚きを隠せなかった。
「なっ・・・何でだょ。何でッ!?こんな時に何も出来ないなんて・・・!」
落ち着いた様子の人間だとツクヨのことを認識していたアズールは、突然声を荒立てる彼に視線を向ける。しかし目の前の相手にいく手を阻まれ助けに向かうこともできない。
「何じゃ、獣は浮気性なのかえ?」
「黙れッ・・・!お前に性別などねぇだろうがッ」
「何じゃ、生殖機能の話か?ふふふ、そんな快楽を交えた下賤な行為などせずとも・・・ホレ!この通りじゃぁ!」
そういうと蛇女は自らの尻尾を振るい、その鱗をアズールの周りに弾丸のように放つ。床に突き刺さった鱗は徐々に動き出し生物の形へと変貌する。彼女が放った鱗の一つ一つはラミアというモンスターに変わり、アズールを取り囲む。
「気持ち悪りぃ繁殖しやがって・・・。そういう事言ってんじゃねぇのんいよぉ」
「人間は好みじゃないのかえ?なら今度は獣のラミアでも作ってみようか!ぁ!?アハハハッ!!」
「・・・貴様はやはり、ここで殺しておかねぇとッ・・・!!」
自身の種族ですら実験道具としか考えていない蛇女に、アズールは吐き気を催す程の嫌悪感を抱く。囲んでいたラミアの一体を殴り気絶させると、そのまま尻尾を掴み母体である蛇女に向けて投げつける。
それを彼女は風の刃の魔法で、投げつけられたラミアごと粉々にして吹き飛ばす。肉片と血飛沫の中、一斉にラミアがアズールへと襲い掛かる。
錯乱したように見えたツクヨの事など心配している場合ではない。この場において最も冷静で唯一戦える者は、最早アズールしか残っていない。蛇女がツクヨとシンを放置しているのが唯一の救いだった。
もう手遅れとでも思っているのだろう。完全に彼らへの興味が削がれているようにアズールには見えた。このまま蛇女の注意を引きつけ、意識を取り戻したツクヨと瀕死のシンが無事でいることを祈るしかない。
再び研究室が荒れるほどの戦闘を再開するアズールと蛇女。その端で、何とかしてシンのボロボロの身体を焼き尽くそうとする黒炎を消そうと試みるツクヨだったが、彼は自分自身でもその炎の性質を理解していなかった。
黒炎は触れればそのものにも引火し、同じく燃やし尽くす。魔力を使ったスキルでも、ただの剣技でもシンの身体に引火した黒炎は消えなかった。痛いはずなのに、苦しい筈なのに声を押し殺しツクヨを不安にさせまいと耐える姿が、察しのいいツクヨには手に取るように分かってしまった。
だからこそ冷静ではいられなかった。命懸けで助けてくれた仲間が自分に不安を与えないように死という恐怖と戦っている。自分よりも幼い者の決死の覚悟を見て、ツクヨは遂に剣を捨て自らの腕で黒炎を消そうと試みていた。
「シン!シンッ!!必ず助けるから!必ず助けてやるからッ!!」
だが、彼は重要なことを見落としていた。彼が拾った剥き出しの刀剣が、彼の手で魔力とは違う力を宿していた事を。それを気付かせたのは、彼の意識の中で彼を正気に戻したダマスクの声だった。
「おい・・・。おいッ!しっかりしろ。冷静になれ」
「なれるか!!こんなものを目の前にしてッ!このままじゃシンがッ!!」
「お前の捨てた剣をよく見てみろ。それ・・・お前の持ってた変な剣と同じ反応をしてた・・・」
脳内に直接聞こえてくるダマスクの声は、床に転がる先程ツクヨが投げ捨てた剣を見るように呼び掛けている。忙しい時に何も役に立たなかった剣にどんな変化があったのか、興味など微塵もなかったがツクヨを救ってくれたのはシンと彼の意識の中へ入り込んだダマスクのおかげだ。
命の恩人の助言を無碍にも出来ない。ツクヨはチラリと投げ捨てた剣の方をみると、それは青白いオーラのようなものを纏い、刀身は黒く変色していたのだ。
0
お気に入りに追加
305
あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜
FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio
通称、【GKM】
これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。
世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。
その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。
この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。
その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…


【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる