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神代 コウ

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記憶と意識の研究

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 相手は自分自身を別の誰かの姿に見せる術を持っている。現にツクヨは記憶の中で見た十六夜と同じ姿をした蛇女を、あたかも本物の彼女のように呼んでいた。

 それは第三者のダマスクも確認している。更にはそのダマスク自身、人の記憶や意識に入り込み対象を乗っ取るという研究をしており、トラブルがあったものの彼自身がその能力を手に入れている。加えて生身の肉体を持たないという不可思議な存在となっていた。

 ツクヨの記憶の中にも、過去の記憶の他にWoFの世界の記憶もあった。ダマスク自身は二つの世界が同じ世界の出来事だと思っているようだが、その記憶の中にオルレラでの一件も含まれていた。

 彼やミアも直接的ではないものの、オルレラの記憶操作に関わっておりその影響を受けていたということも分かった今、この施設で行われていた研究の中に記憶に関するものがある可能性が非常に高い。

 その事から、相手側によるツクヨの記憶改竄の疑いがある。ダマスクはそれをツクヨの意識の中に植え付けようとしたのだ。

 ツクヨは記憶操作を受けている。

 彼が失った過去の記憶は研究施設の装置、或いは蛇女の能力で事実とは異なるものへと捻じ曲げられている。そう、ツクヨに教えるために。

 「予定とはだいぶ変わっちまったが・・・。まぁ、これは俺の為でもあるしなぁ。これでコイツらに借りを作れる。・・・あんな記憶、作られたモンに決まってるッ・・・!今、目ぇ覚まさせてやるからよ」

 ダマスクはツクヨの記憶の中で見た、作り出されたであろう記憶の絵画に触れ、今度は彼の能力でツクヨの記憶を改竄していく。

 すると、これまで動きを見せなかったツクヨがデストロイヤー のクラス能力を解除し、徐々に正気を取り戻していく。空だった目に光が戻り、周囲の光景が映り込む。

 「・・・ここはっ・・・!?」

 辺りには研究所の物が散乱しており、大きな化け物の姿へと変貌した蛇女と、それに立ち向かうボロボロのアズールがいた。しかし、リフトに乗り込む際に別れたシンがどこにも見当たらない。

 ツクヨと別れ、そのままリフトに到着していたのなら、アズールらと共に行動しているはず。道中で逸れてしまったのだろうか。違うルートで地下までやってきたツクヨには、リフトになっていた部屋自体が巨大生物の身体によって運ばれていた事を知らない。

 「シンはッ・・・!彼は一体どこへ!?」

 「その辺に転がってねぇか・・・?あの野郎、自分が死ぬかもしれねぇってのに無茶しやがってッ・・・!」

 戦闘中のアズールが、正気に戻ったツクヨに気が付き彼が意識を失っていた間に起きた出来事を簡潔に説明する。シンが正気を失ったツクヨと戦っていたこと。そしてその中で、消えぬ炎を受けていたこと。

 そんな状態で無茶をしながら戦っていた事を明かす。だが身を隠しながらアシストするにも限度があった。戦いの中でシンの役割を知った蛇女は、眷属である同じ姿をしたモンスターであるラミアを呼び出し、邪魔をするシンを探させた。

 限られた空間で身を隠していられるのも時間の問題となり、シンのアシストは止まってしまう。自らの存在を隠すのに精一杯だったシンは、見つからぬよう時間稼ぎをするが、ツクヨから受けた黒炎がそれを許さなかった。

 シンを見つけたラミアが必死に彼の動きを止めると、蛇女は眷属もろともシンを吹き飛ばし大ダメージを負ってしまう。魔力を多く消費してしまったシンは、蛇女からのダメージに加え黒炎に身を焼かれ、アズールの戦闘をアシストする影のスキルで限界を迎えていた。

 眷属を味方とも思わない蛇女の行動は、シンの作戦や想定を簡単に覆し彼を追い詰めた。虫の息で助けを乞うラミアを、その大きな尻尾で掴み取りまるで物のように扱うその姿に、これまで感じたことのない嫌悪と人間と怪物の意識の違いを思い知らされる。

 瓦礫に押し潰されるシンの姿を見つけ、慌てて駆け寄るツクヨだったが、その瓦礫の隙間から覗かせる地獄の業火のような黒炎に、思わず足が止まる。

 「シンッ!・・・ぶっ無事なのか・・・?」

 ツクヨ本人も何を言っているのかと呆れてしまうようの言葉が口から溢れる。無事な筈がない。瓦礫の下敷きとなっている部分からは彼のものであろう血溜まりができており、黒炎の侵食が今も止まらず彼の上半身へと燃え移っていたのだから。

 「・・・ツクヨ・・・?よかった・・・元に・・・。ダマスクが、やってくれたんだな・・・」

 「くッ・・・!待ってろ、今助けッ・・・!?」

 これまで仲間がこれほど衰弱する姿を見たことがなかったツクヨは、彼の様子を見て急ぎ瓦礫を吹き飛ばそうとするも、自分が武器を所持していない事に気がつく。

 十六夜の姿に化けていた蛇女が、ツクヨを装置に入れた際に彼の持ち物を全て回収していたのだ。シンやミアと違い、WoFというゲーム世界の仕様をあまり把握していなかった彼は、武器や道具をユーザー特有のアイテム欄へ収納する癖がなく、この世界の者達のように剣を帯剣していた。

 一刻も早くシンを助けなければという意識に急かされ、完全にアイテム蘭という存在が頭から抜け落ちていた彼は、周囲を見渡し使えそうな武器を探す。すると、柄の無い刀身や茎の剥き出しの状態で転がる剣を素手で掴み取る。

 無我夢中だったツクヨは、剣と分類される武器であれば何でもよかった。自分に装備できる武器であればスキルが使える。シンを助けることができると。

 握りしめた彼の手からは血が流れる。刃を強く握りしめたことで、彼の手の肉を裂いていた。だが痛みなどに怯んでいる暇もなかったツクヨは、スキルを放つ衝撃に耐えられるよう、決してその手を離すことはなかった。
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