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黒く染まる刀剣
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ツクヨはその刀剣の変化に似た感覚を以前にも経験していた。それは彼の持つ宝剣“布都御魂剣“と同じだったのだ。役に立たないと思っていたものが突如として希望の光へと変わり、八方塞がりの状況を打開できるのではと期待を寄せる。
刀身を黒く染め上げたその剥き出しの刀剣を拾い上げると、布都御魂剣を使う時と同じように瞼を閉じ、シンが助かる光景を想像する。
周囲からはアズールと蛇女達が戦う音と、すぐ側で炎が僅かに移動しながら燃えていく音が、視覚という情報を遮断したことにより、より鮮明に聞こえてくる。感覚が研ぎ澄まされるような感覚はある。
しかしそれは刀剣の能力による影響などではなく、希望を見つけた事で冷静さを取り戻しつつあったからだった。変化の訪れぬ状況に、ツクヨは再び心を乱してしまう。
「なっ何で!?何も起こらないじゃないか!」
ツクヨにはあまり馴染みのない事が故に知る由もなかったことだが、例え刀剣自体に備わっている能力が同じであっても、発動条件までもが同じとは限らない。彼の手にする刀剣が何らかの能力を秘めているのは想像がつくが、それは布都御魂剣とは違ったものだった。
「ダマスク!ダメだ、何も起こらない!やっぱりただの鈍じゃないか!?」
「何か別の使い道があるんじゃないか?条件があるとか・・・。心当たりはないのか?」
「心当たりだって!?そんなのッ・・・!」
条件などツクヨにわかる筈もなく、闇雲にさまざまな手段を試していると、何故だかは分からないがシンの身体に灯った黒炎がその勢いを弱めたのだ。直前の行動を思い返してみると、ツクヨはその刀剣を手にしながら魔力を込める事なくシンの身体についた黒炎を放りはらっていたのだ。
「・・・これか!?」
彼が可能性として見出したのは、単純にその刀剣で黒炎を斬るという事だった。これまではスキルや魔力を込めた攻撃、勢いを利用して黒炎を消そうとしていたが、どうやらその刀剣に隠されたカラクリには、余計な力は必要としないようだった。
目を閉じて息を整えると、ツクヨは今一度その一振りに意識を集中させ、シンの身体を燃やす黒炎に渾身の一閃を放つ。すると黒炎は通常の炎のようにツクヨと刀剣の巻き起こした風によって振り払われ鎮火した。
「消えた・・・消えたッ!やったぞシン、炎が消えた!!」
「・・・・・」
黒炎は消えたが、それまでのダメージと疲労で既にシンは意識を失ってしまっていた。すぐに現実世界で生命反応を確かめるように、呼吸と心臓の鼓動を確認する。
弱まってはいるがシンの無事を確認すると、彼の身体を抱え部屋の端の方へと運んでいくツクヨ。シンの窮地を乗り越えたツクヨは、彼を壁にもたれかからせるように座らせるとゆっくり立ち上がり、その手に黒い刀剣を握りしめる。
「ダマスクが見せてくれた記憶のおかげで原因がわかった。この責任は私が取らなければ示しがつかないッ・・・!」
ツクヨはアズールと戦う蛇女の方へと歩み寄り、血を滴らせる刀剣の剣先を向ける。押収されてしまった武器が見当たらない以上、他に装備できる武器もない。
武器がなければ戦闘力が皆無に等しくなってしまう彼は、その道の力を持った刀剣に頼らざるを得ない。
アズールと蛇女の戦闘の隙を突き接近すると、彼は蛇女の差し向ける尻尾へその刀剣を振るう。
「何じゃ?目を覚ましておったのか。だが、ただの人間なんぞ相手ではない」
「よせ!コイツの鱗は生半可な攻撃では打ち破れなッ・・・」
蛇女の尻尾を覆う鱗は、獣人から奪い取った肉体強化の能力で強化されている。その強度は同じ獣人の力を持つアズールでも打ち破るのに苦労を強いられる程の強度がある。
飛ばせば散弾銃のように、纏えば鋼鉄の鎧となる。今更普通の剣などでは到底歯が立たないだろう。意識を取り戻したのなら、シンを連れ奥の研究所へ向かい、爆弾の設置を任せようと考えていたアズールだったが、ツクヨの振るった一撃は誰もが想像もしていなかった結果を生み出した。
大木のように振るわれる強靭な尻尾に、ツクヨはスキルも魔力も込めることなく、ただ純粋に剣士としての熟練度のみによる一振りを放ったのだ。この時のツクヨが何故ここまで、その手にした刀剣の力を信じることができたのかは分からない。
だが、シンの黒炎を払い除け彼の望みを叶えた不思議な刀剣に、能力以上に剣としての純粋な武器の力に賭けたのだ。
その刃が蛇女の尻尾を止めるなり切断しなければツクヨの命はない。それ程までに蛇女の尻尾の攻撃をまともに受けるのは危険なことだった。
息を呑むような一瞬。まるで時の流れが遅くなったかのように景色がゆっくり見えていた。その中においても、蛇女の尻尾は動く景色の中で最も早く動いていた。
ツクヨの放った一閃は、刀剣の力を最大限に活かせるタイミングで尻尾を迎え撃つ。ゆっくりと刃と鱗がぶつかり合う。剣の力を信じて疑わぬツクヨは目を背けることもなく、その結果を見届ける。
刀身を黒く染め上げたその剥き出しの刀剣を拾い上げると、布都御魂剣を使う時と同じように瞼を閉じ、シンが助かる光景を想像する。
周囲からはアズールと蛇女達が戦う音と、すぐ側で炎が僅かに移動しながら燃えていく音が、視覚という情報を遮断したことにより、より鮮明に聞こえてくる。感覚が研ぎ澄まされるような感覚はある。
しかしそれは刀剣の能力による影響などではなく、希望を見つけた事で冷静さを取り戻しつつあったからだった。変化の訪れぬ状況に、ツクヨは再び心を乱してしまう。
「なっ何で!?何も起こらないじゃないか!」
ツクヨにはあまり馴染みのない事が故に知る由もなかったことだが、例え刀剣自体に備わっている能力が同じであっても、発動条件までもが同じとは限らない。彼の手にする刀剣が何らかの能力を秘めているのは想像がつくが、それは布都御魂剣とは違ったものだった。
「ダマスク!ダメだ、何も起こらない!やっぱりただの鈍じゃないか!?」
「何か別の使い道があるんじゃないか?条件があるとか・・・。心当たりはないのか?」
「心当たりだって!?そんなのッ・・・!」
条件などツクヨにわかる筈もなく、闇雲にさまざまな手段を試していると、何故だかは分からないがシンの身体に灯った黒炎がその勢いを弱めたのだ。直前の行動を思い返してみると、ツクヨはその刀剣を手にしながら魔力を込める事なくシンの身体についた黒炎を放りはらっていたのだ。
「・・・これか!?」
彼が可能性として見出したのは、単純にその刀剣で黒炎を斬るという事だった。これまではスキルや魔力を込めた攻撃、勢いを利用して黒炎を消そうとしていたが、どうやらその刀剣に隠されたカラクリには、余計な力は必要としないようだった。
目を閉じて息を整えると、ツクヨは今一度その一振りに意識を集中させ、シンの身体を燃やす黒炎に渾身の一閃を放つ。すると黒炎は通常の炎のようにツクヨと刀剣の巻き起こした風によって振り払われ鎮火した。
「消えた・・・消えたッ!やったぞシン、炎が消えた!!」
「・・・・・」
黒炎は消えたが、それまでのダメージと疲労で既にシンは意識を失ってしまっていた。すぐに現実世界で生命反応を確かめるように、呼吸と心臓の鼓動を確認する。
弱まってはいるがシンの無事を確認すると、彼の身体を抱え部屋の端の方へと運んでいくツクヨ。シンの窮地を乗り越えたツクヨは、彼を壁にもたれかからせるように座らせるとゆっくり立ち上がり、その手に黒い刀剣を握りしめる。
「ダマスクが見せてくれた記憶のおかげで原因がわかった。この責任は私が取らなければ示しがつかないッ・・・!」
ツクヨはアズールと戦う蛇女の方へと歩み寄り、血を滴らせる刀剣の剣先を向ける。押収されてしまった武器が見当たらない以上、他に装備できる武器もない。
武器がなければ戦闘力が皆無に等しくなってしまう彼は、その道の力を持った刀剣に頼らざるを得ない。
アズールと蛇女の戦闘の隙を突き接近すると、彼は蛇女の差し向ける尻尾へその刀剣を振るう。
「何じゃ?目を覚ましておったのか。だが、ただの人間なんぞ相手ではない」
「よせ!コイツの鱗は生半可な攻撃では打ち破れなッ・・・」
蛇女の尻尾を覆う鱗は、獣人から奪い取った肉体強化の能力で強化されている。その強度は同じ獣人の力を持つアズールでも打ち破るのに苦労を強いられる程の強度がある。
飛ばせば散弾銃のように、纏えば鋼鉄の鎧となる。今更普通の剣などでは到底歯が立たないだろう。意識を取り戻したのなら、シンを連れ奥の研究所へ向かい、爆弾の設置を任せようと考えていたアズールだったが、ツクヨの振るった一撃は誰もが想像もしていなかった結果を生み出した。
大木のように振るわれる強靭な尻尾に、ツクヨはスキルも魔力も込めることなく、ただ純粋に剣士としての熟練度のみによる一振りを放ったのだ。この時のツクヨが何故ここまで、その手にした刀剣の力を信じることができたのかは分からない。
だが、シンの黒炎を払い除け彼の望みを叶えた不思議な刀剣に、能力以上に剣としての純粋な武器の力に賭けたのだ。
その刃が蛇女の尻尾を止めるなり切断しなければツクヨの命はない。それ程までに蛇女の尻尾の攻撃をまともに受けるのは危険なことだった。
息を呑むような一瞬。まるで時の流れが遅くなったかのように景色がゆっくり見えていた。その中においても、蛇女の尻尾は動く景色の中で最も早く動いていた。
ツクヨの放った一閃は、刀剣の力を最大限に活かせるタイミングで尻尾を迎え撃つ。ゆっくりと刃と鱗がぶつかり合う。剣の力を信じて疑わぬツクヨは目を背けることもなく、その結果を見届ける。
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