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遅延性の毒
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何かを探し出す素振りを見せた二人を見て、百足男は笑いを堪えきれないといった様子で口を開く。
「無駄だよ無駄ッ!今更どうこうしようたって時既に遅し。地下に行くまで耐え忍ぼうって算段だったんだろうけど、それまでお前らが保つかなぁ?」
「・・・どういう意味だ?」
次第に身体が動かなくなる事に焦りを見せるシン。すると、男の口ぶりから何かを悟ったのかアズールは全てを理解したかのように、落ち着いた口ぶりで事態を把握出来ていないシンに、彼らが置かれている状況を説明する。
「毒だ・・・」
「毒?そんなものいつの間にッ・・・!」
エイリルの行っていたような毒の霧や、直接相手に毒の状態異常を与える毒々しい攻撃を貰った覚えのないシン。アズールの言うことが本当だとして、いつ身体の中に毒を送り込まれたのかが分からない。
だが、ふとシンの脳裏に百足に接触した場面が思い浮かんだ。毒のエフェクトや状態異常によるステータスの変化はその時無かったが、その場で効果の現れるよっとのではなく遅延性の毒だとしたら、その時に与えられたと考えられる。
「百足の毒は神経毒で、本来その作用は急速に対象の身体に変化を及ぼす。しかし、私の研究で改良を加えた彼らの毒は、一般的に知られている顎から対象に毒を送り込む動作である噛みつきを行わなくても、発生させることが出来るのだよ」
通常ムカデは顎肢と呼ばれる部位から毒を分泌し排出する。これらの器官は全てのムカデに存在しているもので、蜂や蠍などといった尻尾やお尻に毒を持つ代表的な生物の印象に引っ張られ勘違いするケースも多いのではないだろうか。
ムカデの持つ毒の成分には大きく分けて四つで構成されている。その中でも毒の要素を最も強く持つのが、ヒスタミンと呼ばれるアレルギー物質の一つである。他の成分はそのヒスタミンによる作用を浸透しやすくしたり、増幅させるサポート的な効果を持っている。
「数を増やしお前らに差し向けたのはその為だ。実験を重ねた結果として、この百足達は通常より短い寿命となってしまった・・・。体外に分泌される毒素を含む体液が気化し、それを吸い続けることで末梢神経に与える遅延性の毒となっている。要するに、この限られた空間でこの数の百足達を相手にすれば、自ずと地下に辿り着く頃には身体中が毒に侵されているといことだ」
「このリフトは、初めからそういう仕組みだったのかよ・・・」
「なら他の研究員達はどうやって地下へ?これではお前らも・・・」
「あまり間抜けな事を聞くんじゃねぇよ。ここから先の研究施設は特別な者達しか立ち入れねぇ。俺はその“選別“の役割を担ってるんだ。お前らが乗り込んだ時点で、死は決定していた!生きたままで欲しいのはエルフ達だけ。お前らはせいぜい生物実験の糧にでもなってもらおうかぁ!」
百足男が合図を送ると、周囲の百足達が一斉に動き出し、毒により身体の鈍るシンとアズールの元へ集まり出す。必死の抵抗を見せるも、その数と拘束力に直ぐに囚われの身になってしまう。
さっきまで足に巻き付いていた程度だったが、今度は足や腕、胴体までもロープで縛られるかのように巻きつかれる。
近くで見ると、男の言っていたように百足の身体から何やらうっすらと光る液体のようなものが漏れ出していた。目で確認することは出来ないが、これが気化することで毒の空気を体内に取り込んでしまっていたのだ。
「うッ・・・駄目だ、身体に力が・・・」
「・・・・・」
暴れ回るアズールに対し、身動きが取れなくなった事によりおとなしくなってしまったシン。その様子を見て、声を掛けようとするアズールだったが、自身もそれどころではない程に弱体化していた。
肉体強化はすっかり解かれ、自慢の力技は見る影もなくなっていた。百足男は大した苦戦をすることもなく、シンとアズールとの戦闘に勝利を収めた。
百足を巻き付かせた二人の身体を床に並べ、男は余分な百足達を引き上げさせる。そして自身も、取り逃したエルフ達を捕らえに向かう為、その身体をまるで沼に沈めるかのように床へと溶け出して消えていった。
それまで蠢いていた百足の音やシン達による戦闘音は一気に止み、リフトが下へと降りていく音だけが部屋の中に響き渡る。主人が離れても百足達の拘束が緩むことはなく、がっちりと二人の肉体を縛り上げていた。
そして何か大きな物音と振動がリフトに伝わる。どうやらリフトは地下の研究施設へと到着したようだった。閉じていた入口側とは反対の扉が開く。そこに立っていたのは、白衣を着た一人の女性研究員だった。
「相変わらず気色の悪い部屋だねぇ・・・。ほら、さっさとそいつらをこっちに寄越しな」
扉は開くも、中に入ろうとしないその女は、シン達を拘束する百足達を呼び寄せ、リフトから下ろすように命じる。百足達は上半身の拘束を解きながら床を這い、二人をリフトの外へと運び出し再び部屋の中へと戻っていった。
追い払うような仕草を女がすると、リフトの扉は閉まりもう一度地上へ向けて動き出した。
「さて、まずはコイツらがどこまで知ってるかだね。ホラ!アンタ達、さっさと実験体を運びな!」
女が声を上げると、薄暗い通路の奥から同じく白衣を着た女達が数人姿を現す。だがその姿は異形で、上半身は人の形をしているのだが下半身に足は無く、代わり蛇の下半身をうねらせ彼らの前に現れた。
「無駄だよ無駄ッ!今更どうこうしようたって時既に遅し。地下に行くまで耐え忍ぼうって算段だったんだろうけど、それまでお前らが保つかなぁ?」
「・・・どういう意味だ?」
次第に身体が動かなくなる事に焦りを見せるシン。すると、男の口ぶりから何かを悟ったのかアズールは全てを理解したかのように、落ち着いた口ぶりで事態を把握出来ていないシンに、彼らが置かれている状況を説明する。
「毒だ・・・」
「毒?そんなものいつの間にッ・・・!」
エイリルの行っていたような毒の霧や、直接相手に毒の状態異常を与える毒々しい攻撃を貰った覚えのないシン。アズールの言うことが本当だとして、いつ身体の中に毒を送り込まれたのかが分からない。
だが、ふとシンの脳裏に百足に接触した場面が思い浮かんだ。毒のエフェクトや状態異常によるステータスの変化はその時無かったが、その場で効果の現れるよっとのではなく遅延性の毒だとしたら、その時に与えられたと考えられる。
「百足の毒は神経毒で、本来その作用は急速に対象の身体に変化を及ぼす。しかし、私の研究で改良を加えた彼らの毒は、一般的に知られている顎から対象に毒を送り込む動作である噛みつきを行わなくても、発生させることが出来るのだよ」
通常ムカデは顎肢と呼ばれる部位から毒を分泌し排出する。これらの器官は全てのムカデに存在しているもので、蜂や蠍などといった尻尾やお尻に毒を持つ代表的な生物の印象に引っ張られ勘違いするケースも多いのではないだろうか。
ムカデの持つ毒の成分には大きく分けて四つで構成されている。その中でも毒の要素を最も強く持つのが、ヒスタミンと呼ばれるアレルギー物質の一つである。他の成分はそのヒスタミンによる作用を浸透しやすくしたり、増幅させるサポート的な効果を持っている。
「数を増やしお前らに差し向けたのはその為だ。実験を重ねた結果として、この百足達は通常より短い寿命となってしまった・・・。体外に分泌される毒素を含む体液が気化し、それを吸い続けることで末梢神経に与える遅延性の毒となっている。要するに、この限られた空間でこの数の百足達を相手にすれば、自ずと地下に辿り着く頃には身体中が毒に侵されているといことだ」
「このリフトは、初めからそういう仕組みだったのかよ・・・」
「なら他の研究員達はどうやって地下へ?これではお前らも・・・」
「あまり間抜けな事を聞くんじゃねぇよ。ここから先の研究施設は特別な者達しか立ち入れねぇ。俺はその“選別“の役割を担ってるんだ。お前らが乗り込んだ時点で、死は決定していた!生きたままで欲しいのはエルフ達だけ。お前らはせいぜい生物実験の糧にでもなってもらおうかぁ!」
百足男が合図を送ると、周囲の百足達が一斉に動き出し、毒により身体の鈍るシンとアズールの元へ集まり出す。必死の抵抗を見せるも、その数と拘束力に直ぐに囚われの身になってしまう。
さっきまで足に巻き付いていた程度だったが、今度は足や腕、胴体までもロープで縛られるかのように巻きつかれる。
近くで見ると、男の言っていたように百足の身体から何やらうっすらと光る液体のようなものが漏れ出していた。目で確認することは出来ないが、これが気化することで毒の空気を体内に取り込んでしまっていたのだ。
「うッ・・・駄目だ、身体に力が・・・」
「・・・・・」
暴れ回るアズールに対し、身動きが取れなくなった事によりおとなしくなってしまったシン。その様子を見て、声を掛けようとするアズールだったが、自身もそれどころではない程に弱体化していた。
肉体強化はすっかり解かれ、自慢の力技は見る影もなくなっていた。百足男は大した苦戦をすることもなく、シンとアズールとの戦闘に勝利を収めた。
百足を巻き付かせた二人の身体を床に並べ、男は余分な百足達を引き上げさせる。そして自身も、取り逃したエルフ達を捕らえに向かう為、その身体をまるで沼に沈めるかのように床へと溶け出して消えていった。
それまで蠢いていた百足の音やシン達による戦闘音は一気に止み、リフトが下へと降りていく音だけが部屋の中に響き渡る。主人が離れても百足達の拘束が緩むことはなく、がっちりと二人の肉体を縛り上げていた。
そして何か大きな物音と振動がリフトに伝わる。どうやらリフトは地下の研究施設へと到着したようだった。閉じていた入口側とは反対の扉が開く。そこに立っていたのは、白衣を着た一人の女性研究員だった。
「相変わらず気色の悪い部屋だねぇ・・・。ほら、さっさとそいつらをこっちに寄越しな」
扉は開くも、中に入ろうとしないその女は、シン達を拘束する百足達を呼び寄せ、リフトから下ろすように命じる。百足達は上半身の拘束を解きながら床を這い、二人をリフトの外へと運び出し再び部屋の中へと戻っていった。
追い払うような仕草を女がすると、リフトの扉は閉まりもう一度地上へ向けて動き出した。
「さて、まずはコイツらがどこまで知ってるかだね。ホラ!アンタ達、さっさと実験体を運びな!」
女が声を上げると、薄暗い通路の奥から同じく白衣を着た女達が数人姿を現す。だがその姿は異形で、上半身は人の形をしているのだが下半身に足は無く、代わり蛇の下半身をうねらせ彼らの前に現れた。
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