World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,076 / 1,646

静かに蝕む

しおりを挟む
 だが同時に、彼らは一つの結論にも至っていた。このリフトが地下を目指し続けているのなら、到着し次第リフトを離れ、そのまま無視して研究所の破壊を試みるというものだった。

 「本体の謎が分からないのなら、このまま地下に行ってしまうのも一つの手じゃないか・・・?」

 「隠密とは程遠くなってしまったな」

 「元から気付かれていた節はあった。こっちも抑える必要が無いのなら、大暴れしてやろうじゃないか」

 「悪くない提案だな・・・。寧ろそうしたいと思っていたところだ。やはり俺に大人しく潜入するなど、性に合っていなかったようだ」

 施設への隠しポータルで受けた獣達による襲撃。あれはシン達が施設を目指している事を知っているからこそ差し向けられた刺客。

 そして待ち伏せしていたかのように現れた百足男。シン達は騒ぎを起こす事なく潜入し、爆弾を仕掛け施設を破壊するつもりだったが、実際は彼らの潜入を察知した施設側の者達によって招き入れられたのかもしれない。

 転移ポータルでは襲ってきたのに、施設に到着してから妙なほど警戒が薄いのも、そういった意図があったとするならば納得がいく。

 ましてや、今度は攫ってくるというリスクを犯す必要もなく、実験体が自らやってくるとなれば突然小隊程の人数が一辺に姿を消しても、寧ろこれまで以上に施設を探そうという者が現れなくなる噂が広まるかもしれない。

 「百足達を切断しなくなったか・・・。まぁこれだけ増えれば馬鹿でも気がつくか。だがこれで終わるほど、つまらない男ではないぞ?俺は・・・」

 戦闘手段を変え始めたシン達の動きを察したのか、百足男は何やら不穏な笑みを浮かべながら、百足達へ新たな指令を送る。

 「打撃に耐性はあるが、決して通用しない訳ではない。要するに千切れなければいいんだ。殴り甲斐がある。コイツらには今まで溜まった鬱憤を晴らさせてもらうッ!」

 流石の獣人族といったところか。アズールの拳は次々に差し向けられる百足を悉く吹き飛ばし、文字通り虫の息へと追い込んでいく。

 「力こそ全てと言わんばかりの戦いだな。・・・俺は俺に出来には事を・・・」

 シンは勇ましいアズールの姿が少し羨ましく感じた。自分にも耐性などお構いなしにダメージを与えられる力があればと。他者の能力に魅力を感じ、羨ましく思うことは少なくなかった。

 アサシンのクラスを後悔している訳ではない。しかし、どうしても影の立役者となるクラスであるが故に、その力は目立つことなく称賛されることもない。

 元々目立つこと自体に抵抗はあるが、誰にも称賛されず認められない努力に果たして価値はあるのだろうかと思うことが時々あった。

 ゲームとしてWoFを遊んでいた時も、前線で戦うクラスや後方から大技を放つクラスに比べ、目に見える活躍が少ないクラスというものは評価されずらかった。

 故に以前に所属していたこともあるギルドやクランでも、同じように脇役となるクラスに就いていた人達が、メインのクラスを変更したり、以前のクラスから間反対の戦闘タイプに変わっていたという事も何度も経験していたシン。

 《シンさんも、クラスを変えてみては?それかダブルクラスで気になるクラスに就いてみるとか》

 《いやぁ~アサシンのクラスに慣れるのに精一杯で》

 実際、発動タイミングの難しいスキルや他のスキルと組み合わせなければ有効に発動しないものなどもある。シンがそれらに慣れるまで、他のクラスに手を出さなかったのも事実だが、表立って活躍するクラスよりも、目立たなくとも確実に役割を全うする影の立役者に憧れを抱いていたのが大きい。

 嘗ての記憶を思い出したシンは、目の前のやるべき事に集中するため、目を閉じて首を大きく左右に振った。そして迫る百足を分からな早い身のこなしで躱すと、壁に張り付き投擲用の槍を取り出す。

 飛び掛かる百足を避けると同時に飛び立つと、宙で身体を回転させながら手にした槍を勢いよく投げ放つ。槍は百足の身体を突き抜け、杭のようにその場に百足の身体を固定させた。

 「なるほど、中々器用な事をする。そうやって俺のサンドバックを増やしていってくれ!」

 「言われなくてもッ・・・!」

 持ち得るアイテムをふんだんに使い、シンは百足を倒すのではなくその場に固定していく。固定された百足にアズールが打撃を与え、虫の息にする。

 「数が多いッ・・・!人間!お前のそれは弾数は足りるのか?」

 「足りないのなら作り出す!」

 数で押し寄せる百足に、シンの手持ちの槍だけでは数が足りない。そこでシンがとった行動は、アズールによって弱らされ動くかなくなった百足を固定する槍を短剣で切断し、先端を鋭利に削り擬似的な槍を作り出し、更に百足を貫いていく。

 不穏なのは、百足を差し向ける以外に表立った行動を起こさない百足男だった。新たな策でシン達の妨害をしてこないのは幸いだが、動かないのがかえって何かを企んでいそうで安心できない。

 そんなシン達の不安は現実のものとなる。飛び回っていたシンとアズールの足が突然重くなったかのように鈍りだしたのだ。足の様子を見ても怪我をしている訳でもなく、ただの疲労くらいに考えていたが、それほど動いていた訳でもないのに息切れや眩暈のような症状も現れ始めたのだ。

 互いに相手に心配をかけまいと口にはしなかった二人だが、不意に視界に入った互いの動きが先程までに比べて鈍っているように見えた。そこでこれは自分だけに引き起っているものではないことを悟ると、何か他に原因があるのではと周囲に視線を送る。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

転生貴族の異世界無双生活

guju
ファンタジー
神の手違いで死んでしまったと、突如知らされる主人公。 彼は、神から貰った力で生きていくものの、そうそう幸せは続かない。 その世界でできる色々な出来事が、主人公をどう変えて行くのか! ハーレム弱めです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

ちょっと神様!私もうステータス調整されてるんですが!!

べちてん
ファンタジー
アニメ、マンガ、ラノベに小説好きの典型的な陰キャ高校生の西園千成はある日河川敷に花見に来ていた。人混みに酔い、体調が悪くなったので少し離れた路地で休憩していたらいつの間にか神域に迷い込んでしまっていた!!もう元居た世界には戻れないとのことなので魔法の世界へ転移することに。申し訳ないとか何とかでステータスを古龍の半分にしてもらったのだが、別の神様がそれを知らずに私のステータスをそこからさらに2倍にしてしまった!ちょっと神様!もうステータス調整されてるんですが!!

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...