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アイドルの秘密
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ステージ上で歌う彼女の足元から、黒い靄が湯水のように湧き出る。すかさず天臣は腰に携えた刀を引き抜き、目にも止まらぬ抜刀術で斬撃を放つ。
放たれた二つの斬撃から生じた衝撃波は、彼女の傍を擦り抜けるように通り過ぎていき、靄を両断して打ち払った。
「ひゅ~!随分とスリルのある攻撃だねぇ~。当たってたらどうするつもりだったの?」
「・・・当たることはない」
「大した自信だね。アンタは自信家なのかな?」
イルの減らず口を止めるように、身体を反転させた天臣は素早い斬撃を、今度は余裕を見えせるイルに対して数発放つ。
だが、素早い身のこなしは彼も同じだった。飛んで来る衝撃波を、まるで軌道が見えているかのように軽く避けてみせ、その内の一つを裏拳で弾き飛ばす。
本当に痛いのかは怪しいモノだが、イルは手を下に向けて振り痛そうな素振りを見せていた。
「おぉ~こわっ!こんなの真面に食らったら、真っ二つになっちゃうよ!」
男のふざけた態度には目もくれず、天臣は周囲の状況を鋭い眼光で、注意深く観察していた。
何故この男は自分の斬撃を最も容易く防いで見せたのか。それを探るまでは迂闊に近づくのは危険だと判断したのだ。
ステージ上には友紀の足元へ迫っていた靄が、イルの方から地を這うように伸びていたようだ。その殆どが天臣の斬撃によって吹き飛ばされてしまったが、まだ微かに残留しているのが分かる。
この男の攻撃や能力に、この“靄“が関係していることは間違いない。
WoFでの経験上、モンスターや特定の人物の中には、身体が水でできていたり炎でできている者と、戦闘をしたことがあった。その者達は、普段は実体のような身体を維持しているが、攻撃を食らった際や移動する時に、身体の一部を水や炎に変えて避けたり、素早く移動したりといった行動に出た。
今、彼が目にしている光景には、それに近いものを感じていた。もしかしたらこのイルという男。本体の方も靄のように変化させることが可能なのではないだろうか。
仮説を立てた天臣は、刀の鞘でステージの表面を砕き、かけらを巻き上げると、そのまま身体を一回転させて刀を振るう。刀の風圧で無数のかけらを弾丸のように吹き飛ばすと、イルがどう出るかを観察した。
「これはちょっと避けきれないかな?」
そう言うとイルは、片手を天臣が吹き飛ばしたかけらの方へ向ける。すると、その手から黒い靄が噴き出し、天臣からの視界を遮断するように広がっていく。
靄にイルの姿を隠されてしまった天臣は、すぐに別の場所に靄が発生していないかどうかを確認する。真っ先に確認したのは、友紀の身の安全だった。しかし、彼女の周りに靄は見当たらない。ただ単に、身を守る為だけの盾に過ぎなかったのか。
すると、ふと視界の端に映った靄に視線が向く。靄が現れたのは天臣の足元。イルの狙いは天臣本人だった。
彼女を守るという意思を確認したイルは、それを利用し天臣に揺さぶりを掛けた。守る対象者が狙われれば、彼は必ず先にその対象者を気にかけると。そしてまんまとその策に掛かってしまった。
僅かな一瞬だった。友紀に視線を向けてから自分の足元に迫る靄に気づくまで、数秒も経っていない。しかしそれで十分だった。あくまでイルの狙いは、ステージ上で歌う友紀に他ならない。
だが、彼女をターゲットにするには、まずその護衛についている天臣を引き剥がさなければならなかった。
天臣の足元に集まった靄は、彼の足に絡みつき動きを封じる。見た目は煙のようだが、いくら力を尽くそうと天臣一人の力ではどうにもならなかった。
「くッ・・・!まんまとやられたッ!友紀ッ!!」
彼の一声と共に、会場やステージ上の演出が変わる。それはまるで、アイドル岡垣友紀が何人かに分かれ、演出で現れた仮想のステージ上に現れたのだ。会場のボルテージは更に上がる。
大歓声の中、元々の彼女のいたステージ上では、あれはワイヤーだろうか何かに吊るされるよ飛び上がっていた。衣装も何処かさっきまでの物とは変わっているようにも見える。
そして、各ステージ上に現れた彼女の衣装も、それぞれ変わっていた。
「あれはッ・・・デビュー当時の衣装に、それにあっちはフェスの時の・・・!」
ステージの傍で倒れる蒼空は、友紀の衣装を見てすぐにそれが何処で着られていた衣装なのか分かった。このライブは彼女にとっても特別なライブ。過去のライブやイベントを振り返る意味の演出も交えているのだろう。
靄は彼女を追って伸びて行ったが、どう言うわけか友紀の動きはまるで“彼ら“のように鮮やかなものだったのだ。
「えっ・・・?」
蒼空が彼女の妙な動きに疑いの目を向けていた時、彼のその疑問は晴れて現実のものとなった。
「武臣!大丈夫なの?」
驚きだった。蒼空の予想通り、岡垣友紀は天臣やイル、それにWoFの蒼空の姿を認識していたのだ。
放たれた二つの斬撃から生じた衝撃波は、彼女の傍を擦り抜けるように通り過ぎていき、靄を両断して打ち払った。
「ひゅ~!随分とスリルのある攻撃だねぇ~。当たってたらどうするつもりだったの?」
「・・・当たることはない」
「大した自信だね。アンタは自信家なのかな?」
イルの減らず口を止めるように、身体を反転させた天臣は素早い斬撃を、今度は余裕を見えせるイルに対して数発放つ。
だが、素早い身のこなしは彼も同じだった。飛んで来る衝撃波を、まるで軌道が見えているかのように軽く避けてみせ、その内の一つを裏拳で弾き飛ばす。
本当に痛いのかは怪しいモノだが、イルは手を下に向けて振り痛そうな素振りを見せていた。
「おぉ~こわっ!こんなの真面に食らったら、真っ二つになっちゃうよ!」
男のふざけた態度には目もくれず、天臣は周囲の状況を鋭い眼光で、注意深く観察していた。
何故この男は自分の斬撃を最も容易く防いで見せたのか。それを探るまでは迂闊に近づくのは危険だと判断したのだ。
ステージ上には友紀の足元へ迫っていた靄が、イルの方から地を這うように伸びていたようだ。その殆どが天臣の斬撃によって吹き飛ばされてしまったが、まだ微かに残留しているのが分かる。
この男の攻撃や能力に、この“靄“が関係していることは間違いない。
WoFでの経験上、モンスターや特定の人物の中には、身体が水でできていたり炎でできている者と、戦闘をしたことがあった。その者達は、普段は実体のような身体を維持しているが、攻撃を食らった際や移動する時に、身体の一部を水や炎に変えて避けたり、素早く移動したりといった行動に出た。
今、彼が目にしている光景には、それに近いものを感じていた。もしかしたらこのイルという男。本体の方も靄のように変化させることが可能なのではないだろうか。
仮説を立てた天臣は、刀の鞘でステージの表面を砕き、かけらを巻き上げると、そのまま身体を一回転させて刀を振るう。刀の風圧で無数のかけらを弾丸のように吹き飛ばすと、イルがどう出るかを観察した。
「これはちょっと避けきれないかな?」
そう言うとイルは、片手を天臣が吹き飛ばしたかけらの方へ向ける。すると、その手から黒い靄が噴き出し、天臣からの視界を遮断するように広がっていく。
靄にイルの姿を隠されてしまった天臣は、すぐに別の場所に靄が発生していないかどうかを確認する。真っ先に確認したのは、友紀の身の安全だった。しかし、彼女の周りに靄は見当たらない。ただ単に、身を守る為だけの盾に過ぎなかったのか。
すると、ふと視界の端に映った靄に視線が向く。靄が現れたのは天臣の足元。イルの狙いは天臣本人だった。
彼女を守るという意思を確認したイルは、それを利用し天臣に揺さぶりを掛けた。守る対象者が狙われれば、彼は必ず先にその対象者を気にかけると。そしてまんまとその策に掛かってしまった。
僅かな一瞬だった。友紀に視線を向けてから自分の足元に迫る靄に気づくまで、数秒も経っていない。しかしそれで十分だった。あくまでイルの狙いは、ステージ上で歌う友紀に他ならない。
だが、彼女をターゲットにするには、まずその護衛についている天臣を引き剥がさなければならなかった。
天臣の足元に集まった靄は、彼の足に絡みつき動きを封じる。見た目は煙のようだが、いくら力を尽くそうと天臣一人の力ではどうにもならなかった。
「くッ・・・!まんまとやられたッ!友紀ッ!!」
彼の一声と共に、会場やステージ上の演出が変わる。それはまるで、アイドル岡垣友紀が何人かに分かれ、演出で現れた仮想のステージ上に現れたのだ。会場のボルテージは更に上がる。
大歓声の中、元々の彼女のいたステージ上では、あれはワイヤーだろうか何かに吊るされるよ飛び上がっていた。衣装も何処かさっきまでの物とは変わっているようにも見える。
そして、各ステージ上に現れた彼女の衣装も、それぞれ変わっていた。
「あれはッ・・・デビュー当時の衣装に、それにあっちはフェスの時の・・・!」
ステージの傍で倒れる蒼空は、友紀の衣装を見てすぐにそれが何処で着られていた衣装なのか分かった。このライブは彼女にとっても特別なライブ。過去のライブやイベントを振り返る意味の演出も交えているのだろう。
靄は彼女を追って伸びて行ったが、どう言うわけか友紀の動きはまるで“彼ら“のように鮮やかなものだったのだ。
「えっ・・・?」
蒼空が彼女の妙な動きに疑いの目を向けていた時、彼のその疑問は晴れて現実のものとなった。
「武臣!大丈夫なの?」
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