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憧れの存在と
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アイドル岡垣友紀は、WoFのユーザーであり覚醒者だった。やはり蒼空の見間違いではなかった。彼女は確かに、ライブの途中周りで戦う蒼空やシン達のことを視界に入れていた。
会場の傍て戦うこともあったにも関わらず、彼女はそれを表情や身体に出すことなく、ライブを続行し続けていたのだった。
それは彼女や天臣が、数々のイベント事やライブで、周囲の同じ現象に苛まれている者達に気づかれないようにする為に身につけた、努力の成果と言えよう。
ファンのことや、会場を貸してくれた者達、そしてスタッフらに迷惑や心配を掛けないようにという、友紀の強い意志からこのような強行を行なっていた。
無論、何度かライブ中に襲われそうになったり、イベントに乱入されることもあった。だが、どうしてもという時は天臣が対処し、彼のみではどうしようもなく、且つ友紀に危険が迫った時は、今のように3Dホログラムを用いた、リアルタイムで反映される映像データを使って、現実世界に生きる者達目を欺いていた。
とりわけライブは、それが行いやすい部類に入る。彼女のライブの醍醐味は、その映像技術によるライブ演出と、共に異世界を体験しているかのような、様々な機材による感触や匂いなどを表現する、4D技術の演出に頼る部分が大きかった。
ファンとも直接触れ合う機会もない為、ホログラムによるファンタジーな衣装や、現実世界にはない物を使った演出ができる。そして、会場の何処にいようと彼女の歌う姿がお目にかかれるのが、座席による優劣の差をあまり感じさせないと評判だった。
勿論、生の彼女の歌声を聞けるのは、最も席の近い者達に限られるが、WoFのキャラクターという姿を得てからは、3Dホログラムに切り替わったタイミングで会場を移動し、出来るだけ多くのファンの側に寄るというファンサービスに勤めていた。
しかし、これは彼女らにとっての奥の手。ましてや今回のように、ギリギリまで接近を許してしまったのは、今までに経験したことがなかった。
その為、映像に切り替わるタイミングと、イルによる攻撃によるタイミングが噛み合わず、なかなか切り替わることが出来なかった。だが、友紀は初めてにしては上手くいった方でしょと、天臣に向かって得意げな表情を見せる。
安堵したように息を吐いた天臣は、すぐに自身の足に絡みつく靄を、寸分の狂いもなく足から引き剥がすように刀を振るう。
イルの靄を華麗に避けた友紀は、そのまま倒れる蒼空の元へと駆け寄って行く。
「ごめんなさい。今まで貴方達を利用するような真似をしてしまって・・・」
蒼空や親衛隊の者達が、イベント会場やライブで代わりに戦っていてくれた事は、彼女もずっと見ていたのだ。彼らの行動は、一方的なものではなく、確実に彼女の助けになっていた。
「あ・・・いえ、そんな・・・とんでもないです!」
憧れの存在が、今目の前で自分のことを見てくれている。そして何より、自分達の行動が彼女の為になっていたことを知った蒼空は、驚きか嬉しさのあまりか、呆気に取られたかのように頭が真っ白になってしまった。
今、目の前で起きているのは現実なのだろうか。いや、現実というには語弊があるが、だが確実に彼の体験していることは、夢や幻なんかではなく、事実としてそこにあった。
「そして、厚がましいようですけれど、力を貸して頂けると助かります・・・」
蒼空にWoFの回復アイテムを使用しながら、恐る恐る尋ねる友紀。大切なファンである人達を巻き込みたくない、心配かけたくないと、彼女らは命の危険が迫るまで行動に移すことが出来なかった。
その一方で、少数派である覚醒者のファンである蒼空達を、身代わりのようにしてしまっていたことも事実。彼らの善行に甘え、その影に隠れなければならなかったことを、彼女はいつも後ろめたく感じていた。
「そんなッ!こんなことまでして頂いて・・・。勿論、力になりますよ!」
「よかった・・・。心強いです、“蒼空“さん」
アイドルの岡垣友紀が、数多いるファンの一人に過ぎない自分の名前を口にしたことに、蒼空は強烈な衝撃を受ける。だがそれは、彼にとってマイナスではなかった。寧ろその逆。自分の名前を認知していてくれたことに、彼の気持ちは昂った。
「どうして俺の名前を・・・?」
「それは・・・いつも私の側で戦っていてくれたではありませんか」
涙が溢れるほど嬉しかった。感激とはまさにこのことだと、この時の蒼空は強く感じていた。
彼女のアイテムのおかげで戦えるまでに回復した蒼空は、身体を動かし異変がないことを確かめる。彼の無事な姿を見て、友紀も安堵したようだった。
「それで友紀さん、あの男に見覚えは?何故あいつは貴方達を狙って・・・?」
「・・・分かりません。私達も、あの者と会うのは初めてです・・・。心当たりもなければ、ましてや“人“に襲われるのも初めてで・・・」
彼女やマネージャーの天臣がいつからWoFをやっていたのかは定かではないが、恐らくアイドルとして活躍し始めてからは殆どやっていなかったであろうと予想する蒼空。
忙しい身で、ゲームを嗜む時間すらなかっただろう。それに彼女がライブやファンとの交流に全力を注いでいる姿は、蒼空を含め根っからのファンであれば周知の事実。
自分のプライベートな時間まで割いて、練習や予習をしているに違いない。そんな彼女らが、今現実世界に起きているこの事態に疎くても無理もない話だ。
会場の傍て戦うこともあったにも関わらず、彼女はそれを表情や身体に出すことなく、ライブを続行し続けていたのだった。
それは彼女や天臣が、数々のイベント事やライブで、周囲の同じ現象に苛まれている者達に気づかれないようにする為に身につけた、努力の成果と言えよう。
ファンのことや、会場を貸してくれた者達、そしてスタッフらに迷惑や心配を掛けないようにという、友紀の強い意志からこのような強行を行なっていた。
無論、何度かライブ中に襲われそうになったり、イベントに乱入されることもあった。だが、どうしてもという時は天臣が対処し、彼のみではどうしようもなく、且つ友紀に危険が迫った時は、今のように3Dホログラムを用いた、リアルタイムで反映される映像データを使って、現実世界に生きる者達目を欺いていた。
とりわけライブは、それが行いやすい部類に入る。彼女のライブの醍醐味は、その映像技術によるライブ演出と、共に異世界を体験しているかのような、様々な機材による感触や匂いなどを表現する、4D技術の演出に頼る部分が大きかった。
ファンとも直接触れ合う機会もない為、ホログラムによるファンタジーな衣装や、現実世界にはない物を使った演出ができる。そして、会場の何処にいようと彼女の歌う姿がお目にかかれるのが、座席による優劣の差をあまり感じさせないと評判だった。
勿論、生の彼女の歌声を聞けるのは、最も席の近い者達に限られるが、WoFのキャラクターという姿を得てからは、3Dホログラムに切り替わったタイミングで会場を移動し、出来るだけ多くのファンの側に寄るというファンサービスに勤めていた。
しかし、これは彼女らにとっての奥の手。ましてや今回のように、ギリギリまで接近を許してしまったのは、今までに経験したことがなかった。
その為、映像に切り替わるタイミングと、イルによる攻撃によるタイミングが噛み合わず、なかなか切り替わることが出来なかった。だが、友紀は初めてにしては上手くいった方でしょと、天臣に向かって得意げな表情を見せる。
安堵したように息を吐いた天臣は、すぐに自身の足に絡みつく靄を、寸分の狂いもなく足から引き剥がすように刀を振るう。
イルの靄を華麗に避けた友紀は、そのまま倒れる蒼空の元へと駆け寄って行く。
「ごめんなさい。今まで貴方達を利用するような真似をしてしまって・・・」
蒼空や親衛隊の者達が、イベント会場やライブで代わりに戦っていてくれた事は、彼女もずっと見ていたのだ。彼らの行動は、一方的なものではなく、確実に彼女の助けになっていた。
「あ・・・いえ、そんな・・・とんでもないです!」
憧れの存在が、今目の前で自分のことを見てくれている。そして何より、自分達の行動が彼女の為になっていたことを知った蒼空は、驚きか嬉しさのあまりか、呆気に取られたかのように頭が真っ白になってしまった。
今、目の前で起きているのは現実なのだろうか。いや、現実というには語弊があるが、だが確実に彼の体験していることは、夢や幻なんかではなく、事実としてそこにあった。
「そして、厚がましいようですけれど、力を貸して頂けると助かります・・・」
蒼空にWoFの回復アイテムを使用しながら、恐る恐る尋ねる友紀。大切なファンである人達を巻き込みたくない、心配かけたくないと、彼女らは命の危険が迫るまで行動に移すことが出来なかった。
その一方で、少数派である覚醒者のファンである蒼空達を、身代わりのようにしてしまっていたことも事実。彼らの善行に甘え、その影に隠れなければならなかったことを、彼女はいつも後ろめたく感じていた。
「そんなッ!こんなことまでして頂いて・・・。勿論、力になりますよ!」
「よかった・・・。心強いです、“蒼空“さん」
アイドルの岡垣友紀が、数多いるファンの一人に過ぎない自分の名前を口にしたことに、蒼空は強烈な衝撃を受ける。だがそれは、彼にとってマイナスではなかった。寧ろその逆。自分の名前を認知していてくれたことに、彼の気持ちは昂った。
「どうして俺の名前を・・・?」
「それは・・・いつも私の側で戦っていてくれたではありませんか」
涙が溢れるほど嬉しかった。感激とはまさにこのことだと、この時の蒼空は強く感じていた。
彼女のアイテムのおかげで戦えるまでに回復した蒼空は、身体を動かし異変がないことを確かめる。彼の無事な姿を見て、友紀も安堵したようだった。
「それで友紀さん、あの男に見覚えは?何故あいつは貴方達を狙って・・・?」
「・・・分かりません。私達も、あの者と会うのは初めてです・・・。心当たりもなければ、ましてや“人“に襲われるのも初めてで・・・」
彼女やマネージャーの天臣がいつからWoFをやっていたのかは定かではないが、恐らくアイドルとして活躍し始めてからは殆どやっていなかったであろうと予想する蒼空。
忙しい身で、ゲームを嗜む時間すらなかっただろう。それに彼女がライブやファンとの交流に全力を注いでいる姿は、蒼空を含め根っからのファンであれば周知の事実。
自分のプライベートな時間まで割いて、練習や予習をしているに違いない。そんな彼女らが、今現実世界に起きているこの事態に疎くても無理もない話だ。
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