World of Fantasia

神代 コウ

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油断と余裕

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 それは今までの攻防の中で、シルヴィが弾いたロッシュの短剣の数々だった。それが突然彼女の元へ集まり刃を突き立てた。当然、ナイフが一人でに飛んで来るなどあり得ることではない。そこには必ず何者かの細工が施されている事は、間違いない。

 「なッ・・・何故・・・!これは・・・?」

 力無く膝から崩れ落ちたシルヴィが両腕をつっかえ棒の様にして、ロッシュの前で床に平伏すことを拒否する。

 だが、ロッシュの短剣にはシンの身体を動けなくしたものと同じ、麻痺の効果がある状態異常のアイテムが使用されている。それが幾つも刺さっているとなれば、効果が身体を蝕むのも早くなる。

 そんな状態で腕を突き立てられているだけでも、十分常軌を逸した精神力であることに変わりない。それとも、この踏ん張りもグレイスのバフによるものなのか、それは分からない。

 シルヴィの攻撃で負傷した部位を手で押さえながら、ロッシュは暫く沈黙していたが、ふと何ごともなかったかの様に立ち上がり、シルヴィの元へゆっくりと歩み寄り、目の前で止まった。

 ダメージと麻痺を引き起こす毒で痺れる身体で踏ん張り、首と視線をロッシュへ向ける様に持ち上げる。そんな彼女にロッシュは、顔面に向かってゆっくり後ろへ上げた足を振り子の様に下ろして蹴りを入れる。

 シルヴィの身体が側面へ転がり身体を横にして止まると、ロッシュは足で彼女の肩を蹴り上げて仰向けにする。

 「がはッ・・・!」

 「グレイスの戦斧がこの程度だとは・・・少々拍子抜けだったな」

 倒れるシルヴィの肩を踏みつけ、彼女のプライド諸共踏み躙るロッシュ。見下す様な目でシルヴィを眺める。嫌味にもグリグリと爪先に力を込め、傷口を抉ぐる様に動かす。

 「お前の様な、突っ込むだけしか能の無い奴を相手にするのは容易い。グレイスが何故お前を右腕として使っているのか、俺には到底理解できん」

 「テッ・・・テメェ・・・!姉さんを馬鹿にする気かッ・・・!?」

 彼女の態度を見て、呆れた様子で大きくため息を吐くと、ロッシュ自身がよく使う戦闘の手段にいついて彼女に語り出した。

 「負傷した相手を見ると、疑いもせず畳みかけようといてくる奴がいるが・・・そいつらを狩るのが何とも容易で楽しいんだ。好機と見るや否や、防御や疑問をかなぐり捨てて馬鹿みてぇに向かってくる。そいつらを罠にかけて、形勢を逆転させ絶望させるのが、これがまた癖になるんだ・・・。丁度お前みてぇになッ!」

 それに加え、ロッシュの罠は難解。戦闘を外から観戦していたシンでも、直接ロッシュと戦っていたシルヴィでさへ、弾いた短剣がトラップに使われるなど想像もしていなかったのだから。

 粘りを見せた彼女の健闘も虚しく、身体は動かなくなり遂には力が入らなくなる。シンと同様、無防備になったシルヴィに何度も蹴りを入れるロッシュ。この時ばかりは、グレイスのバフが作用していたことで防御力や体力が増加し、気絶することを許さずロッシュの娯楽が長引いてしまうという結果に繋がってしまった。

 テュルプ・オーブで見ていたシルヴィの体力が徐々に削られていき、ある時を境に一気にグッと下がり始めた。それに気がついたシンが彼女のステータスを確認すると、先程までよりも能力値が低下しているのがわかった。

 それが意味するもの、つまりグレイスによるバフの効果が切れたのだ。能力が上昇していた状態ですら、ロッシュを倒し切れなかった二人が、この危機的状況で逆転出来る未来を導き出すことが、シンには出来なかった。

 「ん?・・・ダメージの入りが良くなったか?・・・ククク、如何やらバフが切れたみてぇだな。丁度鬱憤も晴れた・・・ここらで終わりにしてやるか」

 ロッシュがぐったりとするシルヴィに、落ちている短剣を拾い上げ、喉に突き刺そうと大きく振り上げる。

 「死ねッ・・・!」

 全身を使い、勢いを乗せた刃先を彼女の喉元に突き立てようとした時、触手のように精密に狙いを定めた鞭がロッシュの手から短剣を取り上げる。驚いたロッシュが、直ぐ様顔を上げ周囲を確認すると、一人の人物がロッシュから取り上げたと思しき短剣を手に、こちらを見ていた。

 「散々アタシの仲間達を可愛がってくれたみたいだねぇ・・・ロッシュ。まさか、アタシのことを忘れていたんじゃぁないだろうねぇ?」

 そこにはロッシュの短剣を手に取り、床へ垂らした鞭を携える、紅蓮の海賊船の総大将グレイスの姿があった。

 エリクとルシアンの治療効果を向上させ、安全圏まで持っていった回復班に後を任せ、残された戦闘員を連れてシンとシルヴィの元へと駆けつけた。

 「ッ・・・グレイスッ・・・!もう来やがったのか・・・」

 数で優っていたロッシュの船員達が、グレイスの船員達に押し込まれる様子を見て、グレイスの生存を危惧していたロッシュの予感が的中し、最悪のタイミングで訪れたことが、ロッシュにとって何よりもの不覚だった。

 「・・・好機になると・・・何だっけか・・・?まさか、身をもって教えてくれたのかよ・・・。馬鹿は・・・テメェも同じだな、ロッシュ・・・」

 「クッ・・・!」

 ロッシュの蹴りに耐え、気を失ったかと思われていたシルヴィが力を振り絞り、ロッシュに皮肉を言い放つ。自身が散々言葉を連ね、垂れ述べていた方便がシンやシルヴィにトドメを刺す猶予を無くす結果となり、これ以上ないほどの恥辱を味わうロッシュが、怒りに身を震わせる。
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