上 下
186 / 262
第二章 似すぎている敵

さきねがの力

しおりを挟む
「おおおー! 映画館だ!」
「朝早いからか、人が少ねーな……」
「人が少ない方がいいわよ。その方が席取りやすいしね」

 映画館は閑散としていて、利用者は両手で数えられるほど。
 そのため、席を決める時も空いている席がたくさんあった。

「よかったわね~、席が取れて。……それにしても、二人ともよく朝早くに起きられたわね」

 今の時刻は午前8時。だが、起きたのは午前6時半。
 すごく早く起きたことがわかる。
 移動時間や出かける準備を考慮すれば、このぐらいの時間でないと間に合わないのだが……
 それにしても、早起きが得意な幼女である。

「――では、これより『咲き誇る願いを―R―』の上映を開始したいと思います。チケットをお持ちの方は――」
「あ、呼ばれたよ! 行こっ!」

 結衣は興奮を抑えられず、楽しそうに駆け出す。
 その様子を見て、少女とお母さんはお互いの顔を見合わせて笑った。

 ☆ ☆ ☆

『いえ、分かってはいるんです。でも、どうしても人前では緊張して表情が固くなってしまって……。話しかける勇気がない意気地なしなのも相まって、ずっと友達が居なかったんです』

 主人公の友だちである“鏡座美咲”が、悲しそうに語り出す。
 意外にも感情移入しやすい少女は、今にも泣きそうな顔になっている。
 だが、そんなことなど知らない映画は、どんどん先の展開を見せていく。

『だから私、凄く嬉しかったんです。貴女が「友達になろう」って言ってくれて』

 今度は一転、嬉しそうに頬を赤く染めて笑う美咲。
 結衣と同じ白髪を、満足げに揺らしている。

「……やっぱり、友だちっていいな……」

 と、少女はポツリとこぼした。
 その声を聞き逃さなかった結衣は、美咲と同じように笑う。

「私の友だちと友だちになればいいんだよ。みんないい人だから! すぐ仲良くなれるよ!」
「……え」
「あー、それには名前が必要か……」

 少女の困惑を置き去りに、結衣は少女の名前を必死で考える。
 そして、ついに決まったのか、パァっと明るい表情になる。

「“魔央まお”はどう? 魔王っぽい印象あるし、ちょうどよさそう」
「安直だな!?」

 だが、その少女のツッコミは聞こえていないのか。
 結衣はなおも続ける。

「それに魔央の央は“おう”とも読めるし! ……どう、かな?」

 嬉しそうに話していた結衣だったが、少女の気持ちを聞いていないことに気づき、慌てて不安そうに訊いた。
 少女はとても困惑していたが、果たして少女の答えは――

「……そ、その……ありがと……」

 ――照れくさそうに、了承した。
しおりを挟む

処理中です...