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春より参られし桜華様!
第26話 変人風紀委員長爆誕
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この春桜学園には、生徒会直下の風紀委員会が存在する。
生徒会の権限である執行権が与えられ、学園内での校則を始め、風紀を乱す不定な生徒などを取り締まる、言わば学園の番人である。
そんな学園の番人が、午後の授業が終わった放課後。
某臨時風紀委員室にて、緊急の風紀委員会が開かれていた。
議題は、本日二年棟で起きた大騒ぎを始め、学園内で闇商売を働く小頼商会について、風紀委員長である聖籠忍を筆頭に、重苦しい空気の中で対策会議が行われていた。
忍「新学期早々に起きた騒動だが、どうやら小頼商会の元締め、長岡小頼が元凶であると聞いている。皆も知っての通り、小頼商会の存在は不定期の上に神出鬼没、しかも、男女問わず多くの生徒たちが支持をしている、学園の巨大派閥の一つだ。」
以下省略……。
忍「正直我々も多文化交流の一環として、多少の事は目を瞑って来たが、ここ最近の闇商売に続いて、今回の騒ぎとなれば流石に目が余る事態だ。そのため明日からでも、この小頼商会を本格的に取り締まろうと考えている。なお、今回は裏情報の参考人として、今日の騒ぎで一番の被害を受けてしまった佐渡桃馬くんに来てもらった。」
風紀委員長である聖籠忍からの長い冒頭が終わると、忍の横で黙って聞いていた桃馬が、頃合いを見た所で、自前のハリセンを取り出し、先輩である忍の頭を叩いた。
桃馬「何が桃馬くんに来てもらったですか!勝手に異種交流会の部室で一人風紀委員会を開かないでください!」
忍「いってて、おいおい、友人を叩くなんていけない後輩だな。」
桃馬「何が友人ですか……。少しは頭を冷やしたかと思いましたが相変わらずですね。」
桜華「と、桃馬?この人は誰ですか?」
桃馬「あぁ、この人は三年の聖籠忍先輩と言って、学園の風紀を取り締まる風紀委員会の委員長だよ。」
桜華「ふぇ!?そ、それは凄い人じゃないですか!?」
桃馬「そう思うだろ?俺も最初はそう思っていたよ。けど、忍先輩は学園内でも有名なくらい変わり者なんだよ。」
忍「はぁ~はっはっ!友のピンチを聞き付けて緊急風紀委員会を立ち上げたのだ!さぁ、越後屋の長岡小頼を捕まえて、共にお仕置をしようではないか!」
無駄に上手いオペラ口調のせいか、口を開く度にキラキラとさせたオーラを放ちながら、馴れ馴れしく桃馬に手を差し伸べた。
桃馬「はぁ、そもそも大元が分かっているのなら、直接本人に聞き取りして注意すればいいのでは?」
忍「ちっちっ、それでは嘘をついて逃げられてしまうだろ?それに、直々に僕が話を聞いてしまっては、その日の内に小頼くんが、小頼商会についての記録を隠蔽しようとするだろうからな。」
桃馬「た、確かに……。」
ここで小話。
学園内で変わり者として知られている聖籠忍ですが、風紀委員長としての才覚は、誰よりもズバ抜けていました。
それもそのはず、忍の家系は代々警察関係の職に勤めている家柄で、捜査の基本となる事は、幼少の頃からある程度身につけていました。
そのため、いざと言う時には、凛々しくてかっこいい一面を見せる時もあるのですが、忍が所属している部活動が、演劇部という事もあり、底無しのポジティブ精神と秘めたる劇団気質が先行してしまい、普段学園内に居る間は、無意識にキャラを演じながら会話をしてしまうのです。
もうひとつ、忍の良い様で悪い様な点として、咄嗟の行動力は大人顔負けであるが、時々今みたいに抜けている事があります。
実際、異種交流会の部室で開かれた緊急の風紀委員会は、忍を始め、桃馬と桜華の三人だけでした。
桜華「えっと、今更こんな事を聞くのもあれ何ですけど、どうしてお一人なのですか?」
忍「ふっ、良い質問だねお嬢さん♪」
桜華「お、お嬢さん?」
桃馬「……。」
忍「実は、昼休みの終わり頃に、桃馬のピンチを耳にした事もあって、直ぐに委員を集められなかったんだよ。それに、緊急で召集させるには、悔しいけど案件が小さい。だからこうして、僕自ら赴いて解決してあげようかと思ったのだよ。」
桃馬「また、そんな小さな事で……、どうせまた、時奈先輩に部室の使用許可を取ってないんでしょ?」
忍「ふっ、桃馬を得るためだ。多少のリスクは覚悟してるさ!」
桜華「ふえ!?」
告白の様に聞こえる忍の言葉に、桜華は思わず声を上げた。
桃馬「やっぱり……、あと、何で俺にこだわるのか分かりませんが、いつも通りお断りしますよ。」
忍「そんな事を言わないでくれよ。僕は君の事は一目見た時から素晴らしいと思っていたんだよ?」
桃馬「桜華が居る前で、そんな誤解を招く様な発言はやめてくでさい。それだから、いつまで経っても友達が出来ないんですよ。」
忍「っ、失礼だな。僕にだって友人と言える人は居るさ。」
桃馬「ふーん。」
流石に変わり者である忍先輩にも、演劇部を通して一人や二人くらいは友人が居るだろう。
しかし桃馬は、性的には狙ってはいないが、人間性として狙っている忍に対して、疑いの視線を向けた。
忍「っ、はっはっ、あぁ~、その肌を刺す様な疑いの視線……、そして君が振り下ろすハリセンもそうだが、君がしてくれる行為は、全て僕を痺れさせてくれる……。あぁ~、やはり君は、僕のジュリエットだ!」
桃馬の疑いの視線は逆効果を生み、心を刺激させられた忍は、感極まりながら桃馬の両手を手に取った。
予想もしていなかった忍の行動に、桃馬は慌てて手を振り解こうとするが、力の強い忍にがっちり握られていたため、振り解けなかった。
桃馬「ジュリエット!?せ、先輩冗談ですよね?」
忍「僕は冗談を言わないよ。さぁ、このまま僕と来てくれ、やはり、ロミオとジュリエットのお話で、ジュリエット役が適任なのは君しかいない。」
桃馬「よ、よりにもよって、女役のジュリエットだなんて、お断りですよ!」
駄犬の二匹に続いて、先輩である忍までも……。
桃馬に寄り付く雄は、理由はともあれ様々である。
忍「悔しいけど桃馬には、男に迫られる女役の素質が僕よりあるんだよ。大丈夫、僕が保証するから♪」
桃馬「な、何が大丈夫、保証ですか!?男に迫られる女役って、俺に対しての嫌味ですか?そんな役なら時奈先輩にでも頼めば良いじゃないですか!?」
忍「いや、僕の相手は男ではないとだめだ。それに時奈だと、僕より目立ってしまうから嫌だ。」
急に真面目に話し出したと思ったら、何とも"わがままなこだわり"を感じさせる様な内容であった。しかも、時奈の演技が上手いのか、注目重視の忍としては、共演をNGにしているらしい様であった。
本題である、風紀委員会として小頼商会の闇商売を取り締まるはずの話が、気づけば桃馬を演劇部に引き抜く話へと変わっていた。
もはや本来の目的をねじ曲げ、そのまま私的な願望に走った様な展開の中、するとそこへ、異種交流会の部長にして、生徒会長である新潟時奈が部室に入って来た。
時奈「っ、こらこら、部室の中で何取っ組み合っているのだ?」
桜華「あっ、と、時奈先輩?!」
忍「っ。」
桃馬「っ、せ、先輩!?(た、助かった~。)」
部室に入って来た時奈は、桃馬と取っ組み合いをしている男子が、引き抜き常習犯である忍だとは、すぐには気づかなかった。
しかし部室に入って三歩ほど歩いた所で足を止めた。
時奈「っ、し~の~ぶ~♪また、何してるのかな??」
忍「やあ、時奈くん良いところに~♪折り入ってお願いがあるのだが、今日一日、いや、当分の間、桃馬くんを貸してくれないか?」
時奈「だめに決まっているだろ?それにこれで何回目だ。この前は、ルシアを引き抜こうとしていたよな?毎度毎度、我が部員から引き抜こうとするな!」
忍「っ、引き抜きとは酷いですね?僕は、演目によって助っ人を頼んでいるだけですよ~♪」
時奈「ほう、演目によってね~。そう言えばここ最近、各部活動から引き抜きと思われる行為があって、大変迷惑していると言う報告を受けているが、まさかお前か?」
忍「さぁ、僕は断られたら直ぐに手を引きますけど?」
桃馬「っ、な、何嘘言ってるのですか!?現に嫌がってる俺を無理やり連れてこうとしてたじゃないですか!?」
忍「そ、それは誤解だ。現にジュリエット役は桃馬しか頼めないのだから、たまには助けてくれたって良いではないか?」
二人が仲良さそうに言い争っている中、時奈は赤面しながら"あわあわ"している桜華に事情を聞き始めた。
時奈「ほう……、桜華よ、君は一部始終見ていたと思うが、桃馬の言う通りか?」
桜華「え、えぇーっと、大方合ってますね。」
時奈「やはりな。こら忍、この件については後日ゆっくり聞かせてもらうとして、あと、このホワイトボードに書かれた緊急風紀委員会とは何だ?」
忍「っ、そ、それは、今回二学年棟で起きた騒ぎについて、元凶である小頼商会を取り締まるために……。」
時奈「ここは、風紀委員室ではないのだが?それに他の委員の姿がないがどうした?」
許可なく部員を引き抜こうとする行為と、無断で部室を借りた事についてご立腹の時奈は、少々キツめに問い質した。
忍「そ、それは、ぼ、僕一人で桃馬を守ろうと思って……。」
時奈「それなら私の方で処理しますから、どうぞお引き取りを。」
忍「うぅ、さ、流石は時奈……。易々とは桃馬を渡してくれない様だね。」
時奈「当然ですよ。何ならここで白黒を着けても良いですよ?あ、そうだ♪ここでコテンパンにして風紀委員長である事を自覚させてあげましょうか?」
桃馬を巡って生徒会長と風紀委員長が火花を散らさせる中、ジェルドとギールに続いて火種になっている桃馬は、かなり気まずい状態に陥っていた。
桃馬(ま、まずい事になった。ジェルドとギールならともかく、二人がぶつかるのは非常にまずい。早く止めないと何が起こるか分からない……、止めるなら今しかないか。)
止めに入れば確実に巻き込まれる空気の中で、桃馬が止めに入ろうとした時。廊下から忍を探しに来た演劇部の先輩が来た。
三年男子「失礼します、ここに忍が……あっ!やっぱりここにいたか!」
三年の男子生徒が、忍の姿を見つけるや直ぐに駆け寄った。
忍「あ、や、やあ、どうしたのだね?」
男子「なにが、どうしたのだね?っだ!いつも他の部活から引き抜いて来んなって言ってるだろが!ほら、みんなが待ってるんだから早くこい!」
忍に対して首根っこを掴んだ男子生徒は、そのまま部室を後にしようとするが、忍もまた微力の抵抗を見せた。
忍「ま、待てプラントくん!?僕は今回の演劇で、どうしても桃馬くんに力を貸してほしいんだよ!?」
グリント「グリントだ!いい加減名前覚えろばか!なんで、気に入った後輩しか名前を覚えないんだよ。」
興味のない人に対しては、一切名前が覚えられない忍は、グリントと言う同級生にズリズリと引きずられて行った。
桃馬「先輩、お達者で~!」
忍「ふっ、また来るからな!」
桃馬「もう来なくていいですよ~。」
グリント「すまない、迷惑をかけた。ほら、来い忍!」
忍「あぁ~、こ、これが本当のロミジュリだ……。」
グリント「上手いこと言うな!あと、いつまでモードに入ってるんだ!」
異世界出身のグリントに抵抗虚しく連れ戻され、現場はロミジュリ、心はドナドナであった。
桜華「す、凄く変わった人ですね?」
時奈「あぁ、私からして見れば学園内で一番の変わり者だが、あれでも優れた個性と能力を持ち合わせている男だ。その面に置いては、私は評価をしている。」
桜華「い、今見たところですと、優れた箇所が何も感じられないのですが。」
時奈「まあ、"あの"状態では分からないだろうな。だけど、忍が真面目になった時の姿は、学園内で一番だと私は思うのだがな。」
桜華「えっと、その言い方ですと、忍先輩の個性が強過ぎて、ずっと、真面目を保てない感じでしょうか?」
時奈「まあ、そう言う事だ。さっ、うるさいのも去った事だし、私たちも部活の準備だ。」
桜華「はい!」
ここで小話。
昔から何らかの物事を変える者は、馬鹿者、よそ者、変わり者と言った、三者と言われています。
思えばこの春桜学園は、この三者の様に、良くも悪くも、癖の強い生徒たちが多く通っている学園であり、待たなくても勝手にイベントが発生する様な、毎日賑やかな学園でもあります。
毎日が同じ日常ではなく。
毎日必ず"変化"が起き、学園の生徒たちは、その"変化"と言う感覚を知らぬ間に養わせている事で、日々の日常生活における、変化を求めると言う意欲を自然と向上させているのです。
とまあ、校長先生のお言葉ですが。
要するに、変化をもたらす者がいなくては、毎日同じ日々を送る事になるため、つまらないと言う事です。
生徒会の権限である執行権が与えられ、学園内での校則を始め、風紀を乱す不定な生徒などを取り締まる、言わば学園の番人である。
そんな学園の番人が、午後の授業が終わった放課後。
某臨時風紀委員室にて、緊急の風紀委員会が開かれていた。
議題は、本日二年棟で起きた大騒ぎを始め、学園内で闇商売を働く小頼商会について、風紀委員長である聖籠忍を筆頭に、重苦しい空気の中で対策会議が行われていた。
忍「新学期早々に起きた騒動だが、どうやら小頼商会の元締め、長岡小頼が元凶であると聞いている。皆も知っての通り、小頼商会の存在は不定期の上に神出鬼没、しかも、男女問わず多くの生徒たちが支持をしている、学園の巨大派閥の一つだ。」
以下省略……。
忍「正直我々も多文化交流の一環として、多少の事は目を瞑って来たが、ここ最近の闇商売に続いて、今回の騒ぎとなれば流石に目が余る事態だ。そのため明日からでも、この小頼商会を本格的に取り締まろうと考えている。なお、今回は裏情報の参考人として、今日の騒ぎで一番の被害を受けてしまった佐渡桃馬くんに来てもらった。」
風紀委員長である聖籠忍からの長い冒頭が終わると、忍の横で黙って聞いていた桃馬が、頃合いを見た所で、自前のハリセンを取り出し、先輩である忍の頭を叩いた。
桃馬「何が桃馬くんに来てもらったですか!勝手に異種交流会の部室で一人風紀委員会を開かないでください!」
忍「いってて、おいおい、友人を叩くなんていけない後輩だな。」
桃馬「何が友人ですか……。少しは頭を冷やしたかと思いましたが相変わらずですね。」
桜華「と、桃馬?この人は誰ですか?」
桃馬「あぁ、この人は三年の聖籠忍先輩と言って、学園の風紀を取り締まる風紀委員会の委員長だよ。」
桜華「ふぇ!?そ、それは凄い人じゃないですか!?」
桃馬「そう思うだろ?俺も最初はそう思っていたよ。けど、忍先輩は学園内でも有名なくらい変わり者なんだよ。」
忍「はぁ~はっはっ!友のピンチを聞き付けて緊急風紀委員会を立ち上げたのだ!さぁ、越後屋の長岡小頼を捕まえて、共にお仕置をしようではないか!」
無駄に上手いオペラ口調のせいか、口を開く度にキラキラとさせたオーラを放ちながら、馴れ馴れしく桃馬に手を差し伸べた。
桃馬「はぁ、そもそも大元が分かっているのなら、直接本人に聞き取りして注意すればいいのでは?」
忍「ちっちっ、それでは嘘をついて逃げられてしまうだろ?それに、直々に僕が話を聞いてしまっては、その日の内に小頼くんが、小頼商会についての記録を隠蔽しようとするだろうからな。」
桃馬「た、確かに……。」
ここで小話。
学園内で変わり者として知られている聖籠忍ですが、風紀委員長としての才覚は、誰よりもズバ抜けていました。
それもそのはず、忍の家系は代々警察関係の職に勤めている家柄で、捜査の基本となる事は、幼少の頃からある程度身につけていました。
そのため、いざと言う時には、凛々しくてかっこいい一面を見せる時もあるのですが、忍が所属している部活動が、演劇部という事もあり、底無しのポジティブ精神と秘めたる劇団気質が先行してしまい、普段学園内に居る間は、無意識にキャラを演じながら会話をしてしまうのです。
もうひとつ、忍の良い様で悪い様な点として、咄嗟の行動力は大人顔負けであるが、時々今みたいに抜けている事があります。
実際、異種交流会の部室で開かれた緊急の風紀委員会は、忍を始め、桃馬と桜華の三人だけでした。
桜華「えっと、今更こんな事を聞くのもあれ何ですけど、どうしてお一人なのですか?」
忍「ふっ、良い質問だねお嬢さん♪」
桜華「お、お嬢さん?」
桃馬「……。」
忍「実は、昼休みの終わり頃に、桃馬のピンチを耳にした事もあって、直ぐに委員を集められなかったんだよ。それに、緊急で召集させるには、悔しいけど案件が小さい。だからこうして、僕自ら赴いて解決してあげようかと思ったのだよ。」
桃馬「また、そんな小さな事で……、どうせまた、時奈先輩に部室の使用許可を取ってないんでしょ?」
忍「ふっ、桃馬を得るためだ。多少のリスクは覚悟してるさ!」
桜華「ふえ!?」
告白の様に聞こえる忍の言葉に、桜華は思わず声を上げた。
桃馬「やっぱり……、あと、何で俺にこだわるのか分かりませんが、いつも通りお断りしますよ。」
忍「そんな事を言わないでくれよ。僕は君の事は一目見た時から素晴らしいと思っていたんだよ?」
桃馬「桜華が居る前で、そんな誤解を招く様な発言はやめてくでさい。それだから、いつまで経っても友達が出来ないんですよ。」
忍「っ、失礼だな。僕にだって友人と言える人は居るさ。」
桃馬「ふーん。」
流石に変わり者である忍先輩にも、演劇部を通して一人や二人くらいは友人が居るだろう。
しかし桃馬は、性的には狙ってはいないが、人間性として狙っている忍に対して、疑いの視線を向けた。
忍「っ、はっはっ、あぁ~、その肌を刺す様な疑いの視線……、そして君が振り下ろすハリセンもそうだが、君がしてくれる行為は、全て僕を痺れさせてくれる……。あぁ~、やはり君は、僕のジュリエットだ!」
桃馬の疑いの視線は逆効果を生み、心を刺激させられた忍は、感極まりながら桃馬の両手を手に取った。
予想もしていなかった忍の行動に、桃馬は慌てて手を振り解こうとするが、力の強い忍にがっちり握られていたため、振り解けなかった。
桃馬「ジュリエット!?せ、先輩冗談ですよね?」
忍「僕は冗談を言わないよ。さぁ、このまま僕と来てくれ、やはり、ロミオとジュリエットのお話で、ジュリエット役が適任なのは君しかいない。」
桃馬「よ、よりにもよって、女役のジュリエットだなんて、お断りですよ!」
駄犬の二匹に続いて、先輩である忍までも……。
桃馬に寄り付く雄は、理由はともあれ様々である。
忍「悔しいけど桃馬には、男に迫られる女役の素質が僕よりあるんだよ。大丈夫、僕が保証するから♪」
桃馬「な、何が大丈夫、保証ですか!?男に迫られる女役って、俺に対しての嫌味ですか?そんな役なら時奈先輩にでも頼めば良いじゃないですか!?」
忍「いや、僕の相手は男ではないとだめだ。それに時奈だと、僕より目立ってしまうから嫌だ。」
急に真面目に話し出したと思ったら、何とも"わがままなこだわり"を感じさせる様な内容であった。しかも、時奈の演技が上手いのか、注目重視の忍としては、共演をNGにしているらしい様であった。
本題である、風紀委員会として小頼商会の闇商売を取り締まるはずの話が、気づけば桃馬を演劇部に引き抜く話へと変わっていた。
もはや本来の目的をねじ曲げ、そのまま私的な願望に走った様な展開の中、するとそこへ、異種交流会の部長にして、生徒会長である新潟時奈が部室に入って来た。
時奈「っ、こらこら、部室の中で何取っ組み合っているのだ?」
桜華「あっ、と、時奈先輩?!」
忍「っ。」
桃馬「っ、せ、先輩!?(た、助かった~。)」
部室に入って来た時奈は、桃馬と取っ組み合いをしている男子が、引き抜き常習犯である忍だとは、すぐには気づかなかった。
しかし部室に入って三歩ほど歩いた所で足を止めた。
時奈「っ、し~の~ぶ~♪また、何してるのかな??」
忍「やあ、時奈くん良いところに~♪折り入ってお願いがあるのだが、今日一日、いや、当分の間、桃馬くんを貸してくれないか?」
時奈「だめに決まっているだろ?それにこれで何回目だ。この前は、ルシアを引き抜こうとしていたよな?毎度毎度、我が部員から引き抜こうとするな!」
忍「っ、引き抜きとは酷いですね?僕は、演目によって助っ人を頼んでいるだけですよ~♪」
時奈「ほう、演目によってね~。そう言えばここ最近、各部活動から引き抜きと思われる行為があって、大変迷惑していると言う報告を受けているが、まさかお前か?」
忍「さぁ、僕は断られたら直ぐに手を引きますけど?」
桃馬「っ、な、何嘘言ってるのですか!?現に嫌がってる俺を無理やり連れてこうとしてたじゃないですか!?」
忍「そ、それは誤解だ。現にジュリエット役は桃馬しか頼めないのだから、たまには助けてくれたって良いではないか?」
二人が仲良さそうに言い争っている中、時奈は赤面しながら"あわあわ"している桜華に事情を聞き始めた。
時奈「ほう……、桜華よ、君は一部始終見ていたと思うが、桃馬の言う通りか?」
桜華「え、えぇーっと、大方合ってますね。」
時奈「やはりな。こら忍、この件については後日ゆっくり聞かせてもらうとして、あと、このホワイトボードに書かれた緊急風紀委員会とは何だ?」
忍「っ、そ、それは、今回二学年棟で起きた騒ぎについて、元凶である小頼商会を取り締まるために……。」
時奈「ここは、風紀委員室ではないのだが?それに他の委員の姿がないがどうした?」
許可なく部員を引き抜こうとする行為と、無断で部室を借りた事についてご立腹の時奈は、少々キツめに問い質した。
忍「そ、それは、ぼ、僕一人で桃馬を守ろうと思って……。」
時奈「それなら私の方で処理しますから、どうぞお引き取りを。」
忍「うぅ、さ、流石は時奈……。易々とは桃馬を渡してくれない様だね。」
時奈「当然ですよ。何ならここで白黒を着けても良いですよ?あ、そうだ♪ここでコテンパンにして風紀委員長である事を自覚させてあげましょうか?」
桃馬を巡って生徒会長と風紀委員長が火花を散らさせる中、ジェルドとギールに続いて火種になっている桃馬は、かなり気まずい状態に陥っていた。
桃馬(ま、まずい事になった。ジェルドとギールならともかく、二人がぶつかるのは非常にまずい。早く止めないと何が起こるか分からない……、止めるなら今しかないか。)
止めに入れば確実に巻き込まれる空気の中で、桃馬が止めに入ろうとした時。廊下から忍を探しに来た演劇部の先輩が来た。
三年男子「失礼します、ここに忍が……あっ!やっぱりここにいたか!」
三年の男子生徒が、忍の姿を見つけるや直ぐに駆け寄った。
忍「あ、や、やあ、どうしたのだね?」
男子「なにが、どうしたのだね?っだ!いつも他の部活から引き抜いて来んなって言ってるだろが!ほら、みんなが待ってるんだから早くこい!」
忍に対して首根っこを掴んだ男子生徒は、そのまま部室を後にしようとするが、忍もまた微力の抵抗を見せた。
忍「ま、待てプラントくん!?僕は今回の演劇で、どうしても桃馬くんに力を貸してほしいんだよ!?」
グリント「グリントだ!いい加減名前覚えろばか!なんで、気に入った後輩しか名前を覚えないんだよ。」
興味のない人に対しては、一切名前が覚えられない忍は、グリントと言う同級生にズリズリと引きずられて行った。
桃馬「先輩、お達者で~!」
忍「ふっ、また来るからな!」
桃馬「もう来なくていいですよ~。」
グリント「すまない、迷惑をかけた。ほら、来い忍!」
忍「あぁ~、こ、これが本当のロミジュリだ……。」
グリント「上手いこと言うな!あと、いつまでモードに入ってるんだ!」
異世界出身のグリントに抵抗虚しく連れ戻され、現場はロミジュリ、心はドナドナであった。
桜華「す、凄く変わった人ですね?」
時奈「あぁ、私からして見れば学園内で一番の変わり者だが、あれでも優れた個性と能力を持ち合わせている男だ。その面に置いては、私は評価をしている。」
桜華「い、今見たところですと、優れた箇所が何も感じられないのですが。」
時奈「まあ、"あの"状態では分からないだろうな。だけど、忍が真面目になった時の姿は、学園内で一番だと私は思うのだがな。」
桜華「えっと、その言い方ですと、忍先輩の個性が強過ぎて、ずっと、真面目を保てない感じでしょうか?」
時奈「まあ、そう言う事だ。さっ、うるさいのも去った事だし、私たちも部活の準備だ。」
桜華「はい!」
ここで小話。
昔から何らかの物事を変える者は、馬鹿者、よそ者、変わり者と言った、三者と言われています。
思えばこの春桜学園は、この三者の様に、良くも悪くも、癖の強い生徒たちが多く通っている学園であり、待たなくても勝手にイベントが発生する様な、毎日賑やかな学園でもあります。
毎日が同じ日常ではなく。
毎日必ず"変化"が起き、学園の生徒たちは、その"変化"と言う感覚を知らぬ間に養わせている事で、日々の日常生活における、変化を求めると言う意欲を自然と向上させているのです。
とまあ、校長先生のお言葉ですが。
要するに、変化をもたらす者がいなくては、毎日同じ日々を送る事になるため、つまらないと言う事です。
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いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
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初めての作品です!
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