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第1部・第3話:ジェイク
第4章
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その日の午後。
商店街の契約店舗への配達を終えたジェイクは、モヤモヤとした気持ちを抱えたまま、店舗兼自宅への道のりを辿っていた。それでなくても威圧的な容貌をしているらしいのに、お得意様を怖がらせてどうするのだと、自己嫌悪が胸を苛む。
気鬱は言うまでもなく、ルカを怒らせたことが原因だ。ルカが自分に対して、あんな風に声を荒げるところを、ジェイクは初めて見た。
そしてそれ以上に、彼に投げ付けられた言葉が、ジワジワと心を締め付けている。
「――」
少しだけ迷ってから、ジェイクは家への最短ルートを外れた。真っ直ぐに帰るのをやめて、大通りの中心部にある噴水広場まで足を延ばす。生真面目な彼には珍しい寄り道は、そのまま内心の動揺を表していた。
満々と水を湛えた円形の噴水の周辺は、談笑中のお年寄りや、人待ち顔の若者、飲み物を売る露店などで、程良く賑わっている。田舎町の平和な光景を通り抜けて、ジェイクもまた噴水に腰掛けた。足の間に荷物を下ろし、ふう、と大きく息をつく。
――俺はいつも、「方法」を間違える。
膝の上で両手を組んだジェイクの視線は、自然と足元へ落ちた。思い返すのは、出逢ったばかりのルカの姿だ。
ジェイクは幼い頃から体格が良く、同世代の誰よりも頑健だった。その一方で、赤ん坊や小動物など、小さくて可愛いものを見ると、無条件で守ってやりたくなる性分でもある。しかし、彼が好むもの達は、身体が大きくて寡黙な彼を本能的に恐れた。唯一の例外が妹のシェリルだったが、男児と女児では遊びの内容が異なる。野山を駆け回って得られる新鮮な驚きまでを、共有してはくれない。
そこへ現れたのがルカだった。店の上得意でもある大魔法使い・黄金のベリンダの孫として引き合わされた少年は、まるで女の子のような可憐な外見に似合わず、腕白なジェイクの後を嬉々として付いて回る。懐いてくれることが嬉しくて楽しくて、ジェイクはルカを実の弟のように可愛がり、そしてあやまちを犯した。4つ年下で小柄なルカの体力を考慮できず、長時間長距離を連れ回した挙句、昏倒させてしまったのだ。悪気のないこととベリンダはすぐに許してくれたが、両親からはこっぴどく叱られたし、子供心に本当にショックを受けたことを、今でもはっきりと覚えている。
シェリルのこともそうだ。良かれと思って入った喧嘩の仲裁で逆恨みを買い、妹に危害を加えられるとは思いもしなかった。相手の卑劣さが許せなくて、しっかりと返り討ちにはしてやったものの、結果的に家族全員を巻き込む騒動に発展してしまった。この時の両親はジェイクを叱りはしなかったが、「自分の言動に責任を持つこと」について、懇々と諭された。
家族やルカ、大事な人たちのことを守りたいと思っているだけなのに、自分の浅慮が原因で、危険な目に遭わせてしまう――だから、余計なことはしない方が良い。
つまるところ、ジェイクの思考を縛り付けているのは、これらの経験がトラウマのように脳裏に焼き付いているためだった。意図もせぬまま、自分の将来や可能性を狭めてしまっているのだ。
ルカが自分の何に対して怒っているのかはわからない。彼を止めてやれないまま重大事を引き起こしかけたことに関しては謝罪したが、どうもこれとは違う気がする。ルカにそっぽを向かれるのは精神的にもダメージが大きいので早く謝ってしまいたいけれど、原因がわからないままでは逆効果な気もする……。
袋小路にはまったような気分で、ジェイクはまた1つ溜め息を落とした。
不意に周囲のざわめきが耳に付いたのは、異質な気配を感じるのと同時だったからかもしれない。
「――!」
顔を上げると、道の前方に、肩章付きの制服を纏った騎馬の一団が見える。揃いの濃紺の衣装は、領主お抱えの騎士団のもので間違いない。いったい何事かと構える間もなく、その中から白馬が一頭、こちらに向かって歩み寄って来た。
「――ジェイク!」
馬上から気安い調子で声をかけてきたのは、領主の一人息子である、フィンレー・ボールドウィンだった。銀色の髪を風になびかせ、リーダーらしく1人紫紺の衣装を身に纏った彼は、端正な容貌も相俟って、まるで絵物語に出てくる王子様のようだ。道を行く少女達が黄色い声を上げるのも、そしてそれをお年寄り達に窘められるのも、致し方ない事と言える。
統率するフィンレーの後を追い、紺衣の一団が近付いてくるのを確認してから、ジェイクは立ち上がった。彼を始めとした周辺の者達が一斉に礼を取るのを、フィンレーは軽く手を上げて制し、愛馬から降りる。手綱を手近な者に任せて、そのままジェイクの元までやって来た。
「ちょうど良かった。お前の話を聞きたいと思ってたんだ」
「俺の?」
促され、噴水の縁に並んで腰掛ける。2つばかり年下の次期領主は、父親と同様に貴族でありながら偉ぶらないところが広く慕われる最大の理由だが、幼い頃からのルカの友人ということもあってか、彼の幼馴染みであるジェイクには殊の外寛容だった。尤も、同じ幼馴染みであっても、ルカの事となると目の色の変わるユージーンなどに対しては、それなりに辛辣だったりもする。フィンレーの中で、ルカに悪影響を及ぼすかどうかの基準が明確に線引きされており、今のところジェイクは安全圏に位置しているためではないかと思われる。
「最近魔物の被害が増えただろ? その調査中なんだ」
ジェイクの怪訝な表情に、フィンレーはやや声を落とすようにして答えた。
どうやらハーフェルだけでなく、領内の他の地域でも、人間の生活圏に入り込む魔物の報告が増えているらしい。これに魔王復活との因果関係があるのかどうか、フィンレー達は独自に調査をしているのだそうだ。
「それで、お前の妹が襲われたって話を聞いてな」
「――ああ」
ようやく事態に合点がいき、ジェイクは小さく頷いた。
シェリルが被害に遭ったのは昨夕のことで、馬で6時間弱の距離のある領主館から調査隊が派遣されるにしては、さすがに早すぎる。彼らの調査は以前から進められており、今朝この町で住民に行った聞き取りから、偶然シェリルの件を知ったということのようだ。
――支配者としては、まったく理想的だな。
不遜にもそんなことを考えながら、ジェイクは妹が被害に遭った際の状況を、詳しく説明した。魔王復活の影響に関して、ジェイクには判断は付きかねる。しかし、他の地域でも似たような事件が頻発しているというなら、調査に協力するのは住民の義務だ。
「――なるほどな。よくわかった」
憶測を挟まず、事実だけを正確に伝えるジェイクの話しぶりに満足した様子で、フィンレーはわずかに口許を緩めた。それから、少し考え込む様子を見せた後、更なる問いを重ねてくる。
「夜間、巨大な生き物が町を旋回してたって話は、聞いたことがあるか?」
「! それは……」
思い当たるところがありすぎて、ジェイクは思わず口籠った。常にはない反応に、フィンレーの表情が引き締まる。砕けた口調とはいえ、相手は地域を治める有力者、隠し立てなどするつもりはないが、事が自分の落ち度であるだけに、無念さが募る。
「それは、魔王とは無関係のはずだ」
苦いものを飲み込みながら、ジェイクは翼竜の襲来について、ルカから説明された通りのことを話して聞かせた。
ルカがベリンダに認められるために、ギルドで魔物討伐依頼を受けていたくだりでは興味深げな顔をしていたフィンレーだったが、ジェイクが「あれは全面的に俺に非があるんだ、申し訳ない」と話を締め括った途端、胡乱げに眉をひそめる。
「……何だ、それ。ルカも含めて、2人の責任だろう」
「いや、まぁ、確かにそうなんだが」
言い切られて、ジェイクは少々狼狽した。ルカが悪くないと言うつもりはないが、それでも責任は自分の方が大きい。少なくとも、ジェイクは未だにそう信じている。
「ルカはこっちの世界に慣れていない。アイツに危険性を認識させられなかった、俺の落ち度だ」
自分と同様、ルカの転生のいきさつをよく知っているフィンレーであれば、これで理解してくれるに違いない。そう考えたジェイクは、なおも言葉を次いだ。
しかし、返されたのは無慈悲な一喝だった。
「お前はルカを、何も出来ない子供だとでも思っているのか!?」
「!」
思ってもみなかった指摘に、ジェイクは今度こそ言葉を失った。フィンレーの憤慨したような表情に、ふと彼がルカと2つ違いであることを思い出す。幼い頃から近くに居て、大事に見守ってきたつもりだったが、もしかしたらルカの心情に関しては、同世代の友人である彼の方が、理解が深いのかもしれない。
「お前については、ルカからもよく聞いてる」
少しだけ悔しそうに、フィンレーが続ける。これに関しては、ジェイクも逆の立場になることはあるので、気持ちはわからないでもなかった。ルカは普段から他の友人達の前で、ジェイクのことを褒めてくれているのに違いない。
――だが。
「お前の、ルカや民を思う志は立派だとは思うが、それはただ甘やかすのとは違うだろう」
ルカだけでなく、「民」という言葉を一緒に使われて、ジェイクは瞠目した。自分が周囲からの期待をどんな風に捉えているのか、見透かされたような気がしたからだ。
ルカはいったい、自分のことをどんな風に話しているのだろうか。
フィンレーはなおも容赦ない。
「お前はルカの自主性を無視している。相手も自立した一個の人間なんだぞ」
「……!」
畳み掛けるような指摘を受けて、ジェイクは思わず口許を右手で覆った。ルカが不機嫌になった理由が、理解できた気がする。
ああ、ルカだって、いつまでも出逢った頃の、可愛い子供のままではない。2つ年下の公子がこんなに理路整然とした自分の意見を述べるのだ、彼と2つしか違わないルカも、同じように大人に近付き、自分で物事を考え、判断できるようになっていて当然だろう。
偉大な祖母の庇護の下にあって安穏な生活を送るよりも、例え危険が伴うとしても、広い世界に飛び出し、自分に何が出来るのか見極めたいと願う少年が、自分の非を認められないほど狭量なはずはない。
そんなルカに対して、ジェイクのとった態度は、彼の反省を無視するものではなかったか。
「………………」
すべてが一気に腑に落ちたような気がして、ジェイクは呆然と肩を落とした。後頭部を殴り付けられたような衝撃に、目が眩むような気分だ。
「それでなくても、お前達のルカへの態度は目に余るものがある。――よく考えろ」
キッパリと断じてから、フィンレーはサッと立ち上がった。数歩進んだ所で足を止め、「協力には感謝する」と律儀に言い残す。
部下達を率いて去っていく後ろ姿を、ジェイクは座ったまま見送った。
突然の貴人の登場に、妙に浮き足立っていた住民達も徐々に落ち着きを取り戻し、通りがかった幾人かが、何も知らぬ様子で挨拶を寄越していく。
ほとんど機械的に応じながら、ジェイクはルカの言葉を思い返していた。
『それって失礼なんじゃないかな』
『もっとちゃんと話を聞いてあげて』
家族は自分を頼りにしてくれているようだし、周りのみんなも、町のために必要な人材だと期待してくれているのはわかっている。
――でも誰も、俺を縛り付けたりなんてしてはいない。
「……ああ……」
嘆息混じりに漏らした声には、自嘲がにじんでいた。
いつの間にか大人になっていたルカだからこそ、ジェイク自身がそれとは気付かぬまま、家族や町民達の期待を言い訳にしていたことにも、気付いていたのに違いない。外の世界で自分の力を試してみたいと願いながらも動こうとしないのは、ジェイクの中にも人並みの「恐れ」が存在するからだ。
子供だと思っていたルカは、ジェイクの本心を見抜き、気遣ってくれるまでに成長していた。
――ああ、俺はまた間違うところだった。
ひっそりと苦笑いして、ジェイクは立ち上がった。とんだ道草だと自嘲しながらも、その表情はどこか清々しい。
――まずは、家族だな。
己のなすべきことをしっかりと見据えて、ジェイクは今度こそ、真っ直ぐに家路を辿った。
商店街の契約店舗への配達を終えたジェイクは、モヤモヤとした気持ちを抱えたまま、店舗兼自宅への道のりを辿っていた。それでなくても威圧的な容貌をしているらしいのに、お得意様を怖がらせてどうするのだと、自己嫌悪が胸を苛む。
気鬱は言うまでもなく、ルカを怒らせたことが原因だ。ルカが自分に対して、あんな風に声を荒げるところを、ジェイクは初めて見た。
そしてそれ以上に、彼に投げ付けられた言葉が、ジワジワと心を締め付けている。
「――」
少しだけ迷ってから、ジェイクは家への最短ルートを外れた。真っ直ぐに帰るのをやめて、大通りの中心部にある噴水広場まで足を延ばす。生真面目な彼には珍しい寄り道は、そのまま内心の動揺を表していた。
満々と水を湛えた円形の噴水の周辺は、談笑中のお年寄りや、人待ち顔の若者、飲み物を売る露店などで、程良く賑わっている。田舎町の平和な光景を通り抜けて、ジェイクもまた噴水に腰掛けた。足の間に荷物を下ろし、ふう、と大きく息をつく。
――俺はいつも、「方法」を間違える。
膝の上で両手を組んだジェイクの視線は、自然と足元へ落ちた。思い返すのは、出逢ったばかりのルカの姿だ。
ジェイクは幼い頃から体格が良く、同世代の誰よりも頑健だった。その一方で、赤ん坊や小動物など、小さくて可愛いものを見ると、無条件で守ってやりたくなる性分でもある。しかし、彼が好むもの達は、身体が大きくて寡黙な彼を本能的に恐れた。唯一の例外が妹のシェリルだったが、男児と女児では遊びの内容が異なる。野山を駆け回って得られる新鮮な驚きまでを、共有してはくれない。
そこへ現れたのがルカだった。店の上得意でもある大魔法使い・黄金のベリンダの孫として引き合わされた少年は、まるで女の子のような可憐な外見に似合わず、腕白なジェイクの後を嬉々として付いて回る。懐いてくれることが嬉しくて楽しくて、ジェイクはルカを実の弟のように可愛がり、そしてあやまちを犯した。4つ年下で小柄なルカの体力を考慮できず、長時間長距離を連れ回した挙句、昏倒させてしまったのだ。悪気のないこととベリンダはすぐに許してくれたが、両親からはこっぴどく叱られたし、子供心に本当にショックを受けたことを、今でもはっきりと覚えている。
シェリルのこともそうだ。良かれと思って入った喧嘩の仲裁で逆恨みを買い、妹に危害を加えられるとは思いもしなかった。相手の卑劣さが許せなくて、しっかりと返り討ちにはしてやったものの、結果的に家族全員を巻き込む騒動に発展してしまった。この時の両親はジェイクを叱りはしなかったが、「自分の言動に責任を持つこと」について、懇々と諭された。
家族やルカ、大事な人たちのことを守りたいと思っているだけなのに、自分の浅慮が原因で、危険な目に遭わせてしまう――だから、余計なことはしない方が良い。
つまるところ、ジェイクの思考を縛り付けているのは、これらの経験がトラウマのように脳裏に焼き付いているためだった。意図もせぬまま、自分の将来や可能性を狭めてしまっているのだ。
ルカが自分の何に対して怒っているのかはわからない。彼を止めてやれないまま重大事を引き起こしかけたことに関しては謝罪したが、どうもこれとは違う気がする。ルカにそっぽを向かれるのは精神的にもダメージが大きいので早く謝ってしまいたいけれど、原因がわからないままでは逆効果な気もする……。
袋小路にはまったような気分で、ジェイクはまた1つ溜め息を落とした。
不意に周囲のざわめきが耳に付いたのは、異質な気配を感じるのと同時だったからかもしれない。
「――!」
顔を上げると、道の前方に、肩章付きの制服を纏った騎馬の一団が見える。揃いの濃紺の衣装は、領主お抱えの騎士団のもので間違いない。いったい何事かと構える間もなく、その中から白馬が一頭、こちらに向かって歩み寄って来た。
「――ジェイク!」
馬上から気安い調子で声をかけてきたのは、領主の一人息子である、フィンレー・ボールドウィンだった。銀色の髪を風になびかせ、リーダーらしく1人紫紺の衣装を身に纏った彼は、端正な容貌も相俟って、まるで絵物語に出てくる王子様のようだ。道を行く少女達が黄色い声を上げるのも、そしてそれをお年寄り達に窘められるのも、致し方ない事と言える。
統率するフィンレーの後を追い、紺衣の一団が近付いてくるのを確認してから、ジェイクは立ち上がった。彼を始めとした周辺の者達が一斉に礼を取るのを、フィンレーは軽く手を上げて制し、愛馬から降りる。手綱を手近な者に任せて、そのままジェイクの元までやって来た。
「ちょうど良かった。お前の話を聞きたいと思ってたんだ」
「俺の?」
促され、噴水の縁に並んで腰掛ける。2つばかり年下の次期領主は、父親と同様に貴族でありながら偉ぶらないところが広く慕われる最大の理由だが、幼い頃からのルカの友人ということもあってか、彼の幼馴染みであるジェイクには殊の外寛容だった。尤も、同じ幼馴染みであっても、ルカの事となると目の色の変わるユージーンなどに対しては、それなりに辛辣だったりもする。フィンレーの中で、ルカに悪影響を及ぼすかどうかの基準が明確に線引きされており、今のところジェイクは安全圏に位置しているためではないかと思われる。
「最近魔物の被害が増えただろ? その調査中なんだ」
ジェイクの怪訝な表情に、フィンレーはやや声を落とすようにして答えた。
どうやらハーフェルだけでなく、領内の他の地域でも、人間の生活圏に入り込む魔物の報告が増えているらしい。これに魔王復活との因果関係があるのかどうか、フィンレー達は独自に調査をしているのだそうだ。
「それで、お前の妹が襲われたって話を聞いてな」
「――ああ」
ようやく事態に合点がいき、ジェイクは小さく頷いた。
シェリルが被害に遭ったのは昨夕のことで、馬で6時間弱の距離のある領主館から調査隊が派遣されるにしては、さすがに早すぎる。彼らの調査は以前から進められており、今朝この町で住民に行った聞き取りから、偶然シェリルの件を知ったということのようだ。
――支配者としては、まったく理想的だな。
不遜にもそんなことを考えながら、ジェイクは妹が被害に遭った際の状況を、詳しく説明した。魔王復活の影響に関して、ジェイクには判断は付きかねる。しかし、他の地域でも似たような事件が頻発しているというなら、調査に協力するのは住民の義務だ。
「――なるほどな。よくわかった」
憶測を挟まず、事実だけを正確に伝えるジェイクの話しぶりに満足した様子で、フィンレーはわずかに口許を緩めた。それから、少し考え込む様子を見せた後、更なる問いを重ねてくる。
「夜間、巨大な生き物が町を旋回してたって話は、聞いたことがあるか?」
「! それは……」
思い当たるところがありすぎて、ジェイクは思わず口籠った。常にはない反応に、フィンレーの表情が引き締まる。砕けた口調とはいえ、相手は地域を治める有力者、隠し立てなどするつもりはないが、事が自分の落ち度であるだけに、無念さが募る。
「それは、魔王とは無関係のはずだ」
苦いものを飲み込みながら、ジェイクは翼竜の襲来について、ルカから説明された通りのことを話して聞かせた。
ルカがベリンダに認められるために、ギルドで魔物討伐依頼を受けていたくだりでは興味深げな顔をしていたフィンレーだったが、ジェイクが「あれは全面的に俺に非があるんだ、申し訳ない」と話を締め括った途端、胡乱げに眉をひそめる。
「……何だ、それ。ルカも含めて、2人の責任だろう」
「いや、まぁ、確かにそうなんだが」
言い切られて、ジェイクは少々狼狽した。ルカが悪くないと言うつもりはないが、それでも責任は自分の方が大きい。少なくとも、ジェイクは未だにそう信じている。
「ルカはこっちの世界に慣れていない。アイツに危険性を認識させられなかった、俺の落ち度だ」
自分と同様、ルカの転生のいきさつをよく知っているフィンレーであれば、これで理解してくれるに違いない。そう考えたジェイクは、なおも言葉を次いだ。
しかし、返されたのは無慈悲な一喝だった。
「お前はルカを、何も出来ない子供だとでも思っているのか!?」
「!」
思ってもみなかった指摘に、ジェイクは今度こそ言葉を失った。フィンレーの憤慨したような表情に、ふと彼がルカと2つ違いであることを思い出す。幼い頃から近くに居て、大事に見守ってきたつもりだったが、もしかしたらルカの心情に関しては、同世代の友人である彼の方が、理解が深いのかもしれない。
「お前については、ルカからもよく聞いてる」
少しだけ悔しそうに、フィンレーが続ける。これに関しては、ジェイクも逆の立場になることはあるので、気持ちはわからないでもなかった。ルカは普段から他の友人達の前で、ジェイクのことを褒めてくれているのに違いない。
――だが。
「お前の、ルカや民を思う志は立派だとは思うが、それはただ甘やかすのとは違うだろう」
ルカだけでなく、「民」という言葉を一緒に使われて、ジェイクは瞠目した。自分が周囲からの期待をどんな風に捉えているのか、見透かされたような気がしたからだ。
ルカはいったい、自分のことをどんな風に話しているのだろうか。
フィンレーはなおも容赦ない。
「お前はルカの自主性を無視している。相手も自立した一個の人間なんだぞ」
「……!」
畳み掛けるような指摘を受けて、ジェイクは思わず口許を右手で覆った。ルカが不機嫌になった理由が、理解できた気がする。
ああ、ルカだって、いつまでも出逢った頃の、可愛い子供のままではない。2つ年下の公子がこんなに理路整然とした自分の意見を述べるのだ、彼と2つしか違わないルカも、同じように大人に近付き、自分で物事を考え、判断できるようになっていて当然だろう。
偉大な祖母の庇護の下にあって安穏な生活を送るよりも、例え危険が伴うとしても、広い世界に飛び出し、自分に何が出来るのか見極めたいと願う少年が、自分の非を認められないほど狭量なはずはない。
そんなルカに対して、ジェイクのとった態度は、彼の反省を無視するものではなかったか。
「………………」
すべてが一気に腑に落ちたような気がして、ジェイクは呆然と肩を落とした。後頭部を殴り付けられたような衝撃に、目が眩むような気分だ。
「それでなくても、お前達のルカへの態度は目に余るものがある。――よく考えろ」
キッパリと断じてから、フィンレーはサッと立ち上がった。数歩進んだ所で足を止め、「協力には感謝する」と律儀に言い残す。
部下達を率いて去っていく後ろ姿を、ジェイクは座ったまま見送った。
突然の貴人の登場に、妙に浮き足立っていた住民達も徐々に落ち着きを取り戻し、通りがかった幾人かが、何も知らぬ様子で挨拶を寄越していく。
ほとんど機械的に応じながら、ジェイクはルカの言葉を思い返していた。
『それって失礼なんじゃないかな』
『もっとちゃんと話を聞いてあげて』
家族は自分を頼りにしてくれているようだし、周りのみんなも、町のために必要な人材だと期待してくれているのはわかっている。
――でも誰も、俺を縛り付けたりなんてしてはいない。
「……ああ……」
嘆息混じりに漏らした声には、自嘲がにじんでいた。
いつの間にか大人になっていたルカだからこそ、ジェイク自身がそれとは気付かぬまま、家族や町民達の期待を言い訳にしていたことにも、気付いていたのに違いない。外の世界で自分の力を試してみたいと願いながらも動こうとしないのは、ジェイクの中にも人並みの「恐れ」が存在するからだ。
子供だと思っていたルカは、ジェイクの本心を見抜き、気遣ってくれるまでに成長していた。
――ああ、俺はまた間違うところだった。
ひっそりと苦笑いして、ジェイクは立ち上がった。とんだ道草だと自嘲しながらも、その表情はどこか清々しい。
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金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。
『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!
許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』
そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。
王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。
『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』
『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』
『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』
しかし、オレは彼に拾われた。
どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。
気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!
しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?
スラム出身、第十一王子の守護魔導師。
これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。
※BL作品
恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。
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