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2章 壊れた日常。

5話 過去

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誘拐事件から10年後、俺達はようやく解放された。


見つかった時にはもう皆ボロボロで目も当てられず、それからしばらく病院生活を送り………退院してからは母の姉夫婦の家でお世話になった。



「え………何ここ………」



初めは怖くて仕方なかったけど車に乗せられてついた家。

それを見た俺達は4人とも唖然としていて、唯一風深乃がぽつりと声を出した。




なんといってもそこは、





「大豪邸……………?」







すごく大きな家だった。







叔母さんは「資産家」とか「地主」とか言っていたけどよく分からなくて………とりあえず家に入って、それからも緊張で上手く動けなかった。




家に入るまで………それすらも俺達には未知の世界で、




「何あれ…!なにあれ!?」



車をしまうガレージが庭の下にあるだけでも驚くのに、門扉を開けた途端別の世界にでも来たんじゃないかというくらい広い庭。



何故か庭に椅子とテーブルがあって、花壇もあって花が沢山咲いてて、向こうの方にはアーチのようなものもあった。




「す………すごい」



風深乃も俺もかなり興奮状態で、柚鳥と藍花だけが落ち着いていた。




家に入っても驚きの連続で………広い玄関は靴が沢山入る棚があって、そのすぐ隣の部屋は「書斎」と呼ばれるもう1つの部屋があって、



トイレは入った途端に勝手に蓋が開くし、何だか分からないスイッチがついた銀の箱のようなものが壁についていた。




「すごーい!お風呂広い!」



お風呂の浴槽が扇形で何故か半分埋まっていて広くて………前の家の記憶はあまりなかったけど、一般的な風呂だったとは思う。



そう思うと感動して………同時に怖くなって、





「こんな家に住むなんて……………夢だったらどうしよう………」




全部夢。

誘拐されている間に見た夢だと錯覚してしまった。





でもそんな俺を見て叔母さんは



「夢じゃないのよ。千月君達はね……もう辛い思いなんてしなくていいの」




そう言って頭を撫でてくれた。




ーーー



お風呂の扉と垂直になるようにまた扉があって、そこは叔母さんの部屋らしい。



見せてもらったけどやっぱり広くて………少し見回したら、写真立てを見つけた。




(あ………これ、お母さんだ)



 お母さんと叔母さんの写真。



途端に苦しくなって、それからこの部屋には入っていない。





ーーー



「リビングひろーい!!」



風深乃はさっきまで怯えていたにも関わらずすっかりこの家の虜になって走り回っていた。




「台所広い!叔母さん、どうして蛇口が2つもあるの?!」


シンクと言うらしいそれを、あの時の俺達は何も知らずに記憶にあった言葉だけで言葉を話していた。



幼稚園生くらいの時に誘拐されて、ろくに勉強なんてしてなかったから。





「んー…叔母さんがお金持ちだからかな?」
「えー!すごい!」
「うそうそ、お金持ちなのは叔父さんのほうね」



叔父さんは超売れっ子小説家らしい。
叔母さんが自慢げに話してたけど、小説家というのがなんなのか分からなかった。




「叔母さん…どうしてここ、低くなってるの?」



リビングが何故か一段低い場所がある。



「その低くなってるところはリビングなの、そして今千月君が立ってる高いところはダイニング。…まぁそのうち自然に使えるようになるから、覚えなくてもいいわよ。」




リビング……ダイニング





聞いたことも無い言葉を沢山教えて貰った。





一段下スペースの隣には小さい和室があって、ここに来てようやく小さい部屋というものを味わった。


和室の隣には階段があって、途中何故か机みたいな板があるスペースがあって………そこから2階へ登る(板のスペースは中二階、スタディスペースって呼ばれてるらしい)。



廊下から下のリビングを見下ろすと、藍花と柚鳥が下から不安そうにこっちを見ていた。



「大丈夫、怖くないよ!おいで。」




呼びかけると柚鳥が先におずおずとだけど階段を登り始めて、それを追うように藍花も登ってきた。 


叔母さんも登ってきて、4つ並ぶ部屋を1部屋ずつ見せてくれた。




「どこも同じ8帖だけど………真ん中の2部屋はクローゼットがあるから藍花と風深乃が使った方がいいかもね」



4部屋の真ん中にトイレがあって、その奥にクローゼットがあるらしく服が増えるであろう女子2人がその部屋を使うことになった。



「叔母さんがいっぱい服買ってあげるからね!」
「…!やった!嬉しい!ね、藍花!」
「え……う…うん………」




病院でたまに見かける同じ年くらいの女の子達が着ていた服が可愛いと思ったらしい。


風深乃は沢山服を買ってもらっていた。


でも藍花は違ったらしく………服よりも本を好んで、たまに外国の本も読んでいた気がする。





「なにこれー!こっちの部屋からあっちの部屋に行ける!」



どういう訳か藍花と風深乃の部屋のクローゼットは出入口が2つあって………風深乃の部屋から藍花の部屋に行くことが出来た。



「難しい単語だから知らなくてもいいとは思うけど、そういうクローゼットなの。」




気になって後々調べてみたら「ウォークスルークローゼット」と言うらしい。本当に覚えられなかった。




部屋は後で決めることにして、端のキッチン上の2階廊下からベランダに出る。


ここからが本当に驚きで………ベランダの右側に謎の通路があった。



これには4人とも口を三角にして驚いて、



「こ……この先何があるのかな………」
「もしかしたら……どこかすごいところに繋がる異空間への通路………」
「あっちの方で曲がってて先に何があるか分からない……」
「………?」



なんて話していたけど叔母さんを先頭に渡ってみたら、向こうのバルコニーに繋がってた。




「ここは………」
「下は私の部屋ね、だからルーフバルコニーなんだけど………あ、この窓開けると貴方たちの部屋」



どうやらそのバルコニーは右側の端の部屋のバルコニーらしい。




その後下に降りてリビングからテラスという所に出てみて………上にその通路があったことに気付いた。


「和室のこの部屋は洗濯物を乾かす場所よ」


テラスと隣接する全面窓ガラスの小さい部屋は、和室とも隣接していた。




ちなみに俺達がテラスと覚えていた場所はウッドデッキというらしく、それは割と最近知った。





(何はともあれ………なかなかすごいところにお世話になるな)




そう思っていた中学3年生の春。



それから3年が経って、割と今では慣れて普通に生活してる。





 

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