死に戻り令嬢は、歪愛ルートは遠慮したい

王冠

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私は今、困惑している。
何故なら、ジャスティンの部屋…つまり王太子の部屋の隣に私の部屋が存在していたからだ。


「な…これ…」


パーティーの準備の為に通された部屋が、何故かジャスティンの私室の隣だった事に疑問を抱いた私は案内をしてくれたメイドさんに確認をしたのだ。
本当に、部屋はここなのか?と。
するとメイドさんはにこりと微笑んで「間違いございません、今日からここがミリオネア様の部屋です」と言った。
中に通されると、見事に私好みの部屋に仕上がっていて。
流石というか、無駄に行動力があるな、とか色んな思いがぐるぐると回る。


「お嬢様、私、ずっと言いたかったんですけど…止められていて…!」
「ジャスティンね…。で、いつからこの計画はされていたのかしら?」
「討伐よりお帰りになった日からでございます」


婚約した日からか。
とすれば、お父様も知っていたのね。
だから異常に元気が無かったんだわ…!
昨日のあの話題は私の言質を取っていたのね!!
婚約披露パーティーを境に、王宮に住まわせるなんて…。
王太子妃教育があるから、とか理由は付けれるんだろうけど。
前の時は10歳スタートだったから、時間はあったし学園入学までに粗方終わっていたからこんな事にはならなかっただけかしら?
来月から学園が始まるけれど、まさかここから通う事になろうとは…新展開だわ。


「ダリは私について来てくれたの?」
「もちろんです!お嬢様と離れるなんて考えられません!」
「ありがとう、ダリ。心強いわ」
「はい!慣れない王宮にお嬢様一人放り込むだなんて考えただけでぞっとします!」


まるで魔物でも住んでいる所みたいなイメージなのね、ダリにとっては。
でも、あながち間違ってはいないわ。
一番の獣はジャスティンだけれど。


「お嬢様、そろそろ準備をしませんと…」
「あ、そうね。今日は大切な日だから」
「はい!気合い入れます!殿下から贈られたドレスがこちらにあると…うわぁ…」
「ダリ?どうかした?」


衣装室を開けたダリが情けない声を出した。
私も不思議に思って衣装室に入った。


「うわぁ…」


…私からも同じ声が出た。
トルソーに着せられていたドレスは、濃紺で金色の刺繍が施されている。
隣に置かれているジュエリーもジャスティンからなのだろう。
全て彼色だ。


「独占欲もここまで来ると清々しいですね、お嬢様」
「ここまでとは思ってなかったわ…」


ひくりと引き攣る顔を隠し切れない。
前もお互いの色を身に纏ってはいたけど、ここまでがっつりジャスティンカラーはなかったもの。
大人になってから婚約するとこうなるのかしら…?
前より酷くなってない!?


「とりあえず準備しましょ!」
「は、はい!!お嬢様!!」


その後全身マッサージを施され、お肌も髪もツヤッツヤになり、着々と準備は進んでいく。
あとはジュエリーを着ければ完了、という所で部屋のドアがノックされる。


「お嬢様、殿下がお見えです」
「お通しして」
「はい」


ダリがドアを開けて、ジャスティンを迎え入れた。
さっと姿を現したジャスティンを見て、思わず見惚れる。
さらりとした金髪は後ろに緩く流され、真っ黒の衣装に赤紫色のクラバット、いつもはしていないピアスも赤紫色の石だ。
この人の横に並ぶのは嫌だなと思えるくらいにカッコよすぎて困る。


「ミリオネア、口が開いてるぞ」
「はっ!!ジャスティンがカッコよすぎてつい…」
「光栄です、我が姫。今日は一段と美しい」
「素敵なドレスをありがとうございました。我が君」


ぷっ…と吹き出し二人共笑い出す。
婚約披露パーティーに相応しい雰囲気と、お互いの色合いに自然と笑みが溢れる。


「準備は出来たか?」
「あとはジュエリーだけよ」
「そうか。俺が着けても?」
「いいわよ」


濃紺色の宝石がついたネックレスを着け、ピアスも着けてもらった。


「これは今日から絶対に外さないで」
「あ…」


するりと左手薬指に通された指輪をじっと見つめる。
その指輪にはキラキラと輝く濃紺の宝石が鎮座している。
見ればジャスティンの左手薬指にも赤紫色の石が輝くシンプルな指輪が着けられている。
お互いに繋がっていられるみたいで、純粋に嬉しかった。


「ジャスティン…ありがと…」
「喜んでもらえて良かった」


うるっとなりそうだが、ダリの渾身の化粧が崩れてしまうから我慢よ、私!!
ジャスティンは穏やかな顔で私の手を取り、「長かった…」と呟いた。


「もっと早くにお互いの気持ちを打ち明けてたら良かったわね?」
「本当にそうだな。俺、5年も何してたんだろ…」
「あら、私だって5年間損したわ」
「あぁ…5年もあればあんな事やこんな事も…」
「ちょっと!?そこじゃないでしょ!?」
「俺はデートとか旅行とか暇なうちに行けたのになって意味だったんだけどね。ミリオネアは何を考えたのかな?」


ニヤニヤしたジャスティンの顔が見えて、ぼっと顔が赤くなる。
ダリが気を利かせてそっと姿を消した。
ドアが半分開けられているから、外で待機してくれているのだろう。


「ねぇ?ミリオネア?」


そうだよ、10歳の子供がナニする気だよ!!
バカか!私いぃぃ!!


「わ、私もそう思ったわ、奇遇ね」
「でもそこじゃないって言ったよな?何だ、ミリオネアは俺とデートとかしたく無かったって事か…寂しいなー」
「ち、違っ…!!私も!!し、したいです…」
「え?したくないんだろ?」
「私もしたい!!いっぱいしたい!!」


私は精一杯気持ちを伝えた。
デートしたい!!
旅行もしたい!!
ジャスティンと思い出作りたい!!


「じゃあいっぱいしような」
「うん!!」
「あ、時間だ。行くか」
「はい」


ジャスティンが出した腕に手を添えて、部屋を後にする。
あの時最後に通った、牢獄への道のりは今は違って見える。
隣には愛すべきジャスティン。
私達は微笑みを絶やす事なく、会場の入り口に立つ。


「ジャスティン王太子殿下、聖女ミリオネア・ハーヴェスト様、ご入場です!」


ファンファーレが鳴り響き、私達は会場に足を踏み入れた。
数段高い所から見ると、貴族達の様子が一望出来る。
笑顔で拍手する人、悔しげにする人、企みを含んだ顔をする人…様々だ。
特にクリスティ様とカイラ様は感情を隠しもしていない。
ある意味正直な人達である。


「ミリオネア、今日は見せつけてもいいと言っていたな」


ひそりとジャスティンが耳元で囁く。
低めの良い声に腰が抜けそうになるからやめてほしい。
ぴくりと腰が揺れたけど、素知らぬ顔で微笑む私。


「言いましたよ。ジャスティンの不安が消えればいいわね」
「ふぅん、じゃあ、遠慮なく」


ジャスティンはニコリと笑って、私の髪にキスをする。
きゃあっと令嬢達から黄色い声が上がった。
私はびしり、と固まったがそれを嘲笑うかのようにジャスティンにぐっと腰を抱かれた。


「ミリオネア、顔がほんのり赤くなってる」
「だ、誰のせいだと…」
「その顔、あまり人に見せるな」
「だ、だったら離れて下さいよ…」
「お許しが出ているからな。遠慮はしない」
「…くっ…」


言わなきゃ良かったああぁ!
こんなみんなの前でベタベタイチャイチャ!!
恥ずかしい!!これは恥ずかしいわ!!
何なのこれは苦行なの!?


「ジャスティン殿下が笑ってるわ!!」
「あぁ何て素敵!!」
「殿下は好きな方にはあんな風になるのね!!」
「羨ましいわ!!」


令嬢達がきゃあきゃあと騒ぐ。
ジャスティンを横目で確認すると、凍えるような目である一角を見ていた。
令息達が固まっている場所だ。
私はマズいと思って、ジャスティンにそっと囁いた。


「私以外をじっと見て…浮気かしら?」
「…それは誘ってるのか、ミリオネア」
「え、誘…」
「今夜はミリオネアだけを見なきゃな」
「今夜でしょ」
「違いない」


ふ、と笑って前を向く。
そろそろ陛下と王妃様が登場する。
ファンファーレが響き、二人が登場したが私は気になる事があった。
ジュエル殿下の姿が見えない。
最近会っては無かったけれど。


「ミリオネア、そろそろ前に出るぞ」
「あ、はい」


いつの間にか陛下の挨拶が終わりに近づいていた。
私達の婚約を陛下が貴族達に告げれば、ファーストダンスを踊る事になっている。
流石に今日は無茶振りはないだろうと思うが。
何事もなく陛下からの紹介が終わり、私達はダンスを踊った。
ジャスティンはあからさまに私にぴたりと身体を寄せ、時折わざと耳元で囁く。
その度にほぅ、と感嘆の声が聞こえるのだ。
そりゃあね、今日のジャスティンは別格だよね。
私も思う!


「ミリオネア、今日は一緒に寝ような」
「寝ません」
「初夜くらいいいだろ」
「紛らわしい言い方をしないで下さい」


まさか私達がこんなふざけた会話をしているなんて誰も思ってないだろう。
皆様がクールで素敵と思っているジャスティンの脳内は今、ピンク色になっていますよ、皆さん!と暴露してやりたい。


「本当の初夜は寝かせないから、今はゆっくり寝ような」
「なっ…!!!バカ…」


くっくっと笑っているジャスティンと赤くなる私達を周囲は微笑ましく見ていて。
このままこんな日がずっと続けば良いのにと心の中でそっと祈った。
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