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あの婚約披露パーティーから時は経ち、私とジャスティンは共に18歳となった。
学園にも毎日二人で通い、クラスも同じで仲睦まじく過ごしているが、ジャスティンは王太子、学園の生徒会長として、私は聖女としてする事も多くなかなか二人でゆったりと過ごす事は出来ていない。
それに、つい最近学園でとある事件が起こった事でジャスティンはかなり忙しそうにしていた。
隣国の王女が一年生として留学で来ていたが、行方不明になっているのだ。
その為ジャスティンはずっと王女の行方を探している。
流石に疲れている様子を見せたジャスティンを思いやってか、私室でいる時はダリも護衛も退室し、私と二人きりになれるようにしてくれている。
「ミリオネア、今回の魔獣討伐にも行くのか?結婚式の打ち合わせもあるだろ?」
「そうね、今回はどうしても行かなきゃいけないの」
「どうしても…」
「うん、そんなに危険はないんだけどね。ロイ兄様が行くから…」
そう、ロイ兄様が行くから私は必ず行かなければならない。
彼が命を落としたあの討伐に参加する為に、私は訓練をして来たのだから。
絶対にロイ兄様を死なせない。
「ネオダール令息が行くから…?」
「そうなの、魔法も得意じゃないのに参加するって言うから、何かあった時に守ってあげなきゃね」
「…打ち合わせは?」
「一応間に合うようには帰って来るつもりだけど、討伐も打ち合わせも日はずらせないから…間に合わなかった時の為に要望は先に伝えていくわね」
「別に君が行かなくても浄化は出来るようにしてあるだろ」
「そうだけど、今回はダメなの。ロイ兄様がいるから」
確かに私がいなくても、私の魔力を込めた器具さえ使えば浄化は出来るようになった。
新たに魔道具を開発したのだ。
私を危険に晒したくないお兄様とジャスティンが共同で開発した魔道具。
浄化だけならば問題はない、けれど今回はロイ兄様が魔獣に引き裂かれて死ぬ。
魔道具ではどうにもならない。
「ネオダール令息に随分拘るんだな」
ひゅっと温度が下がる。
ジャスティンが男性を敵認定する時に感じるものだ。
彼は変わらず嫉妬深い。
毎日かなり忙しそうな上に、もやついていたら…そりゃあ性格も捻じ曲がるわよね。
「ジャスティン、何か勘違いしているみたいだけど、ロイ兄様は私の幼馴染であり兄みたいな人よ?愛しているのはジャスティンだけ、今も昔も」
「…だったら、行くな。俺を選んでここにいろ」
「…それは出来ない。今回だけは」
「…何でっ…!」
いつも冷静なジャスティンが、今日は妙に感情的になっている。
ロイ兄様の話題なんて、今までにいくらでも出たでしょうに。
何故今日はこんなに不安がるのかしら。
理由を言えば安心するんでしょうけど…。
「ロイ兄様が魔法が苦手だから、心配なの。それだけよ」
「…君はいつも俺から離れていく…」
ぼそりと悔しげに呟いたジャスティンの様子はやはりいつもと違う。
あの頃のジャスティンみたいにどこか仄暗い。
けれど私は時戻りをしている事を彼には伝えられないでいた。
あの時の悲痛な顔を思い出すと、どうしても言えなかったのだ。
「討伐まであと三日あるから、それまでずっとくっついてるわ。私だって五日もジャスティンから離れるのは寂しいから」
「…二日分足りない。その穴埋めはどうしてくれる?」
「うーん…じゃあ…夜は一緒に寝ましょ?どう?」
「……わかった。今からずっとくっついてろよ、君が言い出した事だ」
「ふふ…わかったわ」
拗ねたように言うジャスティンは可愛い。
浮気のうの字も感じさせない程に私にべったりだから。
それでも、不安がないと言えば嘘になる。
あの頃も、ロイ兄様が亡くなるまでは多少のお遊びはあったものの、こんな風に幸せだったのだから。
いつ状況が変わるかはわからないから、油断は出来ない。
それに…今度浮気したら、怒りを全部ぶち撒けてから国を出て行ってやる。
「ミリオネア、討伐は五日だが二日で帰って来いよ」
「ジャスティンがいれば可能だけど、いないから無理よ。最低でも三日はかかるわ」
「俺も行こうかな…」
「公務あるでしょ」
「…ちっ…」
盛大に舌打ちして私を抱き寄せるジャスティンが愛おしい。
彼の指にはキラリと光る婚約指輪があの日から外される事なく嵌っている。
もちろん、私の指にも。
ジャスティンはいつも愛しげにそれを触っては嬉しそうに微笑むのだ。
「ジャスティン、好きよ」
「俺の方が好き…」
「私よ……んん…」
唇を塞がれた。
触れるだけの物からだんだんと深いキスに変わり、くちゅくちゅと唾液の混ざる音が耳を侵略してくる。
「あ…ふ…んぅ…」
徐々に降りていくジャスティンの唇が私の首元を擽っていて、声を殺したいのに漏れ出てしまうのが恥ずかしい。
「あ…んっ…あ、跡…つけちゃ…んん…ダメよっ…」
「何で」
「みんなに…ん…見られたらっ…」
「見せる為に付けるんだろ」
「あっ…こらっ…」
ぢゅっと鎖骨付近をキツく吸われて、ピリッとした痛みを感じる。
あぁ…絶対に消えないやつ付けてる…。
「もう…んっ…」
「ダメだ。まだ止めない」
「あっ…あんっ…!」
ふにふにとドレスの上から揉まれる胸が形を変える。
私達は婚約した日から、徐々に触り合いを重ねていた。
守られているのは最後の一線だけである。
前の記憶があるだけに、あまりにも頑なに拒みすぎるのもジャスティンの精神衛生に宜しくないと判断したのだ。
だが最近は、その一線すらもういいかと思ってしまう事もあった。
「は…あ…んん…」
「声を必死に我慢してる顔が好き…」
「い、意地が…あ…悪…」
「俺を意地悪にするのはミリオネアだ」
「なっ…あぁん…」
カリカリと爪で乳首を刺激されると、もどかしく思えるほどには開発されているのだろう。
こんな感じで開発されれば、誰だって先に進みたくなる。
下腹部がじんとしてきて、無意識に脚を擦り合わせる。
くちくちと粘着質な音がするけど、聞こえないフリをして。
だってジャスティンがすぐに触ってくるはずだから。
「可愛い乳首が俺を誘ってくるけど、今から公務だ。残念だけど行かなきゃな」
「えっ…?今から…?」
「そうだ。ミリオネアも同行してくれ、約束通りくっついてろよ」
「ん、ま、待って!ドレスを着替えて…」
「そのままでいい、行くぞ」
「あっ…」
ぐっと手を引き立たされて、さっさと部屋を出るジャスティンにそのまま連れて行かれる。
私は盛り上げるだけ盛り上げられて、そのまま人前に連れて行かれるという意地悪をされているのだ。
ジャスティンはわかってやっている。
替えたかったのはドレスではなく、下着だという事も。
歩くたびにとろりと流れる液が下着に染みているのがわかる。
「どうした?顔が赤いが」
「わかってやってるでしょ!?」
「何の事だか?」
「意地悪っ!!」
「俺以外を優先するお前が悪い」
そう冷たく言い放たれてはぐぅの音も出ない。
確かにそうだ。
ロイ兄様の命がかかっているとは言え、ジャスティンには何も言えないのだから。
彼がむっとするのは仕方ない。
「ね、ジャスティン…歩くペースが速い…」
「いつもはミリオネアの方が速いだろ?」
「んっ…でも…」
下着が擦れて気持ち悪いんだってば!!
たらたらと流れる液体は止まらず、下着を濡らしている。
それが冷たく感じる程、もうそこはびしょびしょなのだ。
他の人にぬちぬちと言う音が聞こえてないか、気が気ではない。
「ミリオネア、その顔どうにかしろ」
「え、か、顔?」
「そんないやらしい顔、他の奴に見せる気か?」
「っ!!」
ひそり、と囁かれた内容にぶわっと羞恥で赤くなる。
こ、この意地悪男!!!
性根が悪すぎるわ!!!
ぎっとジャスティンを睨むも、ふふんと笑われるだけで繋いだ手の甲をすりすりと指でなぞられるだけ。
そんな軽い刺激すら、今の私には酷だと言うのに。
ぴくりと肩が揺れる私を面白そうに見ているジャスティンと、決してこんな状況の為に習得したのではない淑女の笑みを絶やさない私。
「も…部屋に帰りたい…」
「討伐行かないならいいぞ」
「う…それはダメ…」
「ちっ…じゃあそのままだ」
どうしてそんなにロイ兄様を意識するのよ。
仲が良いのは認めるけれど、自分とは全く違う空気感でしょうに!!
「やぁ、兄上、お義姉さん、久しぶり」
前からジュエル殿下が手を振りながら歩いてきて、私達に声を掛ける。
ジュエル殿下は昔から私と仲が良く、弟みたいに大事にして来た。
「あら、ジュエル殿下、お久しぶりです」
「…ジュエル、最近学園に通ってないと聞いたが」
「やだなぁ、兄上。お義姉さんの前でそんな話」
気不味そうに笑うジュエル殿下はちらちらと私の方を伺うように見ている。
「まぁ、ジュエル殿下は不真面目さんになってしまったの?」
「お義姉さん、違うんです。ここ最近、体調が悪くて」
「そうなの?どこか悪いの?」
「はい、胸が苦しい時があって…」
「だ、大丈夫なの?医師には診せた?」
私は心配になってジュエル殿下をじっと見つめる。
ジュエル殿下はしゅんとした表情になり、「診せても良くならなくて…」と呟き、その後顔色が悪くなった。
そんな大きな病に侵されたという話はなかったが、あの時から状況は変わっている。
もしかしたら、何かあるのかもしれない。
「可哀想に…治癒の魔法をかけておくわね」
キラキラと銀色の光がジュエル殿下を包み込んだ。
ジュエル殿下の顔色が少し良くなったように見える。
彼の頬に赤みが差した。
「ありがと、お義姉さん。身体が軽くなったよ」
にこりとジュエル殿下が笑う。
まだ幼さの残る表情に、思わず頭を撫でていた。
「体調が良くなったら、学園に行ってね」
「はい!」
どう見ても仲のいい義姉と義弟だが、ジャスティンには違って見えるらしい…彼の機嫌がどんどん悪くなっていく。
「ミリオネア、そろそろ行くぞ」
「あ、はい。じゃあね、ジュエル殿下」
「はい、兄上、お義姉さん、またね」
手を振りながら、私達はジャスティンの執務室へ足を進めた。
ジャスティンを見ると、むっつりと眉間に皺を寄せている。
あぁ、これは後が大変だと溜息を吐きたくなった。
学園にも毎日二人で通い、クラスも同じで仲睦まじく過ごしているが、ジャスティンは王太子、学園の生徒会長として、私は聖女としてする事も多くなかなか二人でゆったりと過ごす事は出来ていない。
それに、つい最近学園でとある事件が起こった事でジャスティンはかなり忙しそうにしていた。
隣国の王女が一年生として留学で来ていたが、行方不明になっているのだ。
その為ジャスティンはずっと王女の行方を探している。
流石に疲れている様子を見せたジャスティンを思いやってか、私室でいる時はダリも護衛も退室し、私と二人きりになれるようにしてくれている。
「ミリオネア、今回の魔獣討伐にも行くのか?結婚式の打ち合わせもあるだろ?」
「そうね、今回はどうしても行かなきゃいけないの」
「どうしても…」
「うん、そんなに危険はないんだけどね。ロイ兄様が行くから…」
そう、ロイ兄様が行くから私は必ず行かなければならない。
彼が命を落としたあの討伐に参加する為に、私は訓練をして来たのだから。
絶対にロイ兄様を死なせない。
「ネオダール令息が行くから…?」
「そうなの、魔法も得意じゃないのに参加するって言うから、何かあった時に守ってあげなきゃね」
「…打ち合わせは?」
「一応間に合うようには帰って来るつもりだけど、討伐も打ち合わせも日はずらせないから…間に合わなかった時の為に要望は先に伝えていくわね」
「別に君が行かなくても浄化は出来るようにしてあるだろ」
「そうだけど、今回はダメなの。ロイ兄様がいるから」
確かに私がいなくても、私の魔力を込めた器具さえ使えば浄化は出来るようになった。
新たに魔道具を開発したのだ。
私を危険に晒したくないお兄様とジャスティンが共同で開発した魔道具。
浄化だけならば問題はない、けれど今回はロイ兄様が魔獣に引き裂かれて死ぬ。
魔道具ではどうにもならない。
「ネオダール令息に随分拘るんだな」
ひゅっと温度が下がる。
ジャスティンが男性を敵認定する時に感じるものだ。
彼は変わらず嫉妬深い。
毎日かなり忙しそうな上に、もやついていたら…そりゃあ性格も捻じ曲がるわよね。
「ジャスティン、何か勘違いしているみたいだけど、ロイ兄様は私の幼馴染であり兄みたいな人よ?愛しているのはジャスティンだけ、今も昔も」
「…だったら、行くな。俺を選んでここにいろ」
「…それは出来ない。今回だけは」
「…何でっ…!」
いつも冷静なジャスティンが、今日は妙に感情的になっている。
ロイ兄様の話題なんて、今までにいくらでも出たでしょうに。
何故今日はこんなに不安がるのかしら。
理由を言えば安心するんでしょうけど…。
「ロイ兄様が魔法が苦手だから、心配なの。それだけよ」
「…君はいつも俺から離れていく…」
ぼそりと悔しげに呟いたジャスティンの様子はやはりいつもと違う。
あの頃のジャスティンみたいにどこか仄暗い。
けれど私は時戻りをしている事を彼には伝えられないでいた。
あの時の悲痛な顔を思い出すと、どうしても言えなかったのだ。
「討伐まであと三日あるから、それまでずっとくっついてるわ。私だって五日もジャスティンから離れるのは寂しいから」
「…二日分足りない。その穴埋めはどうしてくれる?」
「うーん…じゃあ…夜は一緒に寝ましょ?どう?」
「……わかった。今からずっとくっついてろよ、君が言い出した事だ」
「ふふ…わかったわ」
拗ねたように言うジャスティンは可愛い。
浮気のうの字も感じさせない程に私にべったりだから。
それでも、不安がないと言えば嘘になる。
あの頃も、ロイ兄様が亡くなるまでは多少のお遊びはあったものの、こんな風に幸せだったのだから。
いつ状況が変わるかはわからないから、油断は出来ない。
それに…今度浮気したら、怒りを全部ぶち撒けてから国を出て行ってやる。
「ミリオネア、討伐は五日だが二日で帰って来いよ」
「ジャスティンがいれば可能だけど、いないから無理よ。最低でも三日はかかるわ」
「俺も行こうかな…」
「公務あるでしょ」
「…ちっ…」
盛大に舌打ちして私を抱き寄せるジャスティンが愛おしい。
彼の指にはキラリと光る婚約指輪があの日から外される事なく嵌っている。
もちろん、私の指にも。
ジャスティンはいつも愛しげにそれを触っては嬉しそうに微笑むのだ。
「ジャスティン、好きよ」
「俺の方が好き…」
「私よ……んん…」
唇を塞がれた。
触れるだけの物からだんだんと深いキスに変わり、くちゅくちゅと唾液の混ざる音が耳を侵略してくる。
「あ…ふ…んぅ…」
徐々に降りていくジャスティンの唇が私の首元を擽っていて、声を殺したいのに漏れ出てしまうのが恥ずかしい。
「あ…んっ…あ、跡…つけちゃ…んん…ダメよっ…」
「何で」
「みんなに…ん…見られたらっ…」
「見せる為に付けるんだろ」
「あっ…こらっ…」
ぢゅっと鎖骨付近をキツく吸われて、ピリッとした痛みを感じる。
あぁ…絶対に消えないやつ付けてる…。
「もう…んっ…」
「ダメだ。まだ止めない」
「あっ…あんっ…!」
ふにふにとドレスの上から揉まれる胸が形を変える。
私達は婚約した日から、徐々に触り合いを重ねていた。
守られているのは最後の一線だけである。
前の記憶があるだけに、あまりにも頑なに拒みすぎるのもジャスティンの精神衛生に宜しくないと判断したのだ。
だが最近は、その一線すらもういいかと思ってしまう事もあった。
「は…あ…んん…」
「声を必死に我慢してる顔が好き…」
「い、意地が…あ…悪…」
「俺を意地悪にするのはミリオネアだ」
「なっ…あぁん…」
カリカリと爪で乳首を刺激されると、もどかしく思えるほどには開発されているのだろう。
こんな感じで開発されれば、誰だって先に進みたくなる。
下腹部がじんとしてきて、無意識に脚を擦り合わせる。
くちくちと粘着質な音がするけど、聞こえないフリをして。
だってジャスティンがすぐに触ってくるはずだから。
「可愛い乳首が俺を誘ってくるけど、今から公務だ。残念だけど行かなきゃな」
「えっ…?今から…?」
「そうだ。ミリオネアも同行してくれ、約束通りくっついてろよ」
「ん、ま、待って!ドレスを着替えて…」
「そのままでいい、行くぞ」
「あっ…」
ぐっと手を引き立たされて、さっさと部屋を出るジャスティンにそのまま連れて行かれる。
私は盛り上げるだけ盛り上げられて、そのまま人前に連れて行かれるという意地悪をされているのだ。
ジャスティンはわかってやっている。
替えたかったのはドレスではなく、下着だという事も。
歩くたびにとろりと流れる液が下着に染みているのがわかる。
「どうした?顔が赤いが」
「わかってやってるでしょ!?」
「何の事だか?」
「意地悪っ!!」
「俺以外を優先するお前が悪い」
そう冷たく言い放たれてはぐぅの音も出ない。
確かにそうだ。
ロイ兄様の命がかかっているとは言え、ジャスティンには何も言えないのだから。
彼がむっとするのは仕方ない。
「ね、ジャスティン…歩くペースが速い…」
「いつもはミリオネアの方が速いだろ?」
「んっ…でも…」
下着が擦れて気持ち悪いんだってば!!
たらたらと流れる液体は止まらず、下着を濡らしている。
それが冷たく感じる程、もうそこはびしょびしょなのだ。
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「ミリオネア、その顔どうにかしろ」
「え、か、顔?」
「そんないやらしい顔、他の奴に見せる気か?」
「っ!!」
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こ、この意地悪男!!!
性根が悪すぎるわ!!!
ぎっとジャスティンを睨むも、ふふんと笑われるだけで繋いだ手の甲をすりすりと指でなぞられるだけ。
そんな軽い刺激すら、今の私には酷だと言うのに。
ぴくりと肩が揺れる私を面白そうに見ているジャスティンと、決してこんな状況の為に習得したのではない淑女の笑みを絶やさない私。
「も…部屋に帰りたい…」
「討伐行かないならいいぞ」
「う…それはダメ…」
「ちっ…じゃあそのままだ」
どうしてそんなにロイ兄様を意識するのよ。
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「やぁ、兄上、お義姉さん、久しぶり」
前からジュエル殿下が手を振りながら歩いてきて、私達に声を掛ける。
ジュエル殿下は昔から私と仲が良く、弟みたいに大事にして来た。
「あら、ジュエル殿下、お久しぶりです」
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「やだなぁ、兄上。お義姉さんの前でそんな話」
気不味そうに笑うジュエル殿下はちらちらと私の方を伺うように見ている。
「まぁ、ジュエル殿下は不真面目さんになってしまったの?」
「お義姉さん、違うんです。ここ最近、体調が悪くて」
「そうなの?どこか悪いの?」
「はい、胸が苦しい時があって…」
「だ、大丈夫なの?医師には診せた?」
私は心配になってジュエル殿下をじっと見つめる。
ジュエル殿下はしゅんとした表情になり、「診せても良くならなくて…」と呟き、その後顔色が悪くなった。
そんな大きな病に侵されたという話はなかったが、あの時から状況は変わっている。
もしかしたら、何かあるのかもしれない。
「可哀想に…治癒の魔法をかけておくわね」
キラキラと銀色の光がジュエル殿下を包み込んだ。
ジュエル殿下の顔色が少し良くなったように見える。
彼の頬に赤みが差した。
「ありがと、お義姉さん。身体が軽くなったよ」
にこりとジュエル殿下が笑う。
まだ幼さの残る表情に、思わず頭を撫でていた。
「体調が良くなったら、学園に行ってね」
「はい!」
どう見ても仲のいい義姉と義弟だが、ジャスティンには違って見えるらしい…彼の機嫌がどんどん悪くなっていく。
「ミリオネア、そろそろ行くぞ」
「あ、はい。じゃあね、ジュエル殿下」
「はい、兄上、お義姉さん、またね」
手を振りながら、私達はジャスティンの執務室へ足を進めた。
ジャスティンを見ると、むっつりと眉間に皺を寄せている。
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