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どくり、と心臓が跳ねた。
ジャスティンのいつもより低い声にふるりと震えてしまう。
彼の腕から逃れる事も忘れて、ただ抱き締められている。
息すらするのも、忘れそうで。
「君が俺を好きになってくれるまで待とうと思った。でも…」
でも…その先は…。
ジャスティンの今の気持ちは。
「でも…?」
ようやく声が出せた。
目線を上に向けると濃紺の瞳は熱を持ったようにゆらりと揺れて。
「君に何かあったら…俺は耐えられないから。だから、もう待ってやらない」
「私を、どうするの…?」
ここで、「私もずっと前からあなたが好きよ」と答えたら、可愛い女の子になれるのに。
どうやら私もそう簡単には変われないらしい。
「俺の全てを懸けて、俺に惚れてもらう」
「っ!!!」
今までに見た事のない甘く、満面の笑みを向けられた私の心理的状況を誰かわかりやすく説明して欲しい。
きゅんとする、どころじゃない。
全身の血が逆流した上に、沸騰しているみたいだ。
声すら出ない、目も逸せない。
「今から本気出すから、覚悟して」
「は…はい…」
はい、としか言えない私。
明日のキングスネークとか、お兄様嫌いとか、ミリオネアの底なし沼とか言ってる場合じゃない気がする。
私が底なし沼に叩き落とされる予感しかしないわ。
「明日、俺から絶対に離れないようにして」
「それは…」
「キングスネークなんて、すぐ倒すから。さっさと帰って、正式に婚約しよう」
「え!?でも…」
「はい、か、うん以外言ったらお仕置きね」
「は!?」
「はい、お仕置き」
ジャスティンはにこにこしながら、ゆっくりと顔を近付けて。
私の頬にちゅ、とキスをした。
「あ、真っ赤」
「あ、あ、当たり前でしょ!!」
「へぇ?当たり前なんだ?誰かにされた事あるの?」
「な、ないわよ!バカ!」
「じゃあ俺がミリオネアの初めてなわけだ?」
「い、意味深な言い方しないでよ!」
「意味深って?どういう意味?」
「~~っっ!!」
この意地の悪い男を殴ってやりたい。
ジャスティンはニヤニヤしながらまだ「ねぇ、教えて?」と頬にちゅっちゅとキスしてくるが、抱き込まれている私には逃げ場はないわけで。
「ミリオネアが俺の事だけ考えればいいのに」
「え…?」
「俺ばっかり君が好きで…」
ぽつりとジャスティンが呟く。
距離が近い今は、どんな小さな声でも聞こえてしまう。
もしかしたら、ジャスティンは前もこんな気持ちだったのだろうか。
こんな風に二人きりで話す事も少なかったし。
お互いに王太子、王太子妃教育で時間も無かったし。
会えなくて寂しくても、我慢してた。
ジャスティンも、そうだったの…?
「殿下ばっかり、私が好きなんですか?」
「君はいつも、俺を惚れさせてはするりと躱してばかりだ」
「あら…それは大変もやもや致しますわね」
「他人事だと思って…」
拗ねたような表情で、ジャスティンは私の髪に口付ける。
ジャスティンがもやもやしたって、おあいこよ。
私だって同じなんだから。
でも、今回ジャスティンはちゃんと言葉にしてくれた。
ならば、私だってきちんと伝えなければ。
黙っていては、何も伝わらない。
それを私は学んだのだから。
「殿下、他人事じゃなかったらどうします?」
「え?」
「私だって、もやもやするんですよ?」
「そ、れは…どういう意味でのもやもやなんだ?」
期待と不安が入り混じった声色で、彼は私に問いかける。
ドクドクと速くなる彼の鼓動が、私の想いを加速させる。
私は心を決め、ジャスティンの濃紺をじっと見つめた。
「私も、ずっと殿下が好きです」
「…っ!!」
ジャスティンは目を見開き、言葉を詰まらせた。
微に震える彼の手が、私の頬に触れた。
「殿下よりも、私の方が好きです」
「いや、俺の方が好きだ」
「だって殿下は他の方と腕組んだりしてたもの」
「君だって大神官やネオダール令息と仲良さそうにしてただろ」
「ロイ兄様はあくまでも兄様。ヴェーレイ様はお爺様でしょ。婚約者候補ではありませんわ」
「くそっ!やっぱり父上に暗示でもかければよかった…」
私の肩口に顔を埋めたジャスティンからとんでもない一言が飛び出す。
アレだ、女神様が言ってたアレだ!!
「帰ったらすぐにミリオネアと婚約したい。むしろすぐに式でも良い」
「とりあえず婚約でしょうねぇ。いきなり式はちょっと…」
「何故だ?俺と婚姻するのが嫌なのか?」
「いや、準備とかあるでしょ?ドレスとか」
「あぁ…急がせれば一ヶ月くらいで…」
「殿下が浮気したりとか…」
式の半年前にしたからね、浮気。
私、今でも思い出したら震えるくらい苛つくのよ?
「俺は浮気はしない。ミリオネア以外に興味がない。むしろ、君を狙う男共の多さが俺には許せない。数えたらキリがないくらいいるんだ」
「え?そんなに人気ないですよ。あぁ、聖女の肩書と権力が欲しいんじゃないんですか?」
「全くこの無自覚聖女が!俺がどれだけイライラしたか…何度君の純潔を散らしてやろうかと…!」
「は!?な、何を考えているんです!!」
私は真っ赤になった。
じゅ、純潔を散らすですって!?
ジャスティンは15歳からそんな事考えてたの!?
「君は知らないだろうが、そういう意味も含めて君を狙う奴は多いんだ。だいたいがリチャード殿に阻まれているがな」
「お兄様は私を守ってくれていたのね…」
「ガチガチにな。おかげで俺も手は出せなかったけど」
「出したらダメでしょ!!」
「仕方ないだろ、好きな女に触れたいと思うのは当たり前だ」
「じゃあ、い、今も…?」
この状況下は、ジャスティンにとって最高の状況では?
誰もいない暗がりで二人きり、なんて婚約者でもなかなかないわよね。
「そりゃ…今だって理性を保つのに必死だ」
ぐっと我慢したようなジャスティンが可愛くて、愛しくて。
こんな顔を見せられたら、思わずいいよって言ってしまいそうになる。
「ジャスティン…大好きよ…」
意図せずぽろりと溢れた言葉にジャスティンがびくりとして固まった。
直後にふーっと大きく息を吐く彼に、大変申し訳ない事をしたなと苦笑して。
「ミリオネア…これは俺の精神を鍛える為の修行か?」
地の底から響くような声でそう問いかけながらも、全く動かないジャスティンに私もどこか触発されて。
過去ではなく、今の彼ともっと気持ちを交わしたくなった。
ギリギリの所で耐える横顔が、何よりも男らしくてカッコいい。
同時にその綺麗な顔を崩してやりたくなる。
「殿下、大丈夫ですか?」
「…大丈夫だと思えるなら、君は悪魔だ」
「あら、一応は聖女ですが」
「さっきは名で呼んだのに…殿下に戻すなんて意地が悪いぞ…」
「許可を頂いておりませんので」
「くそっ…またそうやって…!」
悔しげなジャスティンは、色気を垂れ流して私を落としにかかってくる。
私は笑って彼の頬に手を添える。
潤んだ濃紺を捉えたら、ゆらりとそれが揺れた。
私だけを映して欲しい、と思う。
独占欲が生まれる。
「私だけを見て、私だけを愛してくれる?」
あの時言わなかった…言えなかった想いを伝えよう。
ジャスティンはにっこりと微笑み、私にそっとキスをした。
「生涯君だけを愛すると、女神に誓うよ」
気が付けば、頬を涙が伝っていた。
あの頃から固まっていた心が、泣いているみたいに。
零れ落ちて、流れ出した。
私はゆっくりとジャスティンに口付ける。
はしたないなんて、今はどうでもいい。
ただ、そうしたかった。
「ミリオネア…文句は後で聞く」
「え?…んぅ…」
ぼそりと呟いたジャスティンの手が私の後頭部を支えて、触れるだけのキスを何度も繰り返した。
しばらくそうした後、私達は手を繋いでテントに帰る。
ジャスティンのテントで明日の話をして、また抱き合ってキスをして。
ジャスティンのおねだりで膝枕をして、彼の頭を撫でていた。
「初めてミリオネアを見た時、世界が色付いて見えた」
ぽつりぽつりとジャスティンは幼い頃の話を聞かせてくれた。
アネシャ様が亡くなって、すぐに陛下が王妃様を娶ったのが嫌だった事、自分は必要なくてアネシャ様と一緒に死ねばよかったと思っていた事。
自分には人を愛する事も、愛される事もないと思っていた事。
「俺にも人を好きになれるんだって。嬉しかったんだ」
そう言って笑うジャスティンは晴々としていた。
小さな頃からジャスティンは愛に飢えていたのだと、今ならばわかる。
だから私に執着をして、愛を得ようと空回って拗らせた挙句に、歪んだ愛を生成したのね。
「初めて会った私のどこを好きになったの?」
「庭師が褒められた時に、自分の事みたいに嬉しそうに笑った時だな…」
「そうね、ジャンが褒められて嬉しかったわ。ネックレス今も大事にしてる。ありがとうジャスティン」
「あっ…!」
ジャスティンはしまった!という顔をして、真っ赤になった。
私は笑いそうになるのを堪えて、ジャスティンの別名を呼んでみる。
「アダム様、お久しぶりですね。会いたかったです」
「……ミリオネア、それダメだ」
「え?」
「めちゃくちゃイラつく。俺だけど違う名前を呼ぶな…」
「まぁ…ヤキモチばっかり妬いて、大変ね」
「妬いてるよ、毎日。ミリオネアの近くにいる奴全部に」
ぷいとそっぽを向いてジャスティンが拗ねる。
この可愛い生き物は何なのかしら。
「あら、私だって妬きますわ。クリスティ様やカイラ様に」
「…本当?」
「えぇ。浮気したら許しませんからね」
「しないよ。ミリオネアも浮気したらその場で犯すからね」
「は…しません」
「あと、相手は絶対に殺す」
怖!!
目が本気なんだけど!!!
ジャスティンは愛おしそうに私のお腹にすりすりと頭を寄せている。
まぁ…可愛いからいいか。
こうして私達はお兄様の事なんてすっかり忘れてそのまま眠りこけてしまった。
次の日起こしに来た隊員に散々冷やかされたのは言うまでもなかった。
ジャスティンのいつもより低い声にふるりと震えてしまう。
彼の腕から逃れる事も忘れて、ただ抱き締められている。
息すらするのも、忘れそうで。
「君が俺を好きになってくれるまで待とうと思った。でも…」
でも…その先は…。
ジャスティンの今の気持ちは。
「でも…?」
ようやく声が出せた。
目線を上に向けると濃紺の瞳は熱を持ったようにゆらりと揺れて。
「君に何かあったら…俺は耐えられないから。だから、もう待ってやらない」
「私を、どうするの…?」
ここで、「私もずっと前からあなたが好きよ」と答えたら、可愛い女の子になれるのに。
どうやら私もそう簡単には変われないらしい。
「俺の全てを懸けて、俺に惚れてもらう」
「っ!!!」
今までに見た事のない甘く、満面の笑みを向けられた私の心理的状況を誰かわかりやすく説明して欲しい。
きゅんとする、どころじゃない。
全身の血が逆流した上に、沸騰しているみたいだ。
声すら出ない、目も逸せない。
「今から本気出すから、覚悟して」
「は…はい…」
はい、としか言えない私。
明日のキングスネークとか、お兄様嫌いとか、ミリオネアの底なし沼とか言ってる場合じゃない気がする。
私が底なし沼に叩き落とされる予感しかしないわ。
「明日、俺から絶対に離れないようにして」
「それは…」
「キングスネークなんて、すぐ倒すから。さっさと帰って、正式に婚約しよう」
「え!?でも…」
「はい、か、うん以外言ったらお仕置きね」
「は!?」
「はい、お仕置き」
ジャスティンはにこにこしながら、ゆっくりと顔を近付けて。
私の頬にちゅ、とキスをした。
「あ、真っ赤」
「あ、あ、当たり前でしょ!!」
「へぇ?当たり前なんだ?誰かにされた事あるの?」
「な、ないわよ!バカ!」
「じゃあ俺がミリオネアの初めてなわけだ?」
「い、意味深な言い方しないでよ!」
「意味深って?どういう意味?」
「~~っっ!!」
この意地の悪い男を殴ってやりたい。
ジャスティンはニヤニヤしながらまだ「ねぇ、教えて?」と頬にちゅっちゅとキスしてくるが、抱き込まれている私には逃げ場はないわけで。
「ミリオネアが俺の事だけ考えればいいのに」
「え…?」
「俺ばっかり君が好きで…」
ぽつりとジャスティンが呟く。
距離が近い今は、どんな小さな声でも聞こえてしまう。
もしかしたら、ジャスティンは前もこんな気持ちだったのだろうか。
こんな風に二人きりで話す事も少なかったし。
お互いに王太子、王太子妃教育で時間も無かったし。
会えなくて寂しくても、我慢してた。
ジャスティンも、そうだったの…?
「殿下ばっかり、私が好きなんですか?」
「君はいつも、俺を惚れさせてはするりと躱してばかりだ」
「あら…それは大変もやもや致しますわね」
「他人事だと思って…」
拗ねたような表情で、ジャスティンは私の髪に口付ける。
ジャスティンがもやもやしたって、おあいこよ。
私だって同じなんだから。
でも、今回ジャスティンはちゃんと言葉にしてくれた。
ならば、私だってきちんと伝えなければ。
黙っていては、何も伝わらない。
それを私は学んだのだから。
「殿下、他人事じゃなかったらどうします?」
「え?」
「私だって、もやもやするんですよ?」
「そ、れは…どういう意味でのもやもやなんだ?」
期待と不安が入り混じった声色で、彼は私に問いかける。
ドクドクと速くなる彼の鼓動が、私の想いを加速させる。
私は心を決め、ジャスティンの濃紺をじっと見つめた。
「私も、ずっと殿下が好きです」
「…っ!!」
ジャスティンは目を見開き、言葉を詰まらせた。
微に震える彼の手が、私の頬に触れた。
「殿下よりも、私の方が好きです」
「いや、俺の方が好きだ」
「だって殿下は他の方と腕組んだりしてたもの」
「君だって大神官やネオダール令息と仲良さそうにしてただろ」
「ロイ兄様はあくまでも兄様。ヴェーレイ様はお爺様でしょ。婚約者候補ではありませんわ」
「くそっ!やっぱり父上に暗示でもかければよかった…」
私の肩口に顔を埋めたジャスティンからとんでもない一言が飛び出す。
アレだ、女神様が言ってたアレだ!!
「帰ったらすぐにミリオネアと婚約したい。むしろすぐに式でも良い」
「とりあえず婚約でしょうねぇ。いきなり式はちょっと…」
「何故だ?俺と婚姻するのが嫌なのか?」
「いや、準備とかあるでしょ?ドレスとか」
「あぁ…急がせれば一ヶ月くらいで…」
「殿下が浮気したりとか…」
式の半年前にしたからね、浮気。
私、今でも思い出したら震えるくらい苛つくのよ?
「俺は浮気はしない。ミリオネア以外に興味がない。むしろ、君を狙う男共の多さが俺には許せない。数えたらキリがないくらいいるんだ」
「え?そんなに人気ないですよ。あぁ、聖女の肩書と権力が欲しいんじゃないんですか?」
「全くこの無自覚聖女が!俺がどれだけイライラしたか…何度君の純潔を散らしてやろうかと…!」
「は!?な、何を考えているんです!!」
私は真っ赤になった。
じゅ、純潔を散らすですって!?
ジャスティンは15歳からそんな事考えてたの!?
「君は知らないだろうが、そういう意味も含めて君を狙う奴は多いんだ。だいたいがリチャード殿に阻まれているがな」
「お兄様は私を守ってくれていたのね…」
「ガチガチにな。おかげで俺も手は出せなかったけど」
「出したらダメでしょ!!」
「仕方ないだろ、好きな女に触れたいと思うのは当たり前だ」
「じゃあ、い、今も…?」
この状況下は、ジャスティンにとって最高の状況では?
誰もいない暗がりで二人きり、なんて婚約者でもなかなかないわよね。
「そりゃ…今だって理性を保つのに必死だ」
ぐっと我慢したようなジャスティンが可愛くて、愛しくて。
こんな顔を見せられたら、思わずいいよって言ってしまいそうになる。
「ジャスティン…大好きよ…」
意図せずぽろりと溢れた言葉にジャスティンがびくりとして固まった。
直後にふーっと大きく息を吐く彼に、大変申し訳ない事をしたなと苦笑して。
「ミリオネア…これは俺の精神を鍛える為の修行か?」
地の底から響くような声でそう問いかけながらも、全く動かないジャスティンに私もどこか触発されて。
過去ではなく、今の彼ともっと気持ちを交わしたくなった。
ギリギリの所で耐える横顔が、何よりも男らしくてカッコいい。
同時にその綺麗な顔を崩してやりたくなる。
「殿下、大丈夫ですか?」
「…大丈夫だと思えるなら、君は悪魔だ」
「あら、一応は聖女ですが」
「さっきは名で呼んだのに…殿下に戻すなんて意地が悪いぞ…」
「許可を頂いておりませんので」
「くそっ…またそうやって…!」
悔しげなジャスティンは、色気を垂れ流して私を落としにかかってくる。
私は笑って彼の頬に手を添える。
潤んだ濃紺を捉えたら、ゆらりとそれが揺れた。
私だけを映して欲しい、と思う。
独占欲が生まれる。
「私だけを見て、私だけを愛してくれる?」
あの時言わなかった…言えなかった想いを伝えよう。
ジャスティンはにっこりと微笑み、私にそっとキスをした。
「生涯君だけを愛すると、女神に誓うよ」
気が付けば、頬を涙が伝っていた。
あの頃から固まっていた心が、泣いているみたいに。
零れ落ちて、流れ出した。
私はゆっくりとジャスティンに口付ける。
はしたないなんて、今はどうでもいい。
ただ、そうしたかった。
「ミリオネア…文句は後で聞く」
「え?…んぅ…」
ぼそりと呟いたジャスティンの手が私の後頭部を支えて、触れるだけのキスを何度も繰り返した。
しばらくそうした後、私達は手を繋いでテントに帰る。
ジャスティンのテントで明日の話をして、また抱き合ってキスをして。
ジャスティンのおねだりで膝枕をして、彼の頭を撫でていた。
「初めてミリオネアを見た時、世界が色付いて見えた」
ぽつりぽつりとジャスティンは幼い頃の話を聞かせてくれた。
アネシャ様が亡くなって、すぐに陛下が王妃様を娶ったのが嫌だった事、自分は必要なくてアネシャ様と一緒に死ねばよかったと思っていた事。
自分には人を愛する事も、愛される事もないと思っていた事。
「俺にも人を好きになれるんだって。嬉しかったんだ」
そう言って笑うジャスティンは晴々としていた。
小さな頃からジャスティンは愛に飢えていたのだと、今ならばわかる。
だから私に執着をして、愛を得ようと空回って拗らせた挙句に、歪んだ愛を生成したのね。
「初めて会った私のどこを好きになったの?」
「庭師が褒められた時に、自分の事みたいに嬉しそうに笑った時だな…」
「そうね、ジャンが褒められて嬉しかったわ。ネックレス今も大事にしてる。ありがとうジャスティン」
「あっ…!」
ジャスティンはしまった!という顔をして、真っ赤になった。
私は笑いそうになるのを堪えて、ジャスティンの別名を呼んでみる。
「アダム様、お久しぶりですね。会いたかったです」
「……ミリオネア、それダメだ」
「え?」
「めちゃくちゃイラつく。俺だけど違う名前を呼ぶな…」
「まぁ…ヤキモチばっかり妬いて、大変ね」
「妬いてるよ、毎日。ミリオネアの近くにいる奴全部に」
ぷいとそっぽを向いてジャスティンが拗ねる。
この可愛い生き物は何なのかしら。
「あら、私だって妬きますわ。クリスティ様やカイラ様に」
「…本当?」
「えぇ。浮気したら許しませんからね」
「しないよ。ミリオネアも浮気したらその場で犯すからね」
「は…しません」
「あと、相手は絶対に殺す」
怖!!
目が本気なんだけど!!!
ジャスティンは愛おしそうに私のお腹にすりすりと頭を寄せている。
まぁ…可愛いからいいか。
こうして私達はお兄様の事なんてすっかり忘れてそのまま眠りこけてしまった。
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