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20 ジャスティン視点
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その後も変わらずに友人のような関係を続けて15歳になり、正直な所それも限界が来ていた。
自分がこんなに欲どしいとは思ってなかったが、彼女が欲しくて仕方ない。
婚約者候補の二人は、会えば腕に絡みつき甘く囁いてくると言うのに彼女は変わらず触れるか触れないかの所で俺を躱して…いっそ王命でもと思う事もあるがそれでは彼女の心は手に入らない事はわかっている。
悪戯の延長のように見つめられると、そのまま抱き締めて唇を奪いたくなる。
ままごとみたいな恋に焦ったさを感じながらも、どこか楽しい部分もあって。
リチャード殿に指導を受けた事がきっかけで格段に魔力コントロールが上手くなった俺は度々彼らの訓練に参加していた。
毎回彼女を護れと言われ、防御壁を張るうちにムラはなくなっていき、リチャード殿からお墨付きを貰えるほどになった。
リチャード殿は的確な指摘とアドバイスを毎回答えてくれるから指導者に向いているな、と溢したら彼女はぎょっとした視線を向けてくる。
彼女への説明は相変わらず難解だったようだ。
そんな中、もういい加減に意識して欲しくなって彼女と手を繋いだ。
彼女は驚いた様子だったが、すぐに悪戯する時の顔になり指を絡ませてくる。
柔らかく細い指が俺の指と絡んでいて、そのまま連れ去りたい衝動を抑えるのにかなりの精神力を使った。
人の気も知らないでこの無自覚聖女が!!と指を擦り合わせるとぴくりと彼女が反応するのが堪らない。
許されるなら彼女を暴いてしまいたい。
そんな邪な思いとは裏腹に話題は魔獣討伐になり、彼女の一言で一気に不安が押し寄せる。
みんなが無事ならいいかな、なんて一番無事でいて欲しい人に言われたら俺はどうすればいいのか。
繋ぐ手に無意識に力を入れてしまってまた軽口で流された。
挙句に大神官まで登場して俺達だけの時間は終わりを告げる。
それに、ふざけた噂が出回っていると告げられて、更に俺の気分は悪くなった。
聖女は名ばかり婚約者だと?
誰だそんなふざけた事を言うバカは。
見つけたらタダじゃ置かない…とギリギリと内心歯噛みする。
むしろ俺が欲しいのは、隣で笑って欲しいのは彼女だけ。
他はみんな顔も朧げだというのに。
でもその話のおかげで彼女の結婚式への希望が聞けた。
絶対忘れない。
その後祈りを捧げる彼女を置いて、さっきの話を詳しく調べる為に隠れて付いている護衛に指示を出す。
3年後には彼女と結婚式を挙げる予定を立てていた俺は、会場になるであろう神殿の祭壇を見学に行った。
美しい女神像に見守られ、交わす誓いを想像すれば胸が締め付けられる。
絶対に彼女と。
幸せ気分で彼女のいる祈祷室に帰ると、じっと送られる視線につい揶揄ってしまった。
彼女も乗ってくるが、どんどん墓穴を掘っていく。
俺には都合のいい話に乗らないわけないだろう。
慌てる彼女が可愛いが、まさかの膝枕とは…。
これは夢か、願望が見せる幻かと思ったが、現実のようだからありがたく享受しようと、彼女の太腿に頭を乗せた。
ふと懐かしさを覚えて、前にも同じ事があったような錯覚に陥るが何故かとても眠くなった。
そのまま寝てしまったが、とても安らかな時間が流れて…夢の中で、彼女の声を聞いた気がした。
ほっとする彼女の声…愛しい、優しい声。
あの恐ろしい夢を消し去ってくれるような、清らかな声だった。
眠る時はまだ怖い。
彼女が夢とはいえ死んでしまうから。
その後の男の声が自分の声に似ている気がして仕方ない。
でも、彼女の声は何度でも聞きたいと思った。
…どうしても、どうやっても。
いつも、毎回、何度でも。
俺は君を好きになる。
「…俺が護る…絶対…」
星空を見ながら呟いた。
ぎゅっと決意を握った拳に閉じ込めた。
俺は彼女と話をする為に彼女のテントに向かう。
深呼吸をして、彼女に声を掛けた。
「…聖女殿、少し話をしよう」
中で動く様子はあるものの、顔は出してくれない。
俺は出来るだけ声を落ち着けて、もう一度声を掛ける。
「俺は、君と話がしたい」
するとテントの入り口がそっと開き、目を真っ赤にした彼女が顔を出した。
「……何でしょうか…」
「泣いてたのか?…今、話をしてもいいか?」
「…は、話す事なんて…もうないでしょ…」
すん、と鼻を鳴らしながらすっと顔を隠される。
不謹慎だが、泣いている顔も愛しくてもっと見たくなった。
「聖女殿、このローブはお返しする。必ず明日、着てくれ」
「も…要らないでしょ。私はここから動かないんだから」
「要る。俺と約束したのを覚えてるか?」
「約束…?」
彼女はひょこりと顔を出し、きょとんとしていた。
俺は少しだけ開いたテントの入り口から、そっとローブを差し入れる。
彼女は少し考えて…それを手に取った。
「約束したんだ。神殿の祈祷室で」
「…私が危ない時には、殿下の防御壁で…」
「必ず護ると約束した」
「でも…ここにいるなら防御壁など…」
彼女が声を詰まらせて。
必死で泣くのを堪えているのだろうと思った。
「聖女殿、顔を見て話がしたい。あっちに静かな川があるから、行かないか?」
「……待って…顔が……」
「どんな君も可愛いから大丈夫だよ」
「……嘘吐き……」
そろりと出て来た彼女の手からローブを取り、彼女にばさりとかけた。
どんな顔も可愛いのは本心だが、誰かにその可愛い顔を見せたくはない。
「うわっ…!」
「泣いてる顔は俺以外に見せないで」
「っ……!!」
ぎゅっと手を繋ぎ、川辺に一緒に歩いていく。
さわさわと流れる水の音が、妙に耳に響いた。
二人で木の根本に腰を下ろして、空を見上げる。
「……は、話って…」
「じゃあ、顔が見たい」
「ん、ダメ。不細工だから」
「泣いてる顔も可愛いから、見せて」
「……狡い……」
こんな時に…いや、こんな時じゃないと出来ないから、彼女の背中に手を回して、頭を撫でる。
パサリとローブが頭から落ちて、ぱちりと目が合った。
「…あんまり見ないで…」
「婚約者が泣いてるなら、慰めないとな」
「泣かせた本人のくせに…。それに婚約者候補だし…」
すんすんと鼻を啜りながら、彼女はぷいと顔を背けた。
いつもと逆だなとふっと頬が緩む。
「本当は…明日、君を連れては行きたくないんだ。でも、それは、戦力外とか足手纏いとかじゃなくて…俺の、我儘なんだよ」
「我儘…?」
彼女が首を傾げる。
わからないだろうな、きっと。
俺はまだ、君に何も伝えていない。
「そう、我儘。俺は君が危ない目にあったり、ましてや万が一の事があれば正気を失う自信がある」
「は?…え?」
「この討伐隊の総指揮官が正気を失えば、多分この隊は全滅だろうな」
「いや…何を…」
彼女はリチャード殿の難解な説明を聞いた時のような顔をしている。
とはいえ、俺だっていきなり本心を曝け出す事は出来ないわけで。
「つまり…君は傷一つ作ってはいけない」
「は…」
「例えそれがキングスネークが相手であったとしても、だ」
「それは…っ」
「それが出来なきゃ大人しくお留守番だ」
「なっ…そんなの横暴だわ!無理な事を盾にして!」
「そうだな、横暴だな」
彼女はギリッと歯を食いしばる。
悔しげな表情で、俺を睨みつけて。
出来ればその表情は、俺に妬いた時に見たいものだ。
「殿下はどうしても私を連れていきたくないのね!?だったら何で話なんて…必要ないじゃない!」
「必要はある。俺は、明日君と一緒に行くつもりだから」
「はぁ!?一緒に行くのに傷一つ作るなですって!?」
「そうだ。俺は約束通り、君を必ず護る。だから君も傷一つ作らないと俺に約束してくれ」
「わ、私に傷がちょっと付いたって、殿下には何も迷惑はかけないわ!!大体どうしてそんな事を気にするのよ!」
かけるのは迷惑じゃない、心配だ。
君はいつもそれがわからない。
自分の事を後回しにしすぎる君は。
「わからないか」
「わからないわ」
「だろうな、君は俺の事なんて気にしやしない」
「今そんな話をしてるわけじゃ…」
そうだ、いつだって君は俺からふわふわと逃げて。
掴めそうで掴めない、まるで空に浮かんだ星みたいに。
いつも変わらず輝いているのに、その距離は果てしなく遠いんだ。
「君はいつも自分を後回しにする。俺はそれが許せない」
「なっ…こんな時は個よりも全でしょ!?」
「だから俺の我儘だって言ってるだろ」
「もう!意味がわからない!!もっとわかりやすく説明してよ!!殿下だってお兄様と同じよ!!」
わぁっと彼女が叫ぶ。
こんな謎かけみたいな事は好きじゃないんだろうな。
令嬢同士の腹の探り合いや、遠回しな言い合いなんかは素知らぬ顔でやってのけるくせに。
君はいつも真っ直ぐで、常に前だけ向いている。
でも、隣にいるのが誰か、何故そこにいるのかを考えろ。
それでもわからないなら言ってやる。
そのよく回る頭に刻みつけて、どんな時も一番に思い出せ。
俺はぐっと彼女を引き寄せた。
ぽすりと懐に飛び込んできた彼女を、ぎゅうっと抱き締めて。
「は?え?な…え?」
ようやく捕まえた彼女は腕から抜け出そうと踠くけど。
この抱擁を出来るだけ長く味わいたい俺は、腕を緩めず彼女の耳元に唇を寄せ…言葉を紡ぐ。
「君が好きだ。初めて会った日からずっと」
「…っ!!」
ぴたりと動きを止めた彼女をもう離さない。
口にした想いは、止められない。
夢の中の君を現実になんて絶対にしてやらないから。
どうか逃げずに側にいて。
「だから、俺が好きなミリオネアが傷付く事は絶対に許さない」
ジャスティンとして、初めて呼んだ君の名前は、甘く、切なく空気を揺らした。
自分がこんなに欲どしいとは思ってなかったが、彼女が欲しくて仕方ない。
婚約者候補の二人は、会えば腕に絡みつき甘く囁いてくると言うのに彼女は変わらず触れるか触れないかの所で俺を躱して…いっそ王命でもと思う事もあるがそれでは彼女の心は手に入らない事はわかっている。
悪戯の延長のように見つめられると、そのまま抱き締めて唇を奪いたくなる。
ままごとみたいな恋に焦ったさを感じながらも、どこか楽しい部分もあって。
リチャード殿に指導を受けた事がきっかけで格段に魔力コントロールが上手くなった俺は度々彼らの訓練に参加していた。
毎回彼女を護れと言われ、防御壁を張るうちにムラはなくなっていき、リチャード殿からお墨付きを貰えるほどになった。
リチャード殿は的確な指摘とアドバイスを毎回答えてくれるから指導者に向いているな、と溢したら彼女はぎょっとした視線を向けてくる。
彼女への説明は相変わらず難解だったようだ。
そんな中、もういい加減に意識して欲しくなって彼女と手を繋いだ。
彼女は驚いた様子だったが、すぐに悪戯する時の顔になり指を絡ませてくる。
柔らかく細い指が俺の指と絡んでいて、そのまま連れ去りたい衝動を抑えるのにかなりの精神力を使った。
人の気も知らないでこの無自覚聖女が!!と指を擦り合わせるとぴくりと彼女が反応するのが堪らない。
許されるなら彼女を暴いてしまいたい。
そんな邪な思いとは裏腹に話題は魔獣討伐になり、彼女の一言で一気に不安が押し寄せる。
みんなが無事ならいいかな、なんて一番無事でいて欲しい人に言われたら俺はどうすればいいのか。
繋ぐ手に無意識に力を入れてしまってまた軽口で流された。
挙句に大神官まで登場して俺達だけの時間は終わりを告げる。
それに、ふざけた噂が出回っていると告げられて、更に俺の気分は悪くなった。
聖女は名ばかり婚約者だと?
誰だそんなふざけた事を言うバカは。
見つけたらタダじゃ置かない…とギリギリと内心歯噛みする。
むしろ俺が欲しいのは、隣で笑って欲しいのは彼女だけ。
他はみんな顔も朧げだというのに。
でもその話のおかげで彼女の結婚式への希望が聞けた。
絶対忘れない。
その後祈りを捧げる彼女を置いて、さっきの話を詳しく調べる為に隠れて付いている護衛に指示を出す。
3年後には彼女と結婚式を挙げる予定を立てていた俺は、会場になるであろう神殿の祭壇を見学に行った。
美しい女神像に見守られ、交わす誓いを想像すれば胸が締め付けられる。
絶対に彼女と。
幸せ気分で彼女のいる祈祷室に帰ると、じっと送られる視線につい揶揄ってしまった。
彼女も乗ってくるが、どんどん墓穴を掘っていく。
俺には都合のいい話に乗らないわけないだろう。
慌てる彼女が可愛いが、まさかの膝枕とは…。
これは夢か、願望が見せる幻かと思ったが、現実のようだからありがたく享受しようと、彼女の太腿に頭を乗せた。
ふと懐かしさを覚えて、前にも同じ事があったような錯覚に陥るが何故かとても眠くなった。
そのまま寝てしまったが、とても安らかな時間が流れて…夢の中で、彼女の声を聞いた気がした。
ほっとする彼女の声…愛しい、優しい声。
あの恐ろしい夢を消し去ってくれるような、清らかな声だった。
眠る時はまだ怖い。
彼女が夢とはいえ死んでしまうから。
その後の男の声が自分の声に似ている気がして仕方ない。
でも、彼女の声は何度でも聞きたいと思った。
…どうしても、どうやっても。
いつも、毎回、何度でも。
俺は君を好きになる。
「…俺が護る…絶対…」
星空を見ながら呟いた。
ぎゅっと決意を握った拳に閉じ込めた。
俺は彼女と話をする為に彼女のテントに向かう。
深呼吸をして、彼女に声を掛けた。
「…聖女殿、少し話をしよう」
中で動く様子はあるものの、顔は出してくれない。
俺は出来るだけ声を落ち着けて、もう一度声を掛ける。
「俺は、君と話がしたい」
するとテントの入り口がそっと開き、目を真っ赤にした彼女が顔を出した。
「……何でしょうか…」
「泣いてたのか?…今、話をしてもいいか?」
「…は、話す事なんて…もうないでしょ…」
すん、と鼻を鳴らしながらすっと顔を隠される。
不謹慎だが、泣いている顔も愛しくてもっと見たくなった。
「聖女殿、このローブはお返しする。必ず明日、着てくれ」
「も…要らないでしょ。私はここから動かないんだから」
「要る。俺と約束したのを覚えてるか?」
「約束…?」
彼女はひょこりと顔を出し、きょとんとしていた。
俺は少しだけ開いたテントの入り口から、そっとローブを差し入れる。
彼女は少し考えて…それを手に取った。
「約束したんだ。神殿の祈祷室で」
「…私が危ない時には、殿下の防御壁で…」
「必ず護ると約束した」
「でも…ここにいるなら防御壁など…」
彼女が声を詰まらせて。
必死で泣くのを堪えているのだろうと思った。
「聖女殿、顔を見て話がしたい。あっちに静かな川があるから、行かないか?」
「……待って…顔が……」
「どんな君も可愛いから大丈夫だよ」
「……嘘吐き……」
そろりと出て来た彼女の手からローブを取り、彼女にばさりとかけた。
どんな顔も可愛いのは本心だが、誰かにその可愛い顔を見せたくはない。
「うわっ…!」
「泣いてる顔は俺以外に見せないで」
「っ……!!」
ぎゅっと手を繋ぎ、川辺に一緒に歩いていく。
さわさわと流れる水の音が、妙に耳に響いた。
二人で木の根本に腰を下ろして、空を見上げる。
「……は、話って…」
「じゃあ、顔が見たい」
「ん、ダメ。不細工だから」
「泣いてる顔も可愛いから、見せて」
「……狡い……」
こんな時に…いや、こんな時じゃないと出来ないから、彼女の背中に手を回して、頭を撫でる。
パサリとローブが頭から落ちて、ぱちりと目が合った。
「…あんまり見ないで…」
「婚約者が泣いてるなら、慰めないとな」
「泣かせた本人のくせに…。それに婚約者候補だし…」
すんすんと鼻を啜りながら、彼女はぷいと顔を背けた。
いつもと逆だなとふっと頬が緩む。
「本当は…明日、君を連れては行きたくないんだ。でも、それは、戦力外とか足手纏いとかじゃなくて…俺の、我儘なんだよ」
「我儘…?」
彼女が首を傾げる。
わからないだろうな、きっと。
俺はまだ、君に何も伝えていない。
「そう、我儘。俺は君が危ない目にあったり、ましてや万が一の事があれば正気を失う自信がある」
「は?…え?」
「この討伐隊の総指揮官が正気を失えば、多分この隊は全滅だろうな」
「いや…何を…」
彼女はリチャード殿の難解な説明を聞いた時のような顔をしている。
とはいえ、俺だっていきなり本心を曝け出す事は出来ないわけで。
「つまり…君は傷一つ作ってはいけない」
「は…」
「例えそれがキングスネークが相手であったとしても、だ」
「それは…っ」
「それが出来なきゃ大人しくお留守番だ」
「なっ…そんなの横暴だわ!無理な事を盾にして!」
「そうだな、横暴だな」
彼女はギリッと歯を食いしばる。
悔しげな表情で、俺を睨みつけて。
出来ればその表情は、俺に妬いた時に見たいものだ。
「殿下はどうしても私を連れていきたくないのね!?だったら何で話なんて…必要ないじゃない!」
「必要はある。俺は、明日君と一緒に行くつもりだから」
「はぁ!?一緒に行くのに傷一つ作るなですって!?」
「そうだ。俺は約束通り、君を必ず護る。だから君も傷一つ作らないと俺に約束してくれ」
「わ、私に傷がちょっと付いたって、殿下には何も迷惑はかけないわ!!大体どうしてそんな事を気にするのよ!」
かけるのは迷惑じゃない、心配だ。
君はいつもそれがわからない。
自分の事を後回しにしすぎる君は。
「わからないか」
「わからないわ」
「だろうな、君は俺の事なんて気にしやしない」
「今そんな話をしてるわけじゃ…」
そうだ、いつだって君は俺からふわふわと逃げて。
掴めそうで掴めない、まるで空に浮かんだ星みたいに。
いつも変わらず輝いているのに、その距離は果てしなく遠いんだ。
「君はいつも自分を後回しにする。俺はそれが許せない」
「なっ…こんな時は個よりも全でしょ!?」
「だから俺の我儘だって言ってるだろ」
「もう!意味がわからない!!もっとわかりやすく説明してよ!!殿下だってお兄様と同じよ!!」
わぁっと彼女が叫ぶ。
こんな謎かけみたいな事は好きじゃないんだろうな。
令嬢同士の腹の探り合いや、遠回しな言い合いなんかは素知らぬ顔でやってのけるくせに。
君はいつも真っ直ぐで、常に前だけ向いている。
でも、隣にいるのが誰か、何故そこにいるのかを考えろ。
それでもわからないなら言ってやる。
そのよく回る頭に刻みつけて、どんな時も一番に思い出せ。
俺はぐっと彼女を引き寄せた。
ぽすりと懐に飛び込んできた彼女を、ぎゅうっと抱き締めて。
「は?え?な…え?」
ようやく捕まえた彼女は腕から抜け出そうと踠くけど。
この抱擁を出来るだけ長く味わいたい俺は、腕を緩めず彼女の耳元に唇を寄せ…言葉を紡ぐ。
「君が好きだ。初めて会った日からずっと」
「…っ!!」
ぴたりと動きを止めた彼女をもう離さない。
口にした想いは、止められない。
夢の中の君を現実になんて絶対にしてやらないから。
どうか逃げずに側にいて。
「だから、俺が好きなミリオネアが傷付く事は絶対に許さない」
ジャスティンとして、初めて呼んだ君の名前は、甘く、切なく空気を揺らした。
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