死に戻り令嬢は、歪愛ルートは遠慮したい

王冠

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「それでは各部隊、配置に就け!レベルの高い魔獣を見たら、無理に攻撃しなくていい!自分の命を優先してくれ!」
「はいっ!」


ジャスティンが指令を終えて、各自が配置に就く。
私はジャスティンの隊と最前線で魔獣と対峙する。
すでに何体か気配は感じているが、どれも弱い個体だ。


「ミリオネア様、防具はローブだけですか?」
「そうよ。お父様の防御魔法がみっちり詰め込まれてるわ」
「ヤバい代物ですね…」
「そうねぇ。私に攻撃したらみんな死ぬわね」


レオンさんが引き攣った笑みを見せる。
最悪囮になっても良い気がしてきたわね。
とりあえず、その辺にいる魔獣を攻撃魔法で掃討する。
火焔魔法に聖魔法を乗せる事に成功したのだ。
弱い魔獣なら一瞬で灰になる。


「火焔」


ぼうっと狼型の魔獣が灰になった。
その後でキラキラと銀色の光が舞う。
ジャスティンはピンポイントに魔獣の核を撃ち抜いていき、私達の担当箇所はあっという間に魔獣がいなくなった。


「浄化」


サアァァァと空気が爽やかになり、一帯を銀の光が舞い散った。
隊員達はそれを見ながら「綺麗だな」と呑気に言っている。
いつの間にかジャスティンが背後にいて、「次の場所に行こう」と言っていた。


「そうね」
「割と早く終わりそうだな」
「このレベルの魔獣だけならね」
「この先はちょっとかかる…か」


ジャスティンも気が付いたようだ。
まだ距離はあるが、厄介なのがいる。
しかも団体で。
巨大な蜂のような虫型の奴らは飛ぶ。
剣では届かないから、魔法を使うしかない。


「俺が焼き切ろう。その後で浄化してくれ」
「わかったわ」


ジャスティンは手にかなり大きな火玉を作り始めた。
隊員のみんなは今までに見たことがなかったのか、じっとそれを凝視している。
その時ふいに背後に魔獣の気配を感じて、私は迷わず剣を振り抜いた。


「ひゅう!嫁さんすげーな!見てなかったぞ、あの魔獣の事!」
「うわ、首を完全に刎ねてる」


そこには頭と胴が完全に切り離された魔獣がいた。


「火焔」


ぼっと火がつき灰になる。
2分と経たない早業にレオンさんが目を丸くしている。


「ミリオネア様凄いですね!」
「隊長の嫁さんは綺麗だし強いし言う事ねぇな!」
「バリー、あんまり言うとあの火玉が飛んでくるぞ」
「うわっ!それは勘弁!」


私を嫁さんと呼ぶ人…バリーさんが慌てて私から離れた。
ジャスティンはチラリとこちらを見た後、さらに魔力を込めていく。


「あれ…やり過ぎなんじゃないの…」
「隊長の眉がちょっと上がってるんで、怒ってるんですかね?」
「え?怒るとこあった?魔獣に?」
「出たよ、ピュアな方」
「は?」
「いやいや、何でもないですよ」


アレンさんはやれやれ、みたいな顔でじっとジャスティンを見ている。
私は流石に大きすぎる火玉を見ながらアレンさんに話しかけた。


「水魔法って誰か使える人いるの?」
「あ、大丈夫ですよ、森は燃えないです。隊長が調整しますから」
「あぁ…それもそうか…」


ジャスティンの魔力コントロールはあの日の訓練から格段に上がり、今となっては更に洗練されている。
今、私に防御魔法を施したとしたら、文字通り穴はない。


「聖女殿、そろそろやるぞ」
「わかったわ」


私は浄化魔法を展開し始める。
この場所が終われば、一先ず今日は終了だ。
明日はもっと奥深く進む。


「燃えろ」


20匹程の魔獣が一瞬で灰になる。
アレンさんの言った通り、木々に燃え移る事はなくシュウッと消えた。


「浄化」


先程と同じように銀の光が舞い散り、もう近くに魔獣の気配はない事から今日の討伐は終了だ。
他の部隊はどうなっているだろうか。


「聖女殿、拠点に戻ろう」
「はい、殿下」
「みんなも、戻るぞ」


そうジャスティンが言うと同時に、隊員達はくるりと背を向け歩き出す。
めちゃくちゃ連携取れてるのね、帰る時だけ。
きっとみんなの頭の中にはお酒が浮かんでるんだわ…!


「聖女殿、怪我は?」
「ないわよ?」
「そうか」


私達が拠点に帰ると、もう大体の部隊が帰って来ていた。
そこで目にした光景に、私は唖然とする。


「ミリオネア!お帰り!怪我はないか?」
「お兄様!私は怪我はないわ。でも、これはどうしたの?」
「あぁ…個体は弱いけど尋常じゃない数の魔獣が一気に押し寄せて来たんだよ」


周りを見渡すと、怪我をしている隊員が沢山いた。
私は広範囲の治癒魔法を展開するべく、魔力を手に集めた。


「あぁ、それなりで良いぞ、ミリオネア。みんな軽い傷ばっかだから」
「はい、お兄様」


確かに重傷はいないように見える。
私は少し魔力を減らして治癒魔法をかけた。


「ありがとうございます、ミリオネア様!」


口々に言うみんなが元気そうで良かった。
ほっとした所で、お兄様の口から飛び出した言葉に私は凍りついた。


「殿下、ミリオネア。奥にヤベーのがいるかも知れない。今日の魔獣達は何かから逃げるみたいに押し寄せて来たんだよ」
「え、ヤベーのって…まさか…」
「…キングスネークか…」
「…そうだ」


キングスネーク…魔獣の中でもトップクラスの強さを誇る蛇。
毒液と鋭い牙、長い身体に巻き付かれでもしたら一瞬で圧死する。
そんな魔獣に出くわしたとしたら、他の魔獣もひとたまりもない。
だからみんな、逃げていたんだわ。


「…倒せるかしら…」
「ギリギリいける…かも?ってとこかな」
「精鋭部隊を作る。リチャード殿、第二から第四部隊の中で選抜してくれ」
「わかった」


もしかしたら。
ジャスティンもお兄様も私を外すかも知れない。
何故かそう思った。


「…私も行くからね?」


そう発した言葉に、二人の動きが止まる。
やっぱり…!!


「ミリオネア、今回はお前は連れて行かない」
「聖女殿、俺も同意見だ」


二人の表情が、これは決定事項だと言っていて。
私は足手纏いだと言われている気になった。


「……私が行けない理由は?」


静かに聞いても、二人は黙ったまま答えない。
戦力にならないからならまだ納得出来る。
でも、それならば最初からお父様が許可しない。
ならば理由は。


「私が、女性だから?」


ぐっと二人が息を呑んだ。
私が女性だから、みんなが一番危険な所には連れていけないと。


「ミリオネア、キングスネークは本当に危険なんだ」
「聖女殿、君に何かあったら…」


二人が言う理由は、私が到底納得出来るものではなくて。
危険だから、何かあったら…なんて、ここに来る時にはわかってた事じゃないの。


「…だったら最初から君は足手纏いだから連れて行けないって素直に言えば良かったんじゃない?」
「ミリオネア!足手纏いとかじゃなくて!」
「聖女殿が心配なんだ。わかってほしい…」

 
心配…。
都合の良い言葉よね。
君の事を心配してるから、大人しく言う事を聞いて待っていなさいって。
本人の意思や覚悟、積み上げた努力も全部0にしてしまう魔法の言葉ね。


「二人は私を認めてくれて、一緒に戦えるって思ってくれていると思ってたのに…。そうやって思ってたのは私だけだったみたいね…」
「ミリオネア…違…」
「認めてる。でも、聖女殿に何かあれば耐えられない」


何を言われても響かないわ。
拗ねるというのも違うけれど、何だろう…。
裏切られた気分に近い。
信じてた事がひっくり返るのって、割とダメージが大きいのよ?知ってる?


「違わないし、あなた方が耐えられないと思うのと同じように、私も何も出来ない自分に耐えられないわ。それでもあなた方は私の意見は無視して、自分達の意見だけを通すのでしょうね」
「……っ!ミリオネア…」
「お兄様、今まで訓練して頂いてありがとうございました」


泣きそうな表情のお兄様に今までのお礼を告げた。
私の顔はきっと今、表情はない。
使うことのない王太子妃教育がこんな所で必要になるなんて。
この場でも所詮令嬢にしかなれない私って虚しいわね。


「殿下、私はテントに戻ります。私などもう必要ないかと思いますので放っておいて下さいませ」
「聖女殿、何を言って…。どうしてわかってくれないんだ」
「まぁ…あなただって私をわかってはくれないではありませんか。自分は理解してもらいたい、でも人は理解できない。それではただの独裁者ですわ。今後、お気をつけ下さいませ」
「君が怪我でもしたら俺は…」


語尾が弱くなっていくジャスティンが、あの時と重なって見える。
でも関係ないわ。
どうしていつも私を怒らせるのかしら…。
今も前も変わらないのね。
私も頑なになる所は変わってないからおあいこかしら。
それでも。
今まで必死にやって来た事を全部否定されたみたいで、悔しい、腹立たしい…悲しい…。


「そうだわ、私は安全な所にいるのですから、これも必要ありませんね」


私はバサリとローブを脱いだ。
お兄様とジャスティンの顔色が変わる。
あの令嬢達と同じでしょ?
安全な所で祈るだけなら、こんなローブは必要がない。


「ミリオネア!!ダメだ!!それだけは脱がないでくれ!!」
「聖女殿!!絶対に脱ぐな!!何が起こるかわからないんだぞ!!」


二人が必死になればなるほど私の心は冷えていく。
そんなに必死になるほど危険な所に、自分達は危険を顧みずに行こうとして、聖女の私を連れて行かないなんて何の為に私は今まで頑張って来たんだろう。
ただ守られるだけなら神殿にいても変わらないわ。
それに、心配は自分達だけがする物だと思っているの…?


「あぁ、私は戦わないし危なくなんてないから御守りこれも必要ないわね」


シャランと音を立てて、首から外されたあのネックレス。
それを見たジャスティンの顔が青ざめる。


「聖女殿、それは大切にしていた物だろう…?」
「今後、ネックレスとしてたまに使う事にしますわ。御守りはもう必要ないので」


私は手に持ったローブをジャスティンに渡して「どうぞ、お使い下さい」と言い残し、テントへ戻った。
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