死に戻り令嬢は、歪愛ルートは遠慮したい

王冠

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王都の街をパレード形式で進む事数十分。


「王太子殿下ー!気を付けていってらっしゃーい!」
「殿下ー!!一度でいいから抱いてー!!」
「殿下かっこいいー!!!」


ジャスティンの人気は絶大で、大人から子供まで声援が絶えない。
とんでもない内容の物も交じっているが、国民に愛されているから良しとしよう。


「聖女様ー!!この前腕を治してくれてありがとー!!」
「また一緒に遊んで下さーい!!」
「俺と結婚して下さーい!!」
「旦那を助けてくれてありがとー!!」


私の方は、神殿で会った人が多い。
旦那さんが瀕死だった人の奥さんと目があって、ひらっと手を振ったら歓声がさらに大きくなった。


「ミリオネア様は人気ですね」
「あら、貝はやめたの?」
「はい、疲れるんで」
「ふふ…」


そろそろパレードも終わりに近付き、私達は今日の目的地へと本格的に馬を走らせた。
魔獣のいる森にちょっと入った所で今日は陣を取る。
討伐隊の総人数は100名余り。
そこまで大規模ではないけれど、小部隊でもない。そして、そこにはあの時ジャスティンに殺された兵士もいた。元気そうにテントを張っている。


「聖女殿、テントは俺の隣になるそうだが、大丈夫か?」
「えぇ、特に問題はありません」


行き来する仲でもないし、食事くらいしか顔を合わさないでしょうしね。


「この後、戦略会議がある。一緒に行こう」
「はい、どれくらいいますかね?魔獣は」
「数はそんなにだが、レベルが高い奴がちらほらいるらしい」
「ちらほらなら、大丈夫でしょうね。Sクラスが来るとマズイですけど」
「生きて帰れないかもな、それは」


私達の会話をレオンさんが聞いていて、わぁわぁと騒ぎ出す。


「隊長達は本当に15歳ですか?そんな物騒な会話をよく微笑み混じりで出来ますね?Sクラスとかやめて下さいよ!!」
「え?でも想定はしておかないと…いたら困るなら特に」
「そうだな、対処は考えておかないと」
「さっきまでピュアだったのに、いきなり手練れの冒険者みたいな事言い出したよ!!」
「とりあえず、この辺の魔獣はヤッとかないとね」
「あぁ」


私とジャスティンは、お兄様に訓練をしてもらった日から度々一緒に訓練をしている。
お互いに成長し、考え方も似た所もあったりしてコンビネーションは中々の出来だ。


「あぁ…ピュアな聖女から物騒な言葉が…!」
「うるさいぞ、レオン」
「あぁ…隊長はいつも通りの悪魔だと言うのに」


ぶつぶつと言いながらレオンさんは部隊に戻って行った。


「聖女殿、怪我しないように」
「あら、殿下こそ気を付けて下さいね」
「あぁ、行こう」
「はい」


私達は戦略会議で、Sクラスの魔獣にも備えるように注意喚起を促した。
お兄様がそれについての見解を説明してくれて、具体的にどうするかまで決めた所で会議は終了となる。
夕食の時間になり、スープとパンを持ってテントに帰ろうとしたらジャスティンが「こっちで食べろ」と手招きをするのでそこに行ったのだが。


「…ねぇ、みんな酔い過ぎじゃない?」
「…まぁ、いつもだな」
「これ…魔獣が来たら対処出来るの?」
「それは大丈夫だ。こいつらは酔ってる時の方が敏感だし、強い」


周りを見たら、お酒の入っていたであろう樽が転がっている。
みんなは楽しそうに、お酒を飲み干し肉を齧っていた。


「聖女殿はそんな少食で大丈夫なのか?」
「え?普通の量でしょう?一応私も令嬢なので」
「令嬢は大変だな」
「まぁ、面倒ですわね」


こんな風にテーブルも無く、近くに座って食事をする事はなかったから新鮮な気持ちになる。
いつもは完璧なマナーで食べるジャスティンも、今はパンを齧ってるし。
ワイルドさが出ていて、これはこれで良い物だ。


「最近良く聖女殿に見つめられるな」
「まぁ、かっこいいですからね、殿下は」
「聖女殿は美人になったな」
「あら、ありがとうございます」


ぱくりと千切ったパンを食べる。
もぐもぐと咀嚼していると、じっと視線を感じた。


「…何です?」
「小さい口だな」
「どうでしょう?みんな似たような物では?」
「他の令嬢のがどうかは知らないが」
「クリスティ様とかカイラ様とか…」
「どうだったかな…」


見ればジャスティンもワインを飲んでいる。
私も少し貰おうかしら、寒いし。
どうしようかとじっとワインを見ていると、それに気付いたジャスティンは「飲むか?」と杯を差し出してくる。


「あ、頂きます」
「うん」


私は何も考えずにただ、それを受け取りワインを飲んだ。
数口飲んで、またジャスティンに杯を戻そうとして私ははっとする。
今はこれはダメだ。


「あっ!すみません、殿下の杯で飲んでしまって…!新しい物に替えて来ますわ」
「いや、いい。それをくれ」
「でも…」
「婚約者候補筆頭と同じ杯でワインを飲んだ所で、誰も何も言わないさ」
「そういう問題じゃ…あっ!」


ジャスティンはさっと私の手から杯を取り上げ、残ったワインを全部飲んでしまった。
かぁっと顔が熱くなるのは、ワインのせいか、それともジャスティンのせいなのか。
辺りが暗くて良かったわ…!
たかが間接キスなのに。
どうしてこんなに照れてしまうのか。
15歳の頃にはもう何度もキスしていたし、今更なのに。


「くっくっ…聖女殿、顔が真っ赤だな」
「ち、違…!」


ジャスティンは肩を揺らして笑っている。
どうしてこの暗がりで顔が赤いのがわかるのよ!!もう!
ドクンドクンと鼓動が速くなるのも、かっかと熱くなるのも、全部ワインのせいにしたい。


「ワ、ワインを飲んだからですっ!」


苦し紛れにそう言えど、ジャスティンは涼しい顔で笑いながら「そうだな」と大人な対応をしてくる。
確かに大人びた人だったけど、私と同じか、それ以上の落ち着きがあるように見えて仕方ない。
ふー、と息を吐き暑くなった私はローブの前を開けた。
シャランとネックレスの音がして、ほっと癒される。
あのネックレスも、今日は私の御守りとして連れて来ていた。


「今の音は…」
「あ、私のネックレスです。御守りがわりに着けているので」
「綺麗な音だな」
「癒されるんです。一番気に入っていて…」


そこまで言って私は固まってしまった。
よりにもよってジャスティンの前で…くれた本人の前で一番気に入っていると言ってしまうなんて。
結局アダム様の事も、ネックレスの事も聞かない事にした。
何かの理由があるんだろうし。
私だって、時戻りをしている事は言っていないのだから。


「誰に貰ったんだ?」
「え?」
「それ、誰に貰った?」
「アダム様と言う子です」
「へぇ、男なんだ?」
「10歳の誕生日にね、貰ったんです」
「ふぅん。聖女殿はそれをずっと大事にしてるんだな」
「そうね、大切に大切にしています」


な、何が聞きたいのかしら。
自分が変装してたくせに。


「そいつとは交流があるのか?」
「ないですね。探してたんだけど、見つからなくて…」
「ふぅん。そうなんだな」


目の前にいるけどねぇ?
ジャスティンは素知らぬ顔で色々と聞いてくるけど、何がしたいのかしら?
交流はあるといえばあるわよね、あれからずっと。
何なら今、間接キスしたし。


「…っ!」


ぶわっとまた頬が染まった。
バカ!私のバカ!!!
何で今思い出すのよ!!
さっきの間接キスと、前のジャスティンとのキスを思い出してしまった。


「聖女殿は、そいつを思い出すと顔が赤くなるのか?」
「い、いえ、そういうわけでは…」


少しムッとしたような表情をしてるけど、自分でしょ!?
もー!今その形のいい唇見せないでよ!!!
色々思い出しちゃうでしょ!!バカ!!


「婚約者候補といえども他の奴と交流はほどほどにな」
「まぁ…妬いていらっしゃるの?でも、他の男性とほどほどなら仲良くしてもいいのかしら?」
「……そこまで縛れないからな」
「そうですね。それに16歳までにお互いに好きにならなければ、私は婚約者候補から外れますしね」
「…え?」


ジャスティンが驚きの表情を見せる。
あら?知らなかったのかしら?陛下は伝え忘れているの?


「知りませんでしたか?私達が16歳の成人を迎えるまでに、他に好きな人がどちらかに出来たり、互いに好きにならなければ私は候補から外れると陛下と約束しているんです」
「…そんな事は何も聞いていない」
「まぁ…陛下が伝えていなかったんですね。でも、そうなんですよ」
「あと一年か…」


どういう意味のあと一年か…なの?
あと一年我慢すれば私はいなくなるの方?
それとも、あと一年しかないの方?
聞いてみるという選択肢はなかった。
討伐前に心を乱されたくない。


「そう、あと一年です」


そう言った後、二人とも沈黙した。
向こうでは隊員達が騒ぎに騒いでいる。
もう服を纏っていない人もいる。


「…あんまり見るな。そのうち全裸になるぞ」
「えっ!?それはちょっと困りますね」
「そうだな。テントに送ろうか?」
「あ、はい。お願いしても良いですか?」
「風呂があれば良いんだがな」
「ふふ…そんな贅沢は言えませんね。みんなはどうしてるんです?」
「あのまま最後は水浴びか、川に飛び込むか…かな」
「は!?」


寒くないの!?
酔ってるから平気なの!?
私がびっくりしていると、ジャスティンは笑っている。


「あいつらは規格外だから。聖女殿はするなよ」
「しませんよ!せいぜい身体を拭くくらいしか…。まぁ、魔法があるんで大丈夫です」
「ま、そうだな。湯で流せたらさっぱりはするのにな」
「あ、火魔法で湯は沸かせるかも!」
「ははっ!それは俺も出来るな。…やるか…」


真剣に悩み出したジャスティンに吹き出してしまった。
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