死に戻り令嬢は、歪愛ルートは遠慮したい

王冠

文字の大きさ
上 下
17 / 44

17

しおりを挟む
王都の街をパレード形式で進む事数十分。


「王太子殿下ー!気を付けていってらっしゃーい!」
「殿下ー!!一度でいいから抱いてー!!」
「殿下かっこいいー!!!」


ジャスティンの人気は絶大で、大人から子供まで声援が絶えない。
とんでもない内容の物も交じっているが、国民に愛されているから良しとしよう。


「聖女様ー!!この前腕を治してくれてありがとー!!」
「また一緒に遊んで下さーい!!」
「俺と結婚して下さーい!!」
「旦那を助けてくれてありがとー!!」


私の方は、神殿で会った人が多い。
旦那さんが瀕死だった人の奥さんと目があって、ひらっと手を振ったら歓声がさらに大きくなった。


「ミリオネア様は人気ですね」
「あら、貝はやめたの?」
「はい、疲れるんで」
「ふふ…」


そろそろパレードも終わりに近付き、私達は今日の目的地へと本格的に馬を走らせた。
魔獣のいる森にちょっと入った所で今日は陣を取る。
討伐隊の総人数は100名余り。
そこまで大規模ではないけれど、小部隊でもない。そして、そこにはあの時ジャスティンに殺された兵士もいた。元気そうにテントを張っている。


「聖女殿、テントは俺の隣になるそうだが、大丈夫か?」
「えぇ、特に問題はありません」


行き来する仲でもないし、食事くらいしか顔を合わさないでしょうしね。


「この後、戦略会議がある。一緒に行こう」
「はい、どれくらいいますかね?魔獣は」
「数はそんなにだが、レベルが高い奴がちらほらいるらしい」
「ちらほらなら、大丈夫でしょうね。Sクラスが来るとマズイですけど」
「生きて帰れないかもな、それは」


私達の会話をレオンさんが聞いていて、わぁわぁと騒ぎ出す。


「隊長達は本当に15歳ですか?そんな物騒な会話をよく微笑み混じりで出来ますね?Sクラスとかやめて下さいよ!!」
「え?でも想定はしておかないと…いたら困るなら特に」
「そうだな、対処は考えておかないと」
「さっきまでピュアだったのに、いきなり手練れの冒険者みたいな事言い出したよ!!」
「とりあえず、この辺の魔獣はヤッとかないとね」
「あぁ」


私とジャスティンは、お兄様に訓練をしてもらった日から度々一緒に訓練をしている。
お互いに成長し、考え方も似た所もあったりしてコンビネーションは中々の出来だ。


「あぁ…ピュアな聖女から物騒な言葉が…!」
「うるさいぞ、レオン」
「あぁ…隊長はいつも通りの悪魔だと言うのに」


ぶつぶつと言いながらレオンさんは部隊に戻って行った。


「聖女殿、怪我しないように」
「あら、殿下こそ気を付けて下さいね」
「あぁ、行こう」
「はい」


私達は戦略会議で、Sクラスの魔獣にも備えるように注意喚起を促した。
お兄様がそれについての見解を説明してくれて、具体的にどうするかまで決めた所で会議は終了となる。
夕食の時間になり、スープとパンを持ってテントに帰ろうとしたらジャスティンが「こっちで食べろ」と手招きをするのでそこに行ったのだが。


「…ねぇ、みんな酔い過ぎじゃない?」
「…まぁ、いつもだな」
「これ…魔獣が来たら対処出来るの?」
「それは大丈夫だ。こいつらは酔ってる時の方が敏感だし、強い」


周りを見たら、お酒の入っていたであろう樽が転がっている。
みんなは楽しそうに、お酒を飲み干し肉を齧っていた。


「聖女殿はそんな少食で大丈夫なのか?」
「え?普通の量でしょう?一応私も令嬢なので」
「令嬢は大変だな」
「まぁ、面倒ですわね」


こんな風にテーブルも無く、近くに座って食事をする事はなかったから新鮮な気持ちになる。
いつもは完璧なマナーで食べるジャスティンも、今はパンを齧ってるし。
ワイルドさが出ていて、これはこれで良い物だ。


「最近良く聖女殿に見つめられるな」
「まぁ、かっこいいですからね、殿下は」
「聖女殿は美人になったな」
「あら、ありがとうございます」


ぱくりと千切ったパンを食べる。
もぐもぐと咀嚼していると、じっと視線を感じた。


「…何です?」
「小さい口だな」
「どうでしょう?みんな似たような物では?」
「他の令嬢のがどうかは知らないが」
「クリスティ様とかカイラ様とか…」
「どうだったかな…」


見ればジャスティンもワインを飲んでいる。
私も少し貰おうかしら、寒いし。
どうしようかとじっとワインを見ていると、それに気付いたジャスティンは「飲むか?」と杯を差し出してくる。


「あ、頂きます」
「うん」


私は何も考えずにただ、それを受け取りワインを飲んだ。
数口飲んで、またジャスティンに杯を戻そうとして私ははっとする。
今はこれはダメだ。


「あっ!すみません、殿下の杯で飲んでしまって…!新しい物に替えて来ますわ」
「いや、いい。それをくれ」
「でも…」
「婚約者候補筆頭と同じ杯でワインを飲んだ所で、誰も何も言わないさ」
「そういう問題じゃ…あっ!」


ジャスティンはさっと私の手から杯を取り上げ、残ったワインを全部飲んでしまった。
かぁっと顔が熱くなるのは、ワインのせいか、それともジャスティンのせいなのか。
辺りが暗くて良かったわ…!
たかが間接キスなのに。
どうしてこんなに照れてしまうのか。
15歳の頃にはもう何度もキスしていたし、今更なのに。


「くっくっ…聖女殿、顔が真っ赤だな」
「ち、違…!」


ジャスティンは肩を揺らして笑っている。
どうしてこの暗がりで顔が赤いのがわかるのよ!!もう!
ドクンドクンと鼓動が速くなるのも、かっかと熱くなるのも、全部ワインのせいにしたい。


「ワ、ワインを飲んだからですっ!」


苦し紛れにそう言えど、ジャスティンは涼しい顔で笑いながら「そうだな」と大人な対応をしてくる。
確かに大人びた人だったけど、私と同じか、それ以上の落ち着きがあるように見えて仕方ない。
ふー、と息を吐き暑くなった私はローブの前を開けた。
シャランとネックレスの音がして、ほっと癒される。
あのネックレスも、今日は私の御守りとして連れて来ていた。


「今の音は…」
「あ、私のネックレスです。御守りがわりに着けているので」
「綺麗な音だな」
「癒されるんです。一番気に入っていて…」


そこまで言って私は固まってしまった。
よりにもよってジャスティンの前で…くれた本人の前で一番気に入っていると言ってしまうなんて。
結局アダム様の事も、ネックレスの事も聞かない事にした。
何かの理由があるんだろうし。
私だって、時戻りをしている事は言っていないのだから。


「誰に貰ったんだ?」
「え?」
「それ、誰に貰った?」
「アダム様と言う子です」
「へぇ、男なんだ?」
「10歳の誕生日にね、貰ったんです」
「ふぅん。聖女殿はそれをずっと大事にしてるんだな」
「そうね、大切に大切にしています」


な、何が聞きたいのかしら。
自分が変装してたくせに。


「そいつとは交流があるのか?」
「ないですね。探してたんだけど、見つからなくて…」
「ふぅん。そうなんだな」


目の前にいるけどねぇ?
ジャスティンは素知らぬ顔で色々と聞いてくるけど、何がしたいのかしら?
交流はあるといえばあるわよね、あれからずっと。
何なら今、間接キスしたし。


「…っ!」


ぶわっとまた頬が染まった。
バカ!私のバカ!!!
何で今思い出すのよ!!
さっきの間接キスと、前のジャスティンとのキスを思い出してしまった。


「聖女殿は、そいつを思い出すと顔が赤くなるのか?」
「い、いえ、そういうわけでは…」


少しムッとしたような表情をしてるけど、自分でしょ!?
もー!今その形のいい唇見せないでよ!!!
色々思い出しちゃうでしょ!!バカ!!


「婚約者候補といえども他の奴と交流はほどほどにな」
「まぁ…妬いていらっしゃるの?でも、他の男性とほどほどなら仲良くしてもいいのかしら?」
「……そこまで縛れないからな」
「そうですね。それに16歳までにお互いに好きにならなければ、私は婚約者候補から外れますしね」
「…え?」


ジャスティンが驚きの表情を見せる。
あら?知らなかったのかしら?陛下は伝え忘れているの?


「知りませんでしたか?私達が16歳の成人を迎えるまでに、他に好きな人がどちらかに出来たり、互いに好きにならなければ私は候補から外れると陛下と約束しているんです」
「…そんな事は何も聞いていない」
「まぁ…陛下が伝えていなかったんですね。でも、そうなんですよ」
「あと一年か…」


どういう意味のあと一年か…なの?
あと一年我慢すれば私はいなくなるの方?
それとも、あと一年しかないの方?
聞いてみるという選択肢はなかった。
討伐前に心を乱されたくない。


「そう、あと一年です」


そう言った後、二人とも沈黙した。
向こうでは隊員達が騒ぎに騒いでいる。
もう服を纏っていない人もいる。


「…あんまり見るな。そのうち全裸になるぞ」
「えっ!?それはちょっと困りますね」
「そうだな。テントに送ろうか?」
「あ、はい。お願いしても良いですか?」
「風呂があれば良いんだがな」
「ふふ…そんな贅沢は言えませんね。みんなはどうしてるんです?」
「あのまま最後は水浴びか、川に飛び込むか…かな」
「は!?」


寒くないの!?
酔ってるから平気なの!?
私がびっくりしていると、ジャスティンは笑っている。


「あいつらは規格外だから。聖女殿はするなよ」
「しませんよ!せいぜい身体を拭くくらいしか…。まぁ、魔法があるんで大丈夫です」
「ま、そうだな。湯で流せたらさっぱりはするのにな」
「あ、火魔法で湯は沸かせるかも!」
「ははっ!それは俺も出来るな。…やるか…」


真剣に悩み出したジャスティンに吹き出してしまった。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...