12 / 44
12
しおりを挟む
あのお披露目パーティーから二週間、私は神殿で祈りを捧げている。
「で、ジャスティンとはどう?」
「婚約者候補筆頭になってしまって、困っている所です。相変わらず顔は可愛いんですけど」
「そうよね!可愛いわよね!」
祈祷室で祈りを捧げると現れる女神様は、ジャスティンとの進展具合に興味深々だが女神様が望むほどキャッキャうふふな雰囲気にはなっていない。
「素直じゃないからね、ジャスティンは」
「前に比べればまだ子供らしいですよ」
「それはミリオネアが、18歳目線で見てるからでしょ?」
「あ、そうでした」
一つ不可解なのは、ジャスティンは私を聖女殿と呼び、名前を呼ばない。
それが謎で疑問が残る。
「ジャスティンは私の名前を呼ばないんですよ、何でなのかしら…?」
「うーん…もしかしたら前の記憶か感情が薄ら残ってるのかもね?無意識に距離を取らなければ、と思ってるのかも」
「なら、婚約まで行かないですね。私の予想ではクリスティ様が有力かと思いますが」
「えー…ミリオネア、頑張ってぇ…」
女神様は私達をどうしてもくっつけたいらしい。
アダム様の事を聞いたら教えてくれないかしら。
「女神様、あの…」
「あっ!ヴェーレイが来るわ!またね、ミリオネア!」
ふっと空間が元に戻る。
直後に祈祷室のドアが開き、紅茶とお菓子を持った神官がゾロゾロと入って来た。
「ミリオネア様!疲れたでしょう!さぁ、お茶でも飲んで下さい!」
「ヴェーレイ様、お気遣いなく…。大丈夫ですから」
「ミリオネア様の為にお茶が用意出来る幸せを噛み締めているのです!この年寄りの楽しみを奪わないで下さい」
「まぁ…ヴェーレイ様ったら…」
にこにこと好好爺のような顔をして、ヴェーレイ様は私と話をする。
聖人として崇められたラジュラン様の事や、その時の歴史などを細かく教えてくれた。
私も興味深く、面白い為に延々と聞いてしまって一日が終わる。
最近はそれの繰り返しだ。
「そういえば、ジャスティン殿下が後でこちらに来るようですぞ」
「そうなんですか」
はて?何かあるのかな。
あのパーティー以来、二回程お茶をしているがそれも周りがお膳立てしての話で彼自ら神殿に来るのは初めてだ。
「あ、来られたようです。こちらにお通しします」
「はい、お願いします」
ヴェーレイ様達はそっと祈祷室を後にした。
開けられたドアの向こうに護衛が二名立っている他は誰もいない。
「子供だからいいのかしら…」
ぽつりと呟く。
成長すれば、部屋に二人きりはありえないから。
「聖女殿、失礼する」
「王国の小太陽にご挨拶申し上げます」
席を立って、私は挨拶をする。
ジャスティンは嫌そうな表情をして「挨拶はいいよ」といつも言うのだが。
「新たな婚約者候補が決まったらしい」
「まぁ、そうなんですか。どちらのご令嬢ですか?」
「ジーランド公爵家のクリスティ嬢だ」
「お綺麗な方で良かったですわね」
「……本当にそう思うか?」
「え?」
私はきょとんとした。
ジャスティンからそんな事を聞くとは思わなかったからだ。
前はよくダンスしてましたよ、とは言えないけれども。
「殿下はご不満で?」
「不満というか、そんなに候補は沢山必要なのかと疑問なんだ」
「まぁ…相性の良い人を探すには、数はいるかも知れませんね」
「相性ね…聖女殿はどんな人だったらいいと思う?」
そうねぇ、素直で賢くて清楚で可憐で…私以外かしら!
そう言ってしまったら色々問題なんでしょうね。
「そうですね…一途に殿下を思って、国を大事にする人ですかね…?」
「ふぅん。俺を一途にね…。居るのかな、そんな人」
「居るでしょう、そりゃ」
「聖女殿は違うんだろう?」
「私は聖女枠でいるお飾りのようなものですから」
お飾り。
自分で言うのって、何だか虚しいわ。
それに、ジャスティンだって私を好きじゃないでしょうに。
「お飾りね…」
ジャスティンが以前に見せていた熱の籠ったような顔は見た事がない。
10歳の頃から、ジャスティンは私にべったりだった。
今は違う。
用が無ければお互いに会わない。
「いわば殿下の防御壁みたいなもんでしょう、私は」
「防御壁…」
「候補希望者をふるいにかける網みたいな?」
「……ふっ…はは!!網!!ははは!!」
ジャスティンが肩を揺らして笑い出した。
どこがそんなに面白かったのかしら。
「自分を網と言うとは…聖女殿は中々面白い」
「至って真面目に生きておりますわ」
「不真面目だとは言ってないだろ?」
「まぁそうですけど…」
「聖女殿は不満らしい。頬が膨れている」
「…殿下、嫌味ですか。肉ですわ、肉」
「ぶっ…あはは!!令嬢が肉と言うなんて!!普通の令嬢なら泣いているぞ!」
ジャスティンはいつからこんなに面白い子になったのかしら。
冗談とか言う子だった?
「あら、普通の令嬢じゃなくてすみませんね。殿下は泣かせるのが趣味なのかしら?」
「ふっ…そうだな、そうかもな」
「悪趣味ですこと。笑うとお可愛いらしいですわね」
「聖女殿に褒められて嬉しいよ」
「まぁ、前はプンプンしてたのに!可愛くない!」
ジャスティンとこんな会話が出来るなんて、やっぱり変化はあるのね。
良い方向に変わっているから、良かったわ…。
「プンプンしてれば可愛いのか?ならばずっとプンプンしていないとな」
「それは面倒…いえ、困りますね」
「面倒…ふっ…ははは!!面倒なんて言われたのは初めてだ!」
ジャスティンはとうとうお腹を押さえて笑い出した。
何事かと中を覗いた護衛がぎょっとしている。
わかるわ、その気持ち!
私もびっくりしているもの!
「失礼しました。でもずっとプンプンはやめて下さいね。笑っている殿下の方が素敵ですから」
「ふふ…そうか?なら聖女殿といる時は笑っていよう」
「光栄ですわ」
目を見合わせて笑い合う私達は、あの頃よりもずっといい関係だ。
きっとこういう関係の先にある物が、恋や愛に変われば上手くいくのだろう。
あの頃の二人は、お互い以外は受け入れないようなどこか歪でドロリとした何かに纏わりつかれているみたいだったから。
「お邪魔しますよ」
「あ、ヴェーレイ様」
「大神官、どうした」
「私も話に交ぜてもらおうかと思いましてな」
ヴェーレイ様は色んな話をしてくれる。
歴史の話や、神々の話など。
ジャスティンもすっかりハマってしまって、真剣な顔をして聞き入っている。
すっかり日が落ちてしまい、私は慌てて帰るハメになった。
「聖女殿、今日は楽しかった。大神官があんなに面白いとは知らなかったよ」
「ヴェーレイ様はお話し好きですからね。また一緒に聞きましょう」
「あぁ、次はいつ来るんだ?」
「そうですね…魔法の訓練があるので…三日後でしょうか」
魔法の訓練と口にした瞬間、ジャスティンの目がキラリと光った気がした。
「それは、聖女殿の家でか?」
「そうです、お兄様に教えて貰っているので」
「あの…俺も、俺も明日…行っても良いだろうか…」
おずおず…といった様子で聞いてくるジャスティンはまるで天使のようで。
今頃、女神様も悶絶しているんじゃないのかしら。
「良いですよ、ぜひいらして下さい」
「本当か!?」
「はい、本当です」
思わずにっこりと笑ってしまう。
ジャスティンも奇跡を起こしそうな満面の笑みを弾けさせた。
あぁ可愛い!!可愛いわ!!
私は思わず手を伸ばしてジャスティンの頭を撫でてしまった。
「あ、すみません、つい」
「う、いや…」
目を見開いて固まったジャスティンに、しまった!と焦った私は謝る選択をした。
ジャスティンは下を向いてしまったが、耳が赤くなっているのが見えて笑いそうになる。
久しぶりに触れた柔らかな髪が手に心地いい。
「では殿下、明日お待ちしていますね」
「あぁ…」
私は馬車に乗り、ジャスティンに手を振る。
ジャスティンは一瞬迷った後、そっと手を上にあげた。
幼い頃は、ジャスティンが不器用に示していた態度も気付いてあげられなかったけど。
馬車が出発した後、私は優しい気持ちになった。
次の日、緊張した面持ちで我が家にやって来たジャスティンは、お兄様に防御の魔法を習いたいと言っていた。
「殿下、いいですか。防御魔法は弾いたり、吸収したりと使い方が多いです。殿下は何を防御したいですか?」
「…人…かな」
「では、ミリオネアを守り通して下さい」
「聖女殿を…守る」
ジャスティンはじっと私を見る。
濃紺の瞳がゆらりと揺れた。
「そうです、俺はミリオネアを攻撃しますから。殿下が失敗したら、ミリオネアは傷だらけになりますよ。死ぬ気で守って下さいね」
「う、わかった」
「殿下、私をお守り下さいませ!」
芝居がかった風にジャスティンを頼ってみる。
ジャスティンはぐっと拳を握り、「わかった」と真剣な顔つきになった。
私はじっと見惚れてしまった。
あんなカッコいい表情をされたら、うっかり惚れてしまいそうだ。
「防御」
キィンと私の周りを透明な壁が覆う。
でもこの防御魔法は弱い。
これではお兄様の攻撃は弾けない。
「じゃあいきますよ」
ぴんっと指を弾いたお兄様の攻撃魔法はあっという間にジャスティンが展開した防御壁を破った。
パン!と音がして、私は無防備になる。
「あっ…!防御!」
キィンとまた壁が出来たが、これも弱い。
ムラがあるというか、均等になっていないというか。
すぐにお兄様の攻撃に破られてしまう。
数十回と繰り返し、とうとうジャスティンが座り込んでしまった。
「殿下、防御のイメージはちゃんと出来てますか?」
「イメージ…」
「俺がミリオネアを守るなら、ミリオネアのどこにも傷を付けたくない。だから、全部丸ごと防御します。でも殿下はそうじゃない」
「俺も、聖女殿の全体を覆うつもりでいるが…」
ジャスティンは困惑した表情を見せる。
自分が抱いているイメージと、実際に展開される物が違うのだろうか。
「で、ジャスティンとはどう?」
「婚約者候補筆頭になってしまって、困っている所です。相変わらず顔は可愛いんですけど」
「そうよね!可愛いわよね!」
祈祷室で祈りを捧げると現れる女神様は、ジャスティンとの進展具合に興味深々だが女神様が望むほどキャッキャうふふな雰囲気にはなっていない。
「素直じゃないからね、ジャスティンは」
「前に比べればまだ子供らしいですよ」
「それはミリオネアが、18歳目線で見てるからでしょ?」
「あ、そうでした」
一つ不可解なのは、ジャスティンは私を聖女殿と呼び、名前を呼ばない。
それが謎で疑問が残る。
「ジャスティンは私の名前を呼ばないんですよ、何でなのかしら…?」
「うーん…もしかしたら前の記憶か感情が薄ら残ってるのかもね?無意識に距離を取らなければ、と思ってるのかも」
「なら、婚約まで行かないですね。私の予想ではクリスティ様が有力かと思いますが」
「えー…ミリオネア、頑張ってぇ…」
女神様は私達をどうしてもくっつけたいらしい。
アダム様の事を聞いたら教えてくれないかしら。
「女神様、あの…」
「あっ!ヴェーレイが来るわ!またね、ミリオネア!」
ふっと空間が元に戻る。
直後に祈祷室のドアが開き、紅茶とお菓子を持った神官がゾロゾロと入って来た。
「ミリオネア様!疲れたでしょう!さぁ、お茶でも飲んで下さい!」
「ヴェーレイ様、お気遣いなく…。大丈夫ですから」
「ミリオネア様の為にお茶が用意出来る幸せを噛み締めているのです!この年寄りの楽しみを奪わないで下さい」
「まぁ…ヴェーレイ様ったら…」
にこにこと好好爺のような顔をして、ヴェーレイ様は私と話をする。
聖人として崇められたラジュラン様の事や、その時の歴史などを細かく教えてくれた。
私も興味深く、面白い為に延々と聞いてしまって一日が終わる。
最近はそれの繰り返しだ。
「そういえば、ジャスティン殿下が後でこちらに来るようですぞ」
「そうなんですか」
はて?何かあるのかな。
あのパーティー以来、二回程お茶をしているがそれも周りがお膳立てしての話で彼自ら神殿に来るのは初めてだ。
「あ、来られたようです。こちらにお通しします」
「はい、お願いします」
ヴェーレイ様達はそっと祈祷室を後にした。
開けられたドアの向こうに護衛が二名立っている他は誰もいない。
「子供だからいいのかしら…」
ぽつりと呟く。
成長すれば、部屋に二人きりはありえないから。
「聖女殿、失礼する」
「王国の小太陽にご挨拶申し上げます」
席を立って、私は挨拶をする。
ジャスティンは嫌そうな表情をして「挨拶はいいよ」といつも言うのだが。
「新たな婚約者候補が決まったらしい」
「まぁ、そうなんですか。どちらのご令嬢ですか?」
「ジーランド公爵家のクリスティ嬢だ」
「お綺麗な方で良かったですわね」
「……本当にそう思うか?」
「え?」
私はきょとんとした。
ジャスティンからそんな事を聞くとは思わなかったからだ。
前はよくダンスしてましたよ、とは言えないけれども。
「殿下はご不満で?」
「不満というか、そんなに候補は沢山必要なのかと疑問なんだ」
「まぁ…相性の良い人を探すには、数はいるかも知れませんね」
「相性ね…聖女殿はどんな人だったらいいと思う?」
そうねぇ、素直で賢くて清楚で可憐で…私以外かしら!
そう言ってしまったら色々問題なんでしょうね。
「そうですね…一途に殿下を思って、国を大事にする人ですかね…?」
「ふぅん。俺を一途にね…。居るのかな、そんな人」
「居るでしょう、そりゃ」
「聖女殿は違うんだろう?」
「私は聖女枠でいるお飾りのようなものですから」
お飾り。
自分で言うのって、何だか虚しいわ。
それに、ジャスティンだって私を好きじゃないでしょうに。
「お飾りね…」
ジャスティンが以前に見せていた熱の籠ったような顔は見た事がない。
10歳の頃から、ジャスティンは私にべったりだった。
今は違う。
用が無ければお互いに会わない。
「いわば殿下の防御壁みたいなもんでしょう、私は」
「防御壁…」
「候補希望者をふるいにかける網みたいな?」
「……ふっ…はは!!網!!ははは!!」
ジャスティンが肩を揺らして笑い出した。
どこがそんなに面白かったのかしら。
「自分を網と言うとは…聖女殿は中々面白い」
「至って真面目に生きておりますわ」
「不真面目だとは言ってないだろ?」
「まぁそうですけど…」
「聖女殿は不満らしい。頬が膨れている」
「…殿下、嫌味ですか。肉ですわ、肉」
「ぶっ…あはは!!令嬢が肉と言うなんて!!普通の令嬢なら泣いているぞ!」
ジャスティンはいつからこんなに面白い子になったのかしら。
冗談とか言う子だった?
「あら、普通の令嬢じゃなくてすみませんね。殿下は泣かせるのが趣味なのかしら?」
「ふっ…そうだな、そうかもな」
「悪趣味ですこと。笑うとお可愛いらしいですわね」
「聖女殿に褒められて嬉しいよ」
「まぁ、前はプンプンしてたのに!可愛くない!」
ジャスティンとこんな会話が出来るなんて、やっぱり変化はあるのね。
良い方向に変わっているから、良かったわ…。
「プンプンしてれば可愛いのか?ならばずっとプンプンしていないとな」
「それは面倒…いえ、困りますね」
「面倒…ふっ…ははは!!面倒なんて言われたのは初めてだ!」
ジャスティンはとうとうお腹を押さえて笑い出した。
何事かと中を覗いた護衛がぎょっとしている。
わかるわ、その気持ち!
私もびっくりしているもの!
「失礼しました。でもずっとプンプンはやめて下さいね。笑っている殿下の方が素敵ですから」
「ふふ…そうか?なら聖女殿といる時は笑っていよう」
「光栄ですわ」
目を見合わせて笑い合う私達は、あの頃よりもずっといい関係だ。
きっとこういう関係の先にある物が、恋や愛に変われば上手くいくのだろう。
あの頃の二人は、お互い以外は受け入れないようなどこか歪でドロリとした何かに纏わりつかれているみたいだったから。
「お邪魔しますよ」
「あ、ヴェーレイ様」
「大神官、どうした」
「私も話に交ぜてもらおうかと思いましてな」
ヴェーレイ様は色んな話をしてくれる。
歴史の話や、神々の話など。
ジャスティンもすっかりハマってしまって、真剣な顔をして聞き入っている。
すっかり日が落ちてしまい、私は慌てて帰るハメになった。
「聖女殿、今日は楽しかった。大神官があんなに面白いとは知らなかったよ」
「ヴェーレイ様はお話し好きですからね。また一緒に聞きましょう」
「あぁ、次はいつ来るんだ?」
「そうですね…魔法の訓練があるので…三日後でしょうか」
魔法の訓練と口にした瞬間、ジャスティンの目がキラリと光った気がした。
「それは、聖女殿の家でか?」
「そうです、お兄様に教えて貰っているので」
「あの…俺も、俺も明日…行っても良いだろうか…」
おずおず…といった様子で聞いてくるジャスティンはまるで天使のようで。
今頃、女神様も悶絶しているんじゃないのかしら。
「良いですよ、ぜひいらして下さい」
「本当か!?」
「はい、本当です」
思わずにっこりと笑ってしまう。
ジャスティンも奇跡を起こしそうな満面の笑みを弾けさせた。
あぁ可愛い!!可愛いわ!!
私は思わず手を伸ばしてジャスティンの頭を撫でてしまった。
「あ、すみません、つい」
「う、いや…」
目を見開いて固まったジャスティンに、しまった!と焦った私は謝る選択をした。
ジャスティンは下を向いてしまったが、耳が赤くなっているのが見えて笑いそうになる。
久しぶりに触れた柔らかな髪が手に心地いい。
「では殿下、明日お待ちしていますね」
「あぁ…」
私は馬車に乗り、ジャスティンに手を振る。
ジャスティンは一瞬迷った後、そっと手を上にあげた。
幼い頃は、ジャスティンが不器用に示していた態度も気付いてあげられなかったけど。
馬車が出発した後、私は優しい気持ちになった。
次の日、緊張した面持ちで我が家にやって来たジャスティンは、お兄様に防御の魔法を習いたいと言っていた。
「殿下、いいですか。防御魔法は弾いたり、吸収したりと使い方が多いです。殿下は何を防御したいですか?」
「…人…かな」
「では、ミリオネアを守り通して下さい」
「聖女殿を…守る」
ジャスティンはじっと私を見る。
濃紺の瞳がゆらりと揺れた。
「そうです、俺はミリオネアを攻撃しますから。殿下が失敗したら、ミリオネアは傷だらけになりますよ。死ぬ気で守って下さいね」
「う、わかった」
「殿下、私をお守り下さいませ!」
芝居がかった風にジャスティンを頼ってみる。
ジャスティンはぐっと拳を握り、「わかった」と真剣な顔つきになった。
私はじっと見惚れてしまった。
あんなカッコいい表情をされたら、うっかり惚れてしまいそうだ。
「防御」
キィンと私の周りを透明な壁が覆う。
でもこの防御魔法は弱い。
これではお兄様の攻撃は弾けない。
「じゃあいきますよ」
ぴんっと指を弾いたお兄様の攻撃魔法はあっという間にジャスティンが展開した防御壁を破った。
パン!と音がして、私は無防備になる。
「あっ…!防御!」
キィンとまた壁が出来たが、これも弱い。
ムラがあるというか、均等になっていないというか。
すぐにお兄様の攻撃に破られてしまう。
数十回と繰り返し、とうとうジャスティンが座り込んでしまった。
「殿下、防御のイメージはちゃんと出来てますか?」
「イメージ…」
「俺がミリオネアを守るなら、ミリオネアのどこにも傷を付けたくない。だから、全部丸ごと防御します。でも殿下はそうじゃない」
「俺も、聖女殿の全体を覆うつもりでいるが…」
ジャスティンは困惑した表情を見せる。
自分が抱いているイメージと、実際に展開される物が違うのだろうか。
612
お気に入りに追加
1,547
あなたにおすすめの小説
王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

醜い傷ありと蔑まれてきた私の顔に刻まれていたのは、選ばれし者の証である聖痕でした。今更、態度を改められても許せません。
木山楽斗
恋愛
エルーナの顔には、生まれつき大きな痣がある。
その痣のせいで、彼女は醜い傷ありと蔑まれて生きてきた。父親や姉達から嫌われて、婚約者からは婚約破棄されて、彼女は、痣のせいで色々と辛い人生を送っていたのである。
ある時、彼女の痣に関してとある事実が判明した。
彼女の痣は、聖痕と呼ばれる選ばれし者の証だったのだ。
その事実が判明して、彼女の周囲の人々の態度は変わった。父親や姉達からは媚を売られて、元婚約者からは復縁を迫られて、今までの態度とは正反対の態度を取ってきたのだ。
流石に、エルーナもその態度は頭にきた。
今更、態度を改めても許せない。それが彼女の素直な気持ちだったのだ。
※5話目の投稿で、間違って別の作品の5話を投稿してしまいました。申し訳ありませんでした。既に修正済みです。

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

田舎娘をバカにした令嬢の末路
冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。
それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。
――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。
田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。

女騎士と文官男子は婚約して10年の月日が流れた
宮野 楓
恋愛
幼馴染のエリック・リウェンとの婚約が家同士に整えられて早10年。 リサは25の誕生日である日に誕生日プレゼントも届かず、婚約に終わりを告げる事決める。 だがエリックはリサの事を……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる