【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します

咲楽えび@改名しました(旧 佐倉えび)

文字の大きさ
24 / 57

5.ドレス

しおりを挟む

「奥様、お目覚めですか?」
「ええ。起きているわ」

 嫌なことを思い出していたせいか、クリスティーヌは汗ばんでいた。
 汗を拭うタオルが欲しい。

「カリナ、タオルを持ってきてくれる?」
「かしこまりました」

 カリナが急ぎ戻ってきたところで、扉の前が騒がしくなった。
 慌ただしいノックが響き、返事を待たずに扉が開いた。

「すまない、クリスティーヌがいつもの時間に起きてこないと聞いて」
「ロジェ様?」

 天蓋のカーテンを開けてもらい、慌てて入ってきたロジェを見上げた。
 いつも冷静なロジェらしくもない。

「ロジェ様、お仕事はどうされたのですか?」
「今日は休みを取った。それより、何か嫌なことでも思い出したか?」
「いえ……何も」

 果たして何もないと言えるのだろうか。

 三度の人生を抱えるというのは、膨大な人生の記憶の保持だ。
 クリスティーヌは決して修道女たちの苦しみを忘れることはなかったが、同時に自分に起きた少々不幸なできごとは思い出さないようにしてきた。
 そうでなければ、気が狂ってしまうから。

(今後の対策を兼ねて思い出そうとしたから、少し疲れたけれど)

 もう過ぎたことだ。
 マノロ殿下に、貞操を奪われたわけでもない。

「……そうか」

 ロジェは一言呟いて、着替えたら一緒に食事を、と言って部屋を出て行った。

「奥様。本当は何かお辛い気持ちがおありですね?」

 カリナがクリスティーヌに切なそうな瞳を向けた。
 彼女の蒼い綺麗な瞳が、クリスティーヌは好きだった。

「いいえ。全て、過ぎたことよ」
「……」
「本当よ。ね、ロジェ様とのお食事が楽しみだわ。ドレスは何がいいかしら?」

 ことさら明るくふるまうクリスティーヌに、カリナは悲しいという表情を隠さなかった。




 ロジェとの静かな朝食を終え、カヌレ伯爵家へと向かった。
 ロジェは食事の最中も、馬車の中でも、ほとんど雑談というものをしないが、クリスティーヌはそれが心地いいと思っていた。

 複雑な人生のループを、ロジェに漏らしてしまうのが怖いからだ。
 その明晰な頭脳でクリスティーヌの本音を暴かれたら、あますことなく秘めたる感情まで吐露してしまうだろう。
 そんなことをすれば、優しいロジェはクリスティーヌを放っておけなくなる。

(これ以上、迷惑はかけられない)

 二度の人生でそれは痛いほどわかっていた。
 無関係だったはずのロジェだけが、クリスティーヌの話を聞いてくれたのだ。
 ここまで関わったクリスティーヌのことを、ロジェは無下にできない。

 そんなロジェが、カヌレ家へ着くころポツリと呟く。

「知っての通り、母上は少々破天荒な性格だが悪い人じゃない。クリスティーヌのことをとても気にかけているのも本当だ。仲良くしてくれると嬉しい」

「もちろんです。私のような身にご配慮いただいて、ありがたいと思っています」

 今日は戴冠式で着るドレスが仕上がったので、試着をして微妙なサイズ調整をするという。
 結婚式も身内だけだったというのに、義母は素晴らしいドレスを選び、着せてくれた。
 きっと戴冠式の衣装も素晴らしいものだろう。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

侯爵家のお飾り妻をやめたら、王太子様からの溺愛が始まりました。

二位関りをん
恋愛
子爵令嬢メアリーが侯爵家当主ウィルソンに嫁いで、はや1年。その間挨拶くらいしか会話は無く、夜の営みも無かった。 そんな中ウィルソンから子供が出来たと語る男爵令嬢アンナを愛人として迎えたいと言われたメアリーはショックを受ける。しかもアンナはウィルソンにメアリーを陥れる嘘を付き、ウィルソンはそれを信じていたのだった。 ある日、色々あって職業案内所へ訪れたメアリーは秒速で王宮の女官に合格。結婚生活は1年を過ぎ、離婚成立の条件も整っていたため、メアリーは思い切ってウィルソンに離婚届をつきつけた。 そして王宮の女官になったメアリーは、王太子レアードからある提案を受けて……? ※世界観などゆるゆるです。温かい目で見てください

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした

ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。 しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義! そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。 「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」

この度娘が結婚する事になりました。女手一つ、なんとか親としての務めを果たし終えたと思っていたら騎士上がりの年下侯爵様に見初められました。

毒島かすみ
恋愛
真実の愛を見つけたと、夫に離婚を突きつけられた主人公エミリアは娘と共に貧しい生活を強いられながらも、自分達の幸せの為に道を切り開き、幸せを掴んでいく物語です。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

処理中です...