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第一部 第一章 騎士と戦乙女が出会うまで
03話 現神か男娼①(※)
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物語序盤にほんの若干ですが行為を示す描写が出てきます。
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ニーベルンゲンの敵本陣は、驚くほど静かだった。
帝国の野営地に比べればあまりに簡略に過ぎた。テントも何もない。火を焚いた後がわずかに数か所。
それに、兵の存在が見当たらない。
これは謀略か、それとも。
警戒しながらゆっくりと馬を進めるシグルズは、敵の野営地の中にたったひとつ設置された円形フェルトのテントを見つけた。大きく、灯りが付いている。
入口はしっかりと閉じられているが、中に人の気配を感じる。
グラムから降りたシグルズは剣を構えながらゆっくりとテントに近づく。
だが、次の瞬間にシグルズの耳に届いた声は、戦場で聞くにはあまりにも突飛なものだった。
「ん……あっ」
高く、甘い声。
シグルズは瞠目する。
何?
「あっ、待ッ、挿入って……!」
まさか。
戦争真っ最中の本陣で?
「あ、あっ」
「ああ……死んでも後悔はない。さあ、戦乙女……どうぞお受け取りください……!」
男の恍惚とした声を聞き終えたタイミングで、シグルズはテントの入口を剣で切り落とし、次いで中央にある寝台に突進した。
男女が中央の寝台でまぐわっていた。
横になっている男の性器が、女のそこに飲み込まれている。
男は「誰だ!」と声を上げた。女は一切の声を上げず、侵入者を見詰めていた。
先ほど見た女だった。長く美しい黒髪。
世界の全てを吸い込んでしまいそうな黒い瞳。
帝国の聖職者が使用するマントに似た左右非対称の布を羽織り、その下に着ている長いローブ状の服の前を大きく開き、男に跨っている。性交中にも関わらず、片翼の髪飾りも付けたままだった。
いや、
それよりも印象的なのは―――
「お前……男なのか」
黒髪の女には、男性器があった。
シグルズの侵入者としての第一声を聞いた黒髪の女――いや、確かに男だ――は、その黒い目をさらに険しくしてシグルズを睨みつけてた。
だが、その黒髪と黒目。容姿的には間違いない。
こいつが戦乙女だ。
中性的な顔立ちをしているから一目見ただけでは分からなかったが、ニーベルンゲンの戦乙女は、男なのだ。
自国の兵士が戦って死んでいくときに、こんなことをしているやつが現神だと?
「まさか信仰対象の戦乙女が本陣で性交をしているとは思わなかったな」
シグルズは軽蔑の色を隠さずに寝台の上の2人を見た。
「遺体に囲まれて男性器を味わうというのは気持ちがいいものなのか?」
挑発めいた発言をすると、寝台の男が目の色を変えた。
「貴様ぁ! 戦乙女を侮辱するか! 許さんぞ」
先ほどまで性器を食われていた男が全裸で突進してきた。シグルズは憐憫の表情で兵士を見ていた。
「侮辱以外にすることがあるか? ここが戦場だと分かっているのか」
「……おい!やめろ!!」
シグルズがさらに挑発すれば、全裸の兵士は寝台の横にあった槍を持って突っ込んできた。
それに制止の声をかけたのは戦乙女だ。
が、兵士の目は真っ赤に染まりもはや理性は残っていないようだった。
シグルズは狂った男の槍をひょいとかわして背中に深い一撃を放った。血がしぶく。男の性器からわずかに白濁が零れ落ちているのが見えて滑稽だなと思った。
返り血を拭おうかと思ったが、男がまだ攻撃を続けようとしたので槍を持つ手を切り落とした。最後に力を込めて首を切り落とす。
気付けばテントの床に敷かれている羊毛は真っ赤になっていた。
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ニーベルンゲンの敵本陣は、驚くほど静かだった。
帝国の野営地に比べればあまりに簡略に過ぎた。テントも何もない。火を焚いた後がわずかに数か所。
それに、兵の存在が見当たらない。
これは謀略か、それとも。
警戒しながらゆっくりと馬を進めるシグルズは、敵の野営地の中にたったひとつ設置された円形フェルトのテントを見つけた。大きく、灯りが付いている。
入口はしっかりと閉じられているが、中に人の気配を感じる。
グラムから降りたシグルズは剣を構えながらゆっくりとテントに近づく。
だが、次の瞬間にシグルズの耳に届いた声は、戦場で聞くにはあまりにも突飛なものだった。
「ん……あっ」
高く、甘い声。
シグルズは瞠目する。
何?
「あっ、待ッ、挿入って……!」
まさか。
戦争真っ最中の本陣で?
「あ、あっ」
「ああ……死んでも後悔はない。さあ、戦乙女……どうぞお受け取りください……!」
男の恍惚とした声を聞き終えたタイミングで、シグルズはテントの入口を剣で切り落とし、次いで中央にある寝台に突進した。
男女が中央の寝台でまぐわっていた。
横になっている男の性器が、女のそこに飲み込まれている。
男は「誰だ!」と声を上げた。女は一切の声を上げず、侵入者を見詰めていた。
先ほど見た女だった。長く美しい黒髪。
世界の全てを吸い込んでしまいそうな黒い瞳。
帝国の聖職者が使用するマントに似た左右非対称の布を羽織り、その下に着ている長いローブ状の服の前を大きく開き、男に跨っている。性交中にも関わらず、片翼の髪飾りも付けたままだった。
いや、
それよりも印象的なのは―――
「お前……男なのか」
黒髪の女には、男性器があった。
シグルズの侵入者としての第一声を聞いた黒髪の女――いや、確かに男だ――は、その黒い目をさらに険しくしてシグルズを睨みつけてた。
だが、その黒髪と黒目。容姿的には間違いない。
こいつが戦乙女だ。
中性的な顔立ちをしているから一目見ただけでは分からなかったが、ニーベルンゲンの戦乙女は、男なのだ。
自国の兵士が戦って死んでいくときに、こんなことをしているやつが現神だと?
「まさか信仰対象の戦乙女が本陣で性交をしているとは思わなかったな」
シグルズは軽蔑の色を隠さずに寝台の上の2人を見た。
「遺体に囲まれて男性器を味わうというのは気持ちがいいものなのか?」
挑発めいた発言をすると、寝台の男が目の色を変えた。
「貴様ぁ! 戦乙女を侮辱するか! 許さんぞ」
先ほどまで性器を食われていた男が全裸で突進してきた。シグルズは憐憫の表情で兵士を見ていた。
「侮辱以外にすることがあるか? ここが戦場だと分かっているのか」
「……おい!やめろ!!」
シグルズがさらに挑発すれば、全裸の兵士は寝台の横にあった槍を持って突っ込んできた。
それに制止の声をかけたのは戦乙女だ。
が、兵士の目は真っ赤に染まりもはや理性は残っていないようだった。
シグルズは狂った男の槍をひょいとかわして背中に深い一撃を放った。血がしぶく。男の性器からわずかに白濁が零れ落ちているのが見えて滑稽だなと思った。
返り血を拭おうかと思ったが、男がまだ攻撃を続けようとしたので槍を持つ手を切り落とした。最後に力を込めて首を切り落とす。
気付けばテントの床に敷かれている羊毛は真っ赤になっていた。
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