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番外編 獣人国の刺客
第884話 英雄の暗殺指令
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――リョフイから報告を受けた次の日の夜、シバイの前に「カノン」と言う名前の女性が訪れる。彼女を前にするとシバイでさえも緊張感を隠せず、正直に言えば用事がなければ顔も見たくない人物だった。
「随分と遅かったな……約束した時刻は夕方だったはずだぞ」
「はいはい、反省してま~す」
仮にも獣人国の大臣であるシバイに対してカノンは全く物怖じせず、悪びれた様子もなくソファに座り込む。シバイも相手がただの配下ならば激怒するところだが、彼女の場合は慎重に対応しなければ自分の身が危ない。
――シバイが集めたのはこの国でも一番の暗殺者であり、恐らくは国内で最も人殺しを行った人物でもある。カノンがその気になればシバイなど一瞬で殺す事もできるため、対応を間違えば彼の命も危うい。
シバイがカノンを呼び寄せた理由、それは獣人国の脅威となる人物を殺害する事を意味しており、彼に呼びつけられた時点で暗殺者はシバイが自分に対して殺しの依頼をする事を予想していた。
「また、お前に殺してほしい人間がいる。今回は今まで殺した人間の中でも最も大物だ」
「誰でもいいわよ。お金さえくれるならね、それで誰を殺してほしいの?」
「…………」
カノンはシバイの言葉を聞いても全く動揺せず、仮にも大臣であるシバイに大して無礼な態度を取るが、シバイは内心憤りながらも冷静に話を続けた。
「今回の暗殺対象はこの国の人間ではない、王国の重要人物だ」
「あら、王国なんて楽しみね。帰りに観光でも指定いこうかしら?」
「……仕事をやり遂げたのならば好きにして構わん。何だったら二度と戻って来なくてもいいんだぞ」
「冗談、あたしがいなかったらあんたなんて真っ先に殺されちゃうわよ?」
獣人国の人間ではなく、他国の重要人物を殺してほしいという内容を聞いてもカノンは動じず、むしろ王国に観光に行く気分で話を聞く。そんな彼女にシバイは呆れを通り越して頼もしくさえ感じ、今回の暗殺対象の情報を伝える。
「殺してほしい人物は王国では貧弱の英雄と呼ばれている人物だ。名前は「ナイ」黒髪の少年で二つの魔剣と反魔の盾を所持している。可能ならばこの少年を暗殺した後、魔剣と盾の回収も頼む」
「貧弱の英雄?変な渾名ね……まあ、別にいいわ。条件はそれだけかしら?」
「……できる限り、目立たずに殺せよ」
「はいはい」
暗殺対象が少年だと聞かされてもカノンは驚かず、彼女からすれば相手がどんな人物だろうと関係なく、重要なのは成功報酬だった。仮にも他国の重要人物を殺害するとなれば、それ相応の報酬を受け取らなければ割に合わない。
「それで今回の報酬は?」
「前金として銀貨100枚、成功報酬は金貨100枚だ」
「へえっ……悪くないじゃない」
シバイの告げた報酬の額にカノンは口元に笑みを浮かべ、その態度にシバイは震える。金の話になった途端に女性の雰囲気が変化し、彼女は目つきを鋭くさせて腰元に手を伸ばす。
彼女のマントの下には恐るべき武器を身に付けており、それを知っているからこそシバイはは緊張した面持ちで話を続ける。
「暗殺した証拠もちゃんと持ち帰るようにするんだ。それと、対象が所有する魔剣と盾を持ち帰った場合、報酬は更に増額させよう。全ての装備を持ち帰ることができれば報酬は倍は出そう」
「という事は……殺して装備を奪うだけで金貨200枚?それはつまり、その魔剣と盾も相当な価値があるということね?」
「……持って帰るのが無理ならば殺すだけでも構わん」
「あんた、誰に言ってるのか分かってる?私が今まで一度でも仕事をしくじった事があった?」
「そ、そうだったな……頼んだぞ」
シバイの言葉を聞いた女性は口元に笑みを浮かべ、彼女の言葉にシバイは何も言い返せない。実際にカノンはこれまでのシバイの仕事は全て遂行しており、その中には獣人国の「黄金級冒険者」に昇格する寸前の有力冒険者も含まれていた。
カノンの暗殺者としての実力は本物であり、仮に獣人国の大将軍であろうと彼女ならば暗殺する事ができる。だからこそシバイは「王国の英雄」の暗殺を依頼する人物は彼女しかいないと考えた。
「国境を越える時はこれを警備兵に渡せ。そうすれば手続き無しで通り抜ける事ができる」
「はいはい」
獣人国の王都から王国の王都までかなりの距離が存在し、国境を越えるとなると色々な手続きも必要になるが、その辺はシバイは配慮する事を約束する。
暗殺対象を始末するまではカノンが国に戻る事は許さず、その代わりに高額の前金を支払う。カノンは銀貨が100枚入った袋を受け取り、鼻歌を鳴らす。
「これが前金だ。それとお前達を国境まで送りつける馬車の用意はできている」
「ひゅうっ、随分と準備良いわね、そんなに私の事を信頼しているの?それとも、実は私をこの国から追い出したいだけかしら?」
「……金を受け取ったのなら早く行け」
「相変わらず不愛想なおっさんね」
シバイに前金を受け取ったカノンは退出すると、彼が事前に用意した馬車に乗り込み、王国へ向けて移動を開始する。その様子を窓の外から確認したシバイは笑みを浮かべる。
(失敗しようと成功しようと……私にとっては悪くはない)
リョフイの報告によれば暗殺対象のナイは相当な手練れらしく、いくら彼女が獣人国の中では最強の暗殺者といえども、簡単に始末できる相手ではない。英雄がカノンを始末するか、あるいはカノンが返り討ちに遭ったとしてもシバイにとってはどちらでも問題ではない。
シバイの目的は貧弱の英雄の暗殺だけではなく、最近は目障りに思えてきたカノンと戦わせ、二人が同士討ちの結果になればシバイにとっては最高の展開だった。仮に暗殺に成功してカノンが戻ってきたとしても、王国の英雄を殺したとあれば損にはならない。逆にカノンが始末されてもシバイの悩みの種が解消される。正に良い事尽くしだった。
だが、この時のシバイは知らなかった。彼が暗殺を依頼した人物は彼の想像を超える力を持つ事を――
――それから時は流れ、シバイに送り込まれた暗殺者は遂に王国の王都へと辿り着く。この頃には王都の復興も大分進んでおり、以前のように活気に満ち溢れていた。
「ここが王国の王都ね……思っていたより、活気があるわね」
獣人国のシバイから派遣されたカノンは特別な生まれの人間だった。獣人国一の暗殺者でありながらカノンは獣人族ではなく、種族は人間の女性である。しかし、彼女の場合は獣人国で生まれた。両親は王国の出身だが、色々とあって獣人国へ移り住む。
彼女の家系は「細工師」であり、鍛冶師と異なる点は装飾を専門とした細工を施し、それなりに裕福な過程だった。カノンも幼少期は細工師として生きていけるように技術を仕込まれる。
しかし、ある時にカノンは偶然にも特殊な魔道具を手に入れた。その魔道具はかつて勇者が作り出した魔道具だと呼ばれ、彼女の人生は一変する。
ある時に両親と喧嘩して家出したカノンは骨董品屋で変わった物を目にした。それを見たカノンは不思議に思って購入する。後にそれは勇者が作り出した特殊な武器だと判明する。
彼女が手に入れた武器は「魔銃」と呼ばれ、リボルバー式の拳銃と酷似していた。骨董品屋の話によればこちらは冒険者から買い取った物らしく、冒険者の話によれば武器が見つけたのは古代遺跡であり、その遺跡の伝承ではかつて「魔銃」と呼ばれる武器を利用した勇者が存在したという。但し、武器の使い方が分からずに冒険者は持っていても仕方ないので骨董品屋に売り込んだらしい。
――偶然にもカノンはかつて勇者が扱っていた魔銃と呼ばれる武器を手に入れ、勇者に関する資料を調べ上げ、魔銃の使い方を見出す。この魔銃は本来の拳銃のように火薬を詰めた弾丸ではなく、特殊加工を施した弾丸を発射する武器だと判明した。
魔銃の弾丸に利用できるのは「魔石弾」と呼ばれ、この魔石弾とは文字通りに魔石を弾丸の形に加工した代物であり、魔石を削り取って弾丸の形に変えた後に拳銃に装填して撃ち込む。
ただでさえ取り扱いが難しくて高価な魔石を削り取るのは勿体ない気もしたが、伝承によれば魔術師の魔法と違って即座に攻撃できるだけではなく、連射も行う事がでいる。魔術師の場合は魔法を一度発動すれば次の魔法を発動させるまでに間を置く必要があり、魔導士の称号を持つマジクやマホでさえも魔法の連発は気軽に行えない(連発できないわけではないが、肉体の負担が大き過ぎて確実に寿命を縮める)。
魔石を削り出した弾丸は「魔石弾」と呼ばれ、こちらは衝突した際に魔石の内部の魔力が暴発し、火属性の魔石弾ならば爆発、水属性ならば冷気を放出させる。
これらの情報を調べ上げたカノンは自分がとんでもない代物を発見した事を知り、これさえあれば自分のつまらない人生は変わると思った。そして彼女は細工師の技術を生かして魔銃の修理と魔石弾の制作を行う。
『これさえあれば私は……!!』
カノンは細工師の両親から細工師になるように育てられていたが、正直に言って細工師になるなど彼女は嫌で仕方なかった。彼女は小さい頃から一人前の細工師になるように強制的に両親から指導を受けていたが、彼女は嫌気を差していた。
しかし、細工師として育て上げられたカノンの技術は確かであり、遺跡で発見された魔銃を彼女は瞬く間に修復させると、その後は家の金を勝手に盗んで魔石を購入する。
購入した魔石を削り取って弾丸の形に整え、魔銃に装填して試し撃ちの準備を行う。仮にカノンが細工師としての技術がなければこんな真似はできなかったが、運命は彼女に味方した。
『これでよし……後は上手くいくかどうか、試すしかないわね』
魔石弾の製作に成功したカノンは魔銃に魔石弾を装填すると、まずは試し撃ちとしてあろう事か彼女は自分の両親の建物に向けて魔銃を構える。この行動は特に意味はなく、喧嘩した両親に対して嫌がらせ程度の気分で彼女は魔銃を撃つ。
『私に指図したあんた達が悪いのよ……このっ!!』
カノンは魔銃の威力を確かめるために建物に目掛けて発砲する。彼女の予想ではせいぜい建物の壁を破壊する程度の威力だと思い込んでいた。だが、魔石弾が発射された瞬間、とんでもない事態を引き起こす。
魔銃から発射された弾丸は砲撃魔法よりも素早く、本物の拳銃の弾丸のように放たれ、建物の壁に衝突した瞬間に魔石弾に亀裂が生じ、大爆発を引き起こす。
『きゃあああっ!?』
弾丸の形に削り取っていたとはいえ、魔石の内部には膨大な火属性の魔力が蓄積されており、その結果として魔石が暴発して凄まじい爆発を引き起こす。ちょっとした悪戯程度の気持ちで撃ったにも関わらず、カノンの両親の店は爆発によって吹き飛ぶ。
――その後、店の中に存在したカノンの両親は亡くなり、ただの悪戯のつもりが自分が本当に両親を殺した事にショックを受けたカノンは逃げ出してしまう。警備兵は彼女が両親を殺した犯人だと判断し、瞬く間に国中で指名手配された。
両親を殺してしまったカノンはもう表社会では生きていけず、裏社会で彼女は暗殺者として名乗り上げる。魔銃のお陰で彼女は今日まで生き延び、いつの間にか獣人国一の暗殺者となっていた。
「随分と遅かったな……約束した時刻は夕方だったはずだぞ」
「はいはい、反省してま~す」
仮にも獣人国の大臣であるシバイに対してカノンは全く物怖じせず、悪びれた様子もなくソファに座り込む。シバイも相手がただの配下ならば激怒するところだが、彼女の場合は慎重に対応しなければ自分の身が危ない。
――シバイが集めたのはこの国でも一番の暗殺者であり、恐らくは国内で最も人殺しを行った人物でもある。カノンがその気になればシバイなど一瞬で殺す事もできるため、対応を間違えば彼の命も危うい。
シバイがカノンを呼び寄せた理由、それは獣人国の脅威となる人物を殺害する事を意味しており、彼に呼びつけられた時点で暗殺者はシバイが自分に対して殺しの依頼をする事を予想していた。
「また、お前に殺してほしい人間がいる。今回は今まで殺した人間の中でも最も大物だ」
「誰でもいいわよ。お金さえくれるならね、それで誰を殺してほしいの?」
「…………」
カノンはシバイの言葉を聞いても全く動揺せず、仮にも大臣であるシバイに大して無礼な態度を取るが、シバイは内心憤りながらも冷静に話を続けた。
「今回の暗殺対象はこの国の人間ではない、王国の重要人物だ」
「あら、王国なんて楽しみね。帰りに観光でも指定いこうかしら?」
「……仕事をやり遂げたのならば好きにして構わん。何だったら二度と戻って来なくてもいいんだぞ」
「冗談、あたしがいなかったらあんたなんて真っ先に殺されちゃうわよ?」
獣人国の人間ではなく、他国の重要人物を殺してほしいという内容を聞いてもカノンは動じず、むしろ王国に観光に行く気分で話を聞く。そんな彼女にシバイは呆れを通り越して頼もしくさえ感じ、今回の暗殺対象の情報を伝える。
「殺してほしい人物は王国では貧弱の英雄と呼ばれている人物だ。名前は「ナイ」黒髪の少年で二つの魔剣と反魔の盾を所持している。可能ならばこの少年を暗殺した後、魔剣と盾の回収も頼む」
「貧弱の英雄?変な渾名ね……まあ、別にいいわ。条件はそれだけかしら?」
「……できる限り、目立たずに殺せよ」
「はいはい」
暗殺対象が少年だと聞かされてもカノンは驚かず、彼女からすれば相手がどんな人物だろうと関係なく、重要なのは成功報酬だった。仮にも他国の重要人物を殺害するとなれば、それ相応の報酬を受け取らなければ割に合わない。
「それで今回の報酬は?」
「前金として銀貨100枚、成功報酬は金貨100枚だ」
「へえっ……悪くないじゃない」
シバイの告げた報酬の額にカノンは口元に笑みを浮かべ、その態度にシバイは震える。金の話になった途端に女性の雰囲気が変化し、彼女は目つきを鋭くさせて腰元に手を伸ばす。
彼女のマントの下には恐るべき武器を身に付けており、それを知っているからこそシバイはは緊張した面持ちで話を続ける。
「暗殺した証拠もちゃんと持ち帰るようにするんだ。それと、対象が所有する魔剣と盾を持ち帰った場合、報酬は更に増額させよう。全ての装備を持ち帰ることができれば報酬は倍は出そう」
「という事は……殺して装備を奪うだけで金貨200枚?それはつまり、その魔剣と盾も相当な価値があるということね?」
「……持って帰るのが無理ならば殺すだけでも構わん」
「あんた、誰に言ってるのか分かってる?私が今まで一度でも仕事をしくじった事があった?」
「そ、そうだったな……頼んだぞ」
シバイの言葉を聞いた女性は口元に笑みを浮かべ、彼女の言葉にシバイは何も言い返せない。実際にカノンはこれまでのシバイの仕事は全て遂行しており、その中には獣人国の「黄金級冒険者」に昇格する寸前の有力冒険者も含まれていた。
カノンの暗殺者としての実力は本物であり、仮に獣人国の大将軍であろうと彼女ならば暗殺する事ができる。だからこそシバイは「王国の英雄」の暗殺を依頼する人物は彼女しかいないと考えた。
「国境を越える時はこれを警備兵に渡せ。そうすれば手続き無しで通り抜ける事ができる」
「はいはい」
獣人国の王都から王国の王都までかなりの距離が存在し、国境を越えるとなると色々な手続きも必要になるが、その辺はシバイは配慮する事を約束する。
暗殺対象を始末するまではカノンが国に戻る事は許さず、その代わりに高額の前金を支払う。カノンは銀貨が100枚入った袋を受け取り、鼻歌を鳴らす。
「これが前金だ。それとお前達を国境まで送りつける馬車の用意はできている」
「ひゅうっ、随分と準備良いわね、そんなに私の事を信頼しているの?それとも、実は私をこの国から追い出したいだけかしら?」
「……金を受け取ったのなら早く行け」
「相変わらず不愛想なおっさんね」
シバイに前金を受け取ったカノンは退出すると、彼が事前に用意した馬車に乗り込み、王国へ向けて移動を開始する。その様子を窓の外から確認したシバイは笑みを浮かべる。
(失敗しようと成功しようと……私にとっては悪くはない)
リョフイの報告によれば暗殺対象のナイは相当な手練れらしく、いくら彼女が獣人国の中では最強の暗殺者といえども、簡単に始末できる相手ではない。英雄がカノンを始末するか、あるいはカノンが返り討ちに遭ったとしてもシバイにとってはどちらでも問題ではない。
シバイの目的は貧弱の英雄の暗殺だけではなく、最近は目障りに思えてきたカノンと戦わせ、二人が同士討ちの結果になればシバイにとっては最高の展開だった。仮に暗殺に成功してカノンが戻ってきたとしても、王国の英雄を殺したとあれば損にはならない。逆にカノンが始末されてもシバイの悩みの種が解消される。正に良い事尽くしだった。
だが、この時のシバイは知らなかった。彼が暗殺を依頼した人物は彼の想像を超える力を持つ事を――
――それから時は流れ、シバイに送り込まれた暗殺者は遂に王国の王都へと辿り着く。この頃には王都の復興も大分進んでおり、以前のように活気に満ち溢れていた。
「ここが王国の王都ね……思っていたより、活気があるわね」
獣人国のシバイから派遣されたカノンは特別な生まれの人間だった。獣人国一の暗殺者でありながらカノンは獣人族ではなく、種族は人間の女性である。しかし、彼女の場合は獣人国で生まれた。両親は王国の出身だが、色々とあって獣人国へ移り住む。
彼女の家系は「細工師」であり、鍛冶師と異なる点は装飾を専門とした細工を施し、それなりに裕福な過程だった。カノンも幼少期は細工師として生きていけるように技術を仕込まれる。
しかし、ある時にカノンは偶然にも特殊な魔道具を手に入れた。その魔道具はかつて勇者が作り出した魔道具だと呼ばれ、彼女の人生は一変する。
ある時に両親と喧嘩して家出したカノンは骨董品屋で変わった物を目にした。それを見たカノンは不思議に思って購入する。後にそれは勇者が作り出した特殊な武器だと判明する。
彼女が手に入れた武器は「魔銃」と呼ばれ、リボルバー式の拳銃と酷似していた。骨董品屋の話によればこちらは冒険者から買い取った物らしく、冒険者の話によれば武器が見つけたのは古代遺跡であり、その遺跡の伝承ではかつて「魔銃」と呼ばれる武器を利用した勇者が存在したという。但し、武器の使い方が分からずに冒険者は持っていても仕方ないので骨董品屋に売り込んだらしい。
――偶然にもカノンはかつて勇者が扱っていた魔銃と呼ばれる武器を手に入れ、勇者に関する資料を調べ上げ、魔銃の使い方を見出す。この魔銃は本来の拳銃のように火薬を詰めた弾丸ではなく、特殊加工を施した弾丸を発射する武器だと判明した。
魔銃の弾丸に利用できるのは「魔石弾」と呼ばれ、この魔石弾とは文字通りに魔石を弾丸の形に加工した代物であり、魔石を削り取って弾丸の形に変えた後に拳銃に装填して撃ち込む。
ただでさえ取り扱いが難しくて高価な魔石を削り取るのは勿体ない気もしたが、伝承によれば魔術師の魔法と違って即座に攻撃できるだけではなく、連射も行う事がでいる。魔術師の場合は魔法を一度発動すれば次の魔法を発動させるまでに間を置く必要があり、魔導士の称号を持つマジクやマホでさえも魔法の連発は気軽に行えない(連発できないわけではないが、肉体の負担が大き過ぎて確実に寿命を縮める)。
魔石を削り出した弾丸は「魔石弾」と呼ばれ、こちらは衝突した際に魔石の内部の魔力が暴発し、火属性の魔石弾ならば爆発、水属性ならば冷気を放出させる。
これらの情報を調べ上げたカノンは自分がとんでもない代物を発見した事を知り、これさえあれば自分のつまらない人生は変わると思った。そして彼女は細工師の技術を生かして魔銃の修理と魔石弾の制作を行う。
『これさえあれば私は……!!』
カノンは細工師の両親から細工師になるように育てられていたが、正直に言って細工師になるなど彼女は嫌で仕方なかった。彼女は小さい頃から一人前の細工師になるように強制的に両親から指導を受けていたが、彼女は嫌気を差していた。
しかし、細工師として育て上げられたカノンの技術は確かであり、遺跡で発見された魔銃を彼女は瞬く間に修復させると、その後は家の金を勝手に盗んで魔石を購入する。
購入した魔石を削り取って弾丸の形に整え、魔銃に装填して試し撃ちの準備を行う。仮にカノンが細工師としての技術がなければこんな真似はできなかったが、運命は彼女に味方した。
『これでよし……後は上手くいくかどうか、試すしかないわね』
魔石弾の製作に成功したカノンは魔銃に魔石弾を装填すると、まずは試し撃ちとしてあろう事か彼女は自分の両親の建物に向けて魔銃を構える。この行動は特に意味はなく、喧嘩した両親に対して嫌がらせ程度の気分で彼女は魔銃を撃つ。
『私に指図したあんた達が悪いのよ……このっ!!』
カノンは魔銃の威力を確かめるために建物に目掛けて発砲する。彼女の予想ではせいぜい建物の壁を破壊する程度の威力だと思い込んでいた。だが、魔石弾が発射された瞬間、とんでもない事態を引き起こす。
魔銃から発射された弾丸は砲撃魔法よりも素早く、本物の拳銃の弾丸のように放たれ、建物の壁に衝突した瞬間に魔石弾に亀裂が生じ、大爆発を引き起こす。
『きゃあああっ!?』
弾丸の形に削り取っていたとはいえ、魔石の内部には膨大な火属性の魔力が蓄積されており、その結果として魔石が暴発して凄まじい爆発を引き起こす。ちょっとした悪戯程度の気持ちで撃ったにも関わらず、カノンの両親の店は爆発によって吹き飛ぶ。
――その後、店の中に存在したカノンの両親は亡くなり、ただの悪戯のつもりが自分が本当に両親を殺した事にショックを受けたカノンは逃げ出してしまう。警備兵は彼女が両親を殺した犯人だと判断し、瞬く間に国中で指名手配された。
両親を殺してしまったカノンはもう表社会では生きていけず、裏社会で彼女は暗殺者として名乗り上げる。魔銃のお陰で彼女は今日まで生き延び、いつの間にか獣人国一の暗殺者となっていた。
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