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番外編 獣人国の刺客
第883話 英雄の登場
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「シャアアッ……!!」
「ガーゴイル!?何をしている!?」
「ガーゴイルか、久しぶりに見たな」
少年に対して警戒心を剥き出しにするガーゴイルにリョフイは戸惑い、その一方で少年の方はガーゴイルの姿を見ても全く動じない。背中に差している大剣の一振りを抜くと、ガーゴイルに対して刃を向けた。
ガーゴイルは少年の姿を見て警戒しながらも、主人を守るように教育を受けてきたガーゴイルに逃走の選択肢はない。ガーゴイルは少年に向けて踏み込み、鋭い爪を繰り出す。
「シャアアアッ!!」
「……ふんっ!!」
「アガァッ!?」
「ばっ……馬鹿なっ!?」
しかし、踏み込んできたガーゴイルに対して少年は頭に手を伸ばすと力ずくでガーゴイルを押しとどめる。リョフイが鍛え上げたガーゴイルはただの人間の子供に止められるはずがないが、少年は片手で顔面を掴んでガーゴイルを持ち上げた。
顔面を掴まれたガーゴイルは咄嗟に引き剥がそうと少年の腕を掴むが、万力の如き握力で握りしめられ、とても抜け出す事ができなかった。そんなガーゴイルに対して少年は力ずくで投げ飛ばす。
「でりゃあっ!!」
「シャアアッ!?」
「ガーゴイル!?」
地上へ向けてガーゴイルは投げ飛ばされ、その光景を見たリョフイは驚愕の声を上げるが、地上に衝突する寸前にガーゴイルは翼を広げて飛翔する。
空を飛んだガーゴイルは建物の上空にまで浮き上がると、自分を力ずくで叩き落そうとした少年に向けて今度は加速した状態で突っ込む。
「シャギャアアッ!!」
「せぇのっ……」
迫りくるガーゴイルに対して溜息を吐きながらも少年は大剣を横向きに構える。その構えを見た途端にリョフイは嫌な予感を覚え、一方で少年はガーゴイルに向けて大剣を振り払う。
「円斧っ!!」
「ギャアアアッ!?」
「馬鹿なっ!?」
少年が振り払った大剣の一撃によってガーゴイルの肉体が上半身と下半身に切り裂かれ、その光景を見ていたリョフイは驚愕の声を上げる。彼が連れてきたガーゴイルの肉体の硬度は並の岩石の比ではなく、魔法金属のミスリルにも匹敵する。
彼が作り出した最高傑作のガーゴイルを少年は意図も容易く切り裂き、その直後に建物の屋根の上に少年以外の人影が現れる。その正体はシノビとクノであり、二人はナイの元に移動すると礼を告げた。
「助かったでござるナイ殿」
「ここから先は任せろ」
「じゃあ、お願いします」
「ナ、ナイ……だと!?」
リョフイはナイという言葉を聞いて目を見開き、その名前は何度も耳にした。噂によれば「貧弱の英雄」と呼ばれる存在であり、その英雄の正体がこんな少年だとは思わなかった。
ナイ、シノビ、クノと向き合ったリョフイは顔色を青くさせ、このまま捕まってしまえばどうなるか分からず、どうしても彼は逃げなければならなかった。だが、この時に彼は上半身だけとなったガーゴイルに視線を向けると、咄嗟に彼は魔笛を吹く。
「起きろっ!!」
「シャアッ……!?」
「なっ!?まだ動けたのか!?」
「逃さん!!」
「投っ!!」
ガーゴイルは胴体を切り裂かれようと経験石が無事ならば動けるため、上半身だけの状態のガーゴイルはリョフイの元へ向かう。その光景を見てシノビとクノは攻撃を仕掛けるが、それらを躱してガーゴイルはリョフイの背中から抱きかかえると空を飛ぶ。
咄嗟にナイ達は後を追いかけようとしたが、ガーゴイルはリョフイを抱き上げた状態で空を飛び、下手に攻撃を仕掛ければリョフイは地上に落ちて死んでしまう。そう判断したナイは攻撃はできず、その代わりにシノビとクノが後を追う――
――結局はリョフイは追跡を逃れる事はできたが、肝心の王都の調査は碌に行えずに戻ってきた。顔を知られた以上はリョフイも迂闊に行動はできず、情報屋に関しても見つからずに結局は退散するしかなかった。
同行させていた部下を失い、操っていたガーゴイルも追跡を撒く途中で死んでしまう。それでもリョフイは獣人国へ帰還する事ができたが、報告を受けた大臣はシバイは怒りの表情を浮かべた。
「……それで貴様はのこのこと戻ってきたというのか、何の情報も得ずに!!」
「もうしわけありません、シバイ様……」
「おのれ……!!」
シバイはリョフイの報告を聞いて結局は彼はわざわざ王都にまで訪れたにも関わらず、収穫も殆ど無しで貴重なガーゴイルの「完全体」を失った事に激怒する。
リョフイはガーゴイルの研究を行い、いずれ訪れる王国との戦争の際には魔物を戦力にさせるための実験を繰り返していた。そしてリョフイが連れたガーゴイルは完璧に彼の指示に従う最高傑作だったが、そんな貴重なガーゴイルを破壊されて戻ってきた事が許せない。
「貴様!!あのガーゴイルを作り出すのにどれだけの金と時間を費やした!!前に視察に赴いた時には言っていたではないか!!このガーゴイルを倒せる人間などいないとな!!」
「ええ、私もそう思っていました……しかし、あの英雄の力は私の想像を遥かに超えていたのです」
「では聞くが、その英雄はどのような能力を持っている!?どんな魔剣を使った、魔法剣の使い手か!?」
「はっ……私も独自に調査してまとめた資料がこちらです」
リョフイもまさか本当に手ぶらで戻る事はできず、王都の民の噂を聞いた限りで集めた情報を資料にまとめてシバイに提出する。その資料を見てシバイは記されている内容に唖然とした。
――王都に暮らす人々から聞いた情報によれば、貧弱の英雄は闘技場にて数々の魔物を屠り、グマグ火山に誕生したゴーレムキングと火竜の討伐のために派遣された際は火竜に致命傷を与え、ゴーレムキングを打ち破った。
その後もイチノ地方で出現したゴブリンキングの討伐に参加し、見事にゴブリンキングを打ち倒す。最近では白面と呼ばれる王国の暗殺者集団を打ち破り、更には王都で起きた事件でも大活躍し、最終的には王都で突如として飛来した火竜を打ち倒したと書かれていた。
内容が内容だけにまるで御伽噺を聞かされている気分だが、これらの功績は王国側は認めており、実際に火竜の死骸は大勢の民衆が確認している。貧弱の英雄がこの国に居る限り、この国は安泰だと信じる人間も多い。
「ば、馬鹿なっ……これは、事実なのか?」
「私も正直に言えば耳を疑いましたが、どうかこれをご覧ください」
「何だ、それは?」
「こちらは王都に立ち寄った時に手に入れた代物です」
リョフイがシバイに差し出したのは「盾」であり、その盾は円盤のような形をしていた。シバイは不思議に思いながらも盾を受け取ると、すぐに盾を見てある事に気付く。
「これは……鏡か?」
「はい、王都のお土産屋にて大量にこの盾が置かれていました。この盾は貧弱の英雄が所有を許された反魔の盾を模した土産の品です」
「……どうやら随分と人気があるようだな」
盾は鏡張りであり、シバイは自分の移った顔を見て渋い表情を浮かべる。反魔の盾の管理を許された人間が居るという話は聞いているが、まさかその人物の所有物というだけでこんな模造品が販売されるほどに人気があるとは思いもしなかった。
他にもリョフイは王都へ赴いた時に集められた情報は全て話したが、結局のところは重要な情報は殆ど集める事ができなかった。王都の警備は以前よりも強まっており、更に警備兵だけではなく、黒面という存在が居たことを話す。
「現在の王国は黒い面を被った暗殺者共を従えています。恐らく、奴等の正体は白面……だから今まで我々が送った密偵は始末されていたのでしょう」
「何だと……そうか、道理で情報が集まらぬわけだ」
シバイがわざわざ王都にまで腹心のリョフイを派遣させたのは、王都の情報を収集するためだったが、本来ならばこのような危険な役目を腹心のリョフイに任せる事ではない。
しかし、ある時を境に王都に派遣させた密偵は一人も残らず戻る事はなく、情報を掴む事ができなくなった。そこで彼は王都には何度も出向いているリョフイを派遣させ、彼に情報収集を任せるが、結局のところは失敗してしまう。
「結局、何も有益な情報は掴めなかったという事か……」
「いいえ、それは違います……王国には貧弱の英雄がいる、それだけ知れただけでも私は価値があったと思います」
「もういい、下がれ」
リョフイの言葉を聞いてもシバイは言い訳にようにしか聞こえず、彼を下がらせて自分は椅子に座り込む。結局は時間と金を費やして得た情報は当てにならず、彼は天井を見上げながら呟く。
「貧弱の英雄、か……」
シバイはリョフイの最後に告げた言葉を思い返し、王国の最大の脅威を知る事ができたのは幸運だったのかもしれない――
「ガーゴイル!?何をしている!?」
「ガーゴイルか、久しぶりに見たな」
少年に対して警戒心を剥き出しにするガーゴイルにリョフイは戸惑い、その一方で少年の方はガーゴイルの姿を見ても全く動じない。背中に差している大剣の一振りを抜くと、ガーゴイルに対して刃を向けた。
ガーゴイルは少年の姿を見て警戒しながらも、主人を守るように教育を受けてきたガーゴイルに逃走の選択肢はない。ガーゴイルは少年に向けて踏み込み、鋭い爪を繰り出す。
「シャアアアッ!!」
「……ふんっ!!」
「アガァッ!?」
「ばっ……馬鹿なっ!?」
しかし、踏み込んできたガーゴイルに対して少年は頭に手を伸ばすと力ずくでガーゴイルを押しとどめる。リョフイが鍛え上げたガーゴイルはただの人間の子供に止められるはずがないが、少年は片手で顔面を掴んでガーゴイルを持ち上げた。
顔面を掴まれたガーゴイルは咄嗟に引き剥がそうと少年の腕を掴むが、万力の如き握力で握りしめられ、とても抜け出す事ができなかった。そんなガーゴイルに対して少年は力ずくで投げ飛ばす。
「でりゃあっ!!」
「シャアアッ!?」
「ガーゴイル!?」
地上へ向けてガーゴイルは投げ飛ばされ、その光景を見たリョフイは驚愕の声を上げるが、地上に衝突する寸前にガーゴイルは翼を広げて飛翔する。
空を飛んだガーゴイルは建物の上空にまで浮き上がると、自分を力ずくで叩き落そうとした少年に向けて今度は加速した状態で突っ込む。
「シャギャアアッ!!」
「せぇのっ……」
迫りくるガーゴイルに対して溜息を吐きながらも少年は大剣を横向きに構える。その構えを見た途端にリョフイは嫌な予感を覚え、一方で少年はガーゴイルに向けて大剣を振り払う。
「円斧っ!!」
「ギャアアアッ!?」
「馬鹿なっ!?」
少年が振り払った大剣の一撃によってガーゴイルの肉体が上半身と下半身に切り裂かれ、その光景を見ていたリョフイは驚愕の声を上げる。彼が連れてきたガーゴイルの肉体の硬度は並の岩石の比ではなく、魔法金属のミスリルにも匹敵する。
彼が作り出した最高傑作のガーゴイルを少年は意図も容易く切り裂き、その直後に建物の屋根の上に少年以外の人影が現れる。その正体はシノビとクノであり、二人はナイの元に移動すると礼を告げた。
「助かったでござるナイ殿」
「ここから先は任せろ」
「じゃあ、お願いします」
「ナ、ナイ……だと!?」
リョフイはナイという言葉を聞いて目を見開き、その名前は何度も耳にした。噂によれば「貧弱の英雄」と呼ばれる存在であり、その英雄の正体がこんな少年だとは思わなかった。
ナイ、シノビ、クノと向き合ったリョフイは顔色を青くさせ、このまま捕まってしまえばどうなるか分からず、どうしても彼は逃げなければならなかった。だが、この時に彼は上半身だけとなったガーゴイルに視線を向けると、咄嗟に彼は魔笛を吹く。
「起きろっ!!」
「シャアッ……!?」
「なっ!?まだ動けたのか!?」
「逃さん!!」
「投っ!!」
ガーゴイルは胴体を切り裂かれようと経験石が無事ならば動けるため、上半身だけの状態のガーゴイルはリョフイの元へ向かう。その光景を見てシノビとクノは攻撃を仕掛けるが、それらを躱してガーゴイルはリョフイの背中から抱きかかえると空を飛ぶ。
咄嗟にナイ達は後を追いかけようとしたが、ガーゴイルはリョフイを抱き上げた状態で空を飛び、下手に攻撃を仕掛ければリョフイは地上に落ちて死んでしまう。そう判断したナイは攻撃はできず、その代わりにシノビとクノが後を追う――
――結局はリョフイは追跡を逃れる事はできたが、肝心の王都の調査は碌に行えずに戻ってきた。顔を知られた以上はリョフイも迂闊に行動はできず、情報屋に関しても見つからずに結局は退散するしかなかった。
同行させていた部下を失い、操っていたガーゴイルも追跡を撒く途中で死んでしまう。それでもリョフイは獣人国へ帰還する事ができたが、報告を受けた大臣はシバイは怒りの表情を浮かべた。
「……それで貴様はのこのこと戻ってきたというのか、何の情報も得ずに!!」
「もうしわけありません、シバイ様……」
「おのれ……!!」
シバイはリョフイの報告を聞いて結局は彼はわざわざ王都にまで訪れたにも関わらず、収穫も殆ど無しで貴重なガーゴイルの「完全体」を失った事に激怒する。
リョフイはガーゴイルの研究を行い、いずれ訪れる王国との戦争の際には魔物を戦力にさせるための実験を繰り返していた。そしてリョフイが連れたガーゴイルは完璧に彼の指示に従う最高傑作だったが、そんな貴重なガーゴイルを破壊されて戻ってきた事が許せない。
「貴様!!あのガーゴイルを作り出すのにどれだけの金と時間を費やした!!前に視察に赴いた時には言っていたではないか!!このガーゴイルを倒せる人間などいないとな!!」
「ええ、私もそう思っていました……しかし、あの英雄の力は私の想像を遥かに超えていたのです」
「では聞くが、その英雄はどのような能力を持っている!?どんな魔剣を使った、魔法剣の使い手か!?」
「はっ……私も独自に調査してまとめた資料がこちらです」
リョフイもまさか本当に手ぶらで戻る事はできず、王都の民の噂を聞いた限りで集めた情報を資料にまとめてシバイに提出する。その資料を見てシバイは記されている内容に唖然とした。
――王都に暮らす人々から聞いた情報によれば、貧弱の英雄は闘技場にて数々の魔物を屠り、グマグ火山に誕生したゴーレムキングと火竜の討伐のために派遣された際は火竜に致命傷を与え、ゴーレムキングを打ち破った。
その後もイチノ地方で出現したゴブリンキングの討伐に参加し、見事にゴブリンキングを打ち倒す。最近では白面と呼ばれる王国の暗殺者集団を打ち破り、更には王都で起きた事件でも大活躍し、最終的には王都で突如として飛来した火竜を打ち倒したと書かれていた。
内容が内容だけにまるで御伽噺を聞かされている気分だが、これらの功績は王国側は認めており、実際に火竜の死骸は大勢の民衆が確認している。貧弱の英雄がこの国に居る限り、この国は安泰だと信じる人間も多い。
「ば、馬鹿なっ……これは、事実なのか?」
「私も正直に言えば耳を疑いましたが、どうかこれをご覧ください」
「何だ、それは?」
「こちらは王都に立ち寄った時に手に入れた代物です」
リョフイがシバイに差し出したのは「盾」であり、その盾は円盤のような形をしていた。シバイは不思議に思いながらも盾を受け取ると、すぐに盾を見てある事に気付く。
「これは……鏡か?」
「はい、王都のお土産屋にて大量にこの盾が置かれていました。この盾は貧弱の英雄が所有を許された反魔の盾を模した土産の品です」
「……どうやら随分と人気があるようだな」
盾は鏡張りであり、シバイは自分の移った顔を見て渋い表情を浮かべる。反魔の盾の管理を許された人間が居るという話は聞いているが、まさかその人物の所有物というだけでこんな模造品が販売されるほどに人気があるとは思いもしなかった。
他にもリョフイは王都へ赴いた時に集められた情報は全て話したが、結局のところは重要な情報は殆ど集める事ができなかった。王都の警備は以前よりも強まっており、更に警備兵だけではなく、黒面という存在が居たことを話す。
「現在の王国は黒い面を被った暗殺者共を従えています。恐らく、奴等の正体は白面……だから今まで我々が送った密偵は始末されていたのでしょう」
「何だと……そうか、道理で情報が集まらぬわけだ」
シバイがわざわざ王都にまで腹心のリョフイを派遣させたのは、王都の情報を収集するためだったが、本来ならばこのような危険な役目を腹心のリョフイに任せる事ではない。
しかし、ある時を境に王都に派遣させた密偵は一人も残らず戻る事はなく、情報を掴む事ができなくなった。そこで彼は王都には何度も出向いているリョフイを派遣させ、彼に情報収集を任せるが、結局のところは失敗してしまう。
「結局、何も有益な情報は掴めなかったという事か……」
「いいえ、それは違います……王国には貧弱の英雄がいる、それだけ知れただけでも私は価値があったと思います」
「もういい、下がれ」
リョフイの言葉を聞いてもシバイは言い訳にようにしか聞こえず、彼を下がらせて自分は椅子に座り込む。結局は時間と金を費やして得た情報は当てにならず、彼は天井を見上げながら呟く。
「貧弱の英雄、か……」
シバイはリョフイの最後に告げた言葉を思い返し、王国の最大の脅威を知る事ができたのは幸運だったのかもしれない――
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